ナオコとヒデ坊 算数の天才1/算数の天才2/漢字の天才1

【なおことひでぼう さんすうのてんさい1/さんすうのてんさい2/かんじのてんさい1】

ジャンル 教育
対応機種 3DO interactive multiplayer
発売元 学漫
発売日 1995年3月10日
定価 3,980円 (税別)
プレイ人数 1人
レーティング 3DO用審査:E(一般向)
備考 Windows/Mac向けにも発売
判定 クソゲー
ポイント 学習漫画の作家が手がけた教育ソフト
3DO、もとい第五世代据置ハード最低クラスの出来
悪質アセットフリップ並みの劣悪商品を95年に販売
書籍換算で50円に満たないボリューム
『漢字の天才』に至っては実用価値ほぼなし
強烈なインパクトは一種の魅力?


概要

3DO中期に発売された学習ソフト。
ゲームというよりは、映像教材に近い趣旨の作品である。

本記事では便宜的にタイトルを省略しているが、正式名称はそれぞれ以下の通り。

  • ナオコとヒデ坊 算数の天才1 和と差の文章題・つるカメ算 パート1 (物々交換の巻)
  • ナオコとヒデ坊 算数の天才2 速さの文章題・通過算 パート1
  • ナオコとヒデ坊 漢字の天才1 部首編・部首の名前が楽しい超暗記法

発売元の学漫は小規模な出版社で、このゲームの作者による漫画がメインコンテンツとなっていた*1
今作は3DOソフトに多々見られた、ゲームを扱っていない企業による参入作品となっている。

ところで、3DOはあらゆる製作者の業界参入を容易にする方針を採っており、開発未経験の会社であっても気軽にソフトを販売することができた。ソフト一本あたりの費用がSFCの1割程度で、インディーズが参入する土壌も生まれていたほどである。
しかし参入の敷居が下がったゲーム市場は、得てしてアタリショックやアセットフリップなどの問題を引き起こしている。3DOでは大きな被害こそなかった(そもそもATARI2800やSteamほど市場が盛り上がらなかった)ものの、その片鱗が全く無かったわけではなく……

今作は知名度こそ低いが、その内容はクソゲー史に残りかねないクオリティとなっている。
さらに言うと、海外では『Plumbers Don't Wear Ties』が雑誌レビューを根拠に「最悪の3DO作品」として知られているが、今作はその対抗馬と言っていいレベルに達している。


特徴

  • プレイヤーは主人公のナオコ・ヒデ坊と共に、題材となる事柄を学んでいく。
    • 学習漫画らしい寸劇の閲覧が今作のメインとなっているが、『算数の天才』2作には練習問題も収録されている。
    • 寸劇系のモードでは、ボイスとアニメーションで進む掛け合いを閲覧する。
      • 途中で設問を解くよう要求されることがあり、これはプレイヤー唯一の介入要素となる。
      • ADVのように選択肢でストーリーが分岐することは無い。
  • パッケージ等には書かれていないが、今作は著者が過去に手掛けた学習漫画の内容を抜粋・アレンジして収録したものとなっている。
    • 『算数の天才1』は『つるカメ算 元祖マンガ攻略法』(1989年・コスモ・テン・パブリケーション)、『算数の天才2』は『旅人算 元祖マンガ攻略法』(1994年・学漫)が出典となっている。
      • 出題されている問題の数値を含めて一致しており、『算数の天才1』の方は物語の流れもほとんど同じ(オチが付くなど、多少の違いはあり)。
    • 『漢字の天才1』は原作と呼べる書籍が無いが、『まんがで学習 部首でわかる漢字早おぼえ』(1992年・あかね書房)や『部首遊び漢字(秘)マンガ超記憶法』(1993年・学漫)の指導内容がベースとなっている。
      • 『早おぼえ』内で著者(塾講師兼業)が述べたところによると、この漢字の教育法は生徒からリピートをせがまれるほど好評だったそうである。
  • 製作は、過去にも文章題や部首の学習漫画を手掛けていた二人組が行っている。
    • パッケージ裏には「日本PTA全国協議会推薦コンビ」と書かれているが、実際は執筆した作品の一つがPTA推薦図書に選ばれたというものであり、作者が推薦されたというソースはない。
      • 該当作は『つるかめ算 元祖マンガ攻略法』。しかしこちらは算数の学習漫画であるにもかかわらず、上記の売り文句は実績と関係ない『漢字の天才』にも書かれている。これって優良誤認では……?

