真・聖刻
【ら・わーす】
ジャンル
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RPG
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対応機種
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スーパーファミコン
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メディア
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12MbitROMカートリッジ
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発売元
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ユタカ
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開発元
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Jフォース
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発売日
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1995年4月21日
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定価
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9,800円(税別)
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セーブデータ
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3個(バッテリーバックアップ)
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判定
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クソゲー
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ポイント
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原作端折りすぎて意味不明 価格にとても見合わないボリューム不足 レベルを上げて物理で蹴る「しかない」 ソードマスターヤマトレベルの誤植 OYAJI NO WAKIGA
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概要
ホビージャパン社のTRPG『ワースブレイド』や小説『聖刻1092』シリーズと同じ、中世的な世界で巨大ロボット「操兵」が闊歩する世界を舞台とする『
聖刻
』シリーズの新展開として、このゲームを中心として小説(全3巻)とドラマCDと平行する形で世に出た。
つまりメディアミックスの1つなのだが、パッケージも説明書も関連作品に付いてはまったく触れていないため、気付かなかった人も少なくない。
キャラクターデザインにTVアニメ『美少女戦士セーラームーン』の只野和子、メカデザインには『エルドラン』シリーズのやまだたかひろ、と言った高い実績を持つイラストレーター・デザイナーを起用するという「鳴り物入り」の企画であったが、生まれ落ちたのは尋常ではないクソゲーだった。
問題点
シナリオ面
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ストーリーは小説版のそれを半端に端折っただけで、ゲームならではのアレンジやオリジナル要素は無い。
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本筋に関係ないサブイベントや寄り道的なダンジョンも、ミニゲームなども無い。その為小説版から入ったプレイヤーからすると新鮮味に欠ける。では小説を知らないプレイヤーが楽しめるかと言うと、下記のように配慮が全くされていない為困難を極める。ボリュームも濃いとは言い難い。
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町の住人達の台詞は、殆どがゲームに関係ない世間話。寧ろこれを削って本編を充実させるべきだ。
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小説またはTRPG版を知らないと理解できないような展開や専門用語などが当たり前のようにドカドカ出てくるが、ゲーム中にも説明書にも解説などは一切ない。
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例えば「聖刻石」が64個埋め込まれた「
仮面
」は「操兵」の動力兼制御中枢なのだが、そういった説明が無い。
概要にある通り原作に関する記述が無いくせに完全にTRPG版や小説版で設定を知っている事が前提である。
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それだけならまだしも、端折り方が雑。その為意味不明なイベントになってしまっている例もある。
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敵幹部の1人は、小説では旅の商人に成りすまして主人公をダンジョンに誘導し、待ち伏せして正体を現すという作戦を取る。しかしゲームではなぜか「ダンジョンで待ち伏せて正体を現す」だけを再現しており、意味も無く変装して待ち伏せていただけになってしまっている。
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最初の町の酒場にいる客の1人と話すと、主人公の「…!!」というセリフが表示されるが、それに対して相手は全くアクションを返さない為これが何を意味しているのかも、その客が何者なのかもまったく不明。
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ドラマCDには、主人公が酒場で昔の仲間と再会するというシーンが存在した為、これをゲーム中にもイベントとして組み込もうとして途中で放置した可能性がある。
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仲間の1人は、実はヒロインの生き別れの姉であり、敵のスパイでもあるのだが、この設定は説明書の登場人物紹介でバラされている。
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「陽気で享楽的な22歳」という記述もあるが、まったくそんな性格ではなく、むしろ陰のある女性である。またゲーム本編や小説版では16歳となっているが…?
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因みにこのキャラは巨乳のエロキャラなのだが、ゲーム中のグラフィックはへしゃげた顔で、えらいブス顔にされている。主人公のグラフィックは無駄にクオリティ高いのに…。
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なお原作絡みの情報についてこちらを参照。
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誤字脱字の山。
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町の人のセリフは殆ど句読点が無い。改行位置の調整なども無く読みづらい。
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ヒロインの名前は「ミシェルダ」だが、頻繁に「ミシュルダ」と表記される。イベントに関係ない町の人の台詞では殆どそう。
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「教」という字のフォントが無いらしく、「救」という漢字で代用されている。そのため「救会」「救えてはくれない」という意味不明なセリフが出来上がる。
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更に「青」と「育」という漢字が入れ替わって使われており、「育ざめた」「青てる」というセリフまで出てくる。そのくせ「あおい玉」という言葉はなぜか平仮名表記。
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支配する事を「統べる(すべる)」と言うが、本作ではなぜか「のべる」と表記されている。複数回登場する表現なので、スタッフが本気でそう思い込んでいたらしい。
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「なんだこの光りは!?」「不思議な話しね」。正しくは「光」「話」。
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送り仮名程度ならまだ良い。酷いものになると「仮面の変りに新たな仮面が…」。…ツッコミきれない。
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1つの単語の中に平仮名と漢字が入り混じっている事があり、非常に読みにくい。
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「1人」「修理」「再統合」→「ひと人」「しゅう理」「再とう合」など。
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ラストバトルのイベント中、「!」を「?」と3回も誤植している。
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「洗脳は解けない…って?」「私が真の契約者だ?」「ここは危険だわ?」。ここまでくるとわざとか!?
