本ページでは、Switch版を主体に紹介します。

Spectator 観察者

【すぺくていたー かんさつしゃ】

ジャンル ADV(?)
対応機種 Nintendo Switch
発売・開発元 Neko Machine
発売日 2023年9月7日
定価 2,000円
レーティング IRAC:12+
判定 なし
ポイント どこかで見たことあるあのホラーで間違い探し
お得感はあってもまとまりのない世界観
ホラーファン向けではあるがホラーとしては微妙


概要

固定視点のホラーアドベンチャー……というか間違い探しゲーム。
監視カメラで様々な部屋を監視しながら、巻き起こる超常現象を報告していく、という内容。
元々はSteamで配信されていた作品だが、Steam版が企業パブリッシングか否かの情報が不足しているため、本記事では確実に企業関与であることが明確なSwitch版の情報を元にしている。


システム

  • ゲームモードはストーリーモードと好きなステージを遊べるモードが用意されている。どちらも難易度は3段階。
    • ストーリーでは、ステージの合間に自室を探索するパートが挟まる。それ以外の違いは特にない。
  • ゲームシステムは至って単純。用意された各ステージごとに6つの部屋があるため、それぞれの部屋を監視カメラで監視して、巻き起こる怪奇現象の数々を報告していくだけである。
    • 異常現象が起こっている部屋には、デフォルトの状態から何かしら変化している箇所があるため、その異常現象に当てはまるカテゴリを選択し、キチンと報告できればOK。簡単に言ってしまえば、「正解の画面と比較できない間違い探し」をひたすらやっていく内容である。
      • 報告できないまま時間が経過すると、画面右上の波形ゲージがどんどん激しくなっていき、最大状態で放置するとゲームオーバー。12:00〜6:00までの制限時間を無事乗り越えればステージクリア。大体、2秒弱で1分ぐらいのカウントなので、1ステージ10分程度である。
  • 用意されたステージは以下の6つ。いずれも、ホラーファンなら「あぁあれね」とすぐに元ネタがわかるようなものばかり。ネット上で話題になったいわゆる「クリーピーパスタ」をパロディしているものが多い。
    • 「BACKROOMS」…謎の研究所のような施設。
      • 名前からしても黄色い壁だらけの構造からしても、ほぼ間違いなく『The Backrooms』が元ネタと思われる。ただ、防護服を着た作業員が多く配置されているなど、どちらかというと『SCP Foundation』や映画『キャビン』っぽい雰囲気も漂っている。
    • 「ASYLUM」…病院のような学校のような施設が舞台。
      • 名前からすると映画『アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち』が元ネタだろうが、『アサイラム』はどちらかというとサイコホラー系で怪奇現象が起きるタイプではないため、普遍的な怪奇現象が起きる病院の統合イメージかもしれない。
    • 「FOREST」…墓地と公園がある森が舞台。
      • 行方不明者のポスターが貼ってあることからしても、いわゆる「スレンダーマン」が元ネタと思われる。
    • 「PIZZERIA」…アニマトロニクスが徘徊する深夜のピザ屋。
      • アニマトロニクスにピザ屋、と来ればこれは明白で『Five Nights at Freddy's』がネタ元で間違いない。そもそも、本作の「12:00〜6:00まで監視カメラを使って怪奇現象を見張る」というコンセプト自体がFNaFのオマージュであると思われる。
    • 「PARANORMAL HOUSE」…とある屋敷が舞台となっている。
      • おそらく映画『パラノーマル・アクティビティ』がモチーフだろう。
    • 「FACTORY」…名前に反して、ポップなキャラクターが描かれた幼児施設が舞台となっている。
      • セサミ・ストリートのようなキャラクターが登場する幼児施設なので、『Garten of Banban』がモデルか。
  • 報告するべき異常は以下の10種類。
    • モニター/図面…日本語訳がマズくてわかりづらくなっているカテゴリの一つ。原語は「Monitor/Drawing」なので、TVモニターなどの異常ももちろん含まれるが、実際にはポスターやイラストなどの表示がおかしくなっている場合もこのカテゴリになる。カテゴリ名のわかりづらさ以外は、大体目立つ位置にある異常なので比較的見つけやすい。
    • 血…そのまま血が見えている異常。多くは血文字だったり血痕がべったりだったり血の雨だったりと露骨な異常現象なのでわかりやすいが、「よく見ると画面隅の容器に血が溜まっている」というのもコレであるので、そういう場合は見落としやすい。
    • 開く/閉じる…本来閉じているものが開いている、もしくは本来開いているものが閉じている。大体開きそうなもの、閉じそうなものは目立つ位置にあるので見落とすことはあまりないが、「箱が開いている/閉じている」は案外盲点。あと部屋によってはなぜか扉あけっぱがデフォなので閉じている方が普通に見える
    • 光の異常…光源が点いたり消えたりがこのカテゴリになる。画面全体が真っ暗になるような露骨なものもあれば、「画面奥のライトがよく見ると消えている」のようなわかりづらいものも含まれる。また、暖炉の異常現象もこのカテゴリで報告する。
    • 追加オブジェクト…本来その部屋にあるはずがないものが突然出現している。あきらかにありえないものが出てくることもあれば、しれっと背景に溶け込んでいることもある。
    • 大きさの変化…物体が大きくなったり小さくなったり。複数存在する中の一つがいきなりデカくなっているとわかりやすいが、比較対象がないものが突然変わっていると気づきづらい。
    • その他の異常現象…なんつーざっくりしたカテゴリだ他のカテゴリでは報告できない異常現象が起きた場合。基本的にはそのステージを象徴するような強力な異常存在が出現したときに使うことが多い。そういった存在を報告すると、いきなりカメラが動作不良を起こしてリブートがかかる。初見ではビビるがすぐ直るので安心していい。
      • 「オブジェクトの出現」との区別がつきづらいことが多いが、「その存在そのものは別に不思議ではないが、そこにあることがおかしい」ものが現れていたらオブジェクトの出現、「そもそも現実にありえない」ものが現れていたらこのカテゴリというのが大雑把な区別。
    • カメラの異常…監視カメラの表示がおかしくなった場合はこのカテゴリ。画面全体が激しく表示が乱れるためわかりやすいことが多い。
    • 物体が消えた…あったはずのものが消えてしまった場合。元の部屋の状態をよく覚えておかないと気づきにくい。
    • 物体が移動した…同じ部屋内で物体が移動している場合。消えた場合と同じく、元の状態を覚えておかないとわかりにくいことが多いが、 椅子が浮遊している なんていうあからさまな超常現象もこのカテゴリなので、ものによってはすぐわかる。また、「倒れている」「散乱している」のような状態もコレ。