問題点

シリーズ共通の問題

  • グラフィック・サウンド共に、とても95年に出たソフトのクオリティではない。
    • 例えるならあのCD-i版ゼルダ*2からアニメシーンだけを抽出して更に質を下げたようなもので、おそらく90年代以降、アセットフリップ氾濫以前に出た商業ゲームソフトとしては最低クラスの代物である。
    • アンチエイリアスなどデジタル絵の応用的な機能は何一つ使われておらず、まるで素人がペイントソフトで描いたような有様となっている。
      • 80年代中期のPC-88製ソフトであればこうしたグラフィックの名作もいくつかあるが、仮にも今作は初代PSと同世代のソフトである。
+ 参考画像
  • ところで当時のブラウン管は画面端が表示されないようになっている(参考)のだが、『算数の天才1』の一部のシーンはそれを全く考慮しておらず、発売当時のテレビで遊ぶと画像が見切れてしまう(上記画像3枚目・5枚目)。*3
  • 当時のクリエイターの話によれば、UIがこの範囲で見切れている場合にはプラットフォームの関係者から発売NGを食らったとされている(参考)。説明に必要な文字が画面から見切れている5枚目は本来ならアウトになるはずで、3DOの販売ハードルの緩さがうかがえる。
  • フォローしておくと、作画担当者は学習漫画でそれなりの実績を残しており、ジャンルを考えるとそこまで問題のある画力ではない。デジタル絵のノウハウなしで描いた結果こうなったものと思われる。
  • アニメーションは、秒間2コマ程度のカクカクした物が定期的に入るのみ。
    • 本記事では一応「映像」と表現しているが、実質的な内容はパワーポイントのスライドに毛が生えた程度の紙芝居である。
  • 予算が無かったのか、素人によるフルボイスを採用。
    • 当然ほぼすべてが棒読みで、聞き取りづらい箇所もある。グラフィックの酷さと合わせ、思い切りの良さすら感じられる。
    • 比較的マシなキャラもいないことはないが、主役のナオコとヒデ坊(と先生)は揃いも揃って棒演技なので…。
    • 後述するワードセンスも相まって、悪い意味でシュール。
    • 編集も拙い。各ボイスの間にはいちいち2秒ほどのインターバルが挟まり、テンポが悪い。
  • UIの出来も悪く、書籍やVHSの教材と比べて融通が利かない。
    • 仮にも映像教材なのに、早送りや巻き戻しが使えない。
    • チャプタースキップ機能はついており、ある程度任意の場所を見直すことはできる。しかしこれによって再生位置を戻した場合、現在のチャプターの先頭ではなく前のチャプターの先頭まで戻されてしまう。
    • Bボタンで操作説明画面を開くことにより、疑似的な一時停止はできるのだが、再開するとチャプターの最初まで戻される。
    • コントローラー操作で設問を解く場面において、解くのに必要な図表が表示されない場面がある。
      • たとえば『算数の天才2』では「線分図を見れば簡単に答えがわかる」という誘導がありながら、線分図が表示されない状態で回答しなければならないシーンがある。
    • OPはスキップ不可。学習ツールであれば何度も起動することが想定されるが、毎回数十秒ほどのオープニングを見なければならない。
  • 極め付きがボリューム。
    • 今作のボリュームはソフト一本につき、一般的な学習漫画の1章分にも満たない。
      • 各ソフトで扱っている内容は以下の通りである。
+ 算数の天才1
  • 「ブツブツ交換」(約30分)
    • 最も基本的な「つるかめ算」の解説。「5円の白アメと8円の黒アメを合わせて15個買い、90円払ったとすると、それぞれいくつ買ったことになるか」を、順を追って解いていく。
    • 段取りは「まず白アメを手あたり次第買い、90円に満たないことを確認する」「白アメにお金を付けて黒アメと交換し、足りない金額を全て使い切る」「この時のアメの個数を数える」といった感じ。
  • 練習問題(全6問)
+ 算数の天才2
  • 「速さのいろいろ」(5分30秒)
    • 速さの概念(距離÷時間)、時速と分速と秒速の分類を解説する。
  • 「問題・みつ蜂ワープ大活躍」(約13分)
    • 電車が電柱に到達してから完全に通過するまでの時刻を計算する。
  • 練習問題(全6問)
+ 漢字の天才1
  • 「(1)部首の名前はカナと漢字を読むだけサ」(約9分)
