夢幻の心臓

【むげんのしんぞう】

ジャンル RPG
対応機種 PC-8801/mkIISR
PC-9801
MZ-2500
発売・開発元 クリスタルソフト
発売日 【PC88】1984年3月
【PC98】1984年
【MZ-2500】1985年
定価 ディスク版:8,800円
テープ版:4,800円
配信 プロジェクトEGG:
【PC-8801】2015年7月21日/770円(税込)
【Switch(PC-8801)】2025年6月5日/880円(税込)
判定 なし
夢幻の心臓シリーズ
I / II / III


概要

クリスタルソフトの代表作である『夢幻の心臓シリーズ』の第1作目で、国産RPG黎明期の作品のひとつ。
死の間際、神々に呪いの言葉を発した主人公が、「夢幻界」と呼ばれる剣と魔法の世界に落とされ、蘇る方法を求めて冒険をする。
後の『ドラゴンクエスト』に先駆けて見下ろし型のフィールドとターン制バトルのオーソドックスなシステムを採用している(どちらかと言えば『ウルティマ3』がベースである)。


特徴

  • ゲーム開始時はプレイヤーネームの入力が求められ、一覧にない名前を入力すると新規セーブデータが作成される。
    • 再開時にもプレイヤーネームを入力することでセーブデータを呼び出す。なお、キャラクタークリエイトはなく、ステータスは固定。
    • 仲間は存在しない一人旅となっている。
  • 前述通りフィールドは見下ろし型で、歩いていると敵とランダムにエンカウントする。
    • 移動はテンキーで8方向に移動でき、テンキーの5を入力するとその場で休憩して耐久力(HP)を1回復できる。ただし、町の上以外で休憩した場合はエンカウントする可能性がある。
    • 一方、ダンジョン内では『Wizardryシリーズ』のような疑似3Dダンジョンを探索することになる。
    • 町の中はコマンドの中から行きたい施設を選択するADV方式。店などの各種施設の他、広場で金を払えば情報を教えてもらえる。
  • 本作には日数制限があり、30,000日以内にゲームをクリアする必要がある。フィールドで10歩歩く、もしくは休憩すると1日が経過する。
  • 戦闘はターン制のコマンドバトル。素早さの概念はなく、『ドラゴンクエスト』のように1対1で交互に行動する。
    • 攻撃方法は武器や素手を使った通常攻撃と、魔力(MP)を消費して使用する魔法の2種。魔法の中にはステータスを上下させる補助魔法も存在する。
    • 戦う以外に「会話」を行うことが可能で、人型の敵であれば攻略のヒントを教えてくれることもあるが、先制攻撃されてしまうこともある。
    • 「逃走」を選べば一定確率で逃げることが可能。逃走の成否に関わらず、経験値を一定量失ってしまう場合がある。
    • 他に「隠れる」コマンドがあり、成功すれば逃走するか不意打ちするかを選択できる。ただし、「逃走」より多くの経験値を失ってしまう。
  • プレイヤーにはレベルの概念がなく、城などで修行してステータスを直接強化していくことになる。
    • 修行でのステータスの強化には金が必要となり、日数も経過する。例えば攻撃力の修行なら一日金貨5枚を消費して1ポイントを上げられる。修行する日数は好きに決められる。
    • ただし、修行で上げられるステータスには上限があり、それ以上の強化のためには特殊なアイテムを入手した後、経験値を変換する必要がある。
    • 体力の最大値は病院で金を支払うことで1.1倍ずつ上げられる。
      • 攻撃力と命中率は体力の値が関わっている。体力が増えるごとに命中率が上がり、敵にダメージを与えていくごとに敵から受ける通常攻撃のダメージが減っていく。逆にこちらが瀕死では攻撃が命中せず当たっても低いダメージ、ということになる。魔法攻撃は体力値に関係ない。
    • 魔法もとある場所にある魔術師の館で金を払って教えてもらうことになる。
      • 覚えたい魔法を選んで対価を払うのではなく、支払う額に応じた魔法を教えてくれる方式なので、ノーヒントではいくら払えば望みの魔法が手に入るのかがわかりにくい。
      • また、同じ額で教えてもらえる魔法が複数ある場合、決まった順番で入手する。例えば金130で入手できる魔法は「攻撃魔法」「宝箱の解錠」「回避力上昇」「攻撃力上昇」の4種類あるが、必ずこの順番で教わることになる。
    • 「攻撃力」は通常攻撃の威力の他に命中率にも影響がある。「回避力」は名前の通り敵の攻撃を回避する確率に影響する。
      • 「防御力」という概念がなく、防具を装備して上昇するのはこの「回避力」。また、魔法も防御力を上げる物はなく、回避力上昇や敵の攻撃力を下げる効果の物がある。
      • 回避力上昇の魔法は「精霊よ我が盾となれ」。文字通り盾にすることで被弾率を下げるのだろうか?
  • 移動中にテンキーの0でコマンドメニューを開く。装備の変更や魔法の使用、町やダンジョンに入る際などに使用する。
    • セーブを行うのもここから。本作のセーブはゲームの中断になっており、セーブが終わるとタイトル画面へ戻る。

