ウィザードリィII リルガミンの遺産
【うぃざーどりぃつー りるがみんのいさん】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2MbitROMカートリッジ
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発売元
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アスキー
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開発元
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ゲームスタジオ
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発売日
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1989年2月21日
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定価
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6,500円
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判定
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良作
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Wizardryシリーズ
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ル’ケブレスの言葉
しかと聞くがよい
この先、善きもののみにても
悪しきもののみにても
勝利を得ることはない!
(1階にあるメッセージ)
概要
シナリオ3『Legacy of Llylgamyn』の、FCへの移植。初代と同様にゲームスタジオ担当。
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FC版及び、それをベースにしたリメイクであるSFC版・GBC版ではシナリオ『#2』と『#3』の順序が入れ替わっている。これらのハードにおいては本作は『II』と銘打って販売されたが、原典では『#3』にあたる。(以降、原作版に関しては#表記を用いる)。
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これは原典の『#2』が単独では難易度が高く、またプレイ環境も厳しくなることから、時間を掛けた調整が必要だとメーカー側が判断した為。
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元々『#2』は『#1』のキャラクターを引き継いでプレイすることを前提に設計されていた為、序盤から新規キャラクターで冒険するようなゲームバランスにはなっていない。
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また、FC版にこの引継ぎ前提仕様をそのまま持ち込むと、前作『I』のソフトと外部データ記憶装置(ターボファイル)が必須となってしまう。「それではハードルが高くなりすぎるのではないか?」との判断により、あえて『#2』を後回しにして先に『#3』を移植したのである。
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オリジナル版も含めて本作を取り上げる場合、ナンバリングを用いずにサブタイトルの略称の『LOL(Legacy of Llylgamyn)』で呼ぶことがある。
ストーリー
古の危機から時も経ち、栄華を極めていたリルガミン。
しかし近頃は度重なる天変地異に見舞われ、国土が疲弊していた。
この天災の真の理由を解き明かす為には、ル’ケブレスなる竜が守る神秘の宝珠が必要である。
宝珠を得る為に呼び集められたのは、かつての英雄の子孫達や、勇敢なる新たな冒険者達。
彼らは宝珠を求め、神秘の山へと挑む…。
システム
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基本的なゲームシステムは『I』に準じる。
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最大6名のパーティーで、一人称視点の3D迷宮を攻略していく。
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『I』からキャラクターを転生させることが可能(先述のターボファイルが必要)。
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転生キャラクターは、職業は転生前のものを引き継ぎ、性格は職業に合わせて再選択する(例えば前作で中立の忍者だったとしても、転生後は悪しか選べない)。
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LVは1、年齢は20歳、HPは一律12となり、能力値は転生前の値を元に再計算されるが、その結果16以上になっても15からの開始となる。
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呪文は転生前の状態に関わらず、魔法使いと侍はカティノとハリト、僧侶とロードはディオスとバディオス、ビショップはその両方を覚えた状態となり、それ以外は引き継がれない。
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本来ビショップとロードがHP回復呪文ディオスを使えるようになるのはLV4から。出発時点で回復呪文を使えるのは大きい。
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最大HP12というのは前衛の戦士たち並の数値であり、初期の盗賊や魔法使いがHP12でスタートできるのは非常に心強い。3~4レベル並のHPで開始できる。
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忍者は成長こそ遅いものの、初期状態から2回攻撃が可能で序盤の最大火力が他の前衛の実質二倍なので居れば大きな戦力になる。
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最大の利点は強さそのものよりも、「『I』で育てた愛着のあるキャラを、クリアした称号と共に引き継げる事」かもしれない。
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キャラクター作成時の初期ボーナスは、本作では最大値が多めに設定されている。
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最高で60以上という破格の値が出ることもある。必要特性値が高く通常は初期作成できないロードや忍者も、本作ではいきなり作る事が可能。
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モンスター名に関しては、原典であるApple II版にほぼ忠実になっている。
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先行移植されていた国産PC版『#3』では、モンスターグラフィックの少なさからグラフィックに合わせて一部モンスターの名称が差し替えられていた。しかし本作ではそれらが差し戻されている。