    • カナと漢字の組み合わせで覚える部首が表示される(スライド4枚分、1枚あたり10~20文字程度)。
    • のぎへん(禾)の読み方を覚える。
    • 部首が「のぎへん」となる漢字だけを当てるゲームをプレイする(実際はゲームというよりもクイズ)。
  • 「(2)漢字も部首も絵文字なのラ」(約6分)
    • 絵文字から成立した部首が表示される((1)と同様のスライド5枚分)。
    • 「乚」を使った漢字2つの紹介を鑑賞し、部首名を当てるクイズをプレイする。
  • なお練習問題に答えを入力する機能などは無く、ただ問題と解答を見るだけである。マルチメディア機らしい機能といえば、問題を読み上げてくれる事だけ。
  • 一般的な教育ソフトは「ミニゲームを遊びながら対応するカリキュラムを学ぶ」という形式が多く、扱う題材は学年全体の内容だったり、特定のジャンルに絞ってその全てを解説したりするのが基本である。今作はカリキュラムのほんの一部のみ、それもパワーポイントのスライド並みの内容しか入っていない。
  • 特徴の項で書いたように、今作は著者が過去に手掛けた書籍を基に作られているのだが、原作の該当箇所は数ページ程度しかなく、駄菓子一個分の値段に相当するボリュームを一本のソフトとして切り分けたことになる。
+ 詳細
  • まず『算数の天才1』について、流用元の書籍で今作の元となった部分は元の学習漫画の全138ページ*4中わずか8ページ分のみ(漫画部分が6ページ、練習問題が2ページ)。その定価は790円(税込)なので、原作の価値は値段に換算すると約46円相当しかない。
    • ちなみに、劇中でケン坊がアメに支払った金額の方が高い(15個90円)。
  • 『算数の天才2』の方は「速さのいろいろ」のみがほぼ今作オリジナルの内容だが、それ以外は元の書籍に換算して定価1200円全156ページ中の6ページ。これもオリジナル部分を除けば約46円相当となる。
  • 『漢字の天才』については丸ごと流用した作品がないものの、『部首遊び漢字(秘)マンガ超記憶法』にて同じ内容が必要十分解説されている。こちらは目次等除いて全137ページほどのボリュームとなっており、価格は税込み1200円である。そのうち『漢字の天才1』にも存在する「のぎへん」「つりばり」の解説は合計5ページ程度で済まされており、値段に換算して約44円相当となる。
  • 書籍と教育ソフトを同一視するのはナンセンスかもしれないが、先述のように今作は書籍にも劣る欠点があるため、映像化に価値を見出さなければこれでも多めに見積もった価格となる。
    • 参考に、3DOでは『平田昭吾 インタラクティブ絵本』というシリーズがあるが、こちらは数百円の原作を映像化して8000円近くで販売している。こちらも割高なのが否めないが、数十円を4000円台で売った『ナオコとヒデ坊』は文字通り桁が違うのがわかる。なお『インタラクティブ絵本』の方は要所要所に真面目なアニメーションが付いていて、3か国語対応のまともな読み聞かせ音声が入っており、3DOを活かした最低限の追加要素は整っている。
  • ちなみに『算数の天才1』の流用元である『元祖マンガ攻略法』発売当時の物価で近い物を挙げると、ビックリマンチョコやガリガリ君に相当する(いずれも税込みで51円)。
    • では平成元年に約46円相当の物を今作の価格(4380円)で売るというのはどういうことなのか、ガリガリ君の値段推移を元に計算してみる(ビックリマンは95年当時売っていなかったため割愛)。このソースを元に、内容量の変化や消費税の変化も加味して値段を突き止める*5と、今作の値段は2023年の物価において、ガリガリ君を6854円で売るのに相当する。
  • プレイ時間に換算すると、ソフトの根幹である映像部分を全て見るのにかかる時間は15〜30分。
    • このボリュームは、フルボイスのスライドショーを採用したのが一因と思われる。そこまでしてフルボイスにこだわる必要性はあったのだろうか……
  • あろうことか、『算数の天才2』のEDでは「以下続刊予定」として「トンネル通過時間の計算」「電車がすれ違う時間の計算」「電車が追い越す時間の計算」の問題を別々に売るかのように紹介していた*6。とんでもないバラ売りである。
    • この著者の書籍の内容を全てカバーするには全部で百作以上になりそうなのだが、どこまで本気で売ろうとしていたのかは不明。参考に、学習ソフトで大量のシリーズ作品を出した例には『合格ボーイシリーズ』があるが、こちらでさえ31作品止まりである。

