Observation
【おぶざーべーしょん】
ジャンル
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SFスリラーADV/パズル
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対応機種
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Windows (Epic Games Store/Steam) プレイステーション4 Xbox One
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メディア
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ダウンロード専売
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発売元
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Divolver Digital
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開発元
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No Code
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発売日
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【Win(Epic)】2019年5月21日 【PS4】2019年9月5日 【Win(Steam)】2020年5月22日 【One】2020年6月25日
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定価
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【Win(Epic)】2,580円 【PS4】2,628円 【Win(Steam)】2,570円 【One】2,900円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:B(12才以上対象)
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判定
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良作
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ポイント
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AIの視点で観る『2001年宇宙の旅』 パズルを解きながら進めるSF映画 Win版は操作性に若干難あり
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概要
『Stories Untold』を送り出したNo Codeが開発したSFスリラーADV/パズルゲーム。
開発者によると、『Stories Untold』はこのゲームを作るための予行練習だったという(参照)ほどに気合の入った作品。
近未来の宇宙ステーションを舞台に、プレイヤーはステーションを制御する人工知能(AI)となって物語を進め、ステーションを襲った事故の謎を解き明かしていく。
なお、本作は作中で激しい点滅表現がある為、開発元から「てんかん発作の経験がある方にはオススメ出来ない」という警告が出ている。
ストーリー
2026年、地球上空410kmを周回する宇宙ステーション「オブザーベーション」にて、原因不明の事故が発生。大半のクルーが行方不明となった。
エアロックモジュール「EAS-11」に閉じ込められたエマ・フィッシャー博士は、ステーションの管理AI「S.A.M.」を再起動し、助けを求める。
SAMもまた事故によりほとんどのメモリを失っていたが、それでもフィッシャー博士とともに少しずつステーションの制御を取り戻していく。
ところが、ステーションの外部カメラが映し出したのは、視界いっぱいに広がった土星の姿だった。
ステーションを震わせる、不自然なノイズ。
消えてしまった、他のクルーの行方。
そこかしこで見つかる、赤黒い液体。
「カノジョヲココヘ」というメッセージ。
何が起きたのか?
何が起こっているのか?
そして……何が起こるのか?
登場人物・設定
主な登場人物
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エマ・フィッシャー博士
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「オブザーベーション」の女性クルー。医療担当者。事故の際、生存が確認された唯一のクルー。自身の生還のため、そして「オブザーベーション」に起こった事故の謎を突き止めるため、SAMとともに奔走する。
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S.A.M.
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「オブザーベーション」の管理AI。主人公。正式名称は「Systems Administration & Maintenance (システム管理&メンテナンス)」で、接続されてさえいれば、「オブザーベーション」の全てのシステムを意のままに操ることができる。事故以来、“何か”から干渉を受けている。
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ネタバレを含みます
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その他の登場人物
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ジム・エライアス
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「オブザーベーション」の男性クルー。船長。事故発生前、複数のクルーに不可解な指示を与えていた。後に死体で発見されるが…。
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スタニスラフ・レオノフ
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「オブザーベーション」の男性クルー。ロシア出身。UC-01モジュールにて原因不明の怪死を遂げる。
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ジョッシュ・ラモン
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「オブザーベーション」の男性クルー。事故当時は生存しており、切り離されたモジュールから脱出するが……
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メイ・モーガン
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「オブザーベーション」の女性クルー。事故当時は生存しており、ステーションの外から回り込んで合流しようとするが……
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エイルサ・ヤン
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「オブザーベーション」の女性クルー。中国出身。事故の発生とともに行方不明になる。
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ウィリアム・スタフォード博士
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「オブザーベーション」のミッション監督者。ヒューストンから無線でクルーとやり取りする。
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黒い六角形(The Entity)
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たびたびSAMの前に現れ、ノイズとともに謎のシンボルを提示する“何か”。どうやら地球外生命体のようだが、その意図は……?
