8番出口

【はちばんでぐち】

ジャンル ウォーキングシミュレーター
対応機種 Nintendo Switch
発売元 PLAYISM
開発元 KOTAKE CREATE
発売日 2024年4月17日
定価 470円
プレイ人数 1人
レーティング IARC 12+(恐怖)
判定 良作
ポイント ゲームシステムのテンプレートとして優秀
動画配信映えするゲーム内容で話題となる
新たなゲームジャンルのさきがけとなった


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ご案内 Guide

異変を見逃さないこと
Don't overlook any anomalies.

異変を見つけたら、すぐに引き返すこと
If you find anomalies, turn around immediately.

異変が見つからなかったら、引き返さないこと  
If you don't find anomalies, do not turn back.

8番出口から外に出ること
To go out from Exit 8.

概要

インディーゲームメーカー「KOTAKE CREATE」による、商業的には処女作となるゲーム。
上記の文面はゲーム内で真っ先に確認できる注意文兼チュートリアルだが、その内容の通りルールは「地下通路に異変がなければ進み、異変があればすぐに引き返す」だけの極めてシンプルなものである。
だがシンプルであるがゆえに未プレイの人にもルールが理解しやすく、またプレーヤーはあらゆるものに神経を尖らせ集中するため恐怖演出により強く驚かされることとなる。
この性質上、動画配信サービスとの相性も非常に良く、たちまちその名が広まった。

Steam版は本Wikiの評価対象外となっている個人販売のため、本記事はSwitch版に準拠した内容を記述している。
したがって、当記事の内容はSteam版とは細部が異なる場合もあるので留意すること。


ゲーム内容

  • 主観視点の3Dアクション。プレーヤーができることは前後左右の移動、ダッシュ、上下左右の視点移動のみである。
    何かを調べる、物を手に取る、攻撃するなどのアクションは一切ない。
  • ゲームを起動すると、タイトル画面を挟むこともなくいきなり地下通路に立たされる。
    その通路をしばらく進むとプレーヤーは壁面に書かれた記事冒頭のルールを発見し、遊び方を理解することになる。
    • ちなみに、このゲーム起動直後の通路には異変が存在しない。
      そのため、初回の通路に異変が発生していたために気付くことが不可能だったというアンフェアな状況になることはない。
      ルール説明の看板が現れてからが本番である。
    • 通路は一本道であり、分岐は無い。よって、プレーヤーができるのは進むか戻るか、それのみである。
    • 制限時間は無い。通路を進んでいる途中で異変が発生することはあるが、そういったものは「一定時間経過」ではなく「一定距離を進むこと」がトリガーになっているため、通路に長居したからといって正常な通路が異変のある通路に変化することはない。
  • 始めは「出口 0→」と表示された看板があるが、異変のない通路を進めば出現する看板の文字が「出口 1→」のように数字が1つ増加し、ゴールである8番出口へ近づく。
    もし、通路に異変が発生したら、すぐに来た道を戻る。そうすれば、異変がない通路を進んだのと同じように8番出口へ近づいていく*1
    • しかし、もし異変があったのに通路を進んでしまった場合、もしくは異変がないのに通路を戻ってしまった場合、看板の表示が「出口 0→」に戻ってしまい、最初からやり直しとなる。
      • なお、異変のある通路を進んで「出口 0→」に出た場合、その道を引き返すと、見落とした異変はそのまま通路に残されている。
        そのため、見落とした異変は何だったのか、という答え合わせができるようになっている。
        当然、その通路をさらに戻ったからと言って間違いを取り消すことはできず、「出口 0→」からやり直しなのは変わらない。
      • 一部の異変はプレイアブルキャラに直接害をもたらすことがあり、この異変に巻き込まれてしまった場合は画面が暗転し、やはり最初からやり直しとなる。
        ただしそれ以上のペナルティはない。
    • この流れを繰り返して「出口 8→」までたどり着いたら通路を抜けてゴールとなるが、最後の通路で異変が発生していた場合はもう一度「出口 8→」の通路をやり直すことになる。
      異変が起きていない8番出口を抜けること」がクリア条件となるため、最後にパッと見で分かる異変を見つけて引き返してクリアー、という味気ない終わり方になることがない。
      プレーヤーは最終局面でこそ神経を尖らせて異変の見落としがないか集中しなくてはならない。