作品ごとの問題点

  • 算数の天才1
    • 題材の「つるかめ算」はただでさえでややこしいのだが、演出テンポが悪すぎて余計にわかりづらくなっている。
      • たとえば序盤は「(1)とりあえず白アメ(つるかめ算の鶴に相当)をひたすら買ってみる」「(2)本来の支払金額との差を確認する」「(3)この差額をどうやって埋めるか考える」という流れが展開される。この流れは流用元の書籍も同様なのだが、今作はいちいち「購入代金はいくらか」「支払金額との差はいくらか」といった質問が合間合間に数十秒かけて挿入される。話の筋があちこちに行くせいで理解がしづらい。
      • しかも「金額を合わせるために物々交換をする」という話のために本筋を放置し、物々交換がどういう意味の単語なのかを説明する寸劇が1分近く展開されるシーンもある。解説は丁寧なのだが……
    • 流用元の書籍から据置の問題なのだが、「つるかめ算」の名前の由来が一切説明されない。
      • 特に今作では「全部が"つる"か"かめ"のどちらかだと仮定する」という説明も入るのに、足の本数を指していることが一切触れられないので、意味の分からない解説になってしまっている。
      • なおこれは映像シーンだけの問題で、練習問題の方には足の本数を用いたスタンダードな問題が登場する。
  • 算数の天才2
    • 2つあるコンテンツの片方は、主題と関係ない寸劇で尺の1/4を費やす。ただでさえボリュームが少ないのに……
      • 寸劇の内容も意味不明な上、作画枚数が少なすぎて何が起きているのかわかりづらいシーンが目立ち、極めてクオリティが低い。
    • 映像中、ハチのキャラクターが瞬間移動をするシーンがあり、それが設問にも関わるのだが、紙芝居同然の映像が災いし、状況が掴みづらくなっている。
      • この設問は「電車が電柱を通過するまでに何秒かかったか」を解くものなのだが、映像では通過の最中にずっと電車が静止しているため、混乱を招く。
      • またこの問題に出てくる「みつばちワープ」というキャラクターは、別映像の方で「秒速1kmで飛べる」という設定だったのだが、こちらではいつの間にか瞬間移動が使える設定となっており、これも混乱を助長している。
    • 「いつものように線分図で解こう」という話が出てくるのだが、何が「いつも」なのか不明。
      • 実際に作者の漫画作品では線分図が頻繁に出てくるのだが、『ナオコとヒデ坊』では初めて出てくるので唐突。校正の甘さを感じさせる。
  • 漢字の天才1
    • 始めにはっきり言ってしまうと、3作品中ぶっちぎりでワーストの製品。
    • 先に軽く触れたが、今作の中身は15分で終わる映像部分が全てである。『算数』と違って練習問題も存在しない。
      • しかも構成のミスなのか、一つ目のカリキュラムでは「カナと漢字の組み合わせでできた部首の一覧」を無駄に二度教えられる。
    • パッケージなどで「漢字の画期的な暗記法」というのを何度も謳っているが、実際は文字の組み合わせで読める部首と、実物から名付けられた部首を紹介するだけで、漢字の暗記法と呼べるものは何一つ扱っていない。
      • これはもう、漢字の"成り立ち"を紹介して「暗記法」呼ばわりするレベルの暴挙である。
    • 小学生が一番覚えたいのは「どの漢字に何の部首が使われているのか」のはずなのに、このソフトは「部首の名前を覚える」という重要度の低い要素に終始していて、勉強に役立つ要素が薄すぎる。
      • これは作者が先に出していた『部首遊び漢字(秘)マンガ超記憶法 パート1』で数ページにしか満たない基礎レベルの内容でしかない。同書籍では登場人物が四苦八苦しながら「殺」の部首を当てる様子を描いて読者に印象付けたり*7、「カナ一つで表現される部首全てを覚える暗記法」という有用な物を載せたりと、より踏み込んだ内容が書かれていた。
      • またこの書籍では、部首の分類も「数字からできた部首」「代表的な漢字の名前を付けたもの」など、10種類近い様々なパターンを網羅している。しかも単に部首を覚えて終わるのではなく、「漢字の部首を考えて当てる」という過程の中で、漢字と部首を紐づけて覚えられるようになっていて、これをもって「暗記法」と称している。今作は部首を出すだけ出して、漢字を覚える要素が無い。
      • 例えるなら、このソフトが行っているのは「かけ算がすぐできるようになる裏技を教える」と謳っておいて、実際は九九の一の段しか紹介せず、他の段を以下続刊とするレベルの行為に近い。
    • 解説も色々雑で、「のぶん(攵)」「るまた(殳)」などといった部首を、どう見てもそうは見えないのに「カナと漢字の組み合わせ」として紹介している。
      • 『超記憶法』ではそれぞれ「ノ+文」「ル+又」の字を崩したうえでこのようになることを丁寧に紹介しているのだが、これも投げやり気味に省略されている。
    • 全15分の解説のうち3分は、「カナと漢字の組み合わせから名前が付いた」というヒントをもとに「禾」の読み方(答:のぎへん)を当てるという、見れば誰もがわかるレベルの問題を解くことに費やされる。
      • 未就学児ならまだしも、このソフトは最年長で小学6年生も対象としたソフトである。
      • しかも「ノ+木だからのぎへん」という知識、パッケージ裏に書いてある上に、タイトルでも登場人物がこの話をしているうえ、その直前に部首の表が出た際にも解説されている。都合3回も教えられている話を、回りくどく解かされるのである。
      • ちなみに『超記憶法』ではノ+木からのぎへんに行き着くまでの流れはほぼ何も書いていない。つまり『漢字の天才1』は説明不要なプロセスを強引に3分に引き伸ばして映像教材に仕上げるという、ありえないことを行っている。
      • 実際、劇中ではヒデ坊が「禾がノと木の組み合わせでできている」という話に行き着くにもかかわらず、部首の名前がわからなくて考え込むという、露骨なまでの引き伸ばしが行われている。
    • 中身の薄さもさることながら、劇中の教育内容に対する自画自賛もひどい。
      • 「以下の部首はカナと漢字を読めばそれが名前になる」という話題を出した後、「お勉強する学年までわかるなんてすごいわね」「部首の名前なんて、ただ読めばいいんじゃん!」「へぇー、覚えなくてもいいんなら、楽だぜ!」「こんなに簡単で、いいのか知ーらないっと」と、転生小説のチート主人公ばりに大絶賛される。
      • 少し後には「そうだ!この秘密を黙ってれば、友達にも先生にも威張れるぜ!」とまで絶賛する。もはや情報商材の広告のよう。
      • というか実例を紹介して覚えさせる行為を「覚えなくても済む」は間違いでは……
      • それ以外にも、「のぎへん」が使われている漢字を当てるだけのゲームを「この次のページでは、もっとすごい、漢字遊びのコーナーが始まるんだよ!」と過剰に持ち上げる。
      • これも『超記憶法』で極端な大絶賛などはされておらず、薄い内容をごまかすために無理やり持ち上げている疑惑がある(『算数の天才』だとこうした露骨な持ち上げは行われていない)。
    • 扱っている部首の一部は、テストでの実用性が怪しい。
      • 今作では「頁」を「いちのかい」、「乚」を「つりばり」として紹介しているのだが、実際のカリキュラムでは「おおがい」「おつ」として扱われることが多く、紹介しているのはマイナーな呼び方である。

