最終更新日時 2011年03月04日 (金) 21時53分30秒
代数的整数論 #003 (86-165)
元スレ: http://science4.2ch.net/test/read.cgi/math/1141019088/86-165
ログ元: http://2se.dyndns.org/test/readc.cgi/science4.2ch.net_math_1141019088/86-165
ログ元: http://2se.dyndns.org/test/readc.cgi/science4.2ch.net_math_1141019088/86-165
86 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/29(水) 09:23:04
>>85 はKoszul複体を使って証明するのが普通。 というかそれ以外の証明を他で見たことがない。 まあ、わりと自然で簡単な証明だから他の誰かがきっとやってるとは思うが。
87 :132人目の素数さん:2006/03/29(水) 10:33:47
命題 A をネーター環とし、I をそのイデアルで I ⊂ rad(A) とする。 M を有限生成 A-加群で、M ≠ 0 とする。 x_1, ..., x_r を I に含まれる M-正則列 とする。 n_1, ..., n_r を整数の列で各 n_i > 0 とする。 このとき、(x_1)^(n_1), ..., (x_r)^(n_r) も M-正則列である。
証明 各 i に対して i ≠ j なら n_j = 1 のときの場合、つまり
x_1, ..., (x_i)^(n_i), ..., x_n
がM-正則列であることを示せば、一般の場合はこれから直ぐでる。 よって、この場合を証明する。
>>85 より、x_i を最後に移動した列
x_1, ..., x_r, x_i
も M-正則列である。 一般にM-正則な元の任意のベキ乗もM-正則だから、
x_1, ..., x_r, (x_i)^(n_i)
も M-正則列である。 よって、再び >>85 より (x_i)^(n_i) をもとの位置に戻した列
x_1, ..., (x_i)^(n_i), ..., x_n
も M-正則列である。 証明終
88 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/29(水) 10:37:45
>>87 に私のIDを付けるのを忘れた。 後の検索のために注意しておく。
89 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/29(水) 10:45:36
訂正 >>87 >x_1, ..., (x_i)^(n_i), ..., x_n
x_1, ..., (x_i)^(n_i), ..., x_r
90 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/30(木) 10:45:13
>>86
Zariski-Samuelの本の付録にKoszul複体を使わない証明が載っていた。 しかし、その証明は >>85 とは異なる。
91 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/30(木) 18:17:26
正則列を弱めた概念である準正則列(quasi-regular sequence)に ついて述べる準備として、フィルター付環とフィルター付加群について 述べる。フィルター付環は、局所環の完備化や重複度とも関係するので 可換代数において重要である。
定義 A を環とし、A の加法群の部分群からなる A_p, p ∈ Z の降列 ... A_p ⊃ A_(p+1) ... で以下の 条件 (1), (2) を満たすとする。
(1) (A_p)(A_q) ⊂ A_(p+q) が任意の p, q ∈ Z に対してなりたつ。
(2) 1 ∈ A_0
ここで、Z は有理整数全体の集合であり、
(A_p)(A_q) は 集合 {xy; x ∈ A_p, y ∈ A_q} で生成される A の部分群
を表す。
このとき、A をフィルター付環という。 列 (A_p) を A のフィルターと呼ぶ。
92 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 10:42:53
>>91 の前に次の定義をすべきだった。
定義 M をアーベル群とする。 M の部分群からなる降列 ... M_p ⊃ M_(p+1) ... を M のフィルターと呼ぶ。 ここで、p は有理整数全体を動く。
M をフィルター付アーベル群と呼ぶ。
93 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 11:01:36
因みに>>92のフィルターの名前の由来を(私の想像だが)説明してみよう。 フィルターとは濾過器のこと。
>>92 の記号を使う。 M の元 x をとる。 x ∈ M_p となる p が存在しないとする。 このとき、x は、フィルターではじかれたと考える。
次に、x ∈ M_p となる p があるとする。 このとき x は M_p による関門を通ったと考える。 しかし x は M_(p+1) には含まれないとする。 このときも、x はフィルターではじかれたと考える。 こうやって、M の元を篩い落としていき、 最後に残ったもの、即ち ∩M_p の元がフィルターで漉されたものと 考える。
94 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 15:26:54
定義 M をフィルター付アーベル群(>>92)とし、(M_p)をそのフィルターとする。
M = ∪M_p のとき、このフィルターは上に収束するという。
0 = ∩M_p のとき、このフィルターは下に収束するという。 下に収束するフィルターを分離的なフィルターとも言う。
M_p = 0 となる p があるとき、このフィルターは下に有界または 離散的という。
M_p = M となる p があるとき、このフィルターは上に有界という。
上に有界かつ下に有界なフィルターは有界または有限なフィルターという。
95 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 16:25:18
定義 A をフィルター付環(>>91)とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M を A-加群とする。 M をアーベル群とみて、その部分アーベル群からなるフィルター(M_p)が 以下の条件を満たすとする。
(A_p)(M_q) ⊂ M_(p+q) が任意の p, q ∈ Z に対してなりたつ。
このとき、フィルター(M_p)は、フィルター付環 A と両立するといい、 M をフィルター付 A-加群と呼ぶ。
