Slay the Spire
【すれいざすぱいあ】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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Windows(Steam/Microsoft Store/GOG.com) Linux(Steam/GOG.com) Nintendo Switch プレイステーション4 Xbox One iOS
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開発元
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MEGA CRIT GAMES
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発売元
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【PC】MEGA CRIT GAMES 【CS】Humble Games 【iOS】Humble Bundle, inc
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発売日
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【Steam/GOG】2019年1月23日 【Switch】2019年6月6日 【PS4】2019年6月18日 【MS Store】2019年8月14日 【iOS】2020年6月13日
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定価
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【Steam】2,800円 【Switch】2,570円 【PS4】2,618円 【MS Store】2,900円 【GOG】24.99 USD 【iOS】1,500円
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判定
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良作
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ポイント
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「デッキ構築ローグライク」の元祖 練り込まれたゲームバランス
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概要
ローグライク系ダンジョン探索RPGにTCG要素を組み合わせた一作。
元々はインディーズで早期アクセスの元開発されていた作品で当初はあまり知名度はなかったが、早期アクセスのプレイデータを元に組み立てられた緻密なゲームバランスと、「あと一回」がやりたくなる絶妙な中毒性から多くのファンを生み出し、「
デッキ構築ローグライク
」
というジャンルの開祖
となった。
システム
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プレイヤーは4人のキャラクターから一人を選択し、自らのデッキを強化しながら全50階層の塔の攻略を目指す。
プレイヤーの能力・デッキは毎回初期化され、ダンジョンの構造もランダムに決まるのは一般的なローグライクと同じ。
デッキ構築要素は実在のボードゲーム『ドミニオン』のシステムを参考にしていることを開発者が明言している。
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塔のマップは最深部から分かれる樹形図型になっており、枝の先端がスタート地点になっている。
複数あるスタート地点から1つ選び、ボスのいる最深部に進む過程を原則3章分行うことになる。
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道中にはイベントの種類を表すアイコンが多数配置されており、アイコン1つが塔の1階層に相当する。
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敵…雑魚敵とエンカウントし、倒せばゴールドと3枚のカードから1枚をチョイスできる報酬が手に入る。
雑魚と言えど油断すると普通に死ぬ。とはいえ、積極的に踏んでカードを集めておかないと後々がキツイ。
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エリート…強敵とエンカウントする。その分強力なカードが入手しやすい他、プレイヤーを恒久的に強化する「レリック」も手に入る。
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商人…商人の元で買い物ができる。カードやポーション・レリックが買える他、訪れるごとに1回デッキから「カードの削除」ができる。
ローグライクでは割とありがちな「泥棒」システムが無いほか、カードなどの
売却も不可能
となっている。
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休息…体力の回復or手持ちカード1枚のアップグレードができる。
本作においてまとまった体力を回復できる貴重なチャンスだが、ここでできるだけアップグレードしておく(道中でのダメージを減らす)ことが攻略の上では重要になる。
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宝箱…宝箱から主にレリックが手に入る。基本的に各章一回ずつしか踏めない貴重なマス。
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アンノウン…何が起こるかわからない。特殊なイベントが起きるのが大半だが、戦闘が起きたり、商人に会えたりもする。
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本作のプレイヤーキャラに「レベル」の概念はなく、ステータスも最大HPのみ。
プレイヤーの強化要素はほぼ「
カード
」と「
レリック
」に集約されている。