システム面
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ゲームオーバー時に「はじめから」を選ぶと、バグ画面に飛ばされる。
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ヤルマ砦という場所の右下からも、バグ空間へ行ける。
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SFC後期のRPGだというのにBGMは10曲ちょっと。それだけならまだしも使い回しの嵐。
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OPとEDとフィールドの曲は同じ。ラスボスの曲も中ボスの曲と同じ。
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曲自体の出来は酷いわけではないが、特別良いわけでもない。
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宝箱を開けると、なぜか陰鬱なサウンドが鳴る。
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ダンジョンは単なる迷路で、落とし穴・ダメージ床・鍵のかかった扉などの仕掛けは一切無い。またマップパーツは「山」と「地下(洞窟)」の2種類のみ。『RPGツクール』の手抜き作品レベルである。
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普通のRPGは、ダンジョン内に立っているボスに近付いたり話したりすると戦闘になるため、戦闘前にセーブしたり回復したりと準備ができる。しかし本作では、ボスが出現する場所の目印が無い事が多い(「只の通路を歩いていたら突然ボスが出現」「勝手にパーティが動き出し、画面外で待っていたボスの元まで歩いていく」など)。
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故に初プレイでは「セーブもできずにボス戦に入り、負けて経験値が無駄になる」という事が起こりやすい。所謂初見殺し。
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画面切り替えにいちいち時間がかかる。『摩訶摩訶』ほどではないが。
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メニュー画面・店の買い物画面・移動先指定画面などでは、なぜか主人公の全身像が背景に表示される。また、このときのコマンドのフォントが妙に細く大きいため読み辛い。
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「小回復」「全回復」という、開発段階の仮称をそのまま持ち込んだかのような名前の魔法(原作の魔法とは別物)。
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なお「全回復」は、移動中は最初から使えるのだが、なぜか戦闘中はレベルを30台にしないと使えない。
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戦闘は最高3人の「パーティ戦」と、操兵に乗って行う「操兵戦」の2種類があるが、どちらも問題だらけ。
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どちらの戦闘も、雑魚は同時に2匹までしか出現しない。しかもどいつも通常攻撃しかしてこない。パーティが受けるステータス異常は、HP0の「気絶」のみ。
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雑魚は、主人公のレベルが上がるにつれて強い敵が出るようになっていく…のだが、「敵Aと敵B」「敵Bと敵C」といったように、単に組み合わせが1つずつずれていくだけである。
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しかも同じレベルでいる限り敵の出現パターンは2種類しかなく、違う場所で戦っても主人公のレベルが同じであれば同じ敵が出る。
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パーティ戦では、道具を使えない。魔法は使えるが、「霞冷気」「霞温気」は効果が不明(説明書にも書かれていない)。
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眠りや混乱の魔法はあるが、使えるキャラが途中で抜けるため一時期しか使えない。
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フィールド移動中の戦闘と殆どのボス戦は操兵戦となっているが、使えるコマンドは命中率の高い「殴る」と、殴るに比べて威力が2倍強で命中率が半分以下の「蹴る」の他は、「逃げる」「防御」のみ。しかし操兵戦は主人公1人で行うため、「防御」の使い道は無い。しかも防御してもダメージに変化がみられない。
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これは操兵戦に限りすべての能力が
主人公の器用度依存
のため。プログラム上は防御値を倍にしているのだろうが、参照先を間違えていると考えられる。確かに兵器の操縦桿を操作するのは器用さがないと難しいかもしれないが、そんなことをゲームに無説明で持ち込まれても困る。
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序盤で乗る操兵は殴ったり蹴ったりしか出来なさそうなデザインだが、途中で乗り換える操兵は背中に剣を2本背負っている。なお、攻撃演出は「殴る」「蹴る」にかかわらず斬撃らしきエフェクト。
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新しい力を得てパワーアップするかのようなイベントもあるのだが、能力は全く変化していない。
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「殴る」は弱すぎて戦闘が長引く=ダメージが累積しやすいため、戦闘が早く終わる可能性のある「蹴る」を使わざるをえないが、7回連続でミスったりして「殴る」より長引くことも。
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ボスの攻撃はアニメーション付きだが、効果はどれも「ただのダメージ」で、しかも絶対にミスらない。
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例外的に中ボスのゼルウ・ゾーキ・バンギの3人のみ、ダメージ以外の行動も取る…のだが、効果がまったく不明で、実質何もしないで1ターンを消費している。
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操兵用の装備品や強化パーツなどは存在しない。操兵の攻撃力・防御力は主人公の「操縦」というパラメーターによって決まる…と説明書にはある。
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ただ実際は主人公の器用度に依存しているため間違い。
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従ってパワーアップのためには基本的に「主人公のレベルを上げる」しかない。即ちレベルを上げて物理で蹴る「しかない」。
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しかし本作では現在の経験値も次のレベルまでの必要経験値も表示されない。連戦があるボスでは、レベルアップによる全快を狙って事前に経験値を調節する必要がある…と言いたいところだが、レベルが上がるタイミングが本当にわからないので…。
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「知力」「練法力」というパラメーターが有るが、説明書によるとどちらも魔法の威力に影響するものであり、しかも常に同じ数値である。だったら片方だけで良いのでは?