96 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 16:50:55
A をフィルター付環(>>91)とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M をフィルター付 A-加群(>>95)とし、(M_p)をそのフィルターとする。
フィルター付環の応用上では、A = A_0 となる場合が圧倒的に多い。 この場合、各 A_p は A のイデアルであり、 各 M_p は A-部分加群である。
97 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 16:55:57
フィルター付環および加群の例(その1)
A を環、I を そのイデアルとする。 M をA-加群とする。 p ≧ 0 のとき A_p = I^p とし、 p < 0 のとき A_p = A とおけば、 A は (A_p) によりフィルター付環になる。
フィルター(A_p)を A の I-進フィルターと呼ぶ。
p ≧ 0 のとき M_p = (I^p)M とし、 p < 0 のとき M_p = M とおけば、 M は (M_p) によりフィルター付 A-加群になる。 フィルター(M_p)を M の I-進フィルターと呼ぶ。
98 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 17:08:49
フィルター付環および加群の例(その2)
A をZ-型の(可換な)次数環(前スレ1の720)とし、 その n-次部分を A_(n) とする。 A_p = Σ(n≧p) A_(n) とおく。 A は (A_p) によりフィルター付環になる。
M をZ型の A-次数加群(前スレ1の722)とし、 その n-次部分を M_(n) とする。 M_p = Σ(n≧p) M_(n) とおく。 M は (M_p) によりフィルター付 A-加群になる。
99 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 17:24:35
フィルター付環および加群の例(その3)
A を環とする。 p ≦ 0 のとき A_p = A とおき、 p > 0 のとき A_p = 0 とおく。 A は (A_p) によりフィルター付環になる。 A を自明なフィルター付環と呼ぶ。
M をA-加群とする。 p ≦ 0 のとき M_p = M とおき、 p > 0 のとき M_p = 0 とおく。 M は (M_p) によりフィルター付 A-加群になる。 M を自明なフィルター付 A-加群と呼ぶ。
100 :132人目の素数さん:2006/03/31(金) 17:27:21
帰納法使う奴は人間のくず
101 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 17:56:35
フィルター付環および加群の例(その4)
A をフィルター付環(>>91)とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M をA-加群とする。 M_p = (A_p)M とおけば、 M は (M_p) によりフィルター付 A-加群になる。 (M_p) を (A_p)から誘導されたフィルターという。
102 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/03/31(金) 18:19:34
定義 A をフィルター付環(>>91)とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M をフィルター付 A-加群(>>95)とし、(M_p)をそのフィルターとする。 N を M の A-部分加群とする。 N_p = N ∩ M_p とおく。
(A_p)(N ∩ M_q) ⊂ N ∩ (A_p)(M_q) ⊂ N ∩ M_(p+q) となる。
よって N はフィルター(N_p) によりフィルター付 A-加群となる。 (N_p) を (M_p) により N へ誘導されたフィルターという。
103 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 09:57:44
前スレ2の968 >話は変わるけど、代数多様体の正規点における局所環の完備化は >正規であるというZariskiの定理の証明ってあまり本に書いてないね。 >この定理は代数幾何では重要なんだけど。 > >Zariski-Samuelには当然書いてある。
EGAには優秀環の理論として拡張されて述べられている。 松村にも優秀環の理論は紹介されている。
104 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 10:13:28
M-正則列(前スレ2の941)の概念はSerreが1955年の東京・日光における 国際会議で発表した論文で最初に導入したとEGAには書いてあるけど、 どうなんだろう。その論文を見るとAuslander-Buchsbaumの論文を 引用してるんだけど。この頃の彼等の論文というのは互いに 引用しあっている。
105 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 14:27:21
定義 A をフィルター付環(>>91)とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M をフィルター付 A-加群(>>95)とし、(M_p)をそのフィルターとする。 N を M の A-部分加群とする。 L = M/N おき、L_p = (M_p + N)/N とおく。
(A_p)(L_q) ⊂ ((A_p)(M_q + N) + N)/N ⊂ (M_(p+q) + N)/N = L_(p+q)
となる。 よって L はフィルター(L_p) によりフィルター付 A-加群となる。
(L_p) を (M_p) により M/N へ誘導されたフィルターという。
106 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 17:04:06
定義 A をフィルター付環(>>91)とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M, N をフィルター付 A-加群(>>95)とし、それぞれ (M_p), (N_p) をそのフィルターとする。
A-加群としての射 f: M → N が 各 p に対して f(M_p) ⊂ N_p を満たすとき、f をフィルター付 A-加群 としての射という。
107 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 17:43:18
A をフィルター付環とする。 容易にわかるようにフィルター付 A-加群とその射は圏 F(A)をなす。