評価点

  • ビジュアル面
    • エンカウントした敵や町の風景が画面右上のメインスクリーンに大きく描画されるようになっており、ADVゲームのような雰囲気を高めるのに貢献している。
    • 当時のADVゲームで多用されていたライン&ペイント*1を採用しているためカクカクした絵ではあるものの、部位ごとに色味を変えたりBL影*2を多用することでカラフルさと質感を表現しており、クオリティは高い。後述のような問題もあるが、ビジュアルの良さで補っていると言える。
  • 世界観も神を呪ったことで現世と死後の間にある世界という独自の世界観で、登場する人物たちも主人公同様、夢幻界からの脱出を目指すライバルという設定になっている。このため道行く全ての人々と敵対する殺伐とした状況に説得力が持たされている。
    • 30,000日という制限時間も現実の時間で換算すれば人の一生にあたる約80年になる。こう考えるとなかなかリアリティがある。
  • 謎解きの難易度は易しめ
    • 町で情報を集めれば攻略に必要なアイテムや、そのアイテムが置いてある場所の情報などを教えて貰えるし、フィールドでエンカウントする人間キャラからは近くの町やダンジョンの方向と距離を教えてもらえるので迷いにくいなど、当時のRPGの中では自力攻略がしやすかった。
    • 当時としては珍しく周囲のマップを確認できる魔法で3Dダンジョンのマップも確認できるため、マッピング不要で迷いにくいのも良点。
    • 一見すると少なく感じる制限日数も、実際は割と余裕があるため問題にはなりにくい。

賛否両論点

  • ゲームバランス
    • 敵のステータスが乱数で変化するようになっており、乱数によっては同じ敵でもどうやっても勝てないようなステータスになる事があるため油断できない。最弱のザコである「農民」相手でも負けてしまうこともあり、慎重に立ち回ることが要求される。
    • また、装備品が一定確率で壊れてしまうため、序盤に装備を整えるのは安物買いの銭失いになりやすく、初期資金はステータスの強化に使った方が良い。当然、初回プレイでは気付けないためRPGのお約束である装備を整えることが罠になっている。
      • もしもゲームオーバーになってしまうと、セーブデータが消去されてしまう厳しい制約が存在する。一応、消去される前にフロッピーを抜いたり、プロテクトシールを使えば防げるので、こまめにセーブしながらリセット技を駆使して慎重に進めるプレイングが標準だった。
    • これらのため特に序盤のバランスが悪く、最初はひたすら稼ぎに邁進することが求められるバランスとなっている。
    • 序盤の稼ぎさえ終えればそこそこ快適に進められるようにはなるが、その頃にはステータスも上限近くになっているため敵と戦う意味はほとんどなくなってしまう。
  • 新しい武器を入手する楽しさがない
    • 序盤から王に貢物をすることでもらえる「龍の剣」の攻撃力は32、後にイベントや謎解きで手に入る「聖なる剣」と「炎の剣」の攻撃力は30。苦労して手に入れてもステータス上はがっかり感しかない。
    • この「龍の剣」が最強武器。本作は一定確率で武器が壊れるが、王に貢げば「龍の剣」は何度でももらえる。

