アスタロン -地球の涙-
【あすたろん ちきゅうのなみだ】
ジャンル
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ACT
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対応機種
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Windows 7/8/8.1/10(Steam) Nintendo Switch
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発売元
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DANGEN Entertainment
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開発元
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LABS Works
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発売日
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2021年6月3日
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定価
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【Steam】2.050円(税込) 【Switch】2,200円(税込)
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:C(15歳以上対象)
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判定
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良作
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ポイント
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快適な操作性のファミコン風アクション 「死」を鍵にしたストーリーとシステムの発明的融合
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概要
「メトロイドヴァニア」に属する2Dアクション。
少ない色数のドットで構成されたビジュアルや、チップチューンによるサウンドといった、ファミコン風の表現が意識された作りとなっている。
舞台は、水源に毒が注がれ人類滅亡へと向かう世界。
使命を帯びて旅を続ける3人の若者は、砂漠にそびえたつ禍々しい塔へと足を踏み入れた。
ここでの戦いが人類の命運を決めると確信する彼らだが、そのうちの1人、アルガスは死のタイタン・エピメテウスと密かに契約を交わすのであった。
キャラクター
本作のキャラクターデザインは80年代後半~90年代にかけて幾つかの商業誌連載を持っていた漫画家・見田竜介が手掛けている。
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アルガス
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本作の実質的な主人公で、白髪の青年。中距離の魔法弾を操る。
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エピメテウスと取引を行い、モンスター達の魂を献上する代わりに「何度死んでも生き返って塔の入り口からやり直せる」という契約を交わした。
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パーティの調理担当であり、キャンプの際にはキノコやスライムを用いたモンスター料理を仲間に振る舞っている。
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アリアス
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全身を鎧に包んだ少年で、剣を扱う。
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正義感は強いが精神的に幼く、白髪のアルガスを年齢不詳と言ってからかうことがある。
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クユリ
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弓の扱いに秀でた盗賊の少女。
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身が軽く、ジャンプしたその足で壁を蹴って更に高所へと飛び乗ることができる。
特徴
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「死」がチャンスとなる成長システム
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本作にはHPや攻撃力、特殊技といった概念があるが、それらの成長機会は通常のプレイ中には無く、「死んだ時」にのみ訪れる。
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操作キャラが死亡するとアルガスがエピメテウスの間に送られ、モンスター撃破によって集めたオーブ(魂)を元手にHPアップや個々の成長を行うシステムとなっている。
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3人の特徴を活かしながら探索する仲間切り替え制
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中距離攻撃で扱いやすいアルガス、マップ内のツタ壁を壊せる近距離型のアリアス、ジャンプ力と攻撃範囲に秀でるが連射が効かないクユリ、と3人の操作感や攻撃タイプは差別化されている。
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ゲーム中では状況に応じ、彼ら操作キャラクターを切り替えながら探索を行うこととなる。
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但し序盤のうちは、セーブポイントでしか切り替えを実行できない。
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回復手段がほぼ皆無の高難度指向
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本作は難度が高めに設定されており、敵やトラップによるダメージがそこそこ大きい割に、回復手段が殆ど用意されていない。
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まずダメージ感について、初期HP30に対し、概ね敵からの被弾(単なる接触含む)のダメージが5前後となる。雑魚敵相手であればおおよそ6回少々の怪我で死を迎えるという具合。
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対して回復源はマップ内にごく僅かに固定配置されている燭台で、これを破壊することで「5」回復するというもの。
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この燭台、忘れた頃にやっと1本立っている程度にしか存在せず、しかも一度壊すとショップで修理アイテムを購入しないと復活しない。そのため財政が安定するまでは使い捨てであり、その微小な回復量含め到底アテにできるものではない。
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他にセーブポイントで「休む」コマンドが出ている場合のみ、アルガスの手料理イベントによってHPを「25」回復させるという手段がある。
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しかし「休む」コマンドもストーリーの進行に応じ回数制限つきでの発生となるため、常に頼れるものではない。