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操兵戦に限り主人公にしか経験値が入らない。
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装備品は武器と鎧だけ。どのキャラも全種類を装備できる。武器は装備した後も素手に戻せるが、防具は一度付けると交換しかできなくなる。
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最強クラスの武器が、木棍棒・二節棍(ヌンチャク)・三節棍と棍系。武器はナイフ系→剣系→槍系→棍系と強くなる。
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小説の基幹シリーズ『聖刻1092』の主人公が棍を使っていた為と考えられるが、1092の主人公は刃物を禁じられている修行僧であるのに対し、この作品の主人公は盗賊である。
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なお『1092』においても、主人公が操兵で扱う最強武器は「聖剣」である。普段は封印されていて鞘から抜けない為、操兵戦でも棍を使っているが。
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武器は攻撃力が上がるだけ、防具は防御力が上がるだけで特殊効果など一切無く、装備する楽しみや使い分けといった楽しみも薄い。
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しかも店では数値が表示されておらず、装備前後にいちいちステータス画面を見て変化を確認しなければならない。まあ「値段が高ければ強い」という単純なものなのだが…。
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パーティ戦のザコは基本的に金を落とさない。操兵戦のザコなら落とすが、前述の戦闘システム故に稼ぐには非常に効率が悪いため、装備を買い替える事もままならない。そのくせラスボスは大量に金を落とす。何の意味も無い。
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フィールド移動は、行き先を決めると勝手に歩いていくというものだが、一度歩き出すと目的地に辿り着くまで戻ることはできない。
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移動中はなぜかライフゲージ・燃料ゲージが共に常に満タン表示になっており、正しい残量を確認できない。
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説明書には「燃料が無くなると移動できなくなる」とあるが嘘で、実際には普通に移動できる。ただし戦闘に入ると自動的に逃げ出してしまう。
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なおこの「燃料切れによる強制逃走」は100%成功する。ボス戦でも。そしてそのボスは普通に倒した扱いになる。これを繰り返すだけで低レベルのままストーリーを進める事すら出来てしまう。
尤も、ラスボス戦の前座として相応のレベルが必要な主人公1人によるパーティ戦があるので、これだけでクリアは出来ない。
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因みに本作では水を燃料としている(酒場で補給できる)が、原作の設定では水は燃料ではなく冷却水である。原作でも冷却水は必須の消耗品(1週間程度で蒸発)であることに変わりは無いが、それでも燃料と呼ぶのは変であろう。
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メニュー画面は一応開けるが、操兵用の回復アイテムは存在しないのでセーブぐらいしかできることはない。
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「コクティ峠」「ヤルマ砦」というマップは、入った途端ボス戦になる。このボスに勝てないレベルで、これらの場所に行く道の途中でセーブをしてしまうと詰む。
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エンカウント率もおかしく、戦闘終了後に1歩も歩いていないのに次の敵が出たりする。一方、パーティ戦のエンカウント率は妙に低い。
プレイ時間の半分近くがレベル上げに費やされる、という中身のなさ並びにバランス調整のダメ具合。寄り道要素もない。これで税別9,800円ははっきり言って詐欺である。
評価点
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敵操兵のグラフィックは細かい。またボス操兵の攻撃アニメーションは1体に2種類ずつ用意されており、それぞれ凝っている。
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しかし効果は前述の通り「単なるダメージ」か「効果不明」の2種類のみ。しかもラスボスはアニメーション無し。
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レベルアップの際、HP・MPが全快する。主人公の場合は、操兵の燃料・ライフも全快する。
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移動・脱出関係の魔法やアイテムは存在しないので、いちいち町に戻らなくて済むのは便利ではある。
