本記事は3DO用ソフト『飯田譲治ナイトメアインタラクティブ ムーンクレイドル 異形の花嫁』と、そのセガサターン版『ムーンクレイドル』を解説します(判定はともに「なし」)。
飯田譲治ナイトメアインタラクティブ ムーンクレイドル 異形の花嫁
【いいだじょうじないとめあいんたらくてぃぶ むーんくれいどる いぎょうのはなよめ】
ムーンクレイドル
【むーんくれいどる】
| ジャンル | アドベンチャー |  | 
| 対応機種 | 3DO interactive multiplayer セガサターン
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| 発売・開発元 | パック・イン・ビデオ | 
| 発売日 | 【3DO】1995年12月15日 【SS】1997年6月27日
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| 定価 | 【3DO】8,580円 【SS】7,480円
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| プレイ人数 | 1人 | 
| レーティング | 【3DO】3DO用審査:E 一般向 【SS】セガ審査:全年齢
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| 判定 | なし | 
| ポイント | 3DO発の実写ミステリーシリーズ第3弾 作風はサスペンスドラマから一転、オカルトホラーへ
 クリック式からマップ操作方式へ変更
 敢えてB級風味を狙った「レトロSF」がコンセプト
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概要
『京都鞍馬山荘殺人事件』『悪逆の季節』に続く、パナソニック販売とパック・イン・ビデオ発売による3DO向け実写ADV第3弾。
前作から約1年のブランクを置いて、ハード末期に発売された。
タイトルから誤解を招きそうになるが、今作はインタラクティブムービーではなく、王道的なコマンド選択式アドベンチャーである。
シリーズで唯一、セガサターンにも移植されている。
こちらはサブタイトルが撤廃され、『ムーンクレイドル』というシンプルなものに改題された。
ゲーム作品でもお馴染みのミステリー作家を起用した過去作とは異なり、今作は気鋭のクリエイターである飯田譲治氏を監修に起用。
関係者の中に代表作『NIGHT HEAD』のファンがおり、そこから今作へのオファーに繋がったのだという。
ちなみに飯田氏自身、好きなゲームを聞かれて『ポートピア連続殺人事件』『オホーツクに消ゆ』を挙げるほどのミステリーADV好きのようである。
(以上の情報はいずれもオフィシャルガイドブックより)
脚本には、その『NIGHT HEAD』にも参加した高山直也氏が起用されている。
特徴
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作風
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殺人事件を扱った過去2作から一転、今作はオカルト要素を盛り込んだスリラーテイストの作品となっている。
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主人公の根来悟朗(演:鶴見辰吾)は女癖の悪さから仕事をクビにされた元刑事。現在では探偵稼業を営んでいるが、ある日のこと、得体の知れない人探しの依頼が舞い込んでくる。
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おまけに調査を始めるや否や、知り合いの占い師からは凶運を告げられる始末。「同じ年代の女性が次々と同じ行動をとって失踪する」「事件の渦中にいる医者がある日を境に豹変した」など、理屈では説明できない不気味な現象の数々が彼を包み込む。
 
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過去作に比べて若い女性が多く登場し、ギャルゲーめいたやりとりを求められるシーンも。
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ご丁寧に、3DO版にはこの女性たち(+根来)のブロマイド風メモが同封されていた。
 
 
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過去二作同様、今作はコマンド選択式アドベンチャーとなっている。
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ただしコマンド入力のみで進行していた過去シリーズ作品と異なり、今回はアクションモードと呼ばれる場面が追加された。ここではクォータービューの現場や拠点で主人公を操作し、調査を進めていくことになる。
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有名作品で言うと『逆転検事』のような方式。
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このシステムを活かし、ステルスアクションの要領で警備を潜り抜けるミニゲームや、制限時間内に主人公を動かして謎を解く展開などが存在する。
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従来作のクリックポインタ操作は廃止された。
 
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シナリオは最長で全8章。『鞍馬山荘』同様、捜査を進めるにつれて時間が進行する。
 
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その他UI面
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拠点となるエリア(物語の進行で変わる)に置いてあるパソコンを開くことで、事件で集めた資料を確認可能。
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同様に、拠点には「禁断のヒントブック」と呼ばれるアイテムが置いてあり、どうしても進めなくなった時はこちらに頼ることでゲームを進めることが可能。
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ただしあくまで最終手段であり、使用すると内部の得点計算でもペナルティがつけられてしまう。使うたびに根来からイヤ〜な顔をされるので注意。
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ヒントの親切さは5段階あり、オプションから変更可能。
 