M, N をフィルター付 A-加群とすると、M から N への フィルター付 A-加群としての射の集合 Hom(M, N) は 自明な演算でアーベル群となる。
f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 f の A-加群 としての核 K は M の部分加群だから M のフィルターから誘導されたフィルター(>>102)が入る。 このフィルターにより K をフィルター付 A-加群と考えたものを 射 f の核と呼び、Ker(f) と書く。
同様に A-加群としての余核 Q に、N のフィルターから誘導された フィルター(>>105)を入れて、フィルター付 A-加群と考えたものを f の余核と呼び、Coker(f) と書く。
108 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 18:05:00
A をフィルター付環とする。 f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 A-加群の射としての f の像 I に N のフィルターから誘導された フィルターを入れたものを f の像と呼び Im(f) と書く。
109 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/04(火) 18:09:06
A をフィルター付環とする。 f: M → N, g: N → L をそれぞれフィルター付 A-加群の射とする。 Im(f) と Ker(g) がフィルター付 A-加群として一致するとき、 列 M → N → L は完全であるという。
110 :132人目の素数さん:2006/04/04(火) 18:21:42
、,.、,、,.、___,.、,、,.、,、, 人ハ人ハ人 ♪ ,ゝ:::::::::::::::::::::::::::<、 ノ ヾ、 ∠:::::::::::::::::::::::::::::::::::::< ) マ ウ ( /:::;;;::::::::::::::::::::::::::::::::::〈. ) ン リ ( /::「// ̄∨ヾ/\!'ヾ:::| ) セ ナ ( ,、|::/ ヽ 〃 ヾ::|,、 ) ) ラ ( ( .|/ \ / ヽ! ) .) ( ( `//// .. /// \´ ヽ ! / \ ヽー--‐‐/ / Y⌒Y⌒Y ヽ ヽ / / . ヽ ヽ / / . \ ∨ / `j'''''''''''i"
111 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/05(水) 09:43:42
>>105 >(L_p) を (M_p) により M/N へ誘導されたフィルターという。
(L_p) を N による (M_p) の商フィルターと呼ぶほうが一般的らしい。 よって今後、そう呼ぶ。
112 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/05(水) 10:18:09
定義 A をフィルター付環とする。 f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 A-加群の射としての f の核を K とする。 M/K に M のフィルターの商フィルター(>>111)を入れて フィルター付 A-加群としたものを f の余像と呼び Coim(f) と書く。
113 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/05(水) 11:13:23
A をフィルター付環とする。 f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 λ: Ker(f) → M を標準射とする。 このとき明らかに fλ= 0 である。 この Ker(f) とλは次の命題により特徴付けられる。
命題 A をフィルター付環とする。 g: L → M, f: M → N をそれぞれフィルター付 A-加群の射として、 fg = 0 とする。 このとき、射 u: L → Ker(f) で g = λu となるものが一意に存在する。 ここで λ: Ker(f) → M は標準射である。
証明 g(L) ⊂ Ker(f) だから、A-加群の射としては u として g の値域を Ker(f) に制限したものをとる。 u が フィルター付 A-加群の射となることは 各 p にたいして g(L_p) ⊂ M_p ∩ Ker(f) よりわかる。 u の一意性は λが単射であることから明らか。 証明終
114 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/05(水) 12:37:41
>>113と双対的に次の命題が成立つ。
命題 A をフィルター付環とする。 f: M → N, g: N → L をそれぞれフィルター付 A-加群の射として、 gf = 0 とする。 このとき、射 u: Coker(f) → L で g = uμ となるものが一意に存在する。 ここで μ: N → Coker(f) は標準射である。
証明 g(f(M)) = 0 だから g は A-加群の射として u: N/f(M) → L を誘導する。 各 p にたいして g(N_p) ⊂ L_p だから u は フィルター付 A-加群の射である。 g = uμは u の定義から明らか。 u の一意性は μが全射であることから明らか。 証明終
115 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/06(木) 12:49:21
命題 A をフィルター付環とし、 f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 フィルター付 A-加群の射 u: Coim(f) → Im(f) が一意に存在し、 f は M → Coim(f) → Im(f) → N と分解する。 ここで、M → Coim(f) と Im(f) → N はともに標準射である。
証明 A-加群の射としては u: Coim(f) → Im(f) を u([x]) = f(x) で定義する。ここで、x は M の元であり、[x] は x の属す Coim(f) = M/Ker(f) の剰余類である。 この定義は剰余類の代表元 x の取り方によらない。
M、N のフィルターをそれぞれ (M_p), (N_p) とする。 f(M_p) ⊂ Im(f) ∩ N_p であるから u がフィルター付 A-加群の射であることは明らか。
次に u の一意性を示す。 α: M → Coim(f) β: Im(f) → N を標準射とする。
f = βvα となるフィルター付 A-加群の射 v: Coim(f) → Im(f) が 存在するとする。 f = βuα = βvα であり、βは単射だから、 uα = vα となる。 αは全射だから、 u = v である。 証明終
