消えたプリンセス

【きえたぷりんせす】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 ファミリーコンピュータ ディスクシステム
発売・開発元 イマジニア
発売日 1986年12月20日
定価 5,000円
プレイ人数 1人
判定 ゲームバランスが不安定
ポイント 自力クリア不可能な難解さ
高い自由度は評価の余地あり


概要

1986年からファミコンに参入したイマジニア社の2作目。
同社はWAVE JACKシリーズと称したメディアミックス戦略を展開し、ゲームソフトの他に豪華な装丁で厚みのある説明書を兼ねた副読本と著名な歌手を起用したテーマソングやラジオドラマを収録したカセットテープなどを同梱し、ゲームの持つ世界観を大幅に増幅させたことで世間の注目を集めた。
本作ではテレビドラマや映画で主演を勤め、後にCM女王と称されるほど有名になった女優の富田靖子氏をキララ役に据えてテーマソングの歌唱も担当させている。
またカセットテープに収録されたラジオドラマでは当時の一流の声優*1を多く起用しており、このゲームにかけるイマジニア社の意気込みが大いに伝わってくる。


ストーリー

ラビア王国の王女キララが35日後の載冠式を前にして日本に親善訪問したが来日から5日後に忽然と姿を消してしまった。キララとともにラビア国の王位を証明する「五種の神器」も行方不明になった。事態に激怒したキンキンキラキラ国王は流行性痴呆症の特効薬であるオニノフグリの輸出停止を宣言する。

22歳の新人刑事の小林もんたは警察学校での成績不振ゆえに卒業後最初の赴任先が田舎の猪鹿町になったことで、やや腐れ気味だった。プライドに比して刑事としての仕事ぶりは不振をきわめ失敗続きだったが、たまたまラーメン屋を出たところで強盗犯と遭遇し逮捕に至る手柄が評価されて、キララ王女捜索を命じられる。


システム

  • 主として俯瞰型4方向スクロールの町で情報収集。街は5つあり、トンネルや地下通路などで異なる町との往来ができる。30日の時間制限があり、各日とも22時までしか捜索できず、同時刻に町にいるとその場で布団を敷いて寝てしまう。捜索には費用もかかり、署から毎日お金が支給される他、アルバイトや報奨金(捜索とは無関係な事件解決)による収入も得られる。
  • 町には膨大な数の民家や商店などの建物があり、そのほとんどに入ることができ、入ると対応に出た人からコメントが得られる。コメント表示中にメニューを開くことで、アイテムをあげたり逮捕するなどの行動を取ることができ、それによってさらなる反応を得ることができる。
    • 会話中のコマンドで同行している警察犬「小次郎丸」を呼び出し、街中にいる動物から聞き込みをすることもできる。
  • 横スクロールのシューティングステージもごく少数だが存在する。ゲーム冒頭ではこのステージで集めたお金が捜査開始時の所持金となる。

評価点

  • 自由度が高く、広大なマップを散策するだけでも十分楽しい。ゲームに時刻の概念が用いられるのは、このゲームが発売された時期では大変珍しく画期的なもので、時間の経過に伴って消耗した体力を食事で補ったり、時刻によっては入れない建物があるなど、この町で暮らしているような感覚を味わうことができる。
  • それぞれの町に膨大な建物があり、そのほとんどすべてに入ることが出来て、入ると対応に出た人から何らかのコメントを得ることができる。そのコメントのほとんどが捜査には何の役にも立たないが、刑事事件における気の遠くなるような聞き込み捜査を実感することができる。
  • 本作はゲームソフトの他にポスターサイズの大きな地図、警察手帳、副読本、カセットテープが同梱されている。副読本は捜査の進展状況や町の観光ガイドのような読み物など充実した内容で大変読み応えがあり、ゲームの持つ魅力を大いに増幅させることに成功している。
    • またカセットテープもラジオドラマやテーマ曲の他に主人公小林もんたと上司の鬼河原警部の会話が収録されており、何度もリピート再生したくなる充実ぶりである。またゲーム序盤の解答も少しだけ語られていて、このゲームを進めていく手助けもしてくれる。
  • BGMもテーマ曲も良作揃い。とくにテーマ曲は本作のために書き下ろされたオリジナル曲である。WAVEJACKシリーズ三作のうち「銀河伝承」「聖剣サイコカリバー」に収録された曲はいずれも荻野目洋子とポピンズの持ち歌であり、プロモーション目的で1番のみ収録されていたのに対し、本作ではA面に「消えたプリンセス」B面に「プリセンスを救え!」がフルコーラスで収録されている。これら二曲は本作オリジナル曲であるためレコード発売はされておらず、これらの曲を聴くためにはゲームを購入する必要があった。
  • 個性的なキャラクターは、イラストもドット絵も可愛らしい。