 
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過去作同様、マルチエンディングを採用。
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『悪逆の季節』と同じく、ゲームを最後まで遊ぶと登場人物が成果を教えてくれる。
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スタッフロールが終わった後、この映像が流れるまでは結構時間がかかるので、間違えて電源を切らないように注意。
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3DO版説明書には「5つにルートが分岐する」とあるが、ここで分かれるのはエンディング後にメッセージを告げる登場人物のみ。ストーリー自体は大まかに3種類の結末が用意されている。
 
 
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サターン版の変更点
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周辺機器を用いることで、通常のフォーマット(シネパック)より高画質なMPEG形式でムービーを見られるようになった。
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サターン互換機によっては周辺機器なしで高画質再生可能。
 
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これによって容量が増えたのに伴い、DISK枚数は1枚から3枚に増えた。
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ムービーの長さは変わらないので注意。入れ替えの手間が増えたとも言える。
 
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オープニングムービーが作り直された。
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ただし3DO版で伏せられていたネタバレが少しだけ含まれるので注意。作風への誤解を防ぐための配慮(後述)と見られるため一概に欠点ではないものの、このムービーを見るか否かで違った印象の物語になることは事前に知っておいた方がよい。
 
 
評価点
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謎解きの作り込みは過去作にも増して丁寧。
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機械的な総当たりだけでは突破できないよう、プレイヤーが思いつく行動の裏を掻いてくるような正解が随所に盛り込まれている。
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例を挙げると、「一見関係なさそうな操作をすると突破できる」「何の意味もなかった場所を再度調べると意外な変化が生まれる」など。
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そのぶん難易度は高めだが、ほとんどは真剣に考えることで突破できる程度に導線があり、真相を暴いた際に爽快感を得られやすく仕上がっている。
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最終手段としてヒントブックも用意されているので、手詰まりにも陥りづらい。
 
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謎を解くと言っても、単に設問を消化するだけでなく、メタな視点から裏をかいてくるような局面も。
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特に終盤のある場面では意外なタイミングで不正解を突きつけられ、強烈な印象を与えてくる。
 
 
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今作には、実写ADVという特徴をフル活用した展開が存在する。
    
    
        | + | ネタバレ注意・プレイ予定がある場合は閲覧非推奨 | 
ゲーム後半、ある人物に探偵の手腕をアピールしなければならない場面が存在するのだが、その内容というのはそこまで流れていたムービーシーンの内容を元に、その人物の素性を当てていくというもの。
何気なく見ていたムービーシーンについていきなり記憶力を試されるという、他では中々味わえないゲーム展開である。
この展開はムービーを使ったあらゆるゲームで実現可能だが、実写映像はその情報量のおかげで作り手の意図をプレイヤーに勘繰られないよう盛り込めるので、相性が良い。
これ以外にも、ゲーム終盤のある謎解きで似たような展開が発生する。
物語の総まとめに相応しい謎なので、一発で解けると爽快。
その後のシーンには「それまである登場人物が行っていた行動を突然取らなかった」という伏線に気付かなければならない謎解きがある。 | 
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アクションモードのグラフィックは丁寧に作りこまれており、なんと実写映像での内装を完全再現している。
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プレイヤーが眺めていた世界がそのまま実写でシームレスに表現されるので、没入感を高めるのに成功している。
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特にゲーム序盤で流れるムービーを見終えると、根来が最後に座っていたソファーにきちんと移動しているという細かい作りこみが見られる。
 
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過去シリーズに比べて進行テンポが改善された。
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今作は一回あたりでの会話の選択肢が少なく、何度も選ぶ必要が減ったので、実写映像を何度も見せられて冗長になるのが避けられている。
 
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各セーブデータにメモを残せる。
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情報量の多いゲームを遊んだ後は各データの詳細を忘れがちになるが、今作は各ファイルに具体的なテキスト(漢字使用可)を自由に紐づけられる。昨今のゲームでも中々類を見ない便利仕様である。
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特に3DOでこうした自由なセーブデータが作れるソフトは貴重なので、いつしかプログラムの脆弱性を突いた裏技に悪用されるかもしれない。
 
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サターン版のみ、本編を通しで見る機能がエンディング後に解禁される。
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分岐があるシーンは行動がランダムに決定されるため、クリア済みでも意外な展開を見られる可能性がある。
 