設定
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低軌道宇宙ステーション(L.O.S.S.)オブザーベーション
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国際宇宙ステーション(ISS)の後継機として建造された宇宙ステーション。欧米・ロシア・中国の3つの宇宙機関(
日本は?
)のモジュールの集合体「アーム」が、六角形の「ユニバーサルリング」の3つの角にそれぞれ接続されており、それぞれのモジュールが「EAS-○○」「RUS-○○」「CN-○○」「UN/UC-○○」とナンバリングされている。
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AIや核融合炉など革新的な技術が多用されている一方で、各国の既存のモジュールを流用した「アーム」に対して、新しく追加された「ユニバーサルリング」の存在意義が不明だったりと、このステーション自体にも謎が多い。
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特徴
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全編にわたって、「オブザーベーション」の管理AIであるSAMの視点を通して物語が展開される。
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より正確に言うならば、ステーション各部に設置された監視カメラと、球形のドローン「SPHERES」からの視点である。
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プレイヤーキャラクターであるSAM(とステーション)は、事故により様々な機能が停止しており、序盤~中盤はこれらの機能を復旧させることが主な目標となる。
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また、ステーション内の文書やPCから、失ったメモリを取り戻し、あるいは新たな情報を得て、事故の原因と内容、その結果を突き止めていく。
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一部のアイテムからは、ストーリーの本筋とは関係ないクルーの日常風景や人物像が窺える情報を取得できる。
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これらのアイテムから情報を集めると、対応するクルーのプロファイルを読むことができるようになる。
システム
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基本的に、SAMの行う操作は以下の3つに分けられる。
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監視カメラ・SPHERES搭載カメラを使って各種システムやアイテムにインタラクトし、情報を取得する。
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それを参考に様々な操作を行ってシステムを復旧させ「システムリンク」に追加する。
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接続したシステムを「システムリンク」を介して使って与えられた指示を実行する。もしくはさらに情報を取得する。
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時にはSPHERESで船外活動を行い、そこからシステムを操作することもある。
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SAM-OSというシステム画面からモジュール間で視点を切り替えたり、一部のシステムに直接アクセスしたり、これまでに集めた情報を閲覧・統合することができる。
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一部のシステムやアイテムは、「応答モード」でインタラクトすることでフィッシャー博士に状況報告をすることができる。それを基に新たな指示が与えられることもある。
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基本的にはキーボード操作のみだが、SAM-OSの一部やSPHERESの回転制御など、マウスを使う場面も存在する(Win版、マウス&キーボード操作の場合)。
評価点
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傍観者であり、それでいて当事者でもある「AI」の視点
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声優の高い演技力
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特に、エマ・フィッシャー役のKezia Burrows氏。キャラクターの行動と口調がぴったりマッチしており、このゲームの臨場感に一役買っている。
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丁寧に作り込まれたグラフィック
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実際の国際宇宙ステーション(ISS)を参考にした「オブザーベーション」の内装・外装は非常にリアルであり、スクリーンショットを撮って「ISSの写真」だと主張しても違和感がないレベルまで忠実に製作されている。
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モジュールの構造からこまごました私物まで、きちんと再現されているのには感嘆の念を覚える。
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没入感あふれるインターフェース
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ゲーム的な表現(アイテムが光る、登場人物が操作法に言及する等)を極力抑え、「AIが操作するシステムの画面」として自然な視界を演出している。
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迫力のあるサウンドデザイン
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生物的な映像に合わせた重みのあるオープニング音楽に始まり、あちこちから聞こえる雑音やノイズ、そして無人と化したステーション全体の空虚な不気味さを表現した環境音にいたるまで、雰囲気と良くマッチしており高評価。
