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月姫 -A piece of blue glass moon-
【つきひめ あ ぴーす おぶ ぶるー ぐらす むーん】
ジャンル
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長編伝奇ビジュアルノベル
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対応機種
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Nintendo Switch プレイステーション4
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発売元
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アニプレックス
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開発元
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TYPE-MOON
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発売日
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2021年8月26日
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定価
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初回限定版:8,800円 デジタルデラックス版(PS4のみ):8,250円 通常版:7,700円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:Z(18才以上のみ対象)
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判定
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良作
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ポイント
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TYPE-MOONの原点が新生 卓越したシナリオと演出 分作であり未解決の謎が多い 原作からの追加・変更要素は賛否あり
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概要
2000年、同人サークル「TYPE-MOON」で製作された同人ビジュアルノベル『月姫』(以下「原作」と呼称)。
発表当初、その同人ゲームの域に収まらないシナリオおよびグラフィックの総量、そして緻密に設計された世界観等に多くのプレイヤーは魅了されることとなった。
その後も、ファンディスクや他サークルとのコラボによる格闘ゲーム『MELTY BLOOD』(以下『メルブラ』)を発表した。
一方で、次回作『Fate/stay night』(以下『Fate』)の制作に伴う法人化・商業移行と共に、サークル活動は停止。
『メルブラ』『Fate』のシリーズ化において、共通する世界観を持つ『月姫』の一端が開示されることはあっても、原作自体は、新参者に手の出しづらい状況が続いていた。
そして2008年に原作の商業リメイクが発表され、発表から13年、原作発売から約20年を経て発売された。
事前に公開されていた情報だが、原作における5人のヒロインのうち、メインヒロイン2人のルートのみの収録となっている。
原作と区別するために『月姫R(リメイク)』とも呼ばれる。
あらすじ
幼い頃、事故によって大怪我を負った遠野志貴。
追いやられるように遠縁に預けられ、
穏やかな日常を送っていた彼の元に、父・槙久の訃報が届く。
実家に呼び戻された彼を待っていたものは、
父から当主の座を受け継いだ妹の秋葉、そして2人のメイドだった。
新たに始まる遠野家の長男としての生活。
古くからの因習を受け継ぐ一族。
自分とは釣り合わない豪邸での暮らし。
過去の風景に記憶の断片を呼び起こされるなか、
遠野志貴はヒトのカタチをした生き物とすれ違い―
(公式サイトより引用)
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主要キャラクター紹介(公式サイトより一部引用)
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遠野志貴
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本作の主人公。7年前に交通事故に巻き込まれ、昏睡状態から回復した彼の目には「モノの壊れやすい線」が見えるようになっていた。
遠縁の家に預けられていたが、父親の死を理由に遠野の本家へと呼び戻されることとなった。
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アルクェイド・ブリュンスタッド
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本作のメインヒロイン。非の打ち所のない、気品のある容姿に反して天真爛漫、子供じみた態度を見せる謎多き女性。
正体は真祖と呼ばれる人ならざる存在―――「吸血鬼」の王族。らしい。
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シエル
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志貴の通う学校の先輩。テキパキとした仕草と笑顔、そしてメガネがトレードマーク。
親友である有彦の憧れの女性でもあり、平和な日常を象徴するかのような人物。
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遠野秋葉
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志貴の妹。父の死後に名家である遠野家を継いだ若き当主。
7年もの間、疎遠となってしまった兄の志貴に対して複雑な感情を抱いている。
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翡翠
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遠野家に仕える双子の使用人、その妹。