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但し、何故か「ドゥームビートル」だけは国産PC版の差し替えに準拠している(Apple II版では「ジャイアントアント」)。
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前作から引き続きデザインには末弥純氏を起用。モンスターは2種を除いて新規描き下ろしである。
評価点
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FC版『I』譲りのグラフィックと操作性
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これらについては『I』の評価を参照されたし。本作でもこれらの良点は健在で、美麗に描かれたモンスター相手にストレス無く戦うことができる。
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システム面の改善
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FC版の『I』では名前に使える英字は大文字だけだったが、本作では小文字も使えるようになった。またウィンドウ描画の高速化など各所で改良が行われている。
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適度なアレンジ
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原典の『#3』では、シナリオの短さに準じて経験値も低かったが、本作では経験値の引き上げが行われている。
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……が、ファイアードレイクの経験点を10000から14000に引き上げるはずだったのであろうところが、一桁間違えて1400になってしまっているミスがある。これはSFC・GBC版でも同様。直してくれても良かったのに……。
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原典の『#3』には強力な装備が無かった(大部分が+2相当止まり)が、本作では「村正」「手裏剣」「聖なる鎧」(いわゆる「三種の神器」)などが追加されている。
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「裏三種の神器」と呼ばれるレアアイテムとして、「金の斧」「赤い靴」「黄色い耳栓」というアイテムが登場している。これらは性能は大したことはない(というかほとんど何の役にも立たない)が、出る確率が三種の神器レベルに低いのが特徴。
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「蝶のナイフ」のスペシャルパワー使用前の状態は、もともとはダメージ0の武器でスペシャルパワーを使用するためだけのアイテムだったのだが、FC版では256点ダメージの武器になっている。蝶のナイフに設定されている攻撃力の0d0がバグで256として計算されてしまっているのが原因なのだが、盗賊とビショップにとっての最強武器となった。移植作品のSFC版とGBC版では元々の0ダメージに戻っている。
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原典では特定地点において入力式の謎解きがあるが、これを「キーアイテムを所持していれば通過できる」方式に変更。
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なお入力式の謎解きの実装はSFC版の『V』まで待つことになる。
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翻訳の言葉センス
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この項のトップにあるル'ケブレスの言葉を例にすると、本来の実際の英文からかなり端折っている。英文をまるごとバッサリと切った事で神様からのお告げの様になっている。
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因みに端折った英文は「ここへ入ってくる、全ての善か悪の人へ、私は警告します」と入る。これでは注意書きの様になる。
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後述のcrockの様に間違いもあるが、このcrockの文章を普通に訳せば「罠はツボ」。ゲーム上の「罠は時を刻みしもの…」は「?」だが、後々の事を考えると「深いなぁ…」と唸った方も多い。
賛否両論点
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敵の強さが控えめ
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『#3』の特徴として、序盤の厳しさは相変わらずなものの、終盤になっても敵の強さのインフレは抑えられている。おそらくシリーズ中で最もインフレの無い作品であろう。
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例えば『I』のドラゴンはブレスだけでなく強力な攻撃呪文も使う強敵であるが、本作のドラゴンは呪文を使ってこない。
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『I』において有名なグレーターデーモンは「タフで攻撃力も高く、強力な攻撃呪文も使い、かけられた呪文は95%無効化、更に仲間を呼ぶ」ものが「最大6体」で登場するという容赦の無さだが、本作で同様の能力を持つアークデーモンやアークエンジェルは「呪文の無効化確率は60%、出現数は1体」と控えめである。
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他にも「一度の攻撃で何LVもドレイン」する敵もいないし、僧侶系モンスターも「マバディ」を使ってこない。最終階だと「クリティカルヒット(首刎ね)」や「石化」を繰り出してくる敵も各1種類だけであり、それらは他の特殊攻撃を重複させたりはしない。
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また、魔術師の最上位攻撃呪文「ティルトウェイト」を使用する敵も固定敵1種類だけであり、その気になれば固定出現する場所に踏み込まなくてもクリアは可能。
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但しとあるエリアでは、即死呪文バディを使う敵が大量に出現する場所がある。こちらもその気になれば無視できるのが救い。
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ラスボスに相当する敵が存在しない。最終フロアはボス戦すらない。いかにもボスのような扱いを受けている敵キャラは居るのだが撃破不能で、アイテムによって戦闘を回避するという仕様になっている。
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これを「遊び易い」と取るか「歯ごたえが無い」と取るかは人それぞれであろう。インフレが加速していく後作とは真逆の立場の作品である。