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これらが相まって、まるでSF映画やSF小説の中に入り込んだかのような独特の臨場感を与えている。
賛否両論点
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「やるべきこと」が分かりにくい
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序盤のあるタスクを例にとると……
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タスクの内容
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まず目標のシステムがあるモジュール(の監視カメラ視点)に行く
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3つある監視カメラの視点を切り替えつつ、インタラクトできる物を探す
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目標のシステムにアクセスするも、再起動には3つのサブシステムの再起動が必要と分かる
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そのサブシステムを再起動するためのアイテムをさっきと同じ要領で探す
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2つに分けられたアイテムをそれぞれ見つけ、ひとつに統合する
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それを使ってサブシステムを復旧する
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もう一度目標のシステムにアクセスし、操作して復旧する
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……と、非常に複雑である。
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ところが、画面に表示される目標は「〈モジュール名〉の〈システム名〉を復旧する」という極めてシンプルなもの。「何をすればいいか」の具体的な指示がなく、人によってはかなりイライラ感を覚えるだろう。
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しかも、この作業を行っている最中にフィッシャー博士が「ハッチを開ける」ように指示してくるのだが、これは全くタスクに関係ない。そしてハッチを開ける必要もない。さらに言えばハッチの開閉システムを操作しようとしても操作できない(ただしこれに関しては一概にゲームのせいとも言えない。詳細は後述)。
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だが、その直前に行ったあるタスクのせいで「動かないハッチを動くようにする方法」を知っており、かつヒントに飢えているプレイヤーとしては、つい開けたくなってしまい、結果としてハッチと格闘し時間を無駄にしてしまう。
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サブシステム復旧用のアイテム(の1つ)の入手方法もかなりひねりが効いており、解くには「ひらめき」を必要とする。
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これらの要素の一部はパズルゲームという本作の本質を考えれば仕方のないことだが、その難易度の高さが肝心な場面でのグダグダを誘発し、せっかくの没入感を損なうことにも繋がっている。また、ただのADVだと思って購入したプレイヤーがその不親切さに戸惑うケースがみられる。
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ただし、パズル自体は劇中に上手く溶け込んでおり、ただのお使いゲーになりがちな本作のゲーム性を向上させている。また、慣れてくれば簡単に解けるものもある。
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ノイズの多用
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視点変更時をはじめとして、このゲームは画面にノイズを発生させることが多い。故障したAIの視界描写としては良い味を出しているのだが、若干酔いやすい。
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また、SPHERESを操作している際は三次元的に視点が移動する上、操作を誤ってどこかにぶつかるたびにノイズが走るため、さらに酔いやすくなる。
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ストーリーが複雑
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序盤は伏線こそあれど基本的には「ステーション内で起こるトラブルとその解決」に終始するため、話を追えなくなることはほぼ無いが、中盤からいきなり急展開や謎の描写が多くなり、そのまま難解なラストに突入していく。その光景は、開発元がオマージュを明言している「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせる。
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もちろん、(「2001年」と同じく)ちゃんと頭の中でストーリーを組み立ててプレイすれば全て意味が通るし、ゲーム内で疑問も解決するようになっている。逆に言えば、常に考えながらプレイすることを要求される。
問題点
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操作性が悪い(Win版)
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特にSPHERESにおいて顕著。
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まず、三次元機動をするのに上下移動(y軸方向)の操作キーが無い。よって、上下方向で何かにぶつかったら、そのたびにいちいち方向転換しなくてはならない。なのに左右移動(x軸方向)の操作キーはあるという矛盾(マウス&キーボード操作)。
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CO2を噴射するスラスターで動いているらしいが、リアリティを重視したためか反応が悪く、操縦しにくい。
