本記事では、2016年発売の『名探偵ピカチュウ ~新コンビ誕生~』および2018年発売の『名探偵ピカチュウ』について記述します。
名探偵ピカチュウ ~新コンビ誕生~
【めいたんていぴかちゅう しんこんびたんじょう】
ジャンル
|
シネマティックアドベンチャー
|
|
対応機種
|
ニンテンドー3DS (ニンテンドー3DSダウンロードソフト)
|
発売元
|
ポケモン
|
販売元
|
任天堂
|
開発元
|
クリーチャーズ
|
配信開始日
|
2016年2月3日
|
定価
|
1,500円(税8%込)
|
備考
|
2018年1月12日に配信停止(完全版発売に伴い)
|
判定
|
良作
|
ポイント
|
渋い声のピカチュウ(CV:大川透) とっつきやすい推理ゲーム よく作り込まれた世界観 本作単体ではプロローグ相当の内容
|
ポケットモンスターシリーズ
|
ストーリー
舞台は、人とポケモンが共存する街、ライムシティ。
ある目的を果たすため、少年ティムはこの街にやって来た。
そこで偶然の出会いを果たす、ティムとピカチュウ。
新しい物語が、ここから始まる。
(任天堂ソフト紹介より引用)
概要
ポケットモンスターのスピンオフであり、ピカチュウを主人公にした推理アドベンチャー。
グラフィックは全て美麗な3DCGで構成されており、シネマティックアドベンチャーというジャンルに見合って様々な部分が作り込まれている。
本作に登場するピカチュウは、これまでのピカチュウと違い、人間的な表情モデリングを採用。細かい表情付けを可能とした。
中でも本作最大の特徴は、ピカチュウが人の言葉を喋ることにある。
さらにピカチュウ役の声優には、アニメやゲーム本編でお馴染みの大谷育江氏ではなく、渋いバリトンボイスが持ち味の男性声優・大川透氏を起用。
それ以外の声優に関しても、秋元羊介氏や田中敦子氏といった大ベテランを始め、男女を問わず外画の吹き替えを主に担当している人物が多く、本作の独特な空気感を作り出している。
推理モノ、という体裁なため、先のキャスティングの件を含めて雰囲気はハードボイルドテイストである。
一方ポケモン達の鳴き声は声優によって表現されており、路線としてはアニメ版に近い。
実際のキャスティングにもアニメ版に携わっている音響監督の三間雅文氏に協力を要請しているという。
これらの要素は、ポケモンの世界観を崩さない程度にシックなイメージを演出しつつ、新たな作風を生み出している。
本作はサブタイトルが付いているように連作であり、2018年3月24日に本作の内容も含んだ「本編」が発売された(後述)。そのため本作はプロローグ編に当たる作品になっている。
なお「本編」の発表に合わせ、2018年1月12日に本作は販売停止された。
基本システム
-
主人公の少年・ティムと、何故かティムとだけ言葉が通じる相棒のピカチュウの特性を利用しつつ、周囲で起こった事件の解決を目指す。
-
この際、人間からの聞き込みはティム、ポケモンからの聞き込みをピカチュウが担当する。
-
そしてそれぞれが集めた証拠から、事件の真相に迫っていくという、推理ゲームとしてはスタンダードな作りである。
-
プレイヤーは事件の起こる3Dのマップをある程度自由に歩き回れる。
-
そこから証言や証拠物品を収集し、主人公ティムがピカチュウに提示することで推理が進行する。
-
推理などの捜査は下画面のタッチパネルで操作し、こちらにはメモなども表示される。
-
また、単に証言を聞くだけでなく、周囲のポケモンの習性・特徴・性格などを理解し、それらを分析して活かすことも求められる。
-
行動中はタイミングを問わずピカチュウに相談することも出来る。話しかければ今自分が何をすべきかも教えてくれる。
-
これは捜査の相談という側面と、ピカチュウのキャラクター性の掘り下げという側面も併せ持つ。
本作のピカチュウ
-
本作のピカチュウは、かつて主人公ティムの父親・ハリーのピカチュウだったのだが、なんらかの理由で記憶を失くしている。
-
探偵帽を被り、アニメ版のニャースよろしく二本足で歩くのがデフォルト。口元も従来のピカチュウと異なり人間的になっているのも特徴。