寡黙で感情表現に乏しく、機械のような印象さえ受けるが、志貴に対する献身には並々ならぬ物がある。
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琥珀
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遠野家に仕える双子の使用人、その姉。
常に笑顔を絶やさない朗らかな女性。からかうような言動には主人である秋葉も悩まされている模様。
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特徴
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プレイヤーは原作と同様、主人公「遠野志貴」の視点を中心に、選択肢に応じて変化する物語を読み進めることとなる。
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本作では原作におけるヒロイン5人のうち、アルクェイドとシエルのルートが存在し、それぞれのルートにより物語の展開が大きく変化する。
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ただしルートが大きく分かれる選択肢は、開放されているエンディングを見ることで選べるようになるため、『Fate』と同様、ゲームの進行は実質一本道と言える。
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当然ながら、選択肢を間違えた場合に辿り着くデッド・バッドエンドは多々存在する。そして原作においても存在していたバッドエンド救済コーナー「おしえてシエル先生」は、リメイクされた本作でも健在である。
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キャラクターなどのグラフィックは原作からリファインされており、各キャラクターのキャストについても既存の『メルブラ』シリーズやメディアミックスなどから変更されている。
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グラフィックの変更の一例として、メインヒロインであるアルクェイドについては、原作ではロングスカートであったのに対し、本作ではミニスカートに変更となっている。
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本作のキャラクターボイスについては、後に発売された本作をベースとする格闘ゲーム『MELTY BLOOD: TYPE LUMINA』においても同様のキャストとなっている。
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リメイクにあたって、数々の設定の変更や、登場人物の追加等がなされている。
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代表的な変更された設定として、作品の舞台が原作における地方都市「三咲町」から都心をモチーフとした「総耶市」となっていることが挙げられる。
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また時代設定についても、1990年代~2000年代ごろの原作から2014年ごろと現代に変更されており、主人公が携帯電話を所持しているなどの変更が見られる。
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登場人物については、原作に登場した人物の大半は続投し、それらの人物に関連のあるキャラクターを中心に、多く追加されている。この点については、評価点や問題点につながっている。
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PS4版はマウス、Switch版はタッチスクリーンなど、ノベルゲームに最適な操作方法にも対応している。
評価点
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1999年に発表された原作の本筋は基本そのままに、進化したグラフィックと演出が光る。その演出は、最高峰の演出を誇った同社製作の『魔法使いの夜』に勝るとも劣らない。
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また、原作におけるBGMが10曲前後であったのに対し、本作では『魔法使いの夜』でもBGMを担当した深澤秀行氏らによる90曲以上の良質なBGMが収録されている。もちろん原作のBGMについても、リアレンジされたものが収録されている。
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主題歌およびエンディング曲についても、いずれも月姫の世界観、各ルート・エンディングに適した曲として評価が高い。また、OP映像については「ufotable」が担当しているが、こちらも良質である。
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ただしシナリオについては様々な加筆修正がなされており、アルクェイドルートは比較的原作に近いストーリーとなっているのに対し、シエルルートは原作をプレイした人にとっても予想を大きく覆されるようなストーリーとなっている。
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原作のメディアミックス作品や漫画版『真月譚 月姫』などの内容も一部逆輸入されている。特に本作のアルクェイドルート終盤における追加シーンは、演出等も含めて高く評価されている。
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レーティングがCERO:Z(18歳以上のみ対象)のため、容赦のない多様なグロテスクな描写がなされている。原作において、主人公の代名詞となった「十七分割」のシーンも健在――どころか、迫力が増している様子。
原作とは違う意味で18禁となってしまった。
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原作からリデザインされたそれぞれのキャラクターデザインは、発表当初は賛否分かれたものの、本作発売以降は肯定的な意見が多い。
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キャラクターボイスについても同様で、特におまけコーナー「おしえてシエル先生」に登場するキャラクター「ネコアルク」は以前の声から変更されていないのでは、と疑われるレベルと評される。