問題点

  • テンポの悪さ
    • 前述のように本作は敵のビジュアルなどが評価されたが、一枚の絵を描画するのに10秒程度の時間がかかってしまう。
    • エンカウントすれば10秒かけて敵を描画し、戦闘が終了すれば10秒かけてクリスタルソフトのロゴを描画、町に入れば10秒かけて町の景観を、店に入ると商人の姿を……と言えば、どのくらいテンポが悪いか伝わるだろうか。
      • また、本作のメインプログラムはBASICで書かれていたため、全体的な動作速度が遅いことも拍車をかけていた。特に街の各施設は別々に用意されたプログラムを実行速度の遅いマージ命令で連結していたため、さらに時間がかかっていた。
    • 一応、コマンドの「グラフィック」をOFFにすれば塗りつぶしをキャンセルして描画速度を早めることが出来るが、あまり有効には働いていない。
    • 前述の通り、セーブするごとにタイトル画面に戻されるのが地味に面倒。
      • 本作の難易度は非常に高いため、リセット技を使うためにもマメにセーブするべきだが毎回タイトルに戻されるのはストレスが溜まる。
  • 全体的に消費アイテムが使いにくい
    • 耐久力は最大1,000まで増えるのに対し、回復アイテムである傷薬の回復量はたったの5で固定。あまりにも微量すぎる。
      • 一応、日数を消費せずエンカウントもせず回復できるというメリットはあるが、費用対効果が伴っておらず、金欠になりやすい本作では使い勝手が悪すぎた。回復魔法も同様に1回5ポイントしか回復できないが、経験値を変換して魔力を回復できるのでアイテムより使い勝手は上。
    • 洞窟内では暗闇を照らすための明かりが必要となるが、ランタンを使用する場合は別途アブラが必要になるし、ロウソクや松明は1度限りで消費される。結局、明かりを点ける魔法を覚えた方が良い。
    • アイテムは10個しか持てない上、同じアイテムでも纏めることが出来ないのも使いにくさの要因となっていた。

総評

当時世界的にヒットした『ウィザードリィ』と『ウルティマ』を折衷した良好なゲームデザインで後続作品へも影響を与えた一作*3
黎明期ゆえに未成熟な部分が目立ち、描画や動作速度の遅さ、システム的な面が面白さをスポイルしがち。
しかし、当時の不親切だったPCゲームの中では親切な部分や魅力的な世界観を有しており、全体的には佳作といったところに納まっている。

クリスタルソフトは本作で得た経験を活かして大幅に改善された次回作『夢幻の心臓II』をはじめとする良質なRPGを送り出していった。


余談

  • 前述のようにBASICで開発されていたため、PCマガジンの誌上にプログラムリストが掲載されていた。
    • 製品版でもPCに搭載されたBASICからプログラムデータをロードすれば簡単に中を覗くことが可能。やろうと思えば改造も簡単に行えるようになっていた。
  • 「魔王」という名の雑魚がいる。
    • 通常「魔王」と言えばラスボス、あるいは大魔王がいる場合の中ボスクラスなのが定石だが、本作はランダムエンカウントの雑魚敵でしかない。
      + そんな本作のラスボスは(ネタバレ)
    • 存在しない。ラストダンジョンで最後の紋章を手に入れ最後の部屋に入ればクリアとなる。
      • 主人公の目的は巨悪を倒す、や世界を救う、ではなく「夢幻の心臓」を手に入れ夢幻界から脱出し蘇ることなので、当然と言えば当然なのだが。
      • なお、ラストダンジョンにはバドーというかなり強力な敵が要所に固定配置されている。逃げることもできるのでスルー推奨だが、最後の部屋の前には二体配置されているので、やりこんだプレイヤーはこれをラスボス戦としてあえて戦う、といった楽しみ方をする者もいる。
  • 2022年4月8日にプロジェクトEGGにて『ザ・トリロジーズ -T&E SOFT / XTAL SOFT COLLECTION-』というパッケージ版が発売された。
    • 本作シリーズの3作の他、ハイドライドシリーズ、スターアーサー伝説シリーズ、『クリムゾン』シリーズや『ルーンワース』シリーズといった80年代の名作RPGやADVを収録。
    • 初回特典には復刻マニュアルや当時の開発資料のPDFデータ、『T&E SOFTシューティングコレクション』と銘打った『レイドック』シリーズなどのSTG6本なども同梱された。
最終更新:2025年06月06日 08:07
添付ファイル

*1 一本ずつ線を引いて線画が完成したら塗りつぶしていく方式。

*2 黒で塗りつぶした影のこと。

*3 実際、さくまあきら氏は『桃太郎伝説』のゲームデザインで影響を受けたことを証言している。