賛否両論点
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特徴でも述べたように、作風は3DOの過去シリーズとやや異なる。今作は非科学的な要素をふんだんに盛り込んだオカルトホラーである。
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過去作を遊んでいないプレイヤーでも、従来の推理ADVを期待すると面食らう作風になっているので要注意。
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この問題ゆえか、サターン版はパッケージを差し替えたり追加オープニングを用意したりすることで、はなから作風がわかるように工夫されている。
 
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例を挙げると、今作は序盤から「占いが重要そうな要素として描かれる」「複数の登場人物が突然取り憑かれたかのように天体に興味を持ち始める」といった風に、現在の科学で説明できない描写がふんだんに盛り込まれている。
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そういうわけで、限られた証拠だけを根拠に推理していくミステリーを期待すると裏切られるので注意。
 
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オカルトの有無を抜きにしても、今作は過去作のサスペンスドラマとは構成が異なる。
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冒頭から登場人物が殺される過去作と異なり、今作は「人探し」というやや地味な題材から始まるため、過去作に比べるとスロースターターな展開となっている。
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謎解きに関しても、過去作では様々な状況証拠から推理する流れだったのに対し、今作はパズル的な難題を一つずつ単体で消化していく構成となっている。
 
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特に特撮要素は人を選ぶ可能性大。終盤は特殊メイクやCGエフェクトが多用されるようになる。その特撮描写のクオリティも、飯田氏の意向でB級映画らしいチープさを狙って作ったものである(オフィシャルガイドブックより)。
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とりわけ最後の方は合成や爆発を多用したやりたい放題な展開となる。派手な展開が好きなら楽しめるし、リアリティを重視するプレイヤーには合わないかもしれない……
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飯田氏はこの作風を「レトロSF」と命名している。曰く、「敢えてリアリティを抑えて絵空事とわかる描写にすることで、あらゆる科学考証ができるなんでもありの世界を目指した」(大意)とのこと。実際、今作の真相は様々な考察の余地がある内容に仕上がっている。
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方向性としては同じ実写ゲーの『ナイト トラップ』に近いので、あちらの映像シーンを楽しめるか否かが今作を受け入れられる境界になるかもしれない。
 
 
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DISK枚数の減少(3DO版のみ)
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映像が売りのゲームでありながら、今作はDISK1枚組となり、過去作に比べて映像のボリュームが減少している。
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ボイスだけを再生するシーンが顕著に多くなり、俳優の表情描写は大きく減少した。
 
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ただし容量が削減されたといっても、一周あたりのボリュームは大体『京都鞍馬山荘殺人事件』と同じくらいで、当時のADVとしては極端に薄いわけではない。
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ムービーの重要度が高いシーンにはきちんと映像が用意されており、冗長なムービーが削減されたとも取れる。
 
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ムービーを求めるユーザーの第一印象に大きく関わるためか、サターン版はやや水増し気味にディスク枚数が増えている。
 
問題点
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アクションモードは操作性に難あり。
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移動速度はやや遅く、何かと壁に引っかかるので煩わしい。
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移動エリアは狭い場所が多く、これが難点に拍車をかける。
 
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シーンによっては歩き回っている人に話しかけないと物語が進まないのだが、操作性の悪さも加わって手間がかかる。
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大半のシーンは過去作のクリック方式でも成立しており、単に操作しづらくなって終わっているのが否めない。
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あちらも操作性には難があったが、今作はその点に関してさらに悪化している。
 
 
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最大の難所・電子ロック
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作品中盤において、完璧な"耳コピ"を要求される謎解きが存在する。それがこの電子ロックである。
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シチュエーションは「通りすがりに聞いた暗証番号入力音を元に、同じ音を再生する」というもの。ボタンは全部で12個ある。
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実際に遊んでみるとわかるが、耳コピなど容易にできるものではなく、音楽に触れているような人で無ければまともに突破するのは困難。推理ADVでも他に類を見ないタイプの難所である。
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ムービーで鳴っている音と入力時に流れる音が微妙に違うのも厄介である(音程は同じ)。
 
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何度も失敗していると正解音声が流れるムービーを回想してくれるのだが、焼け石に水でしかない。しっかり聞き比べても、ぴったり一致させるのは極めて難しい。
 