評価点

  • ホラーに親しんでいれば馴染みがある「あの作品」のシチュエーションが6つも入っていてお得感がある。
    • いずれのステージも個性豊かであり、起きる怪奇現象もバリエーションに富んでいる。少なくとも、一周プレイで全て見つけ出せるほど浅くはないため、繰り返しプレイにも耐える出来。
  • 「じっくり見ないといけない」という点がホラーの演出として理にかなっている。
    • 「怖いところは目をそらそう」というホラーお決まりの回避方法をゲームシステムの根本から拒絶しており、細かいところまで観察しないとクリアは不可能。「気づいたら何かいる」というシチュエーションが繰り返される点は、ホラーとしてよくできたシステム。
  • 単純に間違い探しとしても難易度バランスは適正。
    • 最低難易度なら、初見でも十分クリアは可能な程度の難易度。一方最高難易度では襲ってくる怪奇現象のペースが跳ね上がり、適切な対処を迅速に行わないとあっという間にゲームオーバーになる。低難易度でどんな現象が起こるか覚えておくことで難易度は下がるが、それでもとっさの判断が求められる。
    • 6部屋を同時に監視するバランスもなかなかうまい。全ての部屋を完全に覚えきるには少し多いが、それでも繰り返し確認すれば違和感に気付ける程度に仕上がっている。
    • 「何個も並んだ物体が1個だけ減っている」のような完全な記憶が求められるような理不尽な異常は基本的にはなく、大体は「言われてみれば確かにおかしい」という違和感のある異常現象である。