賛否両論点

  • ワードセンスが古い
    • 「ヒデ"坊"」というネーミングからもわかるように、今作のセリフ回しは70年代のそれに近く、95年のソフトとしては時代錯誤なきらいがある。
    • 語尾をとにかく安直なダジャレに結びつける親父ギャグが多く、ともすれば未就学児向けにも捉えられるような作風となっている。
    • これは普通のコンテンツであれば欠点だが、覚えてもらう事が重要な学習ツールにおいては長所でもある。
      • 学習漫画は読者に強い記憶を刻み付けることが大事なので、教育に不可欠な要素が備わっているとも言える。
      • 実際、この作者の書籍はAmazonのカスタマーレビューにおいて、強く印象に残る内容だったことを好意的に賞賛する声が挙がっている。
      • 『部首遊び漢字(秘)マンガ超記憶法』によれば、著者の授業は落語や漫才に例えられることが多いとのことで、普段からこういう風に教育していたらしい。
    • 参考に、劇中の印象的なセリフ回しを羅列する。
      • ちなみに同時期の同ジャンルの学習漫画としては『つるかめ算なんてこわくない!*8』が90年、『ドラえもん 文章題がわかる*9』が91年に発売されている。これらを読んだことがある人には異質さが伝わるのではないだろうか。
+ 詳細
  • 算数の天才1
    • ぼくがヒデ坊さ。マンガと遊ぶと天才になるんだぜ
    • きゃー!天才になれるんだって。じゃあ塾なんて怖く無いわね
    • それが問題になってるんだっピー
    • らっしゃいらっしゃい!アメが美味しいヨーカン
    • こらー、気をつけろよー!焼き鳥になるところだったぞー
    • 黒飴は一個8円、白飴は一個5円だ、じょぉぉぉぉぉ!
    • 一個の値段がわかればこっちのものよ、ウッシッシッシ 君もわかるでしょ?
    • ヒデ坊は、90円払ったの、でぇぇぇす!!
    • えー!なぬなぬ、なぬなぬ、おせーて!おせーて!パンダにはわからない!君にはわかるー!?
    • ウッシッシッシッシ、うまくいったわ、だから物々交換って好きなのよね
    • いっぺんに物々交換をしてあげるんだ、じょーーっ!!
    • うわー、物々交換がうまくいきそうだぞ、逃げろー!
    • これがつるかめ算 なんだヨ〜ン
  • 算数の天才2
    • いーひっひっひっひ、それがどうしたの?
    • ほらー、そうでしょ?あたしって天才かしら、ウッシッシッシ
    • それを分速と言うんだローレライ
    • そうそう、オイラの出番じゃんか!我こそは!
    • ぽっぽー!がったんごっとん!(※効果音では無く、劇中の先生が直接読み上げ)
    • おのおのがた、電柱でござ~る!
    • お得意の瞬間移動で、帰ってヨ~~~カン!
    • そうだそうだ!ソーダ水っと!
    • むむっ!おぬしできるなー!
    • サ~問題に戻ろうぜ
    • むむむむむ、わかったゾーさん!
    • スッゴい、その通り!は、銀座の大通り
    • またまたかんたんたーん!
  • 漢字の天才1
    • おっ手玉の手サ〜い!
    • 漢字も部首も、バラバラ大作戦ですーいすーいさ
    • ハーイ、ワ・タ・シ・ガ、バラ2マシーンデス。漢字デモ部首デモ、スグ、バラバラニ、シマース
    • 早速この部首の名前を、おせーてもらおうじゃんか!
    • 部首って好きになりソーダ水
    • 次のページに、チーム7個の表が、出るんだヨーカン
    • えー!のぎへんを付けてるのに、別のチームだなんて、スパイじゃんか!
    • おめでとーさん、ばっちりかーさん!
    • 棒を縦にしたからたてぼうだなんて、嘘だろ!?
    • それもそうだけど、棒が跳ねてるからはねぼうだなんて、信じられなーい
    • ゲーッ!部首がピッカピカの、いっちねんせいってか!
    • (「つりばり」を見て)ギャオーン!こんなみみずの曲がったようなものなんか、知らないよ!
  • なおパッケージ裏の売り文句もまるで落語家かバナナの叩き売りかとでも言いたくなるような強烈さ。これが次世代ハードとPC向けに出たソフトである事を忘れそうである。
+ 算数の天才(共通)
  • 初めての文章題マンガストーリー
  • 塾の算数完全制覇!試験の勝算ここにあり!
  • 気が付いたら実力アップ 笑う練習問題
  • ママの鼻が高くなり パパの肩の荷が下りる
  • ピーマンより嫌いな算数がカレーライスより好きになる
  • ソフトという名の家庭教師
+ 漢字の天才
  • 「禾」は「ノ+木」だから「のぎへん」さ
  • 漢字も部首も絵文字なのラッキョ!
  • 先生ごめんネ こんなに楽に覚えちゃった
  • 漢字ブッチギリ超記憶法
  • 出た~!これが天才創造ソフトだ