116 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/06(木) 16:59:38
定義 A をフィルター付環とし、 f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 >>115の射 u: Coim(f) → Im(f) は写像としては全単射だが フィルター付 A-加群の射としては同型とは限らない。 これが同型になるとき、 f を強射と呼ぶ。
117 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/06(木) 18:20:47
命題 A をフィルター付環とし、 f: M → N をフィルター付 A-加群の射とする。 M、N のフィルターをそれぞれ (M_p), (N_p) とする。 f が強射(>>116)になるためには、 各整数 p に対して f(M_p) = f(M) ∩ N_p となることが 必要十分である。
証明 K = Ker(f) とおく。 u: Coim(f) → Im(f) を、>>115の射とする。 u は写像としては全単射であることと、 u((M_p + K)/K) = f(M_p) に注意すれば明らかだろう。 証明終
118 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/07(金) 10:37:51
フィルター付 A-加群の射で強射(>>116)でない例はいくらでもある。
例えば、k を体として M を k 上の3次元のベクトル空間とする。 e_1, e_2, e_3 をその基底とする。
N を e_1 を基底に持つ M の部分ベクトル空間とする。 L を e_1, e_2 を基底に持つ M の部分ベクトル空間とする。
M に以下の2つのフィルターを入れる。 (1) M ⊃ N ⊃ 0 をフィルターと見なす。 つまり、フィルター (M_p) を次のように定義する。 p ≦ 0 のとき M_p = M p = 1 のとき M_p = N p ≧ 2 のとき M_p = 0。
(2) M ⊃ L ⊃ 0 を同様にフィルターと見なす。 つまり、フィルター (M'_p) を次のように定義する。 p ≦ 0 のとき M'_p = M p = 1 のとき M'_p = L p ≧ 2 のとき M'_p = 0。
k に自明なフィルター(>>99)を入れると。 上の各フィルターにより M はそれぞれフィルター付 k-加群となる。 (1) のフィルターを入れた M を M(1) と書き、 (2) のフィルターを入れた M を M(2) と書く。
恒等射 1: M(1) → M(2) を考える。 N ⊂ L だから、この射はフィルター付 k-加群の射である。 しかし、 N ≠ L だから強射ではない。
119 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/07(金) 11:09:12
定義 G をフィルター付アーベル群(>>92)とする。 (G_p) をそのフィルターとする。
各整数 p に対して gr_p(G) = G_p/G_(p+1) とおき、 gr(G) = Σgr_p(G) (直和)とおく。
gr(G) を G の次数化アーベル群と呼ぶ。
120 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/07(金) 11:34:27
定義 A をフィルター付環(>>91)とする。 gr(A) を A の加法群の次数化アーベル群とする。 α ∈ gr_p(A)、β ∈ gr_q(A) のとき、 αとβの積 αβ ∈ gr_(p+q)(A) を以下のように定義する。
x ∈ A_p, y ∈ A_q をそれぞれ αとβ の代表元とする。 xy ∈ A_(p+q) の mod A_(p+q+1) の剰余類をαβとする。 この定義が 代表元 x, y の取り方によらないことは明らかである。 この積により、gr(A) は Z 型の次数環(前スレ1の720)となる。 gr(A) を A の次数化環と呼ぶ。
121 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/07(金) 11:55:57
定義 A をフィルター付環とし、(A_p)をそのフィルターとする。 M をフィルター付 A-加群とし、(M_p)をそのフィルターとする。
gr(A) を A のA の次数化環(>>120)ととし、 gr(M) を M の次数化アーベル群(>>119) とする。
α ∈ gr_p(A)、γ ∈ gr_q(M) のとき、 αとγの積 αγ ∈ gr_(p+q)(M) を以下のように定義する。
a ∈ A_p, z ∈ M_q をそれぞれ αとγの代表元とする。 az ∈ M_(p+q) の mod M_(p+q+1) の剰余類をαγとする。 この定義が 代表元 a, z の取り方によらないことは明らかである。
この積により、gr(M) は gr(A)-次数加群(前スレ1の722)となる。 gr(M) を M の次数化加群と呼ぶ。
122 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/07(金) 13:18:42
局所環のm-進フィルターによる次数化環の幾何的意味を考える。
代数多様体 X の閉点 p における局所環 O_p にその極大イデアル m による m-進フィルター(>>97)をいれてフィルター付環と考える。 この次数化環 gr(O_p) の Spec(gr(O_p))というのは、 X の p における接錐(tangent cone)と考えることが出来る。 接錐というのは、大雑把に言うとその点における接線の集まりのなす 代数スキームのことで、その点が非特異なら接空間と一致する。
このことをアフィン平面代数曲線の場合に説明しよう。 k を代数的閉体とし、f(X, Y) を2変数多項式環 k[X, Y] の元で 既約とする。さらに f(0, 0) = 0 とする。 f(X, Y) = 0 が定義する代数曲線を X とする。 f(0, 0) = 0 だから X は原点 p = (0, 0) を通る。 X の p における局所環を O_p とする。 このとき、次数化環 gr(O_p) は k[X, Y]/(f_m) と同型になる。 ここで f_m は f の初形式である。 つまり、f をその同次成分に分解して f = f_m + f_(m+1) + .. と書いたときの最低次の同次成分が f_m である。 f_m は2変数の同次式だから1次式の積に分解する。 この各1次式が原点 p における 曲線 f(X, Y) = 0 の接線である。
123 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/11(火) 18:38:38
