GATEWAY TO ENGLISH えいごでGO!
【げーとうぇい とぅ いんぐりっしゅ えいごでごー】
ジャンル
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教育
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対応機種
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3DO interactive multiplayer
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発売・開発元
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学習研究社
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発売日
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1996年2月16日
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定価
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6,380円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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3DO用審査:E(一般向)
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判定
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なし
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ポイント
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未就学児向けの英語学習知育ソフト 児童英検というニッチな試験に対応 『ピコ』ライクなデジタル知育玩具 ゲーム性は無いため小学生以上には非推奨 中身と全く関係ない理由で3DOの伝説ソフトに
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概要
学習研究社(のちの学研)から発売された幼児向け英語学習ソフト。
単に『えいごでGO!』と表記される事も多いが、本記事ではパッケージとジャケット側面に即したタイトルを表記する。
3DOは教育ソフトが充実していた事で知られているが、今作もその一つである。
英語教育用の3DOタイトルとしては、二か国語対応の知育ソフトを除くと『EMIT』シリーズに続き2例目となる。
特徴
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ソフトの目的
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今作は(おそらく)3〜6才程度の子供を対象とした、知育ソフトである。
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様々な操作によって、英語音声とアニメーションが再生される。目と耳から英語を覚えさせるためのツールとして活用できる。
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モードは「えいごをさがそう」「えいごでスロット」「えいごとあそぼう」「おぼえたかな?」の4種類。
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今作は児童英検対応がセールスポイントとなっている。
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児童英検(現:英検Jr)とは、子供向けに簡略化された英検(英語検定)のこと。日本の児童の英語能力調査を兼ねて、1994年5月21日に開始した。
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この試験は英語学習の入門期に重要とされる「リスニング能力」を重視しており、リスニング試験のみ行われる。
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本家と異なり合格点は存在せず、3つの階級に合わせて得点をもらえるだけのシンプルな内容である。
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日本の英語教育がテコ入れされてからは重要度が増し、2015年から「英検Jr.」という名称に改められた。
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今作は児童英検の頻出単語300語(学研調べ)を扱い、アニメーションと合わせて発音を覚えられるようになっている。
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えいごをさがそう
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街を映したイラスト上でカーソルを動かし、様々な場所をクリックして身の回りの英語を探すモード。
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クリック可能な箇所にカーソルを動かすと、画面下に対象物を意味する英単語が表示される。
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さらにAボタンを押すと音声が発音され、ちょっとしたアニメーションが再生される(たとえば動物をクリックすると鳴き声をあげるなど)。
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舞台は牧場・家・街・動物園の4種類。家や街では建物の中に入ることができ、より詳細な物の単語を学ぶことができる。
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たとえば街中ではコンサートホールに入ることができ、その中では楽器を示す英単語を学習できる。
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車や動物をクリックしたあと、さらにAボタンを押すと、それに対応した実写画像も流れる。英語以外の教養も身につく仕組みである。
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えいごでスロット
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イラスト・英単語・和訳の3つを揃えて遊ぶスロット。英単語と日本語とその意味を結びつけて覚えてもらうためのモードである。
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揃えるとメダルがたくさん出てくるが、単なる演出上の物であって、ゲーム内通貨の概念などは無い。
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逆にスロットを遊ぶためのメダルとかも特に必要無く、好きなだけ回す事ができる。
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単語は「スポーツ」「花」「乗り物」「洋服」の4カテゴリに分かれている。
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えいごとあそぼう
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画面上のツールを色々と動かして、様々な英語を表示させるモード。子供の知的好奇心を刺激しつつ、英語に触れてもらうことができる。
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このモード内にはさらに4種類のモードが用意されている。
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おしごとなあに?……このモードでは、横に5等分された5つのパネルが表示される。各パネルはクリックするたびに絵柄が順番に変わり、同じ種類のパネルを揃えると対応した「おしごと」のイラストと、その英訳が表示される。
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なにができるのかな?……数種類の図形と数種類の色を選択し、OKボタンを押下すると、その組み合わせに応じて様々な物が浮かび上がってくるモード。もちろん英訳も同時に読み上げられる。
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どんなかお?……アバター機能のように様々な顔のパーツを選択し、顔を作るモード(位置選択は不可能)。全て組み合わせると、各部位を英語で読み上げられつつ、ちょっとしたアニメーションが行われる。
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なんてよぶのかな?……家系図の様々な場所をクリックすることで、対応した英単語が読み上げられるモード(例えば妹の顔アイコンなら"sister")。下には時間を調整するツマミが付いており、これを動かす事で家系図が変化する(たとえば時間を進めると家族が増え、子供や孫が表示される)。
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おぼえたかな?
