鳥類弁護士の事件簿

【ちょうるいべんごしのじけんぼ】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 Nintendo Switch
発売元 Leoful
開発 Sketchy Logic Games、Vertical Reach(共同開発)
移植 Vertical Reach
発売日 2022年12月15日
定価 【DL版】3,278円
【パッケージ版】3,850円(税込)
プレイ人数 1人
レーティング CERO B(12才以上対象)
言語 日本語、英語、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)
判定 なし
備考 Steamにて1,480円で2015年12月22日に発売された「Aviary Attorney」が原作
ポイント 逆転裁判のリスペクト要素とオリジナリティの両方が光る作品


概要

2015年にSteamで発売された「Aviary Attorney」を日本語に対応してSwitchに移植した作品。
ハヤブサの弁護士ジェイジェイ・ファルコンとスズメの助手スパロウソンが19世紀、革命の気運が高まるフランスを舞台に弁論を繰り広げる。

なお、本作の解説においては法廷バトルで有名な『逆転裁判』シリーズとの比較を避けては通れない。
逆転裁判とどのように違うのかが気になる人も少なくないと思われるため、逆転裁判と比較する箇所が多くなることをご容赦願いたい。
逆転裁判とは「あちらと比べて良いか悪いか」の比較を極力避け、あくまでシステムの違いなど客観的な事実のみを述べる。

ゲーム内容

逆転裁判と同じく「チョウ査パートで証拠を集め」、「法廷パートで矛盾を暴く」ことがゲームの目的。
しかし特にチョウ査パートにおいて逆転裁判とは大きく異なる点が多い。

チョウ査パート

開廷までの数日間を使って、弁護に必要な証拠・証言を集めるパート。

  • 逆転裁判では必要な証拠・証言が全て揃うまでは法廷パートには進まない仕様だが、 本作では日数・曜日と資金の概念があり、考えなしにチョウ査を行うと証拠不十分のまま法廷に立たされることがある
    • 日数は基本的に1か所のチョウ査で1日経過する。
      訪れる必要のない場所を訪れても日数の経過は無いが、チョウ査しても十分な証拠が得られないまま1日が過ぎてしまう場所も存在するため、よく考えて行動する必要がある。
    • 資金は様々な形で増減する。情報収集を探偵に依頼したり、証拠品を買ったり、わいろを渡したり、盗まれたり、賭博に使ったりなど用途は様々。
  • 逆転裁判とは異なり、証拠品や動物を任意で「つきつける」ことはできず、基本的には会話に差し込まれる選択肢を選ぶことで進行する。
    しかし、会話の流れで証拠品や動物を選んで提示するよう求められる場面は存在する。
  • マップを「調べる」ことも任意ではできず、限られた場面でのみ行うことになる。

法廷パート

集めた証拠・証言をもとに、被告人…ならぬ「被告獣」を弁護する。

  • 逆転裁判では多くの場合、証言と矛盾する証拠品をつきつけることでゲームを進めることになるが、本作では証人、もとい証獣の証言全体に対して4か所ほど下線が引かれたワードがあり、その中から気になるものを選択することで尋問を行う。
    その質問が無意味なものであれば陪審員の心証が悪化してしまうが、不確定要素が潜む核心をついた質問であれば、裁判が進行する。
    • 時には更に矛盾を証明する証拠品の提示が求められることもある。
  • あらゆる矛盾を指摘し、真実を暴き、決定的な証拠を突きつけることで真犯獣が発狂して罪を自白する… のではなく、判決は基本的に陪審員による審議と判事による判決で決定する。
    • チョウ査パートでも説明したように、チョウ査が不十分だと証拠不十分のまま弁護することになる。
      そのため、裁判開始時点の情報量ではどうやっても有罪を回避できなかったり、「少なくとも被告の無罪は証明されたが真犯獣は不明」という結末も起こりうる。

その他

  • ゲームのプレイ状況に応じて獲得できるメダル(いわゆるやり込み要素)、作中で使用された楽曲やイラストギャラリーをメニューから閲覧できる。
    • 未取得のメダルは、獲得のヒントが表示される。
  • 作中の酒場ではジャック・ノワールというミニゲームを遊ぶことができる。
    • カードを引いていって22を超えないように気をつけながら21に近づけていく、いわゆるブラックジャックと同じルールだが、 使用するカードがトランプではない(絵札がない)ため「10」が出る可能性がブラックジャックより低くなっている。
    • 作中で遊ぶ場合は掛け金5フランが必要だが、メニューから無制限に遊ぶこともできる。