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カードは、攻撃に用いる「アタック」、サポート効果が発動する「スキル」、その戦闘中限定で恒常的なバフを行う「パワー」の3種類に大別され、それぞれに効果とコストが設定されている。
また、これ以外に「状態異常」「呪い」というマイナスカードもある。
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カードには各キャラクター固有のカードと、全キャラクター共通の無色カードがある。原則的には固有カードと無色カードでデッキを組んでいくことになる。
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また、各カードには3段階のレアリティがあり、カード名の帯の色で判断できる。レアなほど入手機会が限られる。
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各カードは一度だけ「アップグレード」で効果の強化やコスト軽減ができる。
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極めて重要な点として、
本作にはデッキ編集という概念は存在しない
。手に入れたカードは全てデッキに入る。枚数上限・下限、同名カード制限は一切ない。
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そして、山札切れを起こしても使ったカードがシャッフルされて再び山札になるだけなので、
デッキ枚数を少なくするリスクがほとんど無い
。
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そのため、本作では「いらないカードをデッキから抜いていく」「余計なカードは最初からデッキに入れない」という独特な戦略が求められる。この過程において、商人の「デッキからカードを削除する」機能が重要になってくる。
これは、本作が参考にした『ドミニオン』と共通する戦略であり、「共通の山札からスタートし、ゲームを進めながら理想のデッキを構築していく」デッキ構築というゲームジャンルの基礎となる。
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「レリック」はプレイヤーに恒常的な強化をもたらす装備品。入手できる機会が少ない分、強力な効果が多い。
自分の組みたいデッキ方針と噛み合うレリックを探す、あるいは引いたレリックと相性のいいカードを選ぶなど、シナジーを意識したい。
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その他、ポーションという消耗品も時々手に入る。使い捨てだが
戦闘中、ターンもエナジーも消費せずに使える
というのが強み。
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戦闘はターン制。必ずプレイヤーのターンから始まり、毎ターン5枚の手札と3エナジーが支給される。
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手札とエナジーをやりくりして、全ての敵を倒せば勝利、その前に自分のHPが尽きればゲームオーバー。
使わなかった手札は捨札に行き、余ったエナジーも次ターンへの持ち越しは不可能。
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本作で使用可能なキャラクターは以下の通り。アイアンクラッド以外はプレイによって順次解放される。
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アイアンクラッド…悪魔に魂を売り渡した仮面の戦士。毎戦闘ごとに体力が回復する固有のレリックを所持している。
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全キャラクター中最大のHPと、シンプルに強力なアタックカード、強固なブロック(ダメージを軽減するバフ)を積み上げる防御カード、筋力(アタックカードのダメージを上げるバフ)を向上させるパワーカードなどを駆使する純粋な戦士。
やることが明確でわかりやすく、デッキ方針も決めやすいので初心者にオススメ。
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弱点は、強力なカードに大抵HP犠牲や状態異常、廃棄などの厄介なリスクがついて回ることと、全体的にドローソースが弱いこと。
一段上のデッキを組もうとすると、肉を切らせて骨を断つ自己犠牲戦法が必要になり、意外と繊細な管理が求められる。
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サイレント…骨の仮面を被った女暗殺者。最初のターンだけドローを増やす固有のレリックを所持している。
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「毒とナイフでジワジワ殺す」というコンセプトで、毒による持続ダメージやコスト0のアタックカードであるナイフを大量生産し手数を出す戦法を得意とする。
また、「手札を捨てる」に反応するカードや、戦闘中にポーションを生成できる一風変わったカードなど、やれることは豊富。
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全キャラクター中最低のHPが弱点。また、速攻で相手を沈めるのは苦手なので時間経過で強くなるタイプの相手は少々キツイ。
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ディフェクト…蘇った自律式古代機械。最初のターンにライトニングオーブを生成する固有レリックを所持している。
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自動で行動する「オーブ」を大量展開することで、エナジーを消費せずに敵を圧殺する戦法を得意とする。
また、0コストのカードが他のキャラクターよりも多く、0コストを条件にしたカードも所持しているため、そちらを軸にした戦法も可能。
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全体的に立ち上がりが遅めで、戦闘の序盤が凌げないとキツイ場面が多いのが欠点。