評価点

  • 真っ当な学習漫画を抜粋しただけあり、指導内容そのものは至ってまともである。
    • 上記で最低の出来とした『漢字の天才』にしても、部首の図表などは豆知識程度に役立つ。
    • ボリュームに目を瞑れば全く使えないわけでもなく、もしタダで使える機会があるのなら何かしら有用になるかもしれない。
      • 尤も、それを大量の水で薄めて出していい理由にはならないし、流用元の学習漫画を読む方がコストもボリュームも圧倒的に得なのだが……
  • 商品としてはどうしようもなさすぎるが、遊ぶ上での苦痛は無い。
    • 極まったクソゲーの話題になると「虚無ゲーと苦行ゲーのどちらがマシか」という議論になるのはありがちで、決着は付かないものである。今作もまた「虚無ゲー」寄りのソフトであって、苦痛までは兼ね備えてないのが救いかもしれない。
    • ただし「虚無か苦痛か」という議論が生じたのは、ゲーム販売のハードルが下がって以降の時代である。アタリショック期以降、アセットフリップ氾濫前の時代にこのような論点が生じるのは、さすがに論外としか言いようが無い。

総評

汎用な一般向けゲームエンジンが普及する前の作品でありながら、悪質アセットゲーに近い低品質で送り出されたとんでもない作品。
3DOの販売環境を踏まえると、「ゲームの販売ハードルが下がると、どういったソフトが売り出されてしまうのか」を示す貴重なケースと言えるかもしれない。

アセットフリップの台頭以降はこうした劣悪商品も珍しくないが、それ以前に生まれた数百円の小規模タイトル、商品チェックの概念が無かったアタリショック期の作品を除くと、商用コンシューマーゲームとしては最低クラスのソフトに数えられる。「最悪のクソゲーは何か」という話題に当たって本シリーズ(特に『漢字の天才』)が引き合いに出されたなら、かなりいい線まで行ってしまうのは明らかである。

ただしボリュームやクオリティさえ考えなければ、今作は最低限教育ソフトの形を為している。あまりにぶっとんだ作品なので、そのヘンテコな要素の数々がかえって子供を刺激し、各教科に興味を持ってもらえるかもしれない。
好奇心以外で本作を買うメリットはほとんどないが、もしコストをかけることなく何らかの理由で手に入れたのであれば、子供に遊ばせてみる余地があるのではないだろうか。くれぐれも自己責任で。