評価点

「法廷と真実」ではなく「弁護と正義」に重点を置いたシナリオ

  • これは一見似たことのように見えるが異なり、本作では様々な形でファルコンなりの「弁護と正義」が見られる。
    • 例えば、ある場面ではテロリストに銃殺刑に処されようとしている友を即興で弁護することになる。
      予断を許さない状況のためその時点で持っている物だけで弁護しなければならず、証獣はおろか陪審員や判事までもが気の立ったテロリストで占められているため、難易度は高い。
    • ある場面ではファルコンが「負けることを前提とした裁判」に出廷する。
      それは単に勝ち目が薄いとか、被告が真犯獣だからという理由だけではなく、被告を正しい手続きで起訴し、真っ当な弁護をしたうえで敗訴する必要がある理由が存在している。
      真実を暴き、真犯人を告発して被告の完全無罪を勝ち取るだけが弁護ではないと思わせられるシナリオの行く末はプレイヤーの目で見届けて欲しい。
      • 特に第一幕は、逆転裁判をプレーしたことのあるユーザーほど(逆転裁判に似た展開で進行するので尚更)その結末に驚くだろう。
  • 「ゲーム内容」の項目で述べた通り、本作では明確な矛盾点を証拠によって論破するのではなく、下線が引かれたいくつかのワードから不確定要素を指摘する形式となっている。
    そのため、逆転裁判のように「証言に矛盾があるという前提で尋問する」とか「手持ちの証拠品から矛盾点を逆算して考える」といったゲーム的な攻略ではなく、
    「この発言が気になる」とか「こう断言しているが別の可能性があるのではないか」といったように、よりファルコンの立場に感情移入するように思考を巡らせる楽しさがある。

逆転裁判のリスペクト要素

  • 主人公と助手は鳥類になっているものの、2人の軽妙なトークは逆転裁判に劣らず愉快。
    • 逆転裁判恒例の「ハシゴとキャタツ」や「異議あり」が飛び出す場面もある。

逆転裁判の後追いに終わらないオリジナリティ

  • トリわけ目を引くのは登場人物が全て動物という点。
    これらは本作の舞台となる19世紀フランスにおいて、実際に風刺画家として活躍していたJ・J・グランヴィル氏のイラストが元となっている。
    ゲーム全体がセピアカラーで統一されていることもあり、本作独特の雰囲気を醸し出している。
    • 意味もなく動物をモチーフにしているわけではなく、肉食獣をモチーフにしたキャラクターは獰猛な性格の者が多かったり
      凶器のナイフにも劣らぬ鋭さの爪を持っているなど、動物であることがシナリオにも関係している。
  • 随所にみられる鳥類ダジャレも本作の持ち味。
    トリとめのない会話にそっと差し込まれるものから「時刻→時コッコ(*1)」や「アドリブ→アトリブ」などというちょっと強引なものまで様々。
    • ちなみにこの「時コッコ」だが、なんと尋問で突っ込むことができる。 そして検事からマジレスで返される

シナリオ分岐が存在する

  • 裁判の進め方次第で判決が異なる可能性があるというのは前述の通りだが、第三幕の裁判の結果によって、第四幕は展開そのものが根底から大きく変化する。
    • シナリオ分岐のヒントがクリア後に表示されるので、攻略情報に頼らずともある程度は自力で探しやすい。
  • ちなみに本作はゲームオーバーが存在しない。弁護に失敗し、被告が処刑されようとも話が進む
    その後のシナリオに登場する一部の動物の生死も裁判の結果によって異なるが、その点も関係者の証言が変化したり必要な証拠が集まらなくなるなどしっかり作り込まれている。
    裁判にやり直しなど存在しないこと、弁護に失敗したからにはその責任を負って生きなければならないということを考えさせられる作りである。

良質な翻訳

  • 話し言葉は和訳が難しいものの1つだが、翻訳ミスはもちろん、違和感を覚える翻訳もない。
    口調や文体が安定しているのはもちろん、各キャラクターの性格に合った話し方や口癖による個性付けまでしっかりできている。