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本ソフトに収録された英単語を調べられる辞書機能。
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和英、英和の両方に対応しており、発音も調べることが可能。
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スタッフ(説明書裏のクレジットより)
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パッケージは、様々な絵本などを手がけるアーティストの堀口ミネオ氏が作成している。
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ゲーム内のアートワークは、同じく絵本作家の倉橋達治氏が担当した。
評価点
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ゲームソフトとしてのアドバンテージ
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コンシューマゲーム機を使った英語教育ソフトは当時ほとんど類例が無く、今作独自の強みとなっている。
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ゲームを遊ぶ感覚で英語を学んでもらえるので、子供に喜んでもらえるかもしれない。
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教育ソフトはPC向けにも存在するが、子供にパソコンを触らせるのが怖い……という場合にも今作は選択肢に入る。
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ニッチな試験への対応
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今作が対応している「児童英検」は、発売時点でメジャーとは言えない試験であった。
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今作発売時点では年一回しか実施されておらず、発売時点では2回だけしか行われていなかった。
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国会図書館のデータベースによると、今作発売時点で専門の参考書は2冊しか出ていなかったらしい。
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知育ソフトとしても、キッズコンピュータ・ピコ専用ソフト『児童英検対応 ムーミンとえいご たんじょうびのおくりもの』や、旺文社のPCソフト『ホッピー君の児童英検チャレンジ・シリーズ!』など、ごくわずかしか無かった模様。
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それだけ知名度の薄かった児童英検に対応させた今作は、教育ソフトとしても大きな意義があった事になる。
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あらゆる単語の発音が聞けるのも、教育ソフトとしては大きな長所。
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児童英検はリスニングのみの試験なので、発音の重要性が必然的に高い。3DOの長所であったCD媒体が上手く活かされている(この頃にはPSやSSが普及して久しかったが)。
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収録単語の中には"garage"や"zebra"といった、大人でも発音を間違えそうな物が含まれている(「ガレージ」「ゼブラ」と読んでしまった人は要注意)。子供のうちに正しい発音を叩き込めるのはありがたい。
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幼児向けに特化した配慮
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今作の操作には方向キー、Aボタン、Bボタンしか使用しない。
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スタートボタンすら使用しない簡素っぷりで、ゲームに馴染みのない子供への配慮がうかがえる。
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画面が移るたびに、案内役の猫のキャラクターが音声ガイダンスを入れてくれる。
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Bボタンを押せばスキップできるので、テンポは悪くない。
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長く操作しないでいると、猫のキャラクターが操作方法を教えてくれることがある。
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何をすれば良いかわからなくなった子供への親切設計である。
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説明書もひらがなで書かれており、子供だけでも遊べるようになっている。
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大人が付きっきりで遊び方を教えなくてもいいので、親御さんにも優しい。
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辞書機能の搭載
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ゲーム内に出てきた単語について、英和辞典と和英辞典の両機能が搭載されているのは便利。
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見ているだけでも飽きさせないよう、挿絵も付いている。
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この機能を使う事で、各単語の学習度を容易にチェックすることができる(日本語を見て英語を復唱しつつ、答えを確かめる……といった感じ)。
問題点
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ゲーム性は一切無い。
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一見してゲームに見えるモードはあるのだが、3歳児でも遊べるような低難易度調整がしてあり、ほとんどゲームとして成立していない。
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どちらかといえば、物を動かす事で子供の知的好奇心を刺激するツールとなっている。ゲームならぬ、ゲーム「ごっこ」といった感じだろうか。
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押すと音声が鳴る知育玩具を、ゲームのプログラム上で再現したツールと言えるかもしれない。
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今作のパッケージには、レーティング記号以外に対象年齢が明記されていない。
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ある程度ゲームが遊べる子供や、英語を学び直したい大人には全く向かないソフトなのでご注意を。
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ちなみに大人が触る場合、1〜2時間程度で全モードの全要素を閲覧できてしまう。
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今作は「児童英検対応」ソフトであって、「児童英検学習ツール」ではない。
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このソフトで扱うのは単語だけで、会話や文法については一切触れられない。
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児童英検は「文章を理解して正しいイラストを答える」というものなので、このソフトだけで児童英検の対策に使えるかは微妙である。