余談

  • 今作は説明書すらまともに作られていない。
    • ソフトに同梱されているのは見開き2ページの紙だけ。表紙こそパッケージイラストとなっているが、中身2ページは3DOソフト共通の注意書き、裏表紙には3DOコントローラーの基本的な操作方法が書かれているのみ。
    • 普通、教育ソフトの説明書には扱うカリキュラムの説明だとか、どういった狙いで作られたソフトだとか、保護者向けの説明とかが書かれていたりするのだが、今作はそれすらも無い。
      • ナオコとヒデ坊がどういう人物かなど、世界観の説明すらも放棄されている。
    • 2010年代以降はコスト削減・資源節約の観点により、説明書が無いソフトの方が一般的となっている。しかしそれ以前のソフトは説明書が付いて当たり前となっており、同梱されていないとネタにされたゲームもあるほどで、発売当時としては非常識極まりない。
  • 3DOソフトはほぼ必ず開発元がパッケージに記載されているのだが、今作はそれが一切ない。
    • スタッフロールは声優しかクレジットされていないため、プログラマー等は不明である。
    • 一応「制作 株式会社 学漫」と表示はされる。
  • 3DOにこのようなソフトを出す謎っぷりもさることながら、『算数の天才1』の流用元である書籍『つるカメ算 元祖マンガ攻略法』もまた、とんでもなくぶっ飛んだ出自である。
    • 実はこの版元であるコスモ・テン・パブリケーション、死生観やスピリチュアルといった神秘主義のオカルト本ばかり出している出版社である。参考:国会図書館データベース
      • この凄まじい出版社でなぜ小学生向けの学習漫画を出そうと思ったのか、理由は定かではない。
      • 神秘主義やオカルトと無関係な本は60本近くある中の数本しかなく、学習漫画に至っては本書だけである。
  • PC版に至ってはプレイ動画が殆ど見つからず、以下の『算数の天才2』が数少ないプレイ動画となっている。
    • メニュー画面の内容や画質は3DO版と異なっている。
+ プレイ動画

  • その後の展開
    • 本シリーズは(無謀にも)続刊予定があったが、ほどなくして発売中止となった。
      • ボリュームの少なさはパッケージからも察しが付くので、手に取ってもらえないのも当然であろう……
      • 該当作品は『算数の天才3』『漢字の天才2』『漢字の天才3』『国語の天才1』。ファミ通の発売予定カレンダーでは3DO欄が姿を消す*101か月前まで4行も使って掲載されていたので、かなり目立っていた。微妙なタイミングで一覧から消えた理由は謎である。
      • 作者の作品で「国語」だけを扱った書籍は確認できず、『国語の天才1』がどういう作品になる予定だったのかは不明。3DOマガジンにも同じ発売予定が書かれていたことから、誤植や誤報ではなさそうである。
    • 本シリーズには『つるカメ算 パート1』『漢字の天才1』といったナンバリングが付いているが、これらの続編は実現していない。今作を今から探し求める場合は注意。
    • 作者としてクレジットされた2名は、今作以降も学習漫画で実績を残している。
      • 公表はされていないが、原作者の方はペンネームを変えた模様*11
    • 00年代に入り、今作の基になった書籍は『つるカメ算マンガ攻略法シリーズ』『漢字のおぼえ方シリーズ』(いずれも太陽出版刊)としてリメイクされ、10年代に入ってからも増刷されている。学校の図書室で読んだという人や、中学受験でお世話になったという人もいるのではないだろうか。
      • このリメイク版は作風が相変わらずなことを除けば、至ってまともな商品である。もし先述のノリに興味を惹かれたなら、図書館や書店で探し求めてみてもいいかもしれない。
      • なお『つるカメ算マンガ攻略法』で実際につるかめ算を扱っているのは「初級編」のみなので注意。実際は様々な和算を扱った書籍なのだが、タイトルがややこしい。
    • 国会図書館のデータベースを見る限り、『ナオコとヒデ坊』発売元である学漫の活動は本作を最後に途絶えており、今作は同社の最後のあがきだった可能性がある。
      • 倒産寸前の企業が劣悪なゲームを仕方なく絞り出して撤退するケースは多々あるが、学漫もそういった悲しい事情があったのかもしれない……
      • 3DO完全消滅を待たずして発売予定カレンダーから消えたのも、大人の事情を感じさせる。
      • 繰り返しになるが、著者両名は今作以外の場できちんと実績を残している人物である。それでいて劣悪な商品を売らなけらばならなかったとなれば、大人の事情に振り回された線も十分に考えられる。
  • これだけ常軌を逸した商品でありながら、発売当時に酷評しているメディアは存在せず、ほぼ埋もれていた。
    • 幸か不幸か、かつて3DOマガジンで行われた全ソフトレビューでは間一髪*12で審査対象外となったため、この商品が触れられることも無かった。
      • このレビューでは実用・教育系のソフトが散々な扱いを受けていた*13ため、もしレビューされていたら酷評は免れなかったと見られる。
      • 3DOマガジン編集部は『モンタナ・ジョーンズ*14』に対し「ゲームではない」「最も許せないソフト」「売った奴と作った奴の人間性を疑う」とまで言い切った事で知られているが、もしこのソフトを遊んでいたらどのような言葉を投げかけていたのだろうか……『モンタナ』は最低限ゲームの形を為しており、『漢字の天才』に比べて遥かにマシな商品なのは確かである。
  • 今作最大の謎
    • 本シリーズのOPとEDでは、博士帽を被った謎のヒーローが「ガックマーン!!」と叫びながら登場する。何気ないシーンなのだが、この声は明らかに野沢雅子氏の声質をしている。
      • スタッフロールに氏の名前は無いため、本人かどうかは確定していないが、きちんとクレジットされた他の出演声優とは声質が一致していない。
    • 仮に本人だとしたらサウンドロゴのためだけにとんでもない大物を連れてきた事になる。どのような事情で実現に至ったのだろうか?そしてなぜスタッフロールに名前が無かったのか?
      • 氏の出演経歴としては、『星の子ポロン』*15に匹敵する謎となるのでは無いだろうか……
    • 「見るからに低予算のゲームでなぜ大物を呼べたのか」という疑問は残るが、キャスティングは声優事務所が安価で紹介するケースもあるため、たまたま運が良かったのかもしれない。
最終更新:2025年01月18日 08:47