賛否両論点

  • チョウ査パートにおけるゲーム性。
    • 本作では日数・曜日と資金の概念があるため、漫然と虱潰しにチョウ査せず計画的に行うことが求められる。
      開廷まで日数が限られているという緊張感をプレーヤーも味わうことができるが、好きな場所を好きなだけ調べるという自由度は失われている。
    • 逆に、逆転裁判の調査ではどこで何をしたら話が進むのか見当がつかず行き詰り状態に陥ることがしばしばあるが、
      本作では正解にせよ不正解にせよ必ずシナリオが進むため、チョウ査パートで行き詰まる問題を回避することにも繋がっているので一概に問題とは言えない。
  • 逆転裁判との作風の違い。
    • これはすでに評価点で述べた項目ではあるが、本作の裁判は逆転裁判のような真犯獣を暴く痛快な勧善チョウ悪だけではなく、
      19世紀の革命運動の気運が高まる不穏な情勢もあって「弁護」というものの難しさと奥深さを考えさせられるシナリオとなっている。
      一方で、逆転裁判をプレーしたことのあるユーザーほど「後味の悪いシナリオが多い」「痛快さに欠ける」という印象は持ちやすいと思われる。
      逆転裁判をプレーしていなくともそういった感想を持つ可能性はあるが、色眼鏡なしに本作単体で見ればあくまで「そういう作風」というだけに過ぎず、合うか合わないかの問題に留まる。

問題点

絵的な問題

  • 物故者によるイラストを用いているのは前述の通りだが、その影響でイラスト素材に限りがあり、キャラクターのアニメーションが非常に少ない。
    口パクやまばたきといった最低限の動きを除けば、あとは「首を振る」「銃を構える」などのごく簡単な動作しかしない。
    • リアルな動物の顔がモチーフのため表情すら変わらず、感情は汗や集中線といったエフェクトで表現するに留まっている。
    • 特に、乗馬鞭を持つライバル検事セヴラン・ココリコが鞭を振るうアクションが1つもないのは少々寂しい。乗馬鞭の出番は無く、ただのお飾りと化している。
    • 尤も、鳥類(特に猛禽類)特有の「何を考えているのか分からない独特な顔つき」は第四幕の壮絶な展開にマッチしているため、キャラクターが無表情であるということの利点が全くないわけではない
      (ありていに言えば、キャラクターが予想外な行動をとった時、そのキャラクターがどういう感情を抱いて行動したのかを表情から想像することができないため、よりミステリアスな演出になる)。
      とはいえ作品全体を通して見れば、やはりビジュアル面での動きの無さの方が目に付いてしまう。
  • キャラクターのアクションが控え目な一方で、カメラが非常によく動く。
    と言うのも、会話するたびに発言者の方へカメラがスクロールする場面が多いのである。
    文字を読むのが速いプレーヤーの場合、初めてデジカメを買ったパパが撮影したホームビデオのごとく視点があっちこっちせわしなく飛び回ることになる。
    • 場面によっては登場動物全員が収まるような引きの視点でカメラが固定されるのだが、ネズミのような小さいキャラクターがいたり法廷のような弁護士と検察が離れて立っている場面ではそれも難しいのかもしれない。
      しかし、例えば画面を2分割して弁護士と検察の顔を同時に表示するとか、足元のネズミは顔を描いたフキダシを下の方に表示するとか、
      視点の切り替えをスクロールではなく瞬時に行う*2など解決策はあったものと思われる。
  • 登場キャラクターが全て動物という設定に対して世界観や設定の説明に乏しい。
    • 本作に人間は居ない…はずなのだが、一部のムービーシーンなどの背景をつぶさに観察すると、どうみても動物ではない人間がいる。
    • 登場キャラクターは全て鳥は鳥、猫は猫と動物の名前で呼び合い、人という呼び方は一切使われない。
      その割に犬の猟師が猪狩りをする会話をしていたりするので、この猪が四足歩行する(我々が一般的に思い浮かべる)動物としての猪なのか、
      あるいはこの猟師が狩っていた猪も二足歩行をしていたのか、二足歩行をしていたのだとしたらお互いに会話しているかれら動物同士にも
      弱肉強食の掟があって食う食われるの関係にあるのかなど、世界観の解説は不足していると言わざるを得ない。