-
ただし件のニャースのように人語を話せるわけでなく、何故かティムにだけこのピカチュウの言葉が分かるという設定である。
-
コーヒーと綺麗な女性が大好きというオッサン臭い設定で、実際中年をイメージしたキャラ作りがなされている。
-
何故か電撃技を始め、全般的な技を使うのが苦手で、二本足で歩いているせいか走るのも不得意。
-
「ピカッと閃いた!」が決め台詞。探偵であるハリーの相棒だったためか、彼もまた探偵としては優秀。
評価点
-
作品の世界観が丁寧に作り込まれている。
-
世界観は老若男女に通じるもので、あくまでもポケモンとしてではあるが、大人でも楽しめる雰囲気作りがなされている。
-
さりとて子供を置いてきぼりにしているわけではなく、任天堂らしく万人向けな雰囲気作りに成功している。
-
ポケモン図鑑の設定や生態の重視
-
ポケモン達は本編のポケモン図鑑に記されている設定や生態によって個性付けがされており、それが上手く人間社会に溶け込んでいる。
-
そしてそれらポケモンの設定が違和感なくかつ存在感のある形でシナリオに組み込まれているところも評価が高い。
-
密かに「人間社会の中で生きるポケモンの生態」に焦点を当てた作品は珍しい。本編シリーズの主役はあくまでトレーナー達であるし、不思議のダンジョンを始めとするポケモンが主役の派生作品はポケモンだけが住む世界であったりするため。
-
中には大半のプレイヤーが忘れているであろう設定で存在をほのめかすポケモンも存在する。
-
声優のキャスティング
-
本作の最大の目玉といえばこれだろう。「散々候補を探した結果、満場一致で決まった」という大川氏の演技は実に絶妙。冒頭、渋い声で「ピカピーカ!」と鳴き声を発するシーンはシュールそのもので、プレイヤーの笑いを誘う。
-
「ピカチュウのイメージが崩れる」という批判もあるが、そもそもポケモンは同一種でも個体差があり「大谷育江氏のピカチュウ」以外のピカチュウもたくさんいるのが当たり前。
-
一応男性が演じるのは初ではないのだが、大川氏のようにメインとして抜擢されたのは初めてである。
-
大川氏以外の声優も先の通りTVアニメより外画で活躍している声優が多く、先の世界観に上手く色付けしていると言える。
-
なお、主人公ティムは少年的なキャラクターであるが、少なくとも「車を運転出来る」「青年と呼ばれることもある」大学生程度の年齢設定であり、声も男性声優が担当している。
-
とっつきやすいゲーム性
-
「ポケモンの推理ゲー」というだけあって、殺伐とした感じは薄い。
-
「ピカチュウとコミュニケーションが取れる」という特徴を最大限に使っており、物証・証言集めは普通に楽しめるレベルに個性は出ている。
-
これまでにない斬新なストーリー
-
探偵ものであるが、本作で何者かを殺害するような事件などは起きない。ただし「誰かに殴り倒される」「ポケモンが凶暴化する薬を盛る」などといった、本家と比較するとやや物騒さが増したエピソードが多い。
-
特に最終エピソードはミステリー定番のミスリードを狙った要素もあり、見る者を飽きさせない。
-
また、最初の事件では、弾けた赤いきのみが被害者のエイパムに付着しており、まるで流血しているように見えたりもする。
-
消息不明の父を探すために危険を冒す主人公、という設定もシリーズとしては斬新である。
-
美麗なグラフィック
-
本家とはまた違うモデリングが採用されており、どちらかと言えば据え置き版のポケモンに近い。これにアニメ版のイメージを足して2で割った、という感じ。
-
ピカチュウのモデリングは先述の通り人間の表情をモチーフとしており、特に細かく作り込まれている。セリフを喋る際はそれが顕著。実際モーションキャプチャーが利用されているらしい。
-
また、人間達も本編とは違い実在に近いモデリングである。そのため、ポケモンと人間が共に生活していて、プレイヤーが本当にポケモンが実際に現れた世界を体験できる。
賛否両論点
-
登場ポケモンが新作に偏り気味
-
