天使のいない12月
【てんしのいないじゅうにがつ】
ジャンル
|
AVG
|
|
対応機種
|
Windows 98/Me/2000/XP
|
発売・開発元
|
Leaf
|
発売日
|
2003年9月26日
|
定価
|
8,800円(税別)
|
レーティング
|
アダルトゲーム
|
判定
|
賛否両論
|
ポイント
|
体の関係から始まるメインヒロイン 終始重苦しい雰囲気が漂う 余りの作風に評価は真っ二つ
|
Leaf/AQUAPLUS作品
|
願ったのは束の間の安らぎー
ーーー叶ったのは永遠という贖罪
概要
『雫』『To Heart』等、数々の名作を手掛けたLeafから発売された
アドベンチャー(一部ビジュアルノベル)ゲーム。
通常のAVGタイプの画面下部ウインドウと独白シーンでは、ビジュアルノベル形式の
ハイブリッドを採用している画期的な作品。
東京開発室では初となる暗く、退廃的な作風となっており
20年近く経った現在でも評価は賛否両論に分かれてしまっている。
ストーリー
人間関係は軽く薄く小さくがモットーであり、
なにごとにもいい加減で投げ遣りな生活を送って いる主人公。
特にやかましい妹がいるせいもあって、女は面倒だと思っている。
そんな主人公と違い、友人は女の子との恋愛に時間を費やし、
肉体関係になることに至上の価値を求めているので、主人公に恋愛を勧めるのだが、
まるで聞く耳を持たない。
ところが、ある女の子とのささいな言い争いから、
なりゆきと興味本位でその場限りの関係を持ってしまう。
(※公式サイトより抜粋)
主要登場人物
+
|
クリックで開閉
|
-
木田時紀(きだ ときのり)※デフォルトネーム
-
本作品の主人公(名前は変更可能)。家族は共働きの両親と年子の妹の4人構成。無気力かつ厭世的で、学校の屋上でタバコを吹かすのが日課。一方で、透子が拾ってきた子犬の面倒を見るなど優しい一面もある。妹の恵美梨に頼まれ、彼女が家事一切を引き受ける代わりに、人気のクリスマスケーキを確保するためケーキ屋のアルバイトを始める。
-
栗原透子(くりはら とうこ)
-
主人公のクラスメイト。
常に幼なじみでクラス委員のしのぶに引っ付いて行動している。
自分にまるで自信がなく、人の顔色ばかりうかがっている。
それでも誰かに必要とされたい、自分でも大丈夫なんだという想いがあり、なりゆきでしてしまった主人公との肉体関係に拠り所を求めてしまう。
-
榊しのぶ(さかき しのぶ)
-
透子の幼なじみでクラスメイト。 そしてクラス委員。
優等生であり責任感が強いことから、クラスメイトから頼られることが多い。
-
麻生明日菜(あそう あすな)
-
仏文科在学の女子大生。 主人公のバイトしているケーキ屋の先輩にあたる。
大人の女性として常に余裕のある姿勢を崩さないが、言動の多くはお茶目で小悪魔的。
-
須磨寺雪緒(すまでら ゆきお)
-
主人公と同じ学校に通う二年生。ケーキ屋のバイト店員。
上品で礼儀正しく、なにごとにも落ち着いている。
-
葉月真帆(はづき まほ)
-
主人公と同じ学校に通う一年生。 ラクロス部部員。主人公の友人の彼女。
性格は明るく元気。いささか落ち着きは足らない。
|
主人公のみWikipedia、ヒロインは公式サイトより抜粋
本作品の特徴
冬を特徴とした学園物であり、ヒロインの特徴やゲームの雰囲気こそ普通のアダルトゲームと大差ないように見えるのだがその実内面は今現在としても余り類を見ない作品となっており
ヒロイン全体が(アダルトゲームのヒロインとしては)何かしらのマイナスな問題点を抱えている。
また、現実的な世界を表現したいという開発陣の要望の元、ヒロイン全体の髪色は黒を基調とした色になっている。
当時としても異質な作風であったためか、結果として今作の作風を引き継いだ後継作は発売されなかった。
今作のテーマは心と心の繋がり、どのルートでも体と体にはなるものの、凡そ普通のアダルトゲームとは似ても似つかわしくない展開で話が進んでいき、ヒロインの一人はまさかのHシーン無しでトゥルーエンドを迎える事が出来るという本作の特異性を表したような関係となっている。
評価点
-
システム
-
基本的にはオーソドックスなADV形式の為、ヒロインの心情や現在どのような状況なのかを視覚的に理解しやすいものとなっている。
