水島新司の大甲子園
【みずしましんじのだいこうしえん】
ジャンル
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スポーツ・シミュレーション
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2Mbit+64kbitROMカートリッジ
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発売元
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カプコン
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発売日
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1990年10月26日
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定価
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6,500円(税別)
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プレイ人数
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1~2人
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判定
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良作
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ポイント
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「タッチ」と並ぶ名作野球漫画のゲーム化 『キャプテン翼』風のコマンド方式を野球に導入した意欲作
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概要
水島新司の代表作の1つで週刊少年チャンピオンで連載された「ドカベン」「大甲子園」が原作。
カプコンによるドカベンのゲーム化はアーケードの2作品に続く3作目。「ビジュアルカードゲーム」と銘打ったAC版とは別内容であるもののシミュレーション要素をはじめベースになっている部分は多い。
コマンド入力のスポーツゲームで、テクモ開発の『キャプテン翼』を参考にしていると思われる。
ゲーム内容
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ゲームモードは明訓高校を操作して地区予選と甲子園大会を勝ち抜く「大甲子園」と好きなチームを選んで対戦する「対戦モード」の2種類。
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大甲子園では様々なシチュエーションでの試合を勝ち抜き甲子園優勝を目指す。主にダイジェスト進行だが試合途中からノーカットで進行する試合もある。
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大会の進行は選手権神奈川大会→夏の甲子園→秋季神奈川大会→秋季関東大会→春のセンバツ→夏の甲子園の順。2回目の夏の甲子園では選手が一部入れ替わる。
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対戦相手は基本的に原作に沿っているが、試合展開はゲームオリジナルである。また対戦しない高校や、本作オリジナルの高校も存在する。
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1試合勝つごとにパスワードが表示され継続プレイが可能。
2回目の夏の甲子園で優勝するとエンディングを迎えるが、その後特別試合としてvs南波OB戦、vs東京メッツ戦が組まれている。
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選手にレベルや経験値の設定はない。ただし新チームで能力が変化する選手はいる。
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対戦モードではvsCOMまたはプレイヤー同士での試合が行える。また大甲子園モードのパスワードを入力することで選択できるチームが増える。同一チームでの対戦は不可能。
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イニング数に関係なく、10点以上点差が付くとコールドゲームが適用される。
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投球および打撃は5×5のマス目上で展開される(内側3×3の9マスがストライクゾーン)。
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先に投手が球種とコースを選択し、打者はコースを参考に狙いの球速とミートゾーンを選択する方式。変化球は投球後にコースが変化する。
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投手は最低2つ以上の球種をもっており、1ページにつき1~3球種が表示されるが、どの球を投げたかは打者にはわからないようになっている。
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球速は「おそい・ふつう・速い・超速」の4種類。球種は投手によって異なり最大で3ページ分もつ者もいる。
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「超速」のボールを投げられるのは一部の速球派投手のみ。このスピードに対応できるのも一部の強打者のみとなっている。
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ゲーム内では明かされていないが球質も設定されており、投手によって長打を打たれる確率に差がある。ほぼ原作のイメージ通りの設定となっており、たとえば明訓の里中は球質が軽く、同じく明訓の岩鬼は球質が重い。
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投手のスタミナや選手の試合中の故障退場といった概念はない。
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打者の基本コマンドは「打つ」「見送る」「バント」「ヒットエンドラン」「盗塁」「スクイズ」の6種類。また走力もA~Dの4段階で設定されている。
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打者のミートゾーンの形状とマスの数(1~6マスのいずれか)は選手によって異なる。また打者にはミートゾーンと同じ扱いの得意コースがある。
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ミートゾーンの形状によってはマス目の隅に届かない隙間ができるため、COM戦ではそのマスを攻めることで三振が奪いやすくなっている。ただし内角のボール球は死球になることがある。
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球速とコースが合えば打者はボールを当てることができる。この時ミートゾーンと得意コースが重なっていればヒットの確率が上がる。