明らかに万人向けを狙っており、初代ポケモン直撃世代なども十分射程圏内に収めた作風なのだが、登場するポケモンの多くは第三世代以降からのポケモンが多い。
-
ただ、古い作品のポケモンばかり出せば良いというわけでもなく、やはり一番旬の作品から選んでいくのは当然ではある。
-
新旧のバランスを意識した『ポッ拳』が近い時期に出た事が、賛否を拡大する要因か。
-
続編の方では第七世代のポケモンを始め、出番が少ない世代のポケモンが気持ち多く増えた。
-
ゲームとしては非常に難易度が低い
-
イベントで所々にQTEが発生し、ボタン連打やタイミングよく押す必要があるが、連打回数が非常に少なく、タイミングも入力猶予が緩く、簡単にクリア出来る。
-
万が一失敗しても直前の場面からやり直しになるため、ゲームオーバーの概念が無い。
-
QTE以外も犯人の指摘を間違えても、ピカチュウが「おいおい違うだろ!?」と口を挟むため、何度でもやり直しがきく。
-
良く言えば小学生や幼稚園児一人でもクリアが可能な易しい難易度だが、ゲームとしては歯ごたえが無い。映像作品としては楽しめるクオリティであるため、そのように楽しむことを推奨する。
問題点
-
続編前提故にボリュームが薄い
-
1,500円という価格設定に合ったボリュームといえばそれまでだが、普通にプレイすれば大体半日もかからない程度のボリュームしかない。良質な世界観だけに「もっと浸りたい」と思わされる内容故に残念な点。
-
さらにピカチュウの謎を初め、伏線なども肝心なことはほとんど明かされていないため、モヤモヤしたというプレイヤーは多い。
-
セーブデータが一つのみ+オートセーブ
-
サブイベントを見逃した場合、戻ってやり直すことは不可能。
-
所謂ギャラリーモードのようなものもないので、イベントを回想して見ることも不可能。
-
2周目としてクリア状態を維持したまま最初から始められる機能もあるが、その機能中はセーブ不可能。
-
なので2周目途中でプレイを中断したい場合は、そのままスリープモードにするしかない。
-
ただし上記の通りボリューム自体は薄い為、2周目をセーブなしでプレイし切ること自体はそれほど難しくはない。
名探偵ピカチュウ
【めいたんていぴかちゅう】
ジャンル
|
シネマティックアドベンチャー
|

|
対応機種
|
ニンテンドー3DS
|
発売元
|
ポケモン
|
販売元
|
任天堂
|
開発元
|
クリーチャーズ
|
発売日
|
2018年3月23日
|
定価
|
4,980円(税別)
|
判定
|
良作
|
ポイント
|
『新コンビ誕生』を含めた完全版 未回収部分はあるがストーリーに一区切り
|
概要(続)
上記の続編かつ完全版であり、『新コンビ誕生』の内容も一通り含まれている。前作と異なりパッケージ版も発売された。
評価点(続)
-
前作で指摘された問題点が概ね解消されている。
-
各章毎にストーリーが選べるようになった。もう一度やってみたくても最初からやり直すのは面倒…な問題も解消された。
-
『新コンビ誕生』時点では3章相当だったストーリーが約3倍に増加した。エピソード毎のボリュームも増えているためすぐ遊び終わることにはならない。
『新コンビ誕生』のクリアデータがあれば、追加された4章から続きをプレイ可能となっている。
-
登場した世代に偏りがあったポケモンが概ね全世代登場するようになった。
問題点(続)
-
本作でも未回収の伏線は残っている。
-
ネタバレを含むため詳細は割愛するが、本作終了時点でも問題や疑問点や伏線の回収されていない点がある。
-
これらに関してはSwitch版の続編で回収されている。
-
一部問題のある行動
-
物語であることを考慮しても問題行動があるシーンがいくつかある。特にピカチュウが
盗品を自己中心的な理由で購入し、代金は立て替えたままで自分は一切支払っていない
という場面は群を抜いた問題行動と言えるだろう。
-
捜査上必要であったある場所への入場に、全く別の事件の犯人が持っていた入場券を無断で使用している…まではまだしも、その中でその犯人がチャージした大金を関係のない盗品の購入に充てている。「盗品の回収のため」等と嘯いてはいるものの、すべての盗品を回収したわけでもなく、購入直後の振る舞いからも私情を感じさせるなど、その行動には目に余るものがある。
