夜が来る! -Square of the MOON-

【よるがくる】

ジャンル アドベンチャーRPG

対応機種 Windows 95~2000
発売・開発元 アリスソフト
発売日 2001年4月19日
定価 8,500円
レーティング アダルトゲーム
廉価版 2006年5月26日/2,800円(98~XP対応)
判定 なし
ポイント 現代ファンタジーの秀作
後に似ていると言われる作品色々
ALICE SOFT/チャンピオンソフト作品


概要

アリスソフト製作のダンジョン探索型アドベンチャーRPG。
アリスソフトとしては初のオープニングボーカル曲とオープニングムービーを採用。(この頃はまだ)ボイスを多用しない傾向にあった同社としては、(この頃としてはまだ)数少ないキャラクターボイスを搭載し、また同社としては異色のいわゆる現代ファンタジーものである。


あらすじ

特異な体質を持つ主人公「羽村亮」は、あるとき夜空にもう一つの青い月が浮かんでいるのに気づいた。周囲に人気は失せ、異形の怪物に襲撃される。
そんな彼を助けた一団がいた。自分達は「火者(かしゃ)」だという。古来より「光狩(ひかり)」と呼ばれる魔物たちが作り出す「真月」に迷い込んだ人々を助けているのだと。
亮の特異な体質が火者の血筋によるものだと伝えられ、亮は自分達を助けてくれた火者の仲間達への恩返しと正義感から、彼らの仲間になって真月に迷い込んだ人々を助けるため、光狩と戦う事を決意する……


システム

  • 主人公は平日、火者の仲間達とトレーニングをして各種ステータスをアップさせる。
    • トレーニング相手の仲間とはイベントが進行し、異なるステータスが上昇していく。
      • イベント数は多く、一週間単位で行動を選択するが飽きが来にくい作りになっている。
  • 一週間の終わりにトレーニングダンジョンを探索。探索メンバーは3人1組で、同行したメンバーと親密度が上昇する。
    • 探索中にもちょっとしたイベントが起きる事がある。
    • 月片と呼ばれるアイテムを手に入れる事ができる。これを集める事により主人公の武器を強化する事ができる。
  • 一定のタイミングで真月が発生。街中のダンジョンを探索し、ボスと戦う。
    • ここでボスに敗北するとゲームオーバー。

評価点

  • 魅力的なキャラクター。
    • ヒロイン4人男キャラ3人で、主人公を含めると4:4の構造になる。主人公以外の全員が実にとがったキャラクターであり、ストーリー前半の日常コメディー、終盤のシリアスなストーリー展開でまた性格が変わっていくのは面白い。
    • 4人のヒロイン候補たちはもちろん、男性キャラもきちんと魅力的な戦友として描かれている。
  • OPテーマである「A Night Come's!」は評価が高い。
    • 美麗かつテンポ感にも優れたOPムービーと合わせ、独特な世界観へ入り込ませてくれる。
    • 広報映像として各地のショップで流されていたため、このOPに惹かれ本作を手に取ったプレイヤーも多かったことだろう。
    • アレンジ・カバーも存在するが、今や本家よりもそちらの方が有名かも知れない(「ALICE SOUND COLLECTION VII ~re_birth~」収録のUR@N(現、AiRI)版など)。
  • 当時としては斬新な設定(後述)とグラフィック。キャラクターデザインもスタイリッシュかつかわいらしい。
    • またCGのレベルも高く、発売から10年以上経つ現在でも決して見劣りしない出来である。
  • 一周するごとに探索できるダンジョンが増えるやりこみ要素もある。

問題点

  • 一部投げ遣りなシナリオがある。
    • 敵の幹部的な存在が何人か出てくるが、結局リーダーと一番の下っ端しか倒さずに終わる。幹部の一人はヒロインの兄なのだが、彼が何故敵側に付いたのか等の説明は殆どされない。
    • 仲間の一人が一時パーティーから抜けるのだが、復帰する条件が「やけに長く冗長になりがちなラストダンジョンの一部を攻略する」なので、普通に進めると彼は行方の不明のまま復帰しない。
      • 復帰した際「謎の爺さんに帰れと催促された」と言うが、その辺りの説明も伏線も無い。*1
  • RPGパートがダルい。
    • ダンジョン探索のテンポが非常に悪く、戦闘も大味で爽快感にも達成感にも欠ける。*2
    • 三人しか組み込めないパーティーの固定キャラとなる主人公が、特殊攻撃を一切覚えず、通常攻撃のみでちまちま戦うことになるという点もダルさに拍車をかけている。
      • 異能力を持たない設定の仲間キャラも、独自の工夫や戦略という体裁により特殊攻撃を平然と使用するため、能力者のはずなのにただ殴るしかできない主人公の扱いは描写としても浮いている。
      • 一方で、敵感知/罠感知は仲間任せにできても罠解除を標準装備してるキャラは誰もいないので、該当装備を運良く入手できるまでは装備を調整した主人公が担当せざるを得ない。
    • 登場するヒロインは4人。各人のエンディングを見るためには基本、本編を一から攻略しなおす必要がある。
      • データの引継ぎが可能なので、2周目からは強くなった状態でプレイできるが、いくら無双しようともイベントRPGパートを飛ばす事はできない。
      • イベントRPGパートの難点は「ダンジョンギミックによるテンポの悪さ」と「妙に多い必敗バトルによる単調さ」にあるため、こちらの戦力だけ高くなっても不満はさほど解消しない。むしろ完全な作業と化してしまい、ダルさのみがより強調されていく形になる。
    • 見えない状態の敵と遭遇すると敵の先制攻撃となるため、ダンジョンの深部でうっかり索敵ミスをすると、一気に全滅と言う理不尽な目に遭う事もある。
      • このため、敵の居そうなポイントを逐一調べる必要があり、テンポが阻害される。
    • 難易度の落差
      • 2周目以降は難易度を選択できるが、1段階上げると敵が極端に強くなり、それまでの難易度を一度クリアした程度では全く歯が立たず、必然的に同じ難易度を数周して鍛えてから挑む事になる。
    • 主人公の武器について強化できるペースが遅く、その点も主人公の成長を実感しにくくしている。自力でCGをフルコンプした程度では8段階あるうちのランク3武器の装備条件を満たせるかどうかすら怪しいほど。
      • 最強の「ナイトオブナイト」に至っては最高難易度をかなりの数周回しなければ素材が集まらない*3