問題点

  • お得感はあるが、統一感はない世界観。
    • そもそも、元ネタとなっているホラーのカテゴリがあまりにバラバラすぎて、それを「間違い探し」というジャンルで繋げて一つにぶちまけたような異様な世界観となっている。言い方は悪いが、「話題作を雑にパロってとりあえずゲームとして成り立つようにした」的な印象は否めない。
      • 監視対象となっているこれらの施設のバックストーリーすらろくに語られないため、余計「パロディしているだけで、このような施設が登場する必然性が特に感じられない」感がある。
    • 世界観の中核となるだろうストーリーモードは、はっきり言って超展開と説明不足しかなく、最後まで進めても何もわからない。
      • 一応「監視者の仕事を与えられた主人公が謎の組織の指示のまま施設の監視を続けるうちに自らの怪奇現象に巻き込まれていく」…というストーリーらしいことは察することができるが、結局主人公の立ち位置すらわからないまま最後は部屋の外に出てスタッフロールすらないまま終わり。次第に狂気に侵されていく自室の様子は恐怖感があるが、それだけである。
  • カテゴリ分けがよくわからないところが多く、「どこがおかしいかはわかっているのに、どのカテゴリで報告したらいいかわからない」事態が頻発する。
    • 例えば「光る球体が出現した」という異常の場合、「光る異常現象だから光の異常→×」「物体の出現だからオブジェクトの出現→×」で、なぜか「その他の異常現象」が正解。慣れればある程度法則性は掴めるが、似たような異常でもカテゴリが異なることすらあり、混乱を招く。
  • ホラーでありながら、「怖くない」部分のほうが手強いという矛盾した構造。
    • 評価点の裏返しとも言えるが、「間違い探し」というゲーム構造自体がホラーとして矛盾している部分があり、「怖い異常現象はすぐ気づけるから対処が容易だが、怖くない異常現象は気付きづらく、結局ゲームとして手強いのは怖くない部分」ということになってしまっている。これは、ゲームシステム的に不可避とも言える部分ではあるが……。
      • 8番出口』のような例でも分かる通り、ホラーを「魅せる」演出としては間違い探しは秀逸だが、ゲーム-として難易度を上げようとすると「ホラーじゃない」部分で難易度が上がってしまうのは仕方ないところか。
    • また、純粋にホラーとしても演出不足な印象は否めない。特にゲームオーバー時は画面にノイズが走って無機質なメッセージが流れるだけで、命の危機が迫っているような感はない。
      • 異常現象が起こらない限り、画面に一切変化がないのも間違い探しとしては正しいが、演出としては不自然である。6時間もの間何をするでもなく同じ場所で棒立ちし続ける人間は、「間違い探しのオブジェクト」でしかなく世界観を深める登場人物としては全く機能していない。
  • やりこみ要素に欠けている。
    • 本作にはセーブ機能自体がなく、ストーリーモードもいきなり最終日から始めてしまえる。もちろん、ハイスコアの記録機能や、発見した異常現象の記録なども一切なし。ゲーム的にやりこめそうな要素自体はそれなりにあるのに、それらの記録機能やご褒美がなにもないのはあまりに寂しい。

総評

ゲームシステムそのものはすぐ理解できるシンプルさで、ホラーとして見ればいろいろな世界観でいろいろな怪奇現象を一本で楽しめてオトクなことは間違いない。
ただ、全体の印象を見ると「雑なパロディ」という感はどうしても拭えず、だからといってわざわざ話題作をパロディしたことそのものに納得がいく統一したストーリーが語られるわけでもない。
ホラーファンならニヤリとできる作品なのは間違いないが、結局は淡々と異常現象を報告していくだけなので恐怖演出にものすごく光るものがあるわけでもなく、「ホラーファン向けなのにホラーとしては微妙」というなんとも言えないモヤモヤとしたものが残ってしまう一本。
ゲームとしても単なる時間制限付きの間違い探しなので、ガッツリやり込める作品というわけでもなく、間違い探しという分野での評価点もさほど見当たらないだろう。全体のボリュームはそれなりで、ゲームとして破綻しているわけでもないのでクソゲーとは言えないが……。

最終更新:2024年09月21日 00:23