評価点

  • 言うなれば本作は間違い探しを3D空間でやってみたというだけのゲームだが、そのゲーム内容とホラー要素は非常に相性が良いということを証明してみせた*2
    • 人間は本能的に「何があるか分からない」ということに強い不安や恐怖を覚える。
      本作は正解と誤りが同時に示される普通の間違い探しとは異なり、プレーヤーは一度通った通路の記憶を頼りに、それも必ず発生しているとは限らない異変を探さなければならない。
      そのため、どこにどんな異変が発生するのか分からないという不安を抱えて集中しながら通路を進むことになる。
      しかし、異変が起きるのは直接的な恐怖を与えると同時に、戻るのが正解ということが確約されるため、発見時の安心感をもたらす。
      逆に異変が見つからなかった場合、「異変を見落としていないだろうか、本当に進んで大丈夫だろうか」という別の不安をプレーヤーに植え付けることになる。
      このため、プレーヤーは異変があってもなくても不安や恐怖を抱えながら進むこととなり、感情を大きく揺さぶられ続ける。
  • 「最後は必ず異変がない通路を抜けなければならない」という設計も秀逸。
    • 最後の通路に入った瞬間に一目でわかる異変を見つけて「やった、これでクリアだ」と安心しながら通路を戻って終わりということはなく、最後の通路は「もし異変を見落としていたら全てが水の泡」「本当に異変は無かったのか、このまま進んで大丈夫なのか」という最大の不安を抱えながら進むことになる。
      それゆえ、曲がり角の先に地上へ繋がる階段が現れた時の達成感がより際立つものとなっている。
  • 8回という回数に対して存在する異変の種類が豊富で、飽きさせない工夫がある。
    • 異変のバリエーションは30種類以上存在し、ひと目でわかるインパクトの強いものから、記憶力が試されるもの、不意に見つけてゾッとするような死角にあるものまで幅広い。
      有名映画のパロディと思われる演出の異変もある。
    • 細かい模様や文字が異なるというようなレベルの意地悪な異変はないが、中には余程注意して観察しないと気付けない異変もいくつか存在する。
    • 一度遭遇し通路を引き返した異変は「発見した」とみなされ、すべての異変を発見するまで二度と出現しなくなる。そのため初回では毎回異なる異変や発見できなかった異変に確実に遭遇することになる。
    • なお異変のない通路は最大でも2回までしか連続して出現することはなく、異変のない通路だけを引き当ててクリアすることは不可能となっている。
    • クリア後の2周目以降は、まだ遭遇していない異変の総数が表示された貼り紙が通路内に出現する。この通路で発生するすべての異変を確認するというもうひとつの楽しみ方ができる。
      • ただ「ある程度進んでからミスをして0番からやり直しになる」というパターンを繰り返してあまりに手こずっていると、初クリアまでに全種類の異変に遭遇してしまうという珍事も当然ながら発生し得る。
  • 異変を探そうと注視している最中に突然驚かせる存在が出現するような、いわゆるジャンプスケア的な演出はほとんどない。
    個人差はあるものの、ホラーゲームが苦手な人でも気軽に挑戦しやすい内容となっている。
    • こうした要素も皆無ではないが、いずれも引き返すべきとひと目でわかるようなあからさまな異変に不用意に近付いた場合にのみ発生する。
      これらでは怪物じみた存在に襲い掛かられゲームオーバーとなり最初からやり直しになるものもあるが、よくよく考えると見落としても結果は同じなので「ミスになるポイントが若干手前」というだけである。
      考えようによっては一番低難易度の異変とも言える。
      • ひと目でわかる異変に接近することは、文章で明記された「異変を見つけたら、すぐに引き返すこと」に明確に抵触する行動のため、これらはルール違反のペナルティとして用意されているものと思われる。
    • 突然発生する音や光を利用した演出の異変もあるが、それらまでジャンプスケアに含めるかどうかは人により意見が分かれる所だろう。
  • ビジュアルは非常に精巧であり、遠目には写真との区別がつかないほどのリアリティがある。
    バイト募集や法律相談に関するポスター、禁煙を呼びかける貼り紙、通気口や案内板、蛍光灯、監視カメラ、清掃員詰所や分電盤室などの扉、消火栓など、オブジェクト1つ1つがその配置も含めて精巧に作られており、日本のどこかに実在していそうな現実的な地下通路が表現されている。だからこそ、発生した異変の異質さが際立つ。
    • インディーゲームメーカーが1コイン価格でこのビジュアルを実現できたのは、一本道の地下通路という狭く人工物しかない空間を舞台にしたことも大きいと思われる。
    • また特徴的なこととして、プレーヤーが通路に入ると突き当りから1人の中年男性が歩いてくる。
      • この男性がいることによって、どこまで進んでも無人の非現実的な空間になってしまうことを回避している一方で、何度でも同じ男性が同じタイミングで歩いてくるという異常性をもプレーヤーに感じさせる。
        加えて、ともすれば終始動きのない地味な絵面になりそうなゲームに動的な要素を加えているなど、この男性がこのゲームで持つ重要性は非常に大きい。
      • 近くで見ると多少ローポリ感はあるが、自然な動き方も含めてこの男性もリアルな舞台に十分溶け込んでいる。
    • このゲームの操作系には物体を能動的に動かしたり詳細を調べるためのコマンドなどは存在せず、グラフィックとして見たままの景色の中から異常性を探さなければならない。ビジュアル面で違和感のない写実性があるからこそ、この極限までシンプルな操作性が実現できていると言える。
  • カメラ操作関係のオプションは右スティックによる視点移動方向の反転はもちろん、加速度や揺れ設定など必要なものが一通り揃っている。
    本作は3Dゲーム、特にあらゆる場所に目を向けて遊ぶゲームであるため、あって当然のものではあるが有り難い。
  • 限られた空間を舞台にするため製作コストを抑えられること、様々な舞台やシチュエーションにアレンジできることなどゲームシステムのテンプレートとして非常に優秀であるため、多くのフォロワーゲームが作られたことも本作の功績と言えるだろう。