また、デッキの軸になるカードのレアリティが高めで重要なカードがゲーム序盤に引けずにデッキ方針が定まりづらいのも地味ながら痛い。
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ウォッチャー…塔を監視するために訪れた盲目の修行僧。エナジーを回復するカードを最初のターンに手札に生成する固有レリックを所持している。
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手札に残り続ける「保留」能力やデッキの上を操作する「占術」を活用して、半固有バフの「スタンス」を切り替えて戦うのが基本戦術。
さらに、準備が必要だがより強力な「神聖」スタンスや『経絡秘孔』に特化した固定ダメージ型など、やれることは多彩。
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やることがとにかく複雑で計算ミスを起こすと一気に破綻するのが大きな欠点。ハマれば強いが他キャラ以上にプレイングが物を言う上級者向け。
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ゲームモードは、塔の攻略を目指す基本モードの他、毎日変わる固有の条件付きで制覇を目指すデイリーチャレンジ、自分で条件を作れるカスタムモードがある。
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基本モードでは一度クリアするとアセンションレベルを上げることでさらなる高難易度モードに挑戦できるようになる。
評価点
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とにかくゲームバランスが極限まで練り込まれており、やりごたえがありながらも理不尽さをほぼ感じさせない。本作が世界中で高評価を受けた理由の多くがここに集約される。
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TCG・ローグライクというゲームジャンルの複合だけあって、基本的に本作も運が絡む要素は多々ある。
しかし、「それまで順調だった冒険が一つの不運で破綻」も「幸運の積み重ねであっさりクリア」のどちらもまず起こらない。
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本作における死亡事故は大体戦闘などの細かいダメージの積み重ねであり、即死級の攻撃は規定ターンまでに攻略できなかったペナルティとして課せられるケースが大半。
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特殊イベントの内容はランダムだが、大抵は「メリットがあるがリスクも伴うor何も変化がない選択イベント」「純粋なプラスイベント」であり、一方的にマイナスが押し付けられることはほぼない。
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全体的に「不運を退けることを徹底し、運良く降ってきた幸運を確実に手に入れる」立ち回りで安定して攻略できるように緻密に調整されている。
逆に、細かい不運の影響を軽視していると、余力を削られて結果的に冒険でつまずく…という構造になっている。
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ゲームシステムの根本に運の要素が大きい反面、それ以外の面では運要素を極力排除しているのも特徴。
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原則、「ランダムにいずれかのカードを生成」などの効果を除けばカードの効果はバフ・デバフの影響を受けた最終計算結果で固定。
「運悪く外れる」などの命中率・回避率の要素は一切なく、書かれた数字通りの結果になる。逆に相手が外してくれることも無いが
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相手の残りHPや次の行動予定もしっかり可視化されており、「どう対応するか」計画を立てやすい。
キャラクターにカーソルを合わせれば、現在そのキャラにかかっているバフ・デバフの効果や残り時間も確認できる。
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全体的なゲームテンポがサクサクしており、プレイしやすい。
一回の攻略にかかる時間は概ね1〜2時間程度。そこまで重くないため、「あと一回…」「次はこの戦略で…」という中毒性が起きやすい。そして時間が溶けていく
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前回の失敗に学び、それを活かしていくことで如実に腕前の向上がわかっていく。
プレイヤーキャラではなくプレイヤー自身が成長するのがローグライク、とよく言われるがその醍醐味を味わいやすい。
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4人のキャラクターがいずれも個性的ながら全員ちゃんと攻略できるようになっているのも見事。
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使いやすさの差こそあれど、最終的には好みのキャラクター・戦略を取っても十分攻略は可能。「安定して攻略できる鉄板戦略」はある程度確立されているが、あえて茨の道を進むのもまた一興。
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パーツが揃えば「バランス崩壊もいいところのコンボ」ができる爽快感もある。
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最終盤には明確な対策を持つボスも出現するため、ワンパターンにはならない。
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アセンションという難易度設定により、高難易度を求めるプレイヤーにも歯ごたえのある難易度を提供している。
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デフォルトの難易度をクリアすると「アセンション1」を選択できるようになり、アセンション2,アセンション3…と最大20まで難易度が追加される。