チョウ査パートの内容とボリュームの問題

  • 本作のシナリオは全四幕、加えて第四幕が複数に分岐するため、シナリオの数自体はそれなりに多い。
    しかし一幕一幕が短く感じるため、幕数の割にはボリュームに少し物足りなさを覚えやすい。
    • 一幕一幕が短く感じるのは、チョウ査パートで取れる行動が少ないことが原因だろう。
      基本的にチョウ査パートで行くべき場所は絞られており、行けば会話が自動的に行われるため、「どこへ行き何を調べればいいのだろう」と迷うことはない。
      ただしその順番や優先順位は考える必要があるが、仮に調べる場所が間違っていたとしても、それはそれとして日数は経過してしまう。
      既にチョウ査済み、あるいはまったく無関係な場所へ赴くこともできるが、大抵は「今はこんなところに寄っている暇はない」といった淡泊な会話でマップに戻されてしまうので、寄り道を楽しむこともできない。
      結果として、チョウ査パートでは行先を数回(多くても10回以内)選べば終了するため、短く感じやすい。
  • チョウ査パートのボリュームもそうだが、法廷パートも弁護側が提示した証拠について検察が異議を唱えることもなくあっさり認めがちで*3
    真犯獣が「動機は?アリバイは?方法は?証拠は?」などとしつこく食い下がってくることもなく、割合恙なく進行し、結審する。
    • 尤も、本作はミドルプライス~ロープライス寄りのゲームである。
      価格を踏まえると決して不相応なボリュームではなく、どちらかというと「もう少し高くてもいいから、もっと遊びたかった」という感想が近いかもしれない。
      • 加えて言うなら、Switch版の記事で書くのは野暮かもしれないが、本作はSteamでは半額以下の1480円で売られた作品である。
        ローカライズや移植で価格が上がったものと思われるが、もともと1480円のゲームだったと考えると逆にかなりのボリュームである。
  • チョウ査パートにおいては無関係な寄り道を除いて、どこでどんな些細なチョウ査をしても丸1日が潰れてしまうので違和感がある。
    けっこうな頻度でその場のチョウ査を終えると「うむ、次に向かおう。」と言った直後に「次の日――」と表示されるのでなおさら違和感が強い。
    • 「裁判まで残り3日だが、1日3箇所までチョウ査できる」というような形にするか、あるいはゲームとしては難解になってしまう恐れはあるが
      「A地点のチョウ査は3時間、B地点のチョウ査は5時間経過し、残り活動時間は3日と7時間」というような形で時間配分をやりくりするゲームであれば
      酒場で酔っ払いの話を聞いたり市場で買い物するだけで丸一日経過するというような違和感は少なくとも無くなったと思われる。

総評

主人公、いや主鳥公の頭部が鳥頭になっているというのは「鳥類弁護士の事件簿」のタイトルのトーリ本作がトリわけ目を引く特チョウの1つだが、
そういった見た目のインパクトだけではなく、行先や順序をしっかり考えて情報収集を行う必要があるチョウ査パートや、
真犯獣をズバッと指摘してハッピーエンド…だけでは終わらない弁護というものの奥深さを考えさせられるシナリオなど、
逆転裁判のリスペクト要素を多分に含みつつ逆転裁判では味わえない本作独自の面白さも持ち合わせた作品である。
やはり惜しいのは、ボリュームが些か物足りなく感じやすい点だろう。
逆に言えば、それだけ「この2人のやりトリをもっと見たい」と思わせられる魅力があるということでもある。
価格とボリュームのバランスの観点から判定を「なし」に据えたが良作寄りの作品ではあるため、PVに魅力を感じたらプレーしてみる価値はあるだろう。

余談

  • まったくの余談であるが、逆転裁判の主人公・成歩堂龍一の海外版での名前は「Phoenix Wright」…フェニックス、つまり不死鳥である。

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最終更新:2023年04月11日 00:15

*1 ニワトリのキャラクターによる発言。

*2 逆転裁判の場合は、弁護人と検事の間で視点が切り替わるシーンでは視線が素早く動くようなカットインが一瞬入る

*3 尤もこれは検察が無能なわけではなく、細かい疑問点を逐一突っ込んでいくことはできるが、それはただの時間稼ぎにしかならないということを理解しているためである