賛否両論点

  • 最初の導入がやや不親切。
    • 前述のようにゲームを開始すると何の説明もなく地下通路に放り込まれる。しばらく進めば上記の注意書きが貼り出されるが、そこにたどり着くまでは一切説明がないため、事前情報なしでは何をすれば良いのか分からない。
    • ストアページなどには遊び方のルールが記載されているが、それを知っているプレイヤーは逆に最初の通路から何かあるのかと疑ってしまうことも。前述の通り、最初の通路は正解を記憶させるためのチュートリアルである。
      • また、あえて詳細な説明をせずに、実際に起きている状況からルールを推測すること自体もゲームの一部とも言えるだろう。「異変」と言う特殊な環境による没入感が重視されている中で、メタ的なチュートリアルはせっかくの雰囲気を削ぎかねない。
  • 異変をしっかり確認しないことが最適解となるゲーム性
    • 異変があるか否かという2択しかない上に「襲ってくる異変がある」という仕様のため異変に気づいた瞬間に背中を向けて全力で戻ることが最適解で、気づいた異変をあえてちゃんと見ることにメリットがなくデメリットの方が大きい。
    • 「異変に気付いたらすぐ引き返せ」というルール上それが正しいのだが、異変に気付いた瞬間の「ゾッとする」感覚は楽しめるもののホラー作品なのにホラー要素に気づいてもそれをしっかり見ないで逃げろというのはホラーゲームとしてはややチグハグである。
      • 一方で、無理して異変と向き合う必要がなく、ホラーゲームが苦手でも遊びやすいというメリットもあるが。
      • このためかは不明だが後述する後継作の『8番のりば』では「それぞれの異変ごとに決まっている適切な対処法を見抜いて実行すれば成功」というルールになっている。

問題点

  • 元がPC向けのゲームだったものを移植した関係上、グラフィックや描写がかなり削られてしまっている。
    • 例えば、通路の奥から歩いてくる男性の影の描写はカットされており、二重の意味で浮いて見えてしまっている。

