雫
【しずく】
ジャンル
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ビジュアルノベル
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対応機種
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PC-9801 Windows 95
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メディア
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【Win】CD-ROM
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発売・開発元
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Leaf
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発売日
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1996年1月26日
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定価
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8,800円(税別)
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レーティング
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アダルトゲーム
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判定
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良作
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Leaf/AQUAPLUS作品リンク
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概要
『かまいたちの夜』のようなサウンドノベル形式で物語を「読ませる」事に重点を置いて開発されたリーフ・ビジュアルノベル・シリーズ(LVNS)の第1弾。
ストーリー
ここ数日の間、僕は不思議などろりとした時間の中を漂っていた。
毎日同じ時間が同じ映像で繰り返されているような…そんな奇妙な錯覚を覚えている。
代わり映えのないくだらない毎日の連続。
やがていつの頃からか、僕はこの退屈な世界から、すべての音と色彩が失われてしまっていることに気付く。
僕はつまらない現実を離れ、徐々に狂気の世界へ足を踏み入れようとしていた…。
そんな僕のクラスで、ある日の授業中、ひとりの女生徒がおかしくなった。
彼女は機械のようなまっすぐな姿勢で席から立ち上がると、突然、大きな声で淫猥な言葉を叫びだし、教師が無理矢理その口を押さえる頃には、彼女の顔は自らの爪が刻んだ生傷で血だらけになっていた。
クラス中の生徒達が息を飲んで見守るなか、鮮血の赤を見つめていた僕は、現実世界がゆっくりと色を取り戻していくのを感じていた…。
(公式サイトより抜粋)
評価点
シナリオ
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陰鬱な作風
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学校を舞台にしながら、捻くれた性格の主人公、陰惨な事件、「狂気」「電波」をテーマとしたストーリーと、全体的に重々しい雰囲気だが、だからこそ惹かれるストーリーが描かれている。
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こんな作風だが、「叔父に頼まれて事件の捜査を開始し、3人のヒロインの誰かと共に捜査を進める」というストーリー展開になっている為、重々しくてプレイしづらいという事はなく、むしろ重々しいストーリーを触れやすくもしている。
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強烈なシーンの数々
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最初の選択肢で捜査を断った際のED、各種バッドエンドシーン、事件の真相等、強烈に印象に残るシーンが多い。
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特にバッドエンドにおいてはヒロインが壮絶な死を遂げる場合もあり、それ故にハッピーエンドを目指したくなる作りになっている。
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多くのプレイヤーが見ることになる「ハサミ」のシーンは一度見たら忘れられないだろう。
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メインヒロイン月島瑠璃子の存在
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焦点の定まらない瞳(今でいうレイプ目)や、噛み合わない会話等、電波ヒロインの元祖とも言える存在だが、だからこそ『雫』というゲームにふさわしいヒロインになっている。
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真相ルートとなるのがメインヒロインである彼女のルートだが、今の彼女に至るまでがきちんと描かれており、意味もない電波キャラなどではない。
作品の雰囲気に合った良質なBGM
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特に折戸伸治氏によるタイトルと同名のBGM『雫』、月島瑠璃子のテーマである『瑠璃子』などの評価は高い。
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余談だが折戸氏はその後Leafを退社し銀行員を経てビジュアルアーツに就職している。Leaf退社の理由としては「生計が立てられなかった」との事。まだまだLeafが大メーカーになる前の逸話と言えよう。
水無月徹氏のCG
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癖の強い絵柄だがそれが作品に非常にマッチしている。
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今となっては癖が強すぎて人を選ぶ絵柄だが、それでも「この絵柄だから良い」という声は根強い。
問題点
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全体的なボリュームは少し短め
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当時としてはそこそこの文量だが、今やるとかなり物足りなく感じるレベル。
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当時はシステム周りが洗練されていない事が珍しくなかったので、その分でプレイ時間が掛かっていた補正もあるのだが。