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SPHERES以外のシステムも、やたら長押し操作を要求してきたり、序盤にほぼ初見殺しとしか思えない早押しミニゲームがあったり(ただしストーリーの進行にはさほど影響しない)と、無理ゲーではないにせよ、どこかユーザーに厳しい。
完璧なAIが操作することが前提なら妥当ともいえるが。
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SAMの操作について「システムリンクに追加する」と述べたが、この「システムリンク」もミス誘発の原因である。
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操作説明には「Shiftキーでシステムリンクを開く」と書いてあるのだが、実際の「システムリンク」画面からは「モジュール内のどの物体がインタラクトできるか」が見えるだけで、いかなる操作も行うことができない。
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これは本作が、SAMと各種システムを結び付ける「繋がり」そのものを指して「システムリンク」と呼んでいるために起こる勘違いで、「システムリンクを介して対象を操作する」ためには、カメラ視点から「対象」そのものにインタラクトして操作しなくてはならない。
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ところが、これはWin版(マウス&キーボード操作)のみの仕様で、PS4版では前述の「システムリンク」画面から直接、各種システムを操作できる。非常にややこしい。
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迷子の多発
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前述のとおり非常にリアルな本作の宇宙ステーションだが、それゆえに様々な不便が生じている。
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SPHERESでの船外活動の際、ステーションの外装が(実際のISSと同様)ごちゃごちゃしているため、目標物がどこにあるか迷いがち。そもそもステーション全体の構造が複雑なのも、迷子の一因となる。
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そしてステーション内部にも親切な案内標識など無いので、「どっちに行くとどのモジュールなのか」はSPHERES視点では分かりにくい。
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それでも、SAM-OSを開けば各モジュールの位置関係や立体的な見取り図が見られるから問題ない、のだが…。
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若干のネタバレを含みます
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中盤で訪れることになる「ある場所」では、とある理由からずっとSPHERES視点でストーリーを進めなければならない。
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ところが、ここではなんとそれまで画面上に表示されてきた「今いるモジュールの名前」が表示されなくなる上、SAM-OSのマップも使えなくなってしまう。
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演出上仕方のないことではあるのだが、非常に迷いやすく、ストレスの要因となっている。
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人間キャラクターの描写がチープ
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前述のとおり、宇宙ステーションや惑星などのモデリングはとてもクオリティが高いのだが、そのぶん人間キャラクターの顔の「作り物っぽさ」が目立ってしまっている。また、一部の動作に不自然な箇所があったりする。
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ただ、それでも一般的には「綺麗な」グラフィックの部類である。また、ムービーシーン以外で動いている人間のキャラクターが映る時間は(意図してキャラクターをカメラの視界内に収めない限り)そう多くないので、あまり気にならないともいえる。
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翻訳が一部不十分
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全編にわたって架け橋ゲームスの提供する日本語字幕がついているが、一部のセリフのニュアンスを読み飛ばしたり、そもそも通常「オブザベーション」と表記するはずの“Observation”を「オブザーベーション」と表記するなど、翻訳にやや不安な点がある。
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また、一部で重大な誤訳をやらかしている。賛否両論点に挙げた「ハッチを開けろ」発言もその一つであり、原語では「ハッチがロックされている。おそらく(モジュール内が暑すぎて危険だから)冷却システムがオーバーライドしているんだろう(だから冷却システムを直せ)」ぐらいのことしか言っておらず、「ハッチを開けろ」などとは一言も言っていない。
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途中、ある情報を入手するために(ゲーム内の)PCのロックを解除する必要があるが、そのパスワードのヒントが、翻訳されていない上に、インタラクトもできないメモ書きに書かれており、非常にわかりにくい)。
総評
一部プラットフォームにおける操作性や翻訳ミスなどの粗はあるものの、グラフィックからサウンドに至るまでこだわり抜き、「AI」という独自の視点を見事に表現した本作は、全体としては非常に完成度が高い良作と言える。
『インターステラー』『オブリビオン』などといった、頭を使いながら観るタイプのSF映画が好きな人は、ぜひ手に取ってもらいたい。
余談
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本作で重要な役割を担っている「土星の六角形の嵐」は実在する。発生のメカニズムについては、大気中の風の速度の違いによるものという説がある。
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本作のディレクターであるJon McKellan氏は、かつて『ALIEN: ISOLATION』のチーフUIデザイナーを務めていた経験がある。その経験は、UIを駆使したゲームデザインや、80~90年代SFを彷彿とさせるSAMのUIに生かされている。
最終更新:2022年07月21日 16:00