それに加えて、ビジュアルノベル形式も採用しているため、アダルトゲームにありがちな主人公の心理描写が足りていない、等の問題点は解決されている。
-
本作自体が難解なテーマをメインに捉えている事もあり、このハイブリッドシステム自体類を見ないものの為、この点は今現在に至っても高く評価されている。
-
グラフィック
-
みつみ美里氏による可愛らしいCGは非常に評価が高い。
流石に、今現在の美少女イラストには劣るものの当時一時代を築いた氏の作風は
今の時代にでも通用し、その可愛らしい作風と冬を題材にしつつも夕暮れの持つ薄暗さを全体的に引き出している背景は上品かつ独特な雰囲気へと調和する事に成功している。
-
音楽
-
Leafが作成していることもあり、全体的なクオリティは高い。
OPからEDは勿論の事、作中で使われているBGMはピアノやギターをメインに使われていて全体的に物悲しく、上記の作風と合わせてプレイヤーをより感傷的に、憂鬱気味にさせてくれる。
特に、作中で使用されているとあるギターの曲は須磨寺雪緒が弾いている曲という設定があるものの
作中の雰囲気を壊すことなく、ヒロインの魅力へと昇華させている。
-
声優関連のおまけ要素
-
全キャラの攻略が完了した後にヒロインの声優の本作の感想などを音声で録音したものがあり、他作品にはあまりない要素である。
賛否両論点
-
キャラクター描写
-
本作品の特徴でも捉えたが、今の視点で見ても余りにも個性的なキャラクター描写となっている。
+
|
その描写について(ネタバレのため要注意!!)
|
-
栗原透子
-
メインヒロインに当る彼女だが、上でも述べた通り共通ルートで彼女とは肉体関係を結ぶことになる。
-
イラストでは伝わり辛いものの、作中では美人ではないらしく、本当に愛情はない…所謂交換条件として彼女が体を提示して主人公がそれを承諾した、という体で話が進んでいく。
それ以外にも頭が悪く、要領も悪く、それもあってしのぶに過保護気味に囲われており、軽い自殺願望のようなものまで抱いている。
-
榊しのぶ
-
上の栗原透子を過保護気味に囲っている優等生であるが、本質は彼女自身が透子の弱さに依存しているという事がしのぶルートで明かされる。
-
彼女のルートは透子ルートから派生するものの、作中で彼女たちの性行為を見てしまいそれに感じてしまった自分を赦したい。
しのぶのルートは一言で言えばカウンセリング、と表すことが出来る。
-
彼女のルートではリスカをしたり本物の自殺を匂わせたり、恐らく本作品で最も病的なヒロインともいえる。
当然Hシーンもハッピー等ではなく、実用性皆無としか言えない仕上がりとなっている。
-
麻生明日菜
-
キャラクター紹介ではよくある先輩としか言えないものの、明日菜のルートではそれ自体が作り上げた嘘、だという事が提示させられる。
家庭環境は良いとは言えず、バイト先の家に入り浸っていたものの子供が生まれてからは寄り付かなくなり、寂しさを援助交際で紛らわせるもののそれでも望むものは与えられず、理想の人間を演じて奪う側になったという事が説明される。
性格は悪いと言えるものの、彼女の境遇を考えると致し方ない点もある。
-
葉月真帆
-
主人公の親友(霜村功)の彼女であり、上で述べたHシーン無しでトゥルーを迎えることが出来るのは真帆の事。
-
体を求める功と心の繋がりを求めたい真帆との間に入っていくうちにお互いに惹かれていくといった展開になる。
本作品では恐らく、最も普通のヒロインである。
-
須磨寺雪緒
-
今尚一部で話題に上がるヒロインであり、本作というゲームを最も表している人物。
外面だけは良いものの、内面は電波ヒロインと言って差し支えない程に壊れており彼女が自殺未遂する所を見てしまった所から彼女のルートに入ることになる。
-
主人公も死にたい、と言っていたものの規格外の人物に出会ったことにより、彼までが壊れていくようになる。
物語後半、飼い犬が死んだことにより人を遠ざけるようになったという、過去が明かされる。
|
-
シナリオ
-
上のキャラクター描写と密接に関わりあっているため、未読の方は上記一読の事。
+
|
今尚賛否分かれるシナリオ(ネタバレのため要注意!!)