総評
とにもかくにもアダルトゲームの歴史に残る一本だろう。
学校が舞台の虚無的なシナリオは人を選ぶシナリオではあるが、多くのファンを惹きつけた。
今でもその独特なシナリオの魅力自体はなくなりはしないものの、やはり黎明期の作品だけに今やると物足りなさやあっけなさを感じてしまうだろうか。
その後の展開
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1996年にリーフ・ビジュアルノベルシリーズ第2弾である『痕 -きずあと-』が発売された。今で言う「伝奇」色の強いダークな雰囲気や元祖初音ちゃんが登場するなど「Leaf最高傑作」の呼び声も高い。おまけシナリオは盗作だが。
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2009年6月26日にWindows・18禁で発売された再リメイク版には初回特典として本作が収録されている。ただし2025年時点でプレミアがついており、DL版もないため入手困難。
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1996年に『痕』との合同ファンディスクである『さおりんといっしょ!!』も発売。
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内容としては『痕』おまけシナリオ、ミニゲーム、『To Heart』予告編、壁紙などといった当時のファンディスクの平均点的な内容である。
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案外「物足りない」という声は多かったようで、それがファンディスク第2弾『初音のないしょ!!』以降の方向性に繋がっていくのである。
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1997年に発売されたファンディスク『初音のないしょ!!』に収録されたゲーム「LEAF FIGHT 97」には、本作のキャラも登場している。
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2004年にはリメイク版が発売された。変更点は以下の通り。
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主人公以外のボイスの追加。
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一部シナリオの変更。
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ソフ倫を通すために月島兄妹が義理の兄妹になった他、作中のキャラとスタッフが対決するおまけシナリオに関してはスタッフが変更された事もあって削除された。
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原画家が比呂菊乃助氏に変更された。
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原画変更では避けられない問題だが、やはり原作ファンからの反発は強かった。
余談
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「毒電波」という単語は本作が初出である。
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概念自体は大槻ケンヂ氏の『新興宗教オモイデ教』に登場する「メグマ波」が基にある。シナリオライターの高橋龍也氏自身、影響を受けた事を認めている。
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長瀬一族
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主人公・長瀬祐介や叔父の長瀬源一郎と同様に「長瀬」の姓を持つキャラクターは、後のLeaf諸作品で度々脇役として登場する事となる。
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一例としては『痕』の刑事・長瀬源三郎や、『To Heart』の来栖川家執事・セバスチャン(長瀬源四郎)など。
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月島兄弟の兄、月島拓也はその強烈なキャラクター性とリメイク版で追加された田中大輔氏のボイスから一部で妙な人気があり、某動画サイトでは彼の音声を使用した動画シリーズが一時期話題になった。
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後に全年齢アニメ版『こみっくパーティー』でも月島拓也がゲストキャラで登場しているが、こちらでは『機動戦士zガンダム』のカミーユでお馴染みの飛田展男氏が演じている。
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始めて5分でHシーン
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アダルトゲームでサウンドノベルを作る事は社内でも意見が分かれ、最終的に上層部から出された条件が「開始5分でHシーンに行ける事」だった。
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理由は当時のアダルトゲームの状況から、いつまでもHシーンにならないのは問題という判断から。
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結果として、少々変則的ではあるが本作はこの条件を満たしている。
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本作から続くリーフ・ビジュアルノベル・シリーズ『痕』『To Heart』は大ヒットを経た。
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本作及び、次回作『痕』は根強いファンは多いものの、コピー問題や暗めの作風から『To Heart』程のヒットとはならなかった。(当時の詳細)
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Leafのビジュアルノベルは2005年の『ToHeart2 XRATED』が最後だが、「ビジュアルノベル」という言葉は独り歩きしており、ほとんど「ノベルゲーム」と同じ意味で使われている。そのためビジュアルノベルを名乗っていない『WHITE ALBUM2』などが「ビジュアルノベル」として紹介されることも多々ある。
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こういった経緯があるため「『雫』は18禁ノベルゲームの元祖」などと拡大解釈される場合もあるが、「ノベルゲーム」に括られる18禁ノベルゲームは本作以前にも『はっちゃけあやよさん』などが存在している。
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商標「ビジュアルノベル」の名義人はビジュアルアーツの馬場隆博である。(商標照会)
最終更新:2025年03月26日 01:05