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登場する単語を覚えるのに使えるのは確かなので、試験対策には他の教材と組み合わせるのが前提となる。
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UI面
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ロード時間が長い。
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画面遷移のたびに長めのロードが挟まれるので、快適とは言いがたい。
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起動時には、ディスク読み込みが出来ているのか不安になるほど長いロードが挟まる。
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カーソルの移動が遅い。
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クリック式アドベンチャーのように様々な場所を調べられるソフトなのに、快適さを損ねている。
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日付の方の「月」を表す単語が登場するが、それに対応したイラストが用意されていない。
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例えばJanuaryなら冬のイラストを出すなどと言った、ビジュアル面での結びつきが無い。
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基礎中の基礎のような単語なので、この辺は覚えやすくする工夫が欲しかったところ。
総評
今作を一言で表すと「ゲームの体裁を取った知育玩具」である。
ボタンをいじることで音やアニメーションが出るのを楽しむという、幼児にとっての基本的な楽しさが詰まっている。
幼児期に同様のおもちゃに触れたことのある人ならば、そのやみつきっぷりはきっと伝わるはず。
配慮もところどころ徹底していて、教育ツールとしてきちんと作り込まれている。
ただしまともなゲーム要素は皆無なので、「大人でも意外と遊べる知育ソフト」みたいな物は期待しない方が良い。そういったユーザーには『ファッティベアー・ファンパック』『パットパット・ファンパック』『ファンゲーム ソフトのおもちゃ箱』といった選択肢がある。
小学生以上のユーザーが3DOで英語を学ぶ場合、リージョンフリーである事を生かして海外の幼児向けソフトを触ってみるか、素直に『EMIT』シリーズを手に取る方が良いかもしれない。
伝説の激レアソフトへ
今作はゲーム内容よりも、それ以外の逸話の方で広く知られている。
実はとてつもなく流通本数が少なく、3DOどころかビデオゲーム有数の希少ソフトとなってしまったのである。
当然、3DOの日本向けソフトとしてはトップクラスの中古相場を誇っている(2023年現在)。
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逸話を大きく広めたのが、2016年6月に公開されたAutomatonの記事。
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この記事は3DOソフトをコンプリートした男性に取材したものなのだが、『えいごでGO!』はいつまで経っても入手できず、全214本中最後に入手できたソフトだったという。
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しかもこのソフト、限定販売などではなく歴とした通常の流通品である。
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上記インタビューによれば、学研に問い合わせても当の社員すら詳細不明だったとのこと。
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男性が落札したと思しきオークションはネット上で確認可能。
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出品者は開発者を自称しており、開封したが全く起動していない物を出品したとのこと。もし事実であれば、開発者が動くまで市場から消滅していたソフトということになる。
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今作がとんでもないソフトだと言うことは出品者にも予想外だったようで、出品者コメントでは吊り上げを疑われないかと狼狽している様子が見られる。
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その出品者の話によると300本か30本くらいしか売れなかったとも。
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300本と言うと、ちょっと張り切って印刷した同人誌の発行部数に匹敵する。とても商業作品の本数ではない。
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カードゲームの世界では、『マジック・ザ・ギャザリング』の最高額カード《Black Lotus》の初版が約600枚、『遊☆戯☆王 デュエルモンスターズ』の最高額カード《ブラック・マジシャン・ガール》(2000年のシークレットレア)が約400枚ほど世界に存在しており、『えいごでGO!』はそれ以上に希少である。
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なお2023年現在は、Automatonの記事と状況が変わってきている。
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上記の記事のおかげか、はたまたレトロゲームのプレミア化が昔より注目を集めているためか、今作の知名度は少しずつ上昇傾向にある。
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その結果、当時の所持者たちがこぞって市場に流したらしく、総計数本程度が複数のネットショップに出回っている。おかげで入手難易度はかつてと比べて大幅に下がった。
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3DOソフトはそれなりの知名度がありながら市場に流れない作品も多く、数本出回っている今作はもはや幻のソフトでは無くなったと言える。
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ただし手に入りやすくなったと言っても、それはお金を出せる場合の話。取引価格は8万円近く(2023年時点)に及び、軽はずみに手を出せない事には変わりない。
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余談だが、最初の3DO本体(FZ-1)は元々同じくらいの値段(79800円)で売られる予定だった。当時本体を定価で買えたユーザーであれば、何とかなる値段かもしれない。
この高さが3DOの敗因の一つになったのは言うまでもない。
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ソースの記事でも触れられているように、コンシューマゲーム機向けの実用ソフトは流通量が少ない。コレクターにとっては大変貴重な品となっている。
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もし3DOの実用ソフトが家に眠っているならば、中古市場に流してみると喜ばれるかもしれない。
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『えいごでGO!』の流通が一気に増えたように、価値を知られずに埋もれているソフトは各地に散らばっていると思われる。
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押し入れの奥に眠っていた思わぬソフトが、意外な掘り出し物に化けるかも……?
余談
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学研が発行していた月刊英語教材『英語だいすきJ』(96年1月号)では、抽選で5名に今作がプレゼントされる企画があった。
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極めて貴重な品に間違いないので、当時当たった人は大切にして欲しいところである……
最終更新:2023年11月23日 18:48