|
ほぼ全てのルートで心と体の繋がり、という点を密接に表現している。全体的に体の関係は早いものの、関係を結んだからこそお互いが好きか?というテーマでどのルートも話が展開されていく。
アダルトゲームでしか表現できないシナリオ、と言ってもよくその点も踏まえて他に類を見ない為に評価が真っ二つに割れている。
詳しくは各ルートに細かく記載させて頂く。
-
栗原透子ルート
-
体の関係からお互いを本気で好きになる、という所謂王道展開。
-
本作のED中では珍しく希望に溢れており、それでいてテーマをブレる事無く伝えているために全てのルートの中で最も万人受けするルート。
-
彼女自身も主人公と出会ったことにより、前向きに変わっていき唯一しのぶの過保護染みた境遇から彼女の意思で脱することになる。
-
なお、唯一透子だけどのルートでも密接に関わることになり、他のルートでは酷い終わり方を迎えているものの、その点についてはそれぞれのルートで記載する事とする。
-
榊しのぶルート
-
上記の透子ルートから分岐(共通ではなく、恋人に近い状態になった状態から分岐する)する事によりしのぶルートに入ることになる。
キャラ描写で軽く触れたものの、しのぶルートは凡そ鬱展開と言っていい内容で展開されていきお互いの間に恋愛感情と言ったものは最後まで芽生えることはない。
-
主人公は透子が好きなものの言い訳しようがない程に彼女に構うことになり、しのぶはしのぶで透子を汚した主人公を嫌っているものの、犯して貰う事で罪を償うといった形で展開されていく。
-
結果として透子にバレてしまい、破局。ただ、お互いに透子が好きという気持ちは変わらず、共依存のような形で終わることになる。
透子は友人二人を無くし、主人公たち二人も救いはない…本作が鬱ゲーと呼ばれる所以は恐らく、このルートにあるといっても差し支えない。
-
麻生明日菜ルート
-
前半は所謂王道展開のようなものの、後半から一転するルート。このルートは本物の好きとは何か、というようなテーマで話が展開されていく。
-
主人公が好きだったものは演じていた明日菜でどうすれば彼女を救えるか悪戦苦闘する事になる。最後は本当の自分を愛してくれるようになりハッピーエンド…ではなく、結局主人公は正解を見つけられず、明日菜側も欲しいものは与えられなかったという形で終わる。
-
体は好きだが心までは愛せない…他のルートとは違い、主人公と透子の関係をそのまま裏返したような話。
このルートの透子は明日菜の代わりとしてしか見ない主人公に愛想を尽かして終わるという、唯一主人公に反旗を翻すルート。
-
葉月真帆ルート
-
序盤はお互いの仲介をするものの、いずれ真帆と功の心が完全に離れてしまい、真帆は主人公と一緒にいる事にするルート。
-
所謂寝取りなものの、そんな単純な話ではなく、好きだからこそHをしなくてはならないか?というのがこのルートのテーマである。このルートでは主に主人公と真帆、主人公と透子、の二つの関係が主軸に話が展開されていく。
-
最終的に主人公は本当に好きだからこそ、透子と別れる選択肢をしたものの…主人公と真帆の間には本物の恋愛感情は沸かず、お互いに本気で好きな人と分かりあう事をしなかった、という示唆が最後にされる。
-
透子も含めた四人は最後まで最も大切な人に心が届かない、切ない関係で話は終了する。
-
須磨寺雪緒ルート
-
上で述べたように序盤から死の臭気に触れてしまい、段々と主人公の心が壊れてしまい最後に飛び降りといった形で話が終了する。
今尚語られるだけあり、上記のルートと比較しても特筆する程に異質な雰囲気で話が展開される。
-