数値が増えるごとに敵のステータス上昇・キャラクターのHP減少・敵が最大効率でデバフを与えてくるなどの合理的行動など、様々な方面で難易度が上がっていく。
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キャラクターごとに管理されているため、例えば「アイアンクラッドでは20まで行けたのにサイレントは15までしかクリアできてない」と言ったことも起こり、やりこみ要素をさらに拡大させていると言える。
また、特定の条件を満たすことで挑戦できる裏ボスが存在し、最高難易度となるアセンション20の裏ボスの撃破、あるいは連続勝利記録を伸ばすことを目標とするプレイヤーも少なくない。
また、裏ボスを倒すことでそのキャラクターのカードのベータアートを閲覧・使用できるというちょっとした特典が貰える。
問題点
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全体的に演出が地味でグラフィックが貧相。
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もっとも、ゲームテンポを重視してあえて控えめにしている部分は大きいだろう。実際ロードはかなり早い。
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突き放した部分が多く、ろくに説明されない重要な要素が多々ある。
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「パワーカードは一度使うと消滅する」「バフ・デバフには効果量が『影響する数値』を表現しているものと『有効なターン数』を表現しているものの両方があり、さらに毒はこのどちらにも該当する」などのややこしいところは実際に色々試しながら覚えていくしかない。ローグライクは元々そういうものではあるが、それにしてももう少しチュートリアルなどがあっても良かっただろう。
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「
デッキはなるべく枚数を減らし、引きたいカードを引きやすくする
」と言うのが非常に重要な基本テクニックなのだが、その点についての説明もない。
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「強いカードを考えなしにかき集めた結果、事故って途中で死亡」「だが何が悪いのか分からず、何度やってもクリア出来ずにゲームを投げてしまう」と言うのは、ありがちな詰みポイントである。確かにデッキ構築系のゲームでは常識だが、そうしたゲームに触れてこなかった初心者にとっての配慮があっても良い所だろう。
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特に初期デッキのストライクや防御は基本的にはなるべく消した方が良いのだが、初心者がこれに思い至るのは難しいだろう。カードは主に商人の所で消せるのだが、初心者は「呪いなどを消すためのシステム」と考えがち。
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なお、デッキ枚数をあえて増やすのもテクニックの一つ(特に高難度では重要)だが、そうした構築はより難易度が高いので初心者向けとは言い難い。
総評
ローグライク要素は「塔を一方通行で登るだけ」、デッキ構築要素は「カードの取捨選択をするだけ」と極限までシンプルに切り詰めた上で両者を合体させたことで、極めてシンプルながらも両者のエッセンスを存分に感じられるように仕上がっている。
基本のゲームシステムからして完成度は高いのだが、やはり芸術的に整えられたゲームバランスが本作の評価を高めている重大な要素と言えるだろう。
「クリアまであと一手足りなかった…」「紙一重のギリギリだったが、なんとかクリアできた…」そして「あと一回だけ」という欲求を否応なしに湧き立てるストイックでシビアなバランス調整により、本作は「元祖」でありながらひとつの「完成形」として評価されている。
余談
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元々のゲームシステムが非電源ボードゲームを参考にしている本作だが、逆に本作自体もボードゲーム化している。
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しかし、定価の方はなんと電子ゲーム版のおよそ
10倍
というブルジョワ仕様である。
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基本的な世界観はダークファンタジー寄りなのだが、細かいところに日本発の物も含めたパロディネタが細々と仕込まれている。
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本作のヒットを皮切りに、Steamをはじめとするインディーズ業界でデッキ構築ローグライクが流行。
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大本のシステムが完成されており、アレンジを加えやすいことから影響を受けたタイトルも多数あり、端的にジャンルを指し示す言葉として「StS系ゲーム」という呼称が普及している。
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ヤングマガジンで連載されている漫画『1日外出録ハンチョウ』で本作のパロディであろう『Slay The Spi
rit
』が登場している。
この漫画の主人公は外出時間が限られている上に外に出るにも金がかかる立場なので、時間泥棒な本作をやらせたのは鬼畜行為だとの声が多く上がった
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2020年にはApp StoreにてiOS版の配信が開始されている。ローカライズが他機種版とは異なっている。
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2023年7月7日にはApple Arcadeで「Slay the Spire+」が配信されており、月額課金でApple Arcadeに加入すれば同作を含む配信タイトルが自由にプレイできる。iOS版無印からデータの引き継ぎが可能。
最終更新:2024年08月01日 19:22