定義 M, N をフィルター付アーベル群(>>92)とする。 (M_p), (N_p) をそれぞれ M, N のフィルターとする。
f: M → N をフィルター付アーベル群としての射とする。 各 p に対して f(M_p) ⊂ N_p だから、 f はアーベル群の射 M_p/M_(p+1) → N_p/N_(p+1) を誘導する。 よって、次数アーベル群の射 gr(M) → gr(N) が得られる。 ここで、gr(M)、gr(N) はそれぞれ M, N の次数化アーベル群(>>119) である。 この射を gr(f) と書く。この p次の同次成分 を gr_p(f) と書く。 つまり、gr_p(f): gr_p(M) → gr_p(N) である。
124 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/11(火) 19:08:14
話はそれるが、最近 amazon.com で Edwards の Fermat's Last Theorem を買った。 今読んでいるところだけど、これは凄い本だ。 この本で初めてKummerの理想数がわかった、というか、 わかりかけてきた(まだ読了してないので)。 この本を参考にして、Kummerの理想数とは何かを後で述べよう。
Kummerの理想数については、前スレ1の281あたりでも書いてあるので、 そちらも参照されたい。
125 :132人目の素数さん:2006/04/12(水) 18:35:18
素因数分解の一意性の回復をx^n+y^nにおいて目指して作られた。 n=23でたしか不成立なんだが、イデアルを考えて言ってみればクウォークの様に 新しく素を考えてみようって話だったようなそうでないような。 しかし、俺にもこれが理解不能だ。だから早く書け。
126 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 10:47:37
定義 A, B をそれぞれフィルター付環(>>91)とする。 f: A → B をフィルター付環としての射とする。 >>123 と同様にして f は次数環の射 gr(A) → gr(B) を誘導する。 この射を gr(f) と書く。
127 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 10:53:29
定義 A をフィルター付環(>>91)とし、 M, N をフィルター付 A-加群(>>95)とする。 >>121 より、gr(M)、gr(N) は それぞれ gr(A)-次数加群となる。
f: M → N をフィルター付 A-加群としての射とする。 >>123 と同様にして f は gr(A)-次数加群の射 gr(M) → gr(N) を誘導する。 この射を gr(f) と書く。
128 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 11:03:15
A をフィルター付環(>>91)とし、 M, N, L をフィルター付 A-加群(>>95)とする。
1: M → M を M の単位射とすると gr(1) は gr(M) の単位射である。
f: M → N と g: N → L をフィルター付 A-加群としての射とする。 このとき、gr(gf) = gr(g)gr(f) となる。
以上から 対応 gr: M → gr(M) は フィルター付 A-加群の圏から gr(A)-次数加群の圏への関手である。
129 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 12:10:51
補題 A をフィルター付環(>>91)とし、 M をフィルター付 A-加群(>>95)とする。 M のフィルター (M_p) は上下に収束(>>94)するとする。 gr_p(M) ≠ 0 となる p が有限ならフィルター (M_p) は有限(>>94)である。
証明 十分大きな整数 n があり p ≧ n なら gr_p(M) = 0 である。 よって M_n = M_(n+1) = ... となる。 (M_p) は下に収束するから、0 = ∩M_p である。 よって M_n = 0 である。
同様に、十分小さな整数 m があり p ≦ m なら gr_p(M) = 0 である。 よって M_m = M_(m-1) = ... となる。 (M_p) は上に収束するから、M = ∪M_p である。 よって M_m = M である。 証明終
130 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 13:56:41
次の命題とその証明は 私が過去スレ「大好き★代数幾何 Part 2」 の 819 に書いたものと同じである。
131 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 13:57:39
命題 A をフィルター付環(>>91)とし、 M, L をフィルター付 A-加群(>>95)とする。 (M_p), (L_p) をそれぞれ M, L のフィルターとする。 (L_p) は上下に収束(>>94)するとする。 f: M → L をフィルター付 A-加群としての射とする。 gr(A)-次数加群の射 gr(f)(>>127) : gr(M) → gr(L) は同型であるとする。 このとき、フィルター(M_p) が有限(>>94)なら、 f は同型となる。
証明 gr(M) と gr(L) は同型だから、>>129 より フィルター(L_p) も 有限である。 フィルター (M_p) は有限だから 整数 k と n ≧ 0 があり、 M = M_k ⊃ M_(k+1) ⊃ ... M_(k+n) = 0 となる。 gr(M) と gr(L) は同型だから L = L_k ⊃ L_(k+1) ⊃ ... L_(k+n) = 0 となる。
M_0 = M, M_2 = 0 の場合を証明すれば、n に関する帰納法を使って、 一般の場合も証明できる。よって、この場合のみ証明する。
完全列: 0 → M_1 → M → M/M_1 → 0 と 0 → L_1 → L → L/L_1 → 0 を考える。
仮定により、f: M → L は、同型 M_1 → L_1 と 同型 M/M_1 → L/L_1 を誘導する。 snake lemmaを使って(使わなくても簡単にわかるが) f も同型になる。 証明終
132 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 14:33:37
命題(>>131)の系1 上の命題はフィルター(M_p) が有限でなくても上に収束(>>94)し、 離散的(>>94)なら成り立つ。
証明 命題(>>131)より、各pに対して f は同型 M_p → L_p を誘導することがわかる。 フィルター(M_p)と(L_p) は上に収束するから、 f は同型となる。 証明終
