弟切草 蘇生篇
【おとぎりそう そせいへん】
ジャンル
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サウンドノベル
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対応機種
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プレイステーション
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発売元
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チュンソフト
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開発元
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ネクセス
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発売日
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1999年3月25日
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定価
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4,800円(税別)
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レーティング
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CERO:C(15才以上対象) |
廉価版
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PlayStation the Best 2001年4月12日/2,940円(税5%込)
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配信
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ゲームアーカイブス 2011年9月14日/800円(税5%込)
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判定
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なし
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ポイント
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グラフィックが美麗化 どんでん返しやヒロイン視点追加 テキストスキップ不可 相変わらず思慮を欠いている作者
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チュンソフトサウンドノベルシリーズ
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概要
サウンドノベルの元祖であるSFCソフト『弟切草』のリメイク版。
同社のサウンドノベル『かまいたちの夜』『街』と共に、『サウンドノベルエボリューション』シリーズの1つとしてリメイクされた。
しかし発売されたのは3本の中で最後である為、シリーズは「2」→「3」→「1」の順に出た事になる。
1度エンディングを迎えた後に再びプレイすることで、選択肢が増え新たな分岐が現れると言う、何度もプレイすることを前提としたシステム。
ストーリー(SFCと同じ)
主人公、公平と奈美は山道で車輌の奇妙なトラブルに見舞われてしまい、立ち往生してしまう。
深夜である上に誰も見当たらない山中で、大きな洋館を見付ける。
そこで激しい雨が降って来たため、2人は館に駆け込む。それが悪夢の始まりになる事も知らずに……。
SFC版からの主な変更点
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グラフィックは新規。格段に美しくなった。
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これにより、逆に想像する楽しみや恐怖が薄れた、という意見も。
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主人公に「公平」というデフォルトネームが付けられた。
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主人公の視点によるシナリオの他、ヒロイン奈美の視点から見たシナリオ「奈美編」にザッピングできる。
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SS版『街』のように特定の文章の「奈美」という文字から奈美視点のシナリオにジャンプできる、というもの。ジャンプできる箇所が出現するかどうかは文章によって異なる。
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奈美視点から戻る際は、主人公視点へのジャンプ箇所から同じように戻るか、または一定量読み進めると自動で戻る。
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ピンクの栞の出現後、1度見たエンディングにもう1度辿り着くと、その続きを見る事ができる「どんでん返しエンディング」システムが採用された。
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これら追加シナリオは、本家同様長坂秀佳氏が執筆している。氏は『街』の総監督でもあり、本作には『街』の内容に因んだ小ネタも追加されている。
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説明書で長坂は「控え目に言って、30倍は面白くなっている」と語っていた。
評価点
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絵やBGMなどは大幅アレンジされ、さらに恐怖感が増した。
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ゲームデータの読み込み速度が少ない
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PSのCD-ROMはSFC等のROMカートリッジと違い、必然的に読み込み時間が発生するのだが、本作はかなり少なくなっている。
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これは、開発スタッフの五戸正明が「SFC版『弟切草』と同じテンポで遊んで欲しくて、努力した」と語っている。
問題点
改善されなかった点
そもそもSFC『弟切草』は、史上初のサウンドノベルとして話題になった作品だが、システムには粗が多くあった。
今作ではそれは完全に解決できておらずほぼそのままの状態である。
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ムービースキップは可能になったが、テキストはスキップできない。
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クリアするごとにまた最初からやり直しになるため、同じルートを辿るのにスキップができないのは非常に辛い。
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速読み機能は一応有るが、条件を満たさないと使用できず、しかも攻略本を見ないとその機能の存在自体気付けない(ほぼ裏技)であり、使っても文字の表示速度がちょっと速くなるだけ。