総評

今となってはベタな現代ファンタジー+学園ものだが、2001年当時としてはかなり斬新な設定であり、更にスタイリッシュなキャラクターデザインで一躍名が知れる事となった。後に『ペルソナ3』が発表されたとき、そのデザインや設定に本作との類似を指摘する者が少なからずいた事を考えると、本作がどれだけ革新的・衝撃的だったかが良く解る。
現代ファンタジーというジャンルの小説やゲームは今では枚挙に暇がないが、本作はその基本的な要素を一通り押さえており「現代ファンタジーというジャンルの原点」という意見も多い。

アダルトゲームの範疇で考えると十分に作りこまれたゲームではあるのだが、シナリオに適当で投げ遣りな部分も見受けられ、ダンジョン探索もインターフェイスが地味で、同社過去作『ぱすてるチャイム』の改修版範疇から脱却できているとは言い難い。
やりこみ要素においても単調で達成感に欠け、また世界観の違いもあるだろうが、同社看板敵キャラ「ハニー」「グナガン」といった面々がいないのも残念なところ。

総じて「アリスソフトが大々的に打ち出した大作」と言う看板を背負って立つにはパワー不足であり、ゲーム全体から見てもシナリオの不備やインターフェイスの悪さから、名作と評価するには難しい出来となってしまっている。*4
だが1ジャンルの草分けとされるほど画期的な設定や魅力的なキャラクターデザイン、平均以上のやりこみ要素等から凡作と言うにも相応しくない。秀作という言葉が実に良く似合う一作と言えるだろう。


余談

  • 今は去ってしまった絵師:Karen氏最後のアリス作品。
    もっとも画風変容のせいか、「かえるにょ・ぱにょ~ん」とは全く別の印象を受ける。*5
  • アニメ化・ビデオゲーム化もされた人気TRPG『ナイトウィザード』は基本設定*6や一部キャラクターの設定など、本作とひときわ酷似したところが散見される(ナイトウィザードの初版発行は約1年後の2002年4月)。
    • ただし『ナイトウィザード』の初期のラジオCMで「A Night Come's!」がアリスソフトの正式な許可を得て使用されたりしており、アリスソフト側からも公に認知されている関係である。
    • こういった出来事もあって*7長らく意図的なオマージュだと思われていたが、実は偶然被ってしまっただけだった(そのうえでアリスソフトにも話を通した)ことが20年越しにスタッフから明かされた
  • 本作の主題歌である「A night comes!」と、ED曲である「Square of the MOON」がJOY SOUNDで配信されているが、後者はゲーム中では歌が付いておらず、サウンドウェアに収録されたヴォーカル版の配信というやや珍しい形となっている。
  • 2024年4月19日にリマスター版『夜が来る!-Square of the MOON- Remastered』がダウンロード先行で販売された。
  • 2024年4月24日にDMM GAMESの『超昂大戦エスカレーションヒロインズ』でコラボイベント「超昂の空に夜が来る!」を開催。

最終更新:2024年08月09日 16:37

*1 なおこの隠しイベントについて、ヒント集ではFF7のエアリスが引き合いに出されていた。なぜムキムキ筋肉野郎と可憐な少女を並べるようなマネを……?

*2 前作視されることの多い「ぱすてるチャイム」ではこのような事は無かった。演出面を中心にクオリティは上がったが、育成面や戦術面に関してはクオリティ激減と言ってもいいほど。

*3 理論的には標準難易度の周回で作れなくはないが、途方もない周回数が必要。もっとも、ゲームバランスが崩壊するレベルの強さなので、意図的な調整なのだろうが。

*4 現・トップのHIRO部長が主導する作品に散見される、売り逃げじみた特徴。このため質実剛健だった前部長TADA氏の時代(ママトトとか大悪司など)を惜しむ声が後を絶たない。

*5 「ぱすてるチャイム」のあたりから同社の絵師:おにぎりくん氏の画風と被るようになっていた。廉価版ラッシュの時期にもなるとパクリ呼ばわりされてもおかしくないほど似ている。このためか、Karen氏が担当していた「ぱすてるチャイム」シリーズの後継絵師に抜擢されている。

*6 夜空に「紅い」月が浮かぶ時、異空間を生み出す侵略者が現れ、それに立ち向かう力を持つ者(特に少年少女)達がプレイヤーである……といった内容

*7 加えて、製作側が当時はPCゲーム/アダルトゲーム界隈と関わりが深かったうえ、TRPGは「◯◯っぽいことがしたい」という需要を満たすパロディ・オマージュ的な要素が入ることは珍しくない。