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今作は各属性によって探索できるフロアが限られているので、敵の強さに緩急を付けすぎることが出来ないという面もある。また、原作よりも経験値が引き上げられているとはいえシナリオ準拠の調整がされて全体的に経験値が低く、レベルが上げにくいので序盤がかなり厳しく一概に否定できる面でもない。
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また、原作ではスルー出来た敵がキーアイテムで通過するシステムに変更された関係上必ず戦わなければならない様になっているので難易度が低いとも言い切れない。
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グラフィックスが高評価である一方、前作に引き続き羽田健太郎氏が作曲したBGMについては、全体的に暗めで平坦で退屈といった風に、当初はあまり良い評判が無かった。前作のBGMの評価が高すぎた反動とも言えるが。
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ル’ケブレスとの戦闘では専用のBGMが用意されているが、そもそも戦う必要がない(戦ってはいけない)存在であり、正規ルートでは聞く機会がないのが残念。
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明るい雰囲気の前作BGMと異なり、滅亡前の国ということもあってか、全体的にシックな雰囲気
問題点
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『#3』の特徴として、キャラクターの性格により進入可能な階層が制限されている。このため、必ず善と悪の2つのパーティーを組んで攻略しなければならない。
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2階と4階は善パーティーで(悪は入れない)、3階と5階は悪パーティーで(善は入れない)攻略する必要がある。そして、両方の階層を攻略しないとクリアは出来ない。
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さらに他の作品に比べ友好的なモンスターが出現する頻度が低めで性格を変え辛い。マーフィーズゴーストのような「簡単に出会える単独の固定敵」がいない事も性格制限の厳しさに拍車をかけている。
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なおクリア時の称号とクリア経験値に関しては、2パーティーとも得られるように配慮されている(クリアパーティーの他に6名、称号を得るキャラを選択できる)。
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制限を受けない中立キャラを中心としたパーティーであれば、メンバー入れ替えを極力控えて双方の階層を攻略することは可能。
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但し中立キャラには「僧侶呪文を使える職業に就けない(=回復呪文を使えない)」という重大な問題がある。少なくとも回復担当は善悪2キャラ必要となり、通しで参加できる中立メンバーより成長が遅れてしまう。
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攻略本「ウィザードリィのすべて」では、パーティー編成のアドバイスとして「戦士系×2、魔術師×2、盗賊を中立にし、僧侶のみを善悪両方揃える。僧侶のみ入れ替えればよく成長も早め」と記されている。
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また、6階を探索する為のキーアイテムは、善と悪のパーティが入手したキーアイテムのスペシャルパワーを用いて入手する必要があるが、ゲーム中ノーヒントであり使い方をしくじると使ったキャラクターが灰になる。
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ギミックとしても単なる入場制限でしかない。あまり評判が良くなかったのか、後作にはこの性格によるフロア制限要素は引き継がれなかった。
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Wizardry史上最悪と名高いトラップが存在する。
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警告を3度無視して先に進むと罠にかかって全滅するというトラップである。PC版では全滅どころか全員ロストという凶悪極まりない罠だった。
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初代でも警告を3度無視して進むとピットに落ちるという罠があったが、それを凶悪にしたものと言える。
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2番目のメッセージは英語表記では「And this traps a crock」だが、日本語だと「罠は時を刻みしもの」になっており、「crock(壺)」を「clock(時計)」と間違えて翻訳しているため意味のよく分からないものになっている。一応、通路は時計回りとなっているのだが。
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クリアに必要なアイテムを所持した状態で6階で全滅してしまうと、クリアアイテムを誰かが所持している間は6階を探索する為のアイテムが手に入らなくなるため、回収隊を派遣するためにはクリアアイテムを所持しているキャラを削除する必要がある。
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普通はクリアする頃には魔法使いがテレポートの呪文を覚えている(クリアアイテムを入手した時点で帰還できる)のであまり起こらないが、低レベルクリア時や魔法使いのいないパーティー構成、あるいは魔法使いが死んでしまった場合などでは問題になる。
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全滅時にキャラクターがロストするとセーブデータが激しくバグる。
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通称「
ロストバグ
」。Wiz全体の仕様として「全滅時に一定確率で全滅したパーティに居たキャラクターがロストする」というものがあるのだが、FC版IIにおいてこの現象が起こった後に訓練所のキャラ一覧表を見ると画面が乱れ、最悪の場合セーブデータ全体が壊れてしまう。回避するためにはターボファイルでキャラクターをバックアップしておくかそもそも全滅そのものを起こさないようにするしかないため、上述のクリアアイテムの問題と相まってノーリセット派のプレイヤーには厳しいことになっている。
総評
適度なアレンジで遊び易さに配慮した良移植。
システム面でも、FC版での前作の利点を引き継ぎつつ、着実な改良も加えられている。
元々シリーズ中ではインフレが控えめなシナリオである。
たまには後作のインフレからしばし離れて、のんびり遊ぶのもよいのではないだろうか。
最終更新:2024年05月08日 22:38