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また、本作のヒロインであるアルクェイドおよびシエルについては新規の衣装が登場している。加えて原作におけるアルクェイドの定番衣装と言えるロングスカートについても、作中において意外な形で登場することとなる。
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原作(および後続の登場作品群)において、ヒロインとしてはアルクェイドたちの陰に隠れがちだったシエルについては、彼女自身のルートで本作のメインヒロインの片翼を担うに値するキャラクターとして、様々な活躍や派手なアクションなどが描かれた。
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特に、シエルと関連深い本作の新規登場人物「ノエル」を介して、彼女の深掘りがなされている。「ノエル」についても彼女自身の超人ではないこその葛藤等が描かれており、シエルの深掘りのためのキャラクターに留まらず、彼女をヒロインとしたルートを希望する声が出るほどの人気を博している。
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なお、原作時点では関連作品等でネタにされるレベルで大量に存在した誤植は、本作においてはほとんど見られない。
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バグについても発売時点でこそ重大なものが存在したものの、アップデートで解消されている。
賛否両論点
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重度なネタバレにつき注意
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原作において中盤に戦闘することとなる敵、「ネロ・カオス」が登場しない。
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設定上では存在しており、一応ある人物と接触したことが作中でも示唆されている。しかしながら原作および『メルブラ』シリーズでも登場し、一定の人気を誇っていたキャラクターのため、彼の未登場は物議を醸した。
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しかし、未登場の彼の代わりとも言える新キャラ「ヴローヴ・アルハンゲリ」はその設定、デザインおよび戦闘演出において、その穴を埋めるのに十分な熱量と人気を示しているだろう。
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アルクェイドルートについて、原作におけるグッドエンドに相当するエンドが存在せず、1つのエンドのみとなっている。
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後のインタビューで、「アルクェイドのルートが一つしかないことについてはいずれ」と語られているが、詳細は不明。
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一方でシエルルートについて、原作におけるトゥルーエンドに相当するエンドがオミットされ、新規のエンド(エクストラエンド、ノーマルエンド)が追加された。
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ただし元々シエルルートのトゥルーエンドは、評価点でも述べたシエルのヒロインとしての魅力の薄さを目立たせるものであったため、オミットされても問題はないという意見が多い。
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しかしながらエクストラエンドで追加された最終盤の戦闘については、これまでの戦闘からスケールが大幅に変化するため、その戦闘の理由を含めて否定的な意見も多数見られる。ただし原作では影が薄いとネタにされがちだったキャラにスポットが当たり、新たな魅力を発見したとの意見も見られる。
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キャストの一新について
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本作では若手が中心のキャストとなっており、概ねキャリアあるキャスティングも目立ったこれまでの作品と比べて違和感を持つ声もある。
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なお、演技に特別問題があるわけではない。ただ酷とは言え、流石に先代のキャストと比べて好みではないという声があるのも事実。
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この件は「製作に時間を掛けすぎたのが原因」「声変わりしているキャストもいるから今更厳しい」など擁護が多い。
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公式曰く若手が多いのは「長く続く作品にしていくため」とされている。
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グロ要素
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前述の通り、レーティングがCERO:Zとなり容赦のない多様なグロテスクな描写がなされており演出面も原作より大幅に進化しているため、原作は問題なかったが本作はグロ要素が強すぎてダメだったという人も。
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一部ネタバレ注意
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序盤の主人公の十七分割のシーンでは、主人公によってバラバラにされたヒロインの惨殺死体が本作でははっきり絵で描かれるため、中々にキツいものがある。
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また原作からだがシエルルートでは後半、サイコホラーな展開もあり、更に本作においては物語中盤のある選択肢を誤っているとその後半の場面にて凄惨極まりない展開が訪れ、プレイヤーに多大なトラウマを植え付けた。
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問題点
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分作であるためか、本作中では解決されない謎が多く残されている。