133 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 14:44:14
命題 M をフィルター付アーベル群(>>92)とし、(M_p)をそのフィルターとする。 アーベル群の族 (M/M_p) は射影系である。 よって射影極限 proj.lim M/M_p が定義出来る。 標準射 M → M/M_p は、標準射φ: M → proj.lim M/M_p を定める。 φが単射であるためにはフィルター (M_p) が分離的(>>94)であることが 必要十分である。
証明 射影極限 proj.lim M/M_p の定義とφの定義から明らか。
134 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 14:50:32
定義 M をフィルター付アーベル群(>>92)とし、(M_p)をそのフィルターとする。 >>133の標準射φ: M → proj.lim M/M_pが同型のとき、 フィルター (M_p) は完備であるという。
135 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 15:19:17
命題(>>131)の系2 命題(>>131)はフィルター (M_p) が完備(>>134)なら成り立つ。
証明 >>132 より、各 p に対して f は同型 M/M_p → L/L_p を誘導することがわかる。 よって f は同型 proj.lim M/M_p → proj.lim L/L_p を誘導する。
次の可換図式を考える。
M → L ↓ ↓ proj.lim M/M_p → proj.lim L/L_p を誘導する。
フィルター (M_p) は完備だから標準射 M → proj.lim M/M_p は 同型である。 一方、フィルター (L_p) は仮定より分離的だから >>133 より L → proj.lim L/L_p は単射である。 よって、上の可換図式より f: M → L が同型となることが分かる。 証明終
136 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/13(木) 15:23:02
>>135 はフィルター付加群の基本定理というべきものである。
137 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 09:54:26
Bourbakiの用語では完備性に必ずしも分離性を要求しない。 我々もBourbakiに従うことにする。 よって、>>134 の定義を以下のように修正する。
定義 M をフィルター付アーベル群(>>92)とし、(M_p)をそのフィルターとする。 >>133の標準射φ: M → proj.lim M/M_pが全射のとき、 フィルター (M_p) は完備であるという。
(注意)この場合 M/∩M_p が proj.lim M/M_p に同型になる。
138 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 10:14:05
>>131の条件と主張を弱めた次の命題を証明する。 証明も>>131と同様である。
命題 A をフィルター付環(>>91)とし、 M, L をフィルター付 A-加群(>>95)とする。 (M_p), (L_p) をそれぞれ M, L のフィルターとする。 f: M → L をフィルター付 A-加群としての射とする。 gr(A)-次数加群の射 gr(f)(>>127) : gr(M) → gr(L) は単射であるとする。 このとき、フィルター(M_p) が有限(>>94)なら、 f も単射となる。
証明 フィルター (M_p) は有限だから 整数 k と n ≧ 0 があり、 M = M_k ⊃ M_(k+1) ⊃ ... M_(k+n) = 0 となる。
n = 2 の場合を証明すれば、n に関する帰納法を使って、 一般の場合も証明できる。よって、この場合のみ証明する。
完全列: 0 → M_(k+1) → M_k → M_k/M_(k+1) → 0 と 0 → L_(k+1) → L_k → L_k/M_(k+1) → 0 を考える。
仮定により、f: M_k → L_k は、単射 M_(k+1) → L_(k+1) と 同型 M_k/M_(k+1) → L_k/M_(k+1) を誘導する。 snake lemmaを使って(使わなくても簡単にわかるが) f も単射になる。 証明終
139 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 10:21:52
>>132と同様に次の命題が得られる。 証明も>>132と同様である。
命題 A をフィルター付環(>>91)とし、 M, L をフィルター付 A-加群(>>95)とする。 (M_p), (L_p) をそれぞれ M, L のフィルターとする。 f: M → L をフィルター付 A-加群としての射とする。 gr(A)-次数加群の射 gr(f)(>>127) : gr(M) → gr(L) は単射であるとする。 このとき、フィルター(M_p) が上に収束(>>94)し、離散的(>>94)なら f も単射となる。
証明 >>138より、各pに対して f は単射 M_p → L_p を誘導することがわかる。 フィルター(M_p) は上に収束するから、 f は単射となる。 証明終
140 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 10:27:13
>>135と同様に次の命題が得られる。 証明も>>135と同様である。
命題 A をフィルター付環(>>91)とし、 M, L をフィルター付 A-加群(>>95)とする。 (M_p), (L_p) をそれぞれ M, L のフィルターとする。 f: M → L をフィルター付 A-加群としての射とする。 gr(A)-次数加群の射 gr(f)(>>127) : gr(M) → gr(L) は単射であるとする。 このとき、フィルター(M_p) が上に収束(>>94)し、分離的(>>94)なら f も単射となる。
証明 >>139 より、各 p に対して f は単射 M/M_p → L/L_p を誘導することがわかる。 よって f は単射 proj.lim M/M_p → proj.lim L/L_p を誘導する。
次の可換図式を考える。
M → L ↓ ↓ proj.lim M/M_p → proj.lim L/L_p を誘導する。
フィルター (M_p) は分離的だから標準射 M → proj.lim M/M_p は 単射である。 よって、上の可換図式より f: M → L が単射となることが分かる。 証明終
141 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 10:46:18
訂正:
>>135 >命題(>>131)はフィルター (M_p) が完備(>>134)なら成り立つ。