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もっともボスを倒さないと出られないダンジョンにオートイベントで放り込まれる事がある本作では、そうでもないと詰むだけなのだが。
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また、この仕様や「全回復」の魔法が最初から使える事・戦闘中に道具を使えない事などから、回復アイテムの使い道はほぼ無くなっている。
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町やダンジョン内での移動速度は速い。しかし、ある程度直進していると何かに引っ掛かるように一瞬動きが止まる事がある。
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フィールド移動中にセーブさえしなければ、とりあえずレベルを上げればいつかはクリアできるので、その点だけは『聖刻1092 操兵伝』よりはマシかもしれない。
総評
ショボいグラフィック、誤字脱字、説明不足なシナリオ、正気を疑う戦闘システム、おかしいゲームバランス、間違っている説明書、理解不能なバグと、クソゲーお決まりの要素の殆どを併せ持っている。
1つ1つを見れば、これより悪いというソフトはいくらでもあるだろう。しかし本作の凄さはその「あらゆる分野において満遍なくクソ」というオールラウンダー振りにある。
致命的なプログラムミスも無く、「仕様通りに作られているはずなのにクソ」だという意味では、KOTY2008年次点の『プロゴルファー猿』に近い…
のだが、実はこのゲーム、「クソゲーお決まりの要素」の中で、ただ1つだけ持っていないものがある。それは、「パッケージ詐欺」である。パッケージには、誇大広告や嘘は一切書かれていない。
それもその筈、本ソフトのパッケージ裏には、簡単なストーリーと4枚の画面写真が載っているだけで、キャッチコピーやセールスポイントはおろか、「こんなシステムがある」といった具体的な説明すら一切書かれていないのだ。
ウリとなる要素自体がまったく無いのだから、書きようがなかったのだろうが。
小説版『真・聖刻』そのものが、目下ワース関連で中核となっている長編小説『聖刻1092』の前日譚というべき位置づけになっているのだが、だからと言ってこのボリュームのなさはどうかというところである。
原作付きであることそのものが分からない人もいただけになおさら。
余談
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スタッフロールに「スペシャルサンクス OYAJI NO WAKIGA」という表記がある。
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当時刊行されていた学研の学習誌『4年の学習』にて、本作の外伝小説が掲載され、さらにソフトのプレゼントもあった。何考えてるんだ。
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小説の登場人物の1人がその後どうなったかを題材とした短文の募集もあった。
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これらの事から、『真・聖刻』という企画自体はそれなりに力を入れて行われていたことが窺えるのだが…なぜ肝心のソフトはこんな出来になってしまったのだろうか?
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尤もホビージャパン自身が発売した前作『リングマスター』(X68000)も微妙な出来だったのだが。良くも悪くも非電源ゲーム屋なのだろう。
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「クイーンズブレイド(クイーンズゲイト)シリーズ」は成功と言えるが時代が違う……と言うかコンピューターゲーム版の成功はバンナムの功績の方が大きいだろう。
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後に『聖刻1092』を原作としたゲーム『聖刻1092 操兵伝』も発売されたが、そちらも出来のほうはお察しくださいとしか言いようがなかった…。
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「仮面に埋め込まれた聖刻石」に関しては大きく取り上げられることになった。
クソゲー扱いされる最大の問題点となってしまったが…
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原作となる聖刻1092シリーズや、聖刻1092の下敷きとなったワースブレイド関連のメディアミックスは長らく休止状態にあったが、2016年に「ワースリブートプロジェクト」と題して再始動。17年末には小説を起点にしたメディアミックス企画「聖刻-BEYOND-」がスタートするなど復活の兆しを見せている。
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「現代を舞台にした美少女ガチ百合ロボットバトル」という
『神無月の巫女』な内容に面食らった旧シリーズのファンも多かったようだが、クラウドファンディングでは目標額の120%を達成するなど順調な滑り出しを見せている。今度こそクソゲーに巡り合わないことを祈るばかりである
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レベルアップの際に表示される、画面を覆い尽くすほど大きな「LEVEL UP」の文字が「クソデカレベルアップくん」として一種のネットミーム化している。
最終更新:2022年02月03日 19:00