終盤、犬が亡くなった事により人と親密な関係になる事を恐れていた、と知った主人公は自分にも重なると考え、生きてても地獄という事で飛び降りを決意する。
-
常に死、という考えだけが通じ合ったものの、最後の最後でお互いの心を理解し、奇跡的に助かり今後は何があっても生きていこう、と決意するEND。
全てのルートの中で雰囲気、BGM、主人公の厭世的な考えが調和して、異常な雰囲気を保ち続けるもののどこか美しく、儚さを終始漂わせることに成功している。
透子は主人公に強姦のような事をされ、閉じこもってしまうもののまだ救いはある終わり方である。
|
このように、全てのルートにおいて一筋縄で行くシナリオは存在せず、ほぼどれにおいても哲学のような難しいテーマをメインに据えている。
上記の内容を人の弱さに踏み込んだ傑作、と評価する人もいれば学生の下らない悩み、と一掃して凡作と表現する人もおり、評価はまちまちである。
また、上記のシナリオを評価する人の中にも、このようにヒロイン全てがダウナー系は重すぎる、と捉える人も存在し、今作の賛否両論は人によって線引きが難しいとも言うことができる。
更に付け加えると、どのルートも全て打ち切りともとれる、明確な答えは明示されてないままに話は終了しこちらはそのような意図として作られているものの、全体的に短いという点もありせめてトゥルー位は綺麗な終わり方をしてほしかった、という声もある。
問題点
-
プレイ時間の短さ
-
全体的に共通ルートは三時間もあれば読み終わってしまうし、個人ルートは2時間…早い人では1時間程度で読み終わってしまう程度である。
12月のひと時をテーマとしているとは言え、流石にフルプライスでこれは短すぎると言っても良い。
-
実用性の薄さ
-
体の関係から基本的に始まるので、Hシーンはあるものの相思相愛といったシーンはあまり存在しない。
-
特にしのぶ、真帆はきちんとしたHシーンは存在しなく、どちらかというと現実逃避の為の行為なのでこのヒロインを気に入った人からすれば肩透かしを食らった気分になる。
作中のCGのクオリティは決して低くはないのだが、だからこそ余計に惜しまれる。
-
分かり辛い選択肢
-
基本的に分岐は分かり辛く、主人公の独特な思考も相まって選択肢は難解とも言える。
-
好感度のようなものではなく、様々な選択肢から正解のルートを引き当てていくのだが時にはどう見ても間違いの選択肢を選ばないとそのキャラのルートに入ることはできない。
総評
心と心の繋がり、というアダルトゲームでしか表現できないテーマを極限まで掘り下げた意欲作。
キャッチコピーに偽りなく、ハッピーエンドとは言い難いし鬱々とした終わり方をするルートもあるものの、その普遍的なテーマは今の時代でも決して見劣りはしない。
全体的に短く、レビューも真っ二つなもののそれを踏まえてなお他に類似性を見ないシナリオは刺さる人からすればこれ以上溜らない程の良作に化ける可能性を秘めている。
以下の理由から、簡単に手出しできるものと言えなくなっていくものの、運良く機会ができたのであれば是非プレイしてこの目でその衝撃を感じ取って頂きたい。
余談
プレミア化
-
一時期DL販売がされており、価格は下落したものの、2022年現在DL販売が停止されており、再び価格が高騰してしまっている。
-
以前から値上がりしていたこともあり、移植やアニメを望む声は多いのだが内容的にどうしても性行為がないと成り立たない作品の為、嘗て社内で声があがったものの却下された。
今現在はそれに加えてLeafがPCゲームから撤退している事もあり、今後の再販等も絶望的とされている。
最終更新:2024年02月29日 06:36