問題点

  • 聞き込みで入れる民家の中にはハズレのものも含まれており、殴られて体力が減少したりすることもあるため、理不尽感を受けやすい。
  • 五種の神器の発見方法があまりにも荒唐無稽で、攻略本に頼らず自力でクリアできるとは到底思えない難解さで、上記評価点で記した聞き込み捜査の意義が台無しになっている。
    • 例えば、五種の神器の一つ「ロザリオ」の入手法はらくがき町にある十字路の真ん中で22時を迎えて野宿することだが、町内で得られる情報を集め分析したところで到底このような方法で入手できると結論付けられるものではない。ロザリオ(十字架)だから十字路の真ん中で野宿するという発想には到底至らないものであり、難解を通り越して常軌を逸している。
      • 街中にはランダムで銃撃してくる敵キャラクターが出現することがあるため、長時間一箇所に留まる野宿という危険な選択はしにくいという事情もある。
    • 同様に「アムラビ法典」もあけぼの町の本屋を訪問し「最近景気が悪くてね」とぼやいたところでマツタケをあげるとお礼に差し出されるのだが、書籍だから本屋にあるかもという発想は出来ても、そこでマツタケを差し上げるという正解には自力の捜査ではたどり着けそうにない。
      • そもそも五種の神器はキララ王女とともに行方不明になったもので、それらを発見することで王女の足跡をたどり、最終的には王女の発見に至るというのがストーリー上の在るべき筋であろうが、なぜそこに神器があったのかという、王女の失踪と散逸した神器との関連性は最後まで明らかにならず、神器の発見方法の荒唐無稽さと相俟って、ストーリーおよびゲームそのものの完成度の低さが露呈される結果となった。
  • 本作が発売された1986年は、どこのメーカーもゲームの難解さを競う傾向にあった。そんな煽りを本作も受けたのだろうか、『ドルアーガの塔』以後しばらく続くことになったノーヒントでの謎解きが本作にも残念ながら盛り込まれている。
    • 『ドルアーガの塔』と違って多数の文字情報がありながら、肝心の神器発見の方法は『ドルアーガの塔』の宝箱のように、脈絡のない行動を取ることで正解を探るしかない。しかもそれを『ドルアーガの塔』の各フロアとは比較にならない広大な世界の中で行うのだから、自力での発見など到底不可能である。
    • 副読本には「印籠」のある場所が写真で載っているほか、「アルパカの骨」については場所こそ不明瞭だが壁らしき場所をダイナマイトで破壊すれば良さそうな写真が載っている。また、ロザリオと十字路、書籍と本屋、といった関連性も持たせていることから作り手のプレイヤーへの配慮もある程度見受けられるが、それは攻略本等により正解を知ってから初めて気づくものであって、自力クリアを目指して悶絶している限りはそんなことまず気づくことはない。

総評

副読本やカセットテープといったメディアミックス戦略としては完成度が非常に高く、可愛らしいキャラクターデザインやコミカルな世界観と相俟って、発売された1986年においては稀有な存在感を持った作品として、本来なら大いに評価されていいものと言える。
残念ながらセールス的に振るわなかったのか、同社のWAVE JACKシリーズ3作目『聖剣サイコカリバー』では全く無名な女性ユニット「ポピンズ」*2が起用され、同梱の副読本やカセットテープも内容がやや貧相なものとなり、結局はこの3作目が最後となってしまった。
WAVE JACKシリーズ1作目『銀河伝承』が不評だったことも、本作のヒットに至らなかった不幸な要因の一つか*3

せめて、先に問題点として述べた五種の神器の発見方法を王女の足跡をたどる重要なヒントになるよう仕掛けにもう一工夫加えてくれていれば、自力でクリアできたプレイヤーもそこそこ現れただろうし、その人たちによる高評価を受けることもできただろう。
そう思うと本当に残念な、惜しい作品と言える。


余談

  • 本作はメディアミックス戦略の一環として発売されたこともあって、ディスクシステムのゲームでありながらディスクライターでの書き換えサービスに対応していない。また、今日に至るまで他機種への移植やダウンロード販売も一切行われていない。本作をプレイするためには実機を用意し、ゲームソフトの中古品をネットオークション等で入手するしかない。希少性には乏しいらしく、2024年時点では数千円程度で入手可能であるが、ソフト・ハードの経年劣化を考慮するともはやプレイすること自体が困難になりつつある。
  • 副読本の中に、3時間でどこまでゲームを進めることができるか毛利名人に挑戦させたプレイ記録が掲載されている。わずか2時間半でアルパカの骨を三つ目の神器として発見したと記されている。なんとも信ぴょう性を疑いたくなる内容である。また、シューティングステージで「必殺の15連射」を発揮したと記されているが、このゲームはアイテムを装備しても最大4連射しかできない仕様になっていて、高橋名人と競った連射能力が必要かどうかはなはだ疑問といえる。
  • 同梱のカセットテープのA面では富田靖子が歌うテーマソング「消えたプリンセス」が聴けるが、B面にもう一曲「プリンセスを救え!」という曲が収録されている。カセットテープの歌詞カードにはこの曲の歌詞がないばかりか、誰が歌ってるのかも記されていない。なお、歌っているのは木村真紀という人物である。
最終更新:2024年08月17日 03:39

*1 主人公の小林もんた役を務めていたのは当時19歳の岩田光央氏であった

*2 吉本興業東京支社所属のアイドルユニット。他作品だと『さんまの名探偵』に彼女たちをモチーフとしたキャラクターが登場している。

*3 ディスクシステムのソフトとしては高価格であった点も要因の一つであろう。付属品を含めて見た場合、価格としては妥当と言えるであろうが。