    
    
        | + | 物語の核心に触れるネタバレ注意 | 
今作はマルチエンディングを採用していながら、グッドエンディングに到達しても後味の悪い結末になる。
大まかに言うと、物語終盤で明かされた敵の陰謀(計画の一部に人類滅亡含む)は阻止できていないことを示唆して物語が終わる。
またビターエンドでとどめを刺せる黒幕がベストエンドでは生死不明のまま行方をくらますという、やや不可解な展開も。
後味の悪いベストエンドは『鞍馬山荘』に通ずるものがあるが、あちらはまだミステリーならではの存在意義があったのに対し、今回はプレイヤーの苦労を嘲笑うだけの結末に陥っている。
しかもこれが正真正銘のベストエンドであり、(オフィシャルガイドブックの情報を見る限り)この結末を阻止する方法は存在しない。頑張って別ルートを探したプレイヤーはご愁傷様である……
ただし作風がオカルトホラーということもあり、たとえバッドエンドでも物語単体として見る分には破綻しているわけではない。
あくまで問題なのはマルチエンディングとの食い合わせの悪さであり、初見ではきちんと意表を突かれる内容になっている点は明記しておく。
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総評
過去2作同様、ゲームで実写ドラマも楽しめる魅力は本作も健在。
しかし『鞍馬山荘』が果たした性能アピールや『悪逆の季節』のような思い切ったシステムは無く、悪く言えば地味なのが否めない。ハード末期の発売だったこともあり、映像需要の大きかった3DOソフトとしても2作ほどの反響はあまり得られていない。
ことサターン版に至っては97年半ば発売と、「ムービーが見られるゲーム」というだけでは訴求力が得られなくなって以降の作品であった。
結果的に3DOソフトとしてもサターンソフトとしても、今作は比較的マイナーな部類の作品となっている。
とはいえ元々ニッチなジャンルであった「実写ゲー」の中でも、今作のようにオカルト要素を盛り込んだ怪奇特撮ホラーはあまり類例がない。
もしこうした作風に抵抗がなければ、他にない独自の魅力を味わえる。
要所要所の伏線回収や、謎解きの作り込みも丁寧であり、一本のゲームとしては堅実に遊べる内容なので、独特の作風に興味が持てれば十分におすすめできる一作である。
余談
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今作はグッドエンドよりも、次いで最良のビターエンドを見る方が難しい。
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必要条件を満たしていれば容易に到達できる正規ルートと異なり、このエンドの方は一工夫しないと到達できないようになっている。
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最終章はヒントブック使用不可能なうえ、オフィシャルガイドブックにも達成手順後半が掲載されていない。そのうえ該当シーンの操作は厳しい時間制限があり、条件を満たせなければ約5分前のセーブ地点まで戻されるため、攻略手順を見つけ出すには苦労を要する。
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グッドエンドの条件を満たしていない場合はこのルートでのクリアを強制される。先に進む方法がわからず、「条件を満たさないとエンディングは見られない」と誤解したプレイヤーもいるのではないだろうか。
 
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このルートはグッドエンドの条件を満たしている場合でも、最終章であることを行えば突入可能。一度クリアした人でも、余力があれば探してみて欲しい。
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先に正規ルートをクリアしてからたどり着くと「こんなルートがあったのか……」と驚くこと請け合いである。
 
 
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ゲーム序盤、根来への依頼人が恋人と3DOで遊んでいるシーンがあるのだが、ここで使われているのは前作『悪逆の季節』である。
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流れてくる音声も実際のゲームのもので、今作と全く関係のない松方弘樹氏のボイスを(低音質ながら)聞ける貴重な場面である。
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セリフの内容からして、遊んでいたのはゲームの最序盤。どうやら遊び始めた直後らしいのに、作中ではこのあと恋人が失踪してゲームどころではなくなる。無念。
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録音ミスなのか、誰もコントローラーに触っていないにもかかわらず、操作しないと聞けない音声が途中で流れている。
 
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ちなみにサターン版でもこのシーンはカットされていない。
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発売時は3DOが撤退していたので、競合とすらみなされていなかった事情もあるのだろうか。
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サターン版は著作権表示にも松下電器がきちんとクレジットされている。
 
 
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シリーズ3作中唯一、PSPでリメイクされていない。
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このリメイクは実写映像をシルエットに置き換えた無茶移植となっており、そちらの惨状を踏まえると作られなかったのは幸運と言えるだろうか……(詳しい内容は『悪逆の季節 (PSP)』『鞍馬山荘 (PSP)』の記事を参照)
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いずれにしても、今作は物語後半から特殊メイク・特撮要素なども絡んでくるので、2作同様にシルエットだけで再現しようものなら他シリーズ以上に台無しになっていたのは想像に難くない。
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またガイドブックで見られる飯田氏の製作意図からしても、今作は特撮であることに大きな意義がある作品なので、実写抜きで許可が降りたかは怪しい。
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加えて今作は実写を活かした謎解きが複数あるため、そういう意味でも再現は無理筋である。
 
 
最終更新:2025年05月31日 10:38