総評

単純にプレイヤー目線で遊んでみて面白いというのもさることながら、近年のゲームで重視されがちな動画配信映えする内容ということ、小規模な開発体制でもフォロワーゲームを作成しやすいゲームデザインだったことなどゲームプレイ以外の面でも優れた部分を多数有している傑作。
恐らくこういった「小規模なボリュームだからこそ実現可能なゲーム」は重厚長大でハイクオリティなゲームを望まれがちな大手企業では作ることが難しく、インディーゲームならではの魅力が光るゲームと言えるだろう。


余談

新たなゲームジャンル

  • 評価点でも述べたように様々な舞台やシチュエーションにアレンジ可能な本作のゲームシステムは、「8番出口ライク」という一種のジャンルとして確立されるほどに定着した。
    • 現在では国内外問わずインディーやフリーゲームでこの8番出口ライクのゲームが無数に登場しており、中には性風俗求人情報サイト「バニラ」が公式リリースしたブラウザゲーム『8バニ出口』まで存在している。

インスパイア元

  • 本作は近年話題のミーム「Liminal Space」と、そこから派生したシェアワールド創作「The Backrooms」からインスパイアされたとされている。
    • Liminal Spaceとは「見慣れた光景でありながらどこか不気味に感じる風景」を意味し、そのような風景写真から生まれた都市伝説を元に創作されたのがThe Backroomsである。
    • 近年は実際にThe Backroomsを題材にしたインディーゲームが増えているが、本作はあくまでもそれにインスパイアされただけであり、実際のThe Backroomsとは全く異なる。
      • 本作に影響を与えたLiminal Space及びThe Backroomsの詳細はこの記事を参照のこと。

『8番出口』の偽タイトル

  • 本作の人気を受けて他メーカーによるフォロワーゲームが製作されているのは前述の通りだが、App Storeでは『8番出口』の偽物が配信された。
    • オマージュやパクリなどという生易しいものではなく、タイトルがそのまんま「8番出口-通路からの脱出」というもの。
      これは本来の『8番出口』の製作者であるコタケノトケケ氏は一切関わっていない詐欺アプリであるため、ダウンロードしないように。
    • これ以外にも、コタケノトケケ氏とは全く無関係なメーカーによる『出口9』という類似ゲームがPS5で配信されてユーザーの混乱を招くといった事象も発生している。
    • このことは、時期的にも『スイカゲーム』の流行にあやかってApp Storeにスイカゲームの偽物が多数配信された事例を思わせるものとなった。

続編

  • 一方で『8番のりば』という類似タイトルのゲームもSteamで配信されているが、こちらはKOTAKE CREATEによる正統な続編である。ただし、そのゲームシステムは『8番出口』とはやや異なる。
    • 他者による類似ゲームが多数制作されたため、本人製作の続編がフォロワーゲームと勘違いされるという珍しいケースもしばしばみられる。

その他

  • 製作者インタビューによれば、異変は全くのランダムではなく特定の番号の通路で演出が激しい異変や難易度が高い異変が優先的に出現するように調整されているとのこと。
    • こういった目に見えない調整もゲームを中だるみさせない工夫であり、評価に繋がっていると言えるだろう。
  • 通路の奥から歩いてくる男性は、「8番出口のおじさん」などの呼び名で親しまれており、ネット上では妙な人気がある。
+ 異変のネタバレになる可能性があるため折りたたんでいます。クリックで表示
  • 異変の1つに「天井の蛍光灯の配置がばらばらになる」というものがあり、清澄白河駅(東京都江東区にある実在の駅)にも似たようなものがあるとして話題になっていた(参考)。
    • 当初は偶然の一致と思われていたが、上述の製作者インタビューで実際に清澄白河駅をモデルにして作られた異変であることが明かされている。

その後の展開

  • 2024年7月12日にはMeta Questで本作のVR版『8番出口VR』が発売。パブリッシャーはMyDearest株式会社が担当する。
  • 2024年8月8日に突如としてPS5/PS4版が発売された。
最終更新:2024年08月27日 00:39

*1 ホラーゲームにおいて「通路をよく見ると危険があると分かる」という演出は多いが、大抵は「それでも通らないと先に進めない」というパターンが多く、「戻ることでゲームが進行する」というのはかなり珍しい。

*2 間違い探しとホラーは相性が良い、ということは『I'm on Observation Duty』を遊んでいた際にKOTAKE CREATEが着想を得たとのこと。