*1 同じ作者による作品が「学習マンガ出版」という出版社から複数出ていることが確認でき、おそらく同じ会社と見られる。

*2 海外で悪名高いクソゲーの一つ。度々挿入される質の低いアニメーションで広く知られており、精神的続編が作られるほどのカルト人気を誇っている。

*3 なお他のシリーズは見切れる部分に灰色の枠が表示されている(上記画像は削除済み)。おそらくスタッフは1作目『算数の天才1』の開発時にこの問題に気付き、同じミスが起きないよう枠を設けたと思われる。そこまで気づいていながら直そうとは思わなかったのだろうか……

*4 目次等を除いた、実質的な学習部分が書かれたページ数。

*5 ただし『元祖マンガ攻略法』当時のガリガリ君内容量は不明のため、少なめに見積もって120mlとする。またガリガリ君は軽減税率が適用されるため、消費税8%(75円)である点にも注意。

*6 ただし『算数の天才2』『漢字の天才1』は2つの項目を扱っているため、いくつか抱き合わせになっていた可能性はある。

*7 左の部分を見て「めぎへん」というあてずっぽうの答えを出すも外れた末、右上をむりやり「ル」と読んで正解となる、といった感じ。

*8 日本之実業社の学習漫画レーベル『○○なんてこわくない!』シリーズの一作。小学生向けでありながら中学数学の解き方を取り入れており、高校入試問題もおまけとして取り組めるという超本格的な内容である。可愛らしいキャラクターのラブコメ要素も魅力的で、算数の学習漫画としては中々におすすめできる一作である。

*9 90年代から発売されている「ドラえもんの学習シリーズ」の一作。宇宙を漂流するのび太たちが、様々な文章題に振り回されながら地球への帰還を目指す。扱うジャンルは12種類で、この書籍の「つるかめ算」は面積図を利用して解くものとなっている。

*10 M2(3DOの後継機)が撤退を宣言した2号後、97年8月15日号。ちなみにM2の欄は前の週に消滅した。

*11 下記の書籍のうち、漢字の方は少しペンネームを変えただけでほぼ同様の内容となっており、同じ作画担当による算数の書籍も流用の跡が見られるので、ほぼ間違いなく同一人物である。

*12 審査対象となったソフトのうち、一番最後のソフトは『ドラゴン・タイクーン・エッジ』だったのだが、これは丁度『ナオコとヒデ坊』の直前に発売されたソフトであった。

*13 例を挙げると、2023年現在もDL販売されているロングセラー知育ゲーム『パットパット/ファッティーベアーシリーズ』に0点や1点が付けられていたりした。

*14 ハイパーメディアクリエイターこと高城剛氏が送り出した、3DO専用の子供向けソフト(原作はNHKのアニメ)。氏の他の作品同様、ゲームに対するノウハウがあまりにも感じられない完成度となっている。

*15 1974年に放送されていた短編アニメ。あまりにも情報が少ないため「幻のカルトアニメ」と称されており、一部の有志が情報収集に乗り出している。野沢氏は主演を務めており、後に本作の事を覚えている旨の発言を残している。