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ただし球速が1段階ずれていてもコースが合えばバットに当たることがある。この時打者が選択した球速が1段階上の場合長打が出やすくなる隠し仕様がある。
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リリース時のSEは球速によって異なる。打者側はリリース直後のタイミングでBボタンを押せばスイングを止め、見送ることができる。
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打者と一部の投手はPOWを消費することで特別な決め球や秘打を選択できる。明訓の選手が使える決め球・秘打は以下の通り。
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「さとるボール」里中智の決め球で、縦に大きく落ちる速い球。
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「剛速球」岩鬼正美の決め球で、超速のスピードボール。他校にも同様の球を投げる投手が存在する。
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「白鳥の湖」殿馬一人の秘打。回転して打つことで長打が出やすい。
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「黒田節」殿馬の秘打。バットの先端に当て、強力な逆回転をかけることで打球のバウンドを変え、内野安打を狙う打法。見た目に反してバントとは見なされておらず、2ストライクでこの秘打を使ってファウルになってもスリーバントは適用されない。
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「神打」殿馬の秘打。ファウルゾーンから大きく曲がってフェアゾーンに落ちてくるため捕球しづらい。
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「豪打」山田太郎と岩鬼のみが使える技。野手のグラブを弾き飛ばす痛烈な弾丸ライナーを放つ打法で、高い確率でホームランとなる。他校にもこの技をもつ強打者が何人か存在する。ゲーム内での表記は「ごう打」。
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「フルスイング」山田、岩鬼、殿馬以外の選手が使える技で、長打が出やすい。他校では豪打をもたない選手が使える。
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大甲子園モードでは試合毎に選手のPOWストックが設定されている。また試合中三振を奪うことでストックを増やすことができる。
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守備はセミオートでプレイヤーが操作できるのは送球先の塁指定と捕球時のPOW使用の有無、ライン際の打球を捕るか見送るかの判断である。走塁は完全オート。
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選手の交代やPOWの配分はスタートボタンで設定画面に移行することができる。
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COM戦では相手投手の球種・コース選択後にスタートを押すと、プレイ画面に戻った際に選択をやり直すため、これを繰り返して打者の得意コースやボール球ばかり投げさせる
イカサマ裏技がある。
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原作者の水島新司が審判として登場している。この演出はアーケード版にも存在していた。
評価点
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投打の駆け引きの妙
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当時の野球ゲームのトレンドであった『ファミスタ』のスタイルを安直に踏襲せず、原作のウリであった綿密な投打の読み合いをコマンド方式により再現しており、野球ゲームとしては独特の作風が確立されている。
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1ページに表示される球種は最大で3つとある程度予測を立てられる範囲。高めから落ちるボールとみせかけてストレートを投げるといった読み合いが面白い。
また打者毎に変化するミートゾーンと得意コース、ここぞという場面でのサインプレイなど、多彩な戦術を楽しめるようになっている。
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多彩なシチュエーションかつテンポの良い試合展開
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一打サヨナラの場面やランナーを背負って強打者相手の場面など、試合の要所要所をプレイしていくシステム。ゲーム中盤以降は一筋縄ではいかない試合が続くが、やり込む程に攻略法を見つけていく楽しさもある。
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選手の個性を再現
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岩鬼はミートゾーンを1マスにし、ボール球全てを得意コースにすることで悪球打ちを表現。殿馬の秘打や球の軽さを多彩な変化球で補う里中、山田の圧倒的なバッティング。
対戦相手では超速球と超スローボールを投げ分ける不知火守(白新)や通天閣打法の坂田三吉(通天閣)、砲丸投げの賀間剛介(甲府学院)など各選手の個性を上手に再現している。
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レベルの高いグラフィック・サウンド
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攻守にわたり試合シーンのグラフィックパターンは多彩。POW使用時には専用グラフィックも用意されており、特に山田と岩鬼の豪打使用時の一枚絵は大迫力。
打者走者が1塁に向かって全力疾走する姿も、原作に漂う1敗も許されぬ戦いに臨む泥臭くも必死な雰囲気が実によく表れている。
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音楽担当は下村陽子。明訓四天王の個別曲や強打者専用曲、ゲームが進むごとに緊迫感の増すBGMでゲームを盛り上げる。
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特に里中の打席時BGMは他の四天王メンバーとは一線を画し、シリアスさや勇壮感が前面に打ち出された曲調となっており、原作での逆境に直面することの多い彼の描写が巧みに表現されている。
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殿馬は秘打使用時にそれぞれの名前の由来となった楽曲がそのままBGMとして流れるという凝った演出が存在する。
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対人での対戦が可能