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特に本作よりの新規登場人物のうち、序盤より登場する一部のキャラクターについて、各ルートにおいても大筋での接触はほぼなく、本作中全ルートを終えても謎の人物のままとなっている。
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その他の人物についても、作中で多少活躍するシーンは見られるものの、その本質等を深掘りされないままフェードアウトすることが多いため、良い印象を持ちづらい。
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シナリオにおける軽微な矛盾等が見られる。
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例として、主人公の携帯電話を没収した人物の前で、内緒で取り返してもらった携帯電話を堂々と使用するも、その人物に咎められない場面がある。
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またフラグの管理ミスか、序盤の選択肢においてその日に会っていないはずの人物と、以前に会ったことを後日話題に上げているシーンが見られる。
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既読スキップ機能が仕様なのか、すでに既読となっているシーンでも止まる場合があり、クリア後のバッドエンド回収等が若干面倒になっている。
総評
ビジュアルやボイスキャストが一新、設定も大幅に変更され、2008年の発表より13年越しの発売でありながら分作で一部のキャラクターのルートのみということもあり厳しい目で見られていた本作。
だが、実態は販売価格に見合ったボリュームであり、発売後は刷新された内容に関しても肯定的な意見が多く見られるようになった。
原作および関連作品での人気キャラの未登場などや、分作としての発売故未解決の謎が多い点などで、否定的な意見も存在するが、それを差し引いても十分に良作と言ってもよい水準の作品であろう。
いわゆる「きのこ節」は健在のため人を選ぶ作品であることは確かだが、『Fate』シリーズをはじめ奈須きのこ氏の作品に触れて魅せられたのであれば、問題なく本作も楽しむことはできるだろう。
原作をプレイした人、漫画版を読んだり『メルブラ』シリーズをプレイしたりしたことがある人、月姫世界に初めて触れる人、そもそもTYPE-MOON世界観に触れたことのない人。
そのいずれも魅了できるだけのポテンシャルのある一作といえる。
余談
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2023年時点で累計出荷本数が30万本を突破している(参照)。
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ゲーム初回起動時に流れるプロローグを除き、ゲーム全編のスクリーンショットの撮影・録画配信などが不可能となっている。
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とはいえ昨今はSNSや動画配信サイトでの本編の切り抜き行為が横行していることを考慮すると、ストーリーに重きを置くアドベンチャーゲームとしては当然の判断といえる。
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発売から2週間の期間、「SNSなどでの直接的なネタバレを控え、ネタバレの際には「ふせったー」等を使うように」との声明が公式から出された。
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なお、直々に指名のあった「ふせったー」に関しては「事前に協力を仰いでいた」と作者ブログで語られている(参照)。
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発表から発売までにここまで長い期間を要することとなった最たる要因といえるのは、2015年にサービスが開始し、2022年現在も配信中のスマホアプリゲーム『Fate/Grand Order』である。
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本作開発中にそちらの企画が立ち上がり、開発などの作業に多く時間を割かれたことにより本作の作業がストップ、作業が再開したのは2017年末ごろだったとのこと。
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本来は演出等のクオリティーも発売時点のものほど高くはなかったが、『魔法使いの夜』と比較したことで、クオリティーアップを図ったとインタビューで語っている。
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本作のメインヒロイン2人(アルクェイド、シエル)のルートを含む本作は「月の表側」と称されており、原作においても「半月版」という2人のルートのみを収録したバージョンが存在している。
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「月の裏側」となる分作の片割れには、原作でヒロインであった残りのキャラクター(秋葉・翡翠・琥珀)のルートが収録される見込みだが、インタビュー(ネタバレを多く含むため閲覧注意)において「4人のルートが収録される」と明言されている。
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残りの1人については、原作および『メルブラ』シリーズ等の関連作品に触れたプレイヤーであれば容易に想像がつくだろうが、「月の裏側」となる作品のタイトルと併せて、本作を完全クリアすることにより知ることができるだろう。
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なお、同インタビュー中で、「月の裏側」については(『FGO』第二部の制作が佳境なので)「オリンピックを待つくらいの気持ちで」とのこと…先は長そうである。
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原作の同人版は長らくプレミア価格だったが、本作の発売後もプレミア価格が続いている。
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大手の同人ショップなどでは大抵ショーケース内で見つかるため、発見は容易。
最終更新:2024年06月22日 21:21