評価点
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「死」にペナルティが無いカジュアルさ
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上記の通り難度が高めのゲームとなっているが、死=ゲームオーバーではなくオートセーブのうえエピメテウスとの取引に移行するため、死ぬことによるデータの手戻りが無い。
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そこまでに得たオーブ、アイテム、マップ踏破状況は持ち越すので、失うものがほぼ無く、いわゆる「デスルーラ」の感覚で気軽にやられることができる。
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今すぐゲームを止めたいという時も、セーブポイントを探すより死んだ方が早い。
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何ならセーブポイントをセーブ機能のために使うことがないままクリアできてしまう。
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「死によって成長する」というコンセプトだけ聞くと重たいゲームに思えるが、構図としてはショップと宿屋に強制送還されるだけの話であり、ストレスの少なさとシリアスさをうまく両立させているといえる。
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ちゃんと制限を意識したレトロ演出
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ドット絵表現はきっちりファミコンチックに仕上がっており、主人公たちや敵などの動作を要するキャラクターは、スプライト描画を模して3色以内に抑えられている。
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ブロックや背景もそれぞれは黒+2色で構成されており、一度に画面全体に提示される色数も控えめな量となっている。
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BGMはファミコンと比較すると基本的な同時発音数を超えているものの、音色そのものは矩形波+三角波1音+ノイズという適切な構成。
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アスペクト比は16:9のままというのも含め、あくまで「レトロ風」ではあるのだが、感覚としてはファミコンソフトで遊んでいるのとほぼ変わりない仕上がりといえる。
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一方で操作感は懐古的な不親切さなどなく、ある程度快適である。
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想像力と好奇心を刺激する意匠
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まず本作の物語は最初から最後までたった1つの塔で完結しており、エリアごとに差別化されているとはいえ、ほぼ全て暗い石造りのダンジョン内での出来事である。
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しかし塔内のそこかしこに彫刻、模様などの意匠が施されており、これがいかにも「謎めいた未知の異文化」的な雰囲気を出している。
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セーブポイントに建てられた巨人像、水を吐き出す獅子の口、マップの行き止まりに存在する巨大顔面、余白に彫られたライオンの横顔などがあるが、そのほとんどは何らかの謎解き要素があるわけではなく、その割に使いまわしが少ない。
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勿論イベントに関与するものもあり、例として婦人の肖像画のあるマップでは、呪われたアイテムを獲得すると同時に亡霊が出現し肖像画も白骨化した姿になる、という味な演出が施されている。
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こうした「何か意図があるのかな」というワクワク感がそこかしこにちりばめられているため、広大なダンジョンとはいえ探索にマンネリ感が少ない。
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多くの場合ゲーム的な意味は薄く、世界観の造成目的である点を踏まえると、『La-Mulana』シリーズにおける背景の役割に似ているかもしれない。
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遊び心も感じさせる豊富なやり込み要素
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ノーマルクリアに到達するまでも初回10時間ほど要するボリュームだが、やりこみ要素がそれなりにある。
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まずマップ踏破率100%を目指すならプラス5時間。またノーマルクリア時点でボスラッシュモードと敵キャラ使用モードが解禁される。
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モンスター図鑑全埋めについても、普通にクリアするだけでは図鑑に掲載されない敵がいるためなかなか難しい。
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加えて、ニューゲーム開始時に即進行方向と逆に進めば、塔の出口から出る隠しエンドが見られる。
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こういったプレイヤーの好奇心に応えてくれる要素の存在は、遊び心を感じさせると同時に、「このゲームはプレイヤーを楽しませようとしている」という信頼に繋がるポイントといえる。
賛否両論点
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常に塔の入り口からリスタートする仕様の印象
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そういうストーリーなので当然だが、死亡後、エピメテウスの間でのやりとりを終えた後は必ず塔の入り口から再開となる。
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再開地点のすぐ横の部屋にエレベーターがあり、塔内各所で乗り場を起動しておけば行き来できるようになる仕組み。
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つまりショートカット機能なのだが、このエレベーターが各エリアに基本1個、ボス部屋の直前にしか存在しない。
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そのため新しいエリアに入った後に死亡すると、塔の入り口から再開し、エレベーターに乗り、1つ前のクリア済みエリアのボス部屋へ行き、後は地道に同じ部屋を攻略するという流れになる。これが意外に強い徒労感をもたらす。
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とはいえゲームデザイン的に良い面もあり、常に一定の地点から開始することで、パラメータの成長やプレイヤー自身のプレイスキルの上昇に気付きやすいともいえる。
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また、アイテム効果によってボス部屋の場所を表示させたり、前回の死亡地点に到達するとHPが回復したりといった要素もあるため、目的意識を持たせる工夫はなされている。
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パーティメンバーの増加による功罪