>>135の証明から分かるように、フィルター (M_p)が 上に収束するという条件が必要である。 よって>>135の主張は次のように書くべきであった。
命題(>>131)はフィルター (M_p) が上に収束し、 分離的(>>94)かつ完備(>>137)なら成り立つ。
142 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 17:15:05
ここで、ちょっと寄り道になるが話の都合上、対称代数について述べる。
143 :9208 ◆X2Eb5pqWTw :2006/04/14(金) 17:25:03
定義
A を可換環、 M を A-加群とする。
T(M) を A 上の M から生成されるテンソル代数(前スレ1の718)とする。
T(M) は明らかに次数 A-代数(前スレ1の720)である。
T(M)の部分集合 {xy - yx; x, y ∈ M} から生成される両側イデアルを
I とする。
T(M)/I を A 上の M から生成される対称代数と呼び、 S(M) と書く。
I は同次元で生成されるから同次イデアルである(前スレ1の726)。 よって、S^p(M) = T^p(M)/(I ∩ T^p(M)) とおけば、 S(M) = ΣS^p(M) (直和) となる。よって S(M) も次数 A-代数である。 S^0(M) = A であり、S^1(M) = M となる。 S(M) の2元 x, y の積を xy と書く。 明らかに、xy = yx であるから S(M) は可換である。
144 :132人目の素数さん:2006/04/16(日) 01:11:09
587
145 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/18(火) 12:10:01
>>124 で予告したように、Kummerの理想数について述べる。 今までの代数的整数論の準備としての可換代数の話も平行して進めるので 混乱しないように名前をKummerとしてIDも別にする。
まず Kummer の出発点は、λを奇素数としてζを X^λ = 1 の 1以外の根の1つとしたとき、円分整数環 Z[ζ] において素元分解の 一意性が成立つかどうかという問題にあった。 これは、周知のように Fermat の最終定理と関係がある。 しかし、Kummer の目的は別にあった。 それは Gauss に始まる 高次冪剰余の相互法則の探求である。 これが、解析方面を専門にしていた彼を Z[ζ] の整数論に向かわせ、 以後20年の間、彼を捉えて離さなかった。
広く流布されている話とは違って、Fermat の最終定理に関する彼の寄与は その研究の過程の副産物であり彼の最終目的ではなかった。 ここでは、このことを立証するのが目的ではないので、これについて 詳しくは Edwards の Fermat's Last Theorem という本を参照してもらいたい。
146 :132人目の素数さん:2006/04/18(火) 12:44:47
ここで king 登場
147 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/18(火) 13:52:40
λを奇素数としてζを X^λ = 1 の1以外の根の1つとする。 ここで、方程式 X^λ = 1 は複素数体で考える。 よって ζ は複素数である。 ζを X^λ = 1 の原始根と呼ぶ。
有理整数環 Z と ζ により生成される複素数体の部分環を 円分整数環と呼び Z[ζ] と書く。 Z[ζ] の元を円分整数と言う。
X^λ = 1 の相異なるλ個の根は ζ^i, i = 0, 1, ..., λ-1 と書ける。 1 ≦ i ≦ λ-1 のとき i はλと素だから ij ≡ 1 (mod λ) となる整数 j が存在する。よって、ζ^(ij) = ζ となる。 つまり、ζ = (ζ^i)^j である。 よって Z[ζ] ⊂ Z[ζ^i] となる。 逆の包含関係は明らかだから、Z[ζ] = Z[ζ^i] となる。 よって、環 Z[ζ] は原始根ζの取り方によらない。
これから Kummer に習って円分整数環 Z[ζ] において素元分解の一意性が 成立つかどうかという問題を調べることにする。
その前に Z[ζ] の基本的な性質を調べておく。
148 :GiantLeaves ◆6fN.Sojv5w :2006/04/18(火) 15:16:17
talk:>>146 私を呼んだか? talk:>>147 λが奇素数でない正整数でも原始λ乗根は定義できる。それについても述べるのか?
149 :132人目の素数さん:2006/04/18(火) 15:38:21
>>148
基本的には奇素数の場合のみ述べる予定.
150 :132人目の素数さん:2006/04/18(火) 16:23:47
習って
151 :132人目の素数さん:2006/04/18(火) 16:40:16
>>148 死ね
152 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/18(火) 16:44:25
λを奇素数としてζを X^λ = 1 の原始根の1つとする。
X^λ - 1 = (X - 1)(1 + X + ... X^(λ-1)) だから 1 + ζ + ... + ζ^(λ-1) = 0 となる。
これがζに関する自明だが最も基本的な関係式である。
153 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/18(火) 16:51:50
λを奇素数としたとき、有理数体上の多項式 1 + X + ... X^(λ-1) の 既約性をそれよりやや一般的な命題の特殊な場合として証明するため、 整数 n > 0 に対して方程式 X^n = 1 を複素数体で考える。
X^n = 1 の根全体は乗法に関して位数 n の巡回群 G となる。
G の位数 n の元を X^n = 1 の原始根と呼ぶ。
原始根は φ(n) 個ある。ここでφ(n)はEulerの関数である。
つまり、集合 {1, 2, ..., n-1} に属す元のなかで n と素な元の個数である。
ζ_1, ..., ζ_r を原始根の全体とする。ここで r = φ(n) である。
Φ_n(X) = (X - ζ_1)...(X - ζ_r) とおく。
Φ_n(X) を指数 n の円分多項式と呼ぶ。
154 :GiantLeaves ◆6fN.Sojv5w :2006/04/18(火) 17:45:55
talk:>>151 お前が先に死ね。
155 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 10:05:56
整数 n > 0 に対して円分多項式(>>153)の定義から X^n - 1 = ΠΦ_r(X) となる。 ここで Φ_r(X) は r の円分多項式で r は n の正の約数全体を動く。