総評
「大川透氏が演じるピカチュウを聞きたい」という動機だけでも購入する価値があるくらいには楽しめる作品。
一見シュールな内容に見えるが、映像作品として見れば世界観作りが丁寧であり、引き込まれるだけの魅力は持っている。
ただしシナリオ的に消化不良な点が残っているのが残念。続編のSwitch版で完結するため、興味があればそちらも是非遊んでみてほしい。
余談
-
完全版の発売直後の期間限定で、『新コンビ誕生』を購入していた場合はDL版に限り、『新コンビ誕生』の購入価格である1,500円引きで購入可能だった。
-
2013年に、NHKのテレビ番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』でポケモンシリーズプロデューサーの石原恒和氏が特集された際、「開発中の新しいポケモン」として本作のタイトルと映像が少しだけ紹介されていた。
-
このため存在だけはかなり早い段階からファンの間で周知されていたが、正式に発表されたのは番組の放送から約2年半が経ってからだった。番外編ながらかなりの難産タイトルであったようだ。
-
ゲーム中に、アニメでおなじみの大谷育江氏が演じるピカチュウとの共演シーンが存在する。
-
その時に大川ピカチュウが発する「夢はいつか叶う」という台詞(アニメ主題歌である「めざせポケモンマスター」の歌詞の引用)はプレイヤーを大いに沸かせた。
-
なお、このシーンでは大川ピカチュウと普通のピカチュウの体型を比較することが可能。
-
しかもこれは単なる夢の共演というだけではなく、「ティムはハリーのピカチュウとしか会話出来ない」という事実を示す重要なシーンだったりもする。
-
ゲームをクリアするとピカチュウとの会話シーンをランダムで見続けられるオマケ機能がある。
-
ただし、背景は全て研究所中庭で固定な為、行動と噛み合わないシーンも見られる。
-
早期購入特典に小説『イーブイからの依頼』が冊子及び電子書籍で付けられた。
-
内容は本格的な小説となっており、内容的に小学校高学年以降の世代でないと理解しづらい難しめの文章となっている。
-
本作発売同時に『amiibo 名探偵ピカチュウ』が販売された。
-
他のamiiboと異なり非常に大きく、価格も2,980円(税別)と上がっている。
効果はゲーム内の条件を満たさないと見ることのできない「ピカチュウサイン」を全て見られるようになるというもの。
-
2019年に『名探偵ピカチュウ』としてハリウッド映画化された。
-
ピカチュウの声と表情のモーションアクターをライアン・レイノルズ氏が、日本語吹替を西島秀俊氏が担当。また、ゲーム版ではピカチュウ本来の鳴き声も大川氏が演じているが、映画ではおなじみ大谷育江氏の声になっている。
-
ティザーで公開された「モフモフ具合がリアルすぎるピカチュウ」から、原作からの改悪が危惧されたが、「現実世界にうまく落とし込んだ幅広い世代のポケモンたち」や「原作愛に溢れたエンディング」など、原作ファン納得の出来栄えとなっており、最終的に全世界で4億ドル以上の興行収入を記録した。
-
本映画のワンシーンで登場する「悲しみで顔面がしわしわになったピカチュウ」はコアな人気を誇り、ポケモンセンターでぬいぐるみ化されている。
-
本作と劇場版の内容は一部共通設定はあるが、内容は全くの別物となっている。
-
2019年にポケモン事業戦略発表会にて、本作の「R」事件解決後の物語や映画版とは異なる結末を描く完結編がNintendo Switchでの発売が発表された。
-
「Nintendo Direct 2023.6.21」では『帰ってきた 名探偵ピカチュウ』が発表され、2023年10月6日に発売された。
-
ただしピカチュウの声優が大川透氏から山寺宏一氏に、ティムの声優が内田雄馬氏から上村祐翔氏に変更されている。
最終更新:2024年09月10日 20:37