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大甲子園モードと対戦モードでは球種の選択操作が異なっており、大甲子園では十字ボタンで球種を選択しAボタン、対戦モードでは十字ボタンを押しながらAボタンとなっている。
これにより対人戦でも相手がわからないように球種を選択できるようになっている。
問題点
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選手の会話シーンがない
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試合展開の説明は全てアナウンサーの実況という形式で、試合前後の選手同士のイベントやミーティングも存在しない。『キャプテン翼』と比べてこの点には物足りなさを感じる。
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グラフィックの流用の多さ
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容量の都合で仕方のないところではあるが、対戦相手で固有の顔グラフィックをもつ選手が1~2人程度で、汎用顔グラの選手が多い。谷津吾朗(横浜学院)、義経光(弁慶)、国立玉一郎(メッツ)といった主要選手が残念ながら汎用顔グラである。
また明訓では今川正夫と夏の甲子園(2回目)で登場する蛸田蛸、上下左右太、高代智秋、香車一直の5人がこれに該当する。今川に関しては似たような経緯で入部した仲根とどこで差が付いたのだろうか。
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ちなみに才蔵旭(青田)と丹波左文字(南波OB)は武蔵坊数馬(弁慶)の顔グラを流用している。顔立ちは似ているものの武蔵坊、左文字と違い原作の才蔵には右目の傷はない。
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投手・打者のグラフィックは複数の体型パターンからそれぞれの選手にあったものを当てはめるという形式が基本であり、固有グラを持つのは岩鬼のみ。守備時は岩鬼・殿馬の捕球時(フライ・ゴロ・ライナーの3パターン)が固有で、送球・走塁はいずれも共通グラである。
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投手以外の野手の利き手も考慮されておらず、本来左利きの山岡や仲根が共通グラフィックのせいで右利きになっていたり、右打者から決め球で空振りを奪った際のグラフィックでは捕手が現実ではまずあり得ない左利きになっていたりする。
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明訓選手の決め球・秘打に使い勝手の悪いものが多い
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里中の「さとるボール」は変化量こそ大きいものの、球速は「速い」止まりでどの打者でも当てることが可能。里中の球質が軽いこともあり、特に強打者相手の場合はPOWを消費するほどの効果は見込めない。
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殿馬の秘打のうち「白鳥の湖」と「神打」は長打が見込めるもののアウトになる可能性があり、後ろに山田が控えていることも考慮すると無理に使う必要性は薄く、フェアゾーンに転がれば確実に出塁できる「黒田節」より役に立つケースはほとんどない。
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どういう訳か、今川はゲーム中の選手で唯一「遅い」スイングが出来ず、そのためカーブなどの「遅い」変化球をヒットにするのは難しく、ある意味原作以上に使えない選手になってしまっている。
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パスワードのメモ・入力方法がやや面倒
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本作のパスワードは5×5のマスに赤・緑・青のボールを2つずつ配置するというロックマンシリーズに似た入力方法となっている。が、前述の通り選手のレベルや経験値の設定はなく対戦相手の違いしか反映されないため、もっと簡単なパスワードにすることは可能だったと思われる。
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ゲームオーバー時に即コンティニューが出来ず、タイトル画面に戻される
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コンティニューするにはその都度パスワードを入力する必要があり、この点でも面倒になっている。
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COMはPOWを無限に使用してくる
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白新高校の不知火との二度目の対戦辺りから、対戦投手が決め球を使ってくる頻度が高くなる。
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難易度調整の一環ゆえか、不知火や犬飼小次郎といった俊足描写のない細身体型のライバル選手の走力が軒並みA設定になっている。
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巨人学園戦の難易度が飛びぬけて高い
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夏の甲子園(2回目)準決勝の巨人学園戦は5点ビハインドで4回裏の攻撃から、POWのストック0という厳しい場面からのスタートとなる。
その上巨人学園は打者に三振が狙えるミートゾーンの選手がおらず、エースで3番の真田一球は超速球と豪打をもち走力Aという戦力的にも非常に厄介な相手。
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とはいえ裏技なしではクリア不可能といった理不尽なレベルではなく、むしろこの後の試合の難易度がぐっと下がっているのが問題点ともいえる。
総評
コマンド入力による特殊ながら投打の駆け引きを体現できるシステムを作り上げ、演出面でも原作の雰囲気を丁寧に再現した良質のキャラゲー。
対戦プレイでは明訓以外の学校も選択できるので、原作になかったカードで試合をするのもまた一興である。
余談
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2023年シーズンから使用されている千葉ロッテマリーンズの山口航輝の個人応援歌は、本作の里中のテーマが原曲となっている。
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採用のきっかけになったのかは不明だが、原作の続編にあたる『プロ野球編』では里中自身ロッテに入団していた。
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球場のフェンスには広告として開発元のカプコンの文字が入っているが、原作の時代設定は1970年代頃と推測されており、同社としてはアイ・アール・エム株式会社として創立する時代に相当する。
最終更新:2024年08月19日 01:39