よって、Φ_n(X) = (X^n - 1)/ΠΦ_r(X) となる。 ここで、r は n の正の約数で n 以外のもの全体を動く。 よって、Φ_1(X) = X - 1 から初めて Φ_n(X) は帰納的に求まる。 これから Φ_n(X) の係数は有理整数であることが分かる。
156 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 14:04:16
定義 有理数体 Q 上代数的な複素数を代数的数と呼ぶ。
157 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 14:05:11
定義 有理整数環 Z 上整(前スレ1の506)な複素数を代数的整数と呼ぶ。
158 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 14:23:22
命題 一意分解整域は整閉整域(前スレ1の578)である。
証明 A を一意分解整域とし、K をその商体とする。 x = a/b を K の元で A 上整なものとする。 ここで a, b は A の元で互いに素とする。
(a/b)^n + c_1(a/b)^(n-1) + ... + c_n = 0 とする。 ここで、各 c_i は A の元である。
この等式の両辺に b^n を掛けて次式を得る。
a^n + c_1a^(n-1)b + ... c_nb^n = 0
b が A の可逆元でないとすると、b を割る A の素元 p がある。 上の等式から p は a^n したがって a を割ることになる。 これは a と b が互いに素とした仮定に反する。 よって b は可逆元であり、x は A の元である。 よって、A は K において整閉である。 証明終
159 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 14:38:59
命題 代数的整数(>>157)全体は複素数体の部分環となる。 つまり、代数的整数の和と積は代数的整数である。
証明 前スレ1の510 より明らか。
160 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 14:39:59
命題 αを代数的整数(>>157)とし、αの有理数体上のモニックな 最小多項式を f(X) とする。 このとき f(X) の係数は有理整数である。
証明 f(X) の複素数体におけるすべての根は代数的整数である。 よって、f(X) の係数も代数的整数である(>>159)。 >>158 より有理整数環は整閉だから、これらの係数は有理整数である。 証明終
161 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 14:46:36
補題 n > 0 を整数、ζを X^n = 1 の根(原始根とは限らない)の1つとする。 ζの有理数体上のモニックな最小多項式を f(X) とする。 p を n を割らない素数とする。 このとき f(ζ^p) = 0 となる。
証明 ζは X^n - 1 = 0 の根だから、 X^n - 1 = f(X)g(X) となる有理数係数のモニックな多項式 g(X)がある。 >>160 より f(X) の係数は有理整数である。 よって、g(X) の係数も有理整数である。 f(ζ^p) ≠ 0 として矛盾を導こう。 ζ^p も X^n - 1 = 0 の根だから、f(ζ^p)g(ζ^p) = 0 である。 f(ζ^p) ≠ 0 と仮定したから g(ζ^p) = 0 となる。 よって、ζは g(X^p) の根であるから g(X^p) は f(X) で割り切れる。 よって g(X^p) = f(X)h(X) となるモニックな多項式 h(X) がある。 h(X) の係数も有理整数である。
ここで、等式 g(X^p) = f(X)h(X) を mod p で考える。 g(X)^p ≡ g(X^p) (mod p) だから、 g(X)^p ≡ f(X)h(X) (mod p) となる。 f(X) の mod p でのの既約因子の1つをω(X) とする。 g(X)^p は mod p でω(X) で割り切れるから、 g(X) は mod p でω(X) で割り切れる。 一方、X^n - 1 = f(X)g(X) だから、 X^n - 1 は mod p で ω(X)^2 で割り切れる。 ところが、これは有り得ない。 何故なら、n は p と素で X^n - 1 は mod p で 分離的な多項式である。つまり、有限体 Z/pZ の代数的閉包において 重根をもたない。 以上から、f(ζ^p) = 0 でなければならない。 証明終
162 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 15:27:04
命題 任意の整数 n > 0 に対して、円分多項式Φ_n(X) は有理数体上既約である。
証明 ζを X^n = 1 の原始根(>>153)の1つとする。 ζの有理数体上のモニックな最小多項式を f(X) とする。 m > 1 を n と素な整数とする。 m = (p_1)...(p_r) を m の素因数分解とする。 ここで、p_1, ..., p_r は素数で重複も許している。 >>161 より、ζ^(p_1) も f(X) の根である。 よって再び、>>161 より (ζ^(p_1))^(p_2) もf(X) の根である。 これを繰り返して、ζ^m も f(X) の根である。 よって、f(X) は X^n = 1 の原始根のすべてを根に持つ。 f(X) は Φ_n(X) を割るから Φ_n(X) = f(X) である。 証明終
163 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 15:38:13
命題 λを奇素数としたとき、多項式 1 + X + ... X^(λ-1) は 有理数体上既約である。
証明 上記の多項式は指数 λ の円分多項式 Φ_λ(X) に等しい。 よって >>162 より有理数体上既約である。 証明終
164 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 15:48:41
>>162 の証明は Dedekind によるもの。
>>163 が Kummerが扱った円分整数環 Z[ζ] における最も基礎となる定理である。
165 :Kummer ◆g2BU0D6YN2 :2006/04/19(水) 16:02:41
>1 >シロート厳禁、質問歓迎!
このシロート厳禁っていうの誤解を与えないか? 俺が言ったのは高校生などの、ほらよくいるだろ数論オタみたいなの、 つまり、初等数論って自然数を扱い誰でも入りやすいから、すぐFermatとか Goldbachとか、そういうのをさしてシロ-トと言ったわけ。 前にいた割り算オタみたいのが来るとやだから、そう言ったわけ。