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ゲームを進めることでいつでも仲間切り替えができるようになり、更には操作キャラも2名追加されるのだが、この切り替えが順送りでしかできない。
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そのため即時対応を求められる場面ですぐに狙った仲間を呼び出すのが難しく、しかも5人となるとそもそも並び順を覚えにくい。
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仲間が増えること自体は単純にゲーム的ご褒美といえるし、ストーリーの深みも増す長所なのだが、システムの方でカバーしきれていない印象が強い。
問題点
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アイテム効果が獲得するまでわからない
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エピメテウスとの取引でラインナップに並ぶアイテム群は、リストにあるうちはその名称しか分からず、オーブを支払って初めて効果が明かされる。
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ものによっては無駄遣いになってしまうどころか、「(プラス効果もある代わりに)被ダメージが上がる」という半分地雷のようなスキルもあるため、情報不足を超えて騙し討ちに近い。
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ちなみに道中の探索で得られるアイテムも、初期状態では効果があえて解りにくく書かれており、特定のアイテムを取引することで詳細な説明が出るという仕掛けがなされている。
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その特定のアイテムの名称は「知識」(180オーブ)。攻撃力やHPアップは2ケタ台の消費で済むため、効果説明なしでこれを買うのはやや度胸がいるところだろう。
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翻訳がイマイチ
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スタッフロールから類推するにローカライズには日本人が関わっている様子なのだが、少々文章が野暮ったい。
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特に口語的な単語のチョイスやリズム感が宜しくなく、例えばアルガスの料理を褒めるクユリの「これは本心よ!」などは「本当にそう思うわ!」などの方が会話文として適切。
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一方コミカルシーンでは「ウザい」などの俗語が多く含まれており、これはこれで世界観に合わない。
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また、海外ゲームのテキストには「(小声で)○○だな…」のように口調を補強するカッコ書きがしばしば見られるが、これがそのまま入っているのもあまりふさわしくない。
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全般的に誤訳はないが翻訳後に行われるべきリライティングの質が悪く、声に出すとしゃべりにくい印象のテキストも多いため興ざめしやすい。
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本編以外でボス撃破演出が長すぎる
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撃破したボスは時間をかけて、しかも悲痛な表情を浮かべながらバラバラと崩れ落ちていく。当然、苦労が報われる瞬間ではあるのだが、これがおまけモード、特にボスラッシュモードでも同様に行われるのでかなりじれったい。
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最初のボスを例にとると、まず断末魔の叫びを数度あげつつ血の池に沈んで退場(12秒)→背景の石仮面が4回に分けて破裂(6秒)→大量のオーブを吐き出す(6秒)→次のエリアに繋がる鍵が石仮面の額からゆっくり降下(6秒)→鍵を取ると画面が静止しファンファーレ(6秒)、でやっと先の扉に進めるようになる。自分のことをラスボスと勘違いしている長さである。
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本編ならば初見、しかも道中相応に苦労した末での演出なので良いが、さすがにその他のモードではスキップするなり遠慮してほしかったところ。
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アルガスとクユリ以外の影が薄い
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最大5人まで仲間が増える割に、うち3人の活躍機会が異常に少なくなりがち。
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というのも移動シーンにおいては全員ジャンプ力が横並びであり、クユリだけが壁蹴りで更に高くジャンプできるという性能を持つ。移動速度は変わらないためこの時点でクユリの使用頻度が上がりやすい。
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アルガスは連射の利く中距離攻撃ができるうえ、アイテム獲得によってジャンプ後、ゆっくり滑空できるようになる。トラップや小さな足場の連続するエリアで重宝。
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他の3名は「一部のブロックを壊せる」など、特定の仕掛けへの対処係という面が強いため、通常探索においてはどうしても使う機会が少なくなる。
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アリアスについてはダッシュを覚えることで移動効率に寄与できるのだが、攻撃のリーチの短さが何かと辛い。
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むしろ前述の仲間切り替えにおいてはクユリとアルガスだけ使いたい局面が多く、他のメンツは存在するだけで邪魔という印象すら受け得る。
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全く意図のわからない劇画化
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作中の顔グラフィックはイメージイラストに準拠した可愛らしいデフォルメイラストとなっているが、これがマップ踏破や隠し要素の収集を進めていくと、なぜか何の前触れもなく絵柄が変化する。
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アリアスはシリアスな正面顔になり、アルガスの後ろにかきあげた髪は現実的な長さになり、クユリは妙に色気のある大人の女性のようになってしまう。
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キャラクターの受け入れやすさが変わってしまううえ、瞳を異常に大きく描く画風が特徴的だった見田竜介の風味が失われているし、そもそも画風を変える理由が全く見当たらない。完全な謎要素となっている。
(※なお、絵柄は上記の隠し要素を収集したのちであればメニュー画面のシークレット項目から任意で切り替え可能)
総評
高難度アクションはどうしても「死んだ際のリスク」が高く、プレイのモチベーションにも直結しやすい。
しかし本作は「死んでも全てを引き継いでセーブされる」仕組みにしたうえ、それをストーリーに組み込むことで悲愴的なムードを崩さずプレイアビリティを向上させている。
プレイ上の都合をコンセプトでカバーしたという点でかなり上手に設計した結果と言えるだろう。
細かい欠点もあるが、ファミコン風ビジュアル・サウンドの偽物感の少ない仕上がりを含め全体的な手触りは良い。
メトロイドヴァニア好きに対してもおすすめしやすい一作である。
最終更新:2023年03月10日 08:49