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使用条件は「ピンクのしおりにした後、『はじめから読む/つづきから読む』の選択画面でL1ボタンを押しながら決定」。
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色んな話が入り乱れ、選択肢1つで他のシナリオに即移行してしまうため、シナリオ間の整合性が周回するたびに合わない状態になる。
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SFC当時は画期的だと話題になったが、『かまいたちの夜』や『街』、他社のノベルゲームが多数出た後となっては魅力的とは言い難いシステムとなってしまった。
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チャート機能がない。ただ一応、1度選んだ選択肢は色が変わりチェックされるようになった。分岐の仕方が複雑怪奇な本作では付けようが無いとも言われている。
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もっとも、選んだ選択肢のチェックは前回選んだ・前々回選んだもの、といった区別は存在しないため、他のルートに入るためには色が変わった選択肢であろうが結局は再び選ぶことになる。每プレイ選んだ選択肢をメモでもしない限り、ルート把握が不可能。
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エンディングは無数にあるがエンディングリストが無い。
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無数、と言っても大まかな話の流れのルートは10に満たない。
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周回を重ねるごとに選択肢でエロネタや癖の強いギャグ、メタフィクション的な演出が増えていき、どんどんカオスな状態になっていく。
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例:ある場面でヒロインの「私を愛しているか」という問いへの主人公の答え
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A「愛してる!オレのタマシイを見せたいくらいだ!」
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B「大スキだ!コイして!アユして!キスして!」
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C「オマエだけだ!新しいオンナができるまではな!」
追加要素における問題点
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SFC版も平仮名とカタカナを混ぜ書き(セリフ文に多い。「どうなッてんだ…!?」「うン…ヘンなの」など)している部分はあったが、書き直された際にこの路線がパワーアップ。小説にとって文章は命とも言えるが、そのクセの強さが増した。
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新システムである「どんでん返しエンディング」システムがあまり生きていない。
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上記の通り、意図的に特定ルートに行くのがかなり難しいため「以前読んだルートのエンディングの続きを見る」というプレイは困難を極める。
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「一度読んだルートに来てしまった人へのせめてもの救済措置」と言ったほうが妥当である。
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そのどんでん返しも、何度も見ていくとどのエンディングも最終的には「ドッキリだった」「主人公を試すためのテストだった」などのオチに収束してしまう事が多く、興醒め気味になる。
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ただし、最終エンディングである「完」にたどり着くにはこのどんでん返しENDも全て埋めなければならない。中には二度三度ひっくり返るものもあるためひたすら面倒なことになっている。エンディングリストが無いことも相まって、コンプリートするのはかなり困難。
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多重階層エンディングの中には「特定の選択肢からしかたどり着けない」ものもいくつかあるため、意図的に埋めるためには同じルートに入るように同じ選択肢を選んでいくような必要があるなど、苦行と化している。
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ヒロインとのザッピングが、短い上に中途半端。
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ヒロイン・奈美の視点で一部のシーンを読めると言うものだが、主人公に比べてあまりに能天気であったり、「お化け屋敷の舞台裏を見せられているようで興醒めだ」という意見も有り、賛否両論。
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奈美編について
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元々のシステムがフラグをアミダのように進む形式のため、奈美編でもそれは変わらず整合性は完全無視のままであり、奈美の視点で見ると意味ありげな彼女の行動の謎が解ける……という訳でもなく、単純にカオスな内容のまま主人公が奈美に置き換わっただけである。
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例として、主人公:怪奇現象に怯えている/奈美:この危機を乗り越えれば2人の絆は更に強まると考えて浮かれている、など。
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唐突に奈美が行方不明になるシーンがあるのだが、奈美視点でそのシーンを読むと、単純に怪奇現象が頻発するこの屋敷で、1人で出歩いただけだったりする。
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そもそも、彼女は全編を通して「プレイヤーの選択(ルート分岐)によって言動がコロコロ変わる」という立ち位置にあるため、そんなキャラクターの視点から物語を読んでも一貫性は保てない。
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彼女の心境の変化などを知りたくても、上記のように主人公との仲を深めたいなどと考えたり、舞台となる館の真相を知っているのかいないのか思わせぶりなことを考えたりですぐに主人公視点に戻ってしまうのがほとんどで、「ヒロインとのザッピング」というアイディア自体に無理があったと言える。
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総評
リメイクによりSFC版から劇的に変わったと言えるのはグラフィックが中心で、元々持っていた問題点の多くは据え置き、または問題点であるまま強化されている。
選択肢によって節操なくカラーをかえるシナリオジャンプに慣れたファンであれば許容が出来るかもしれない。
しかし、サウンドノベル式ADVが一般化した後となっては、本作の特徴は「不便」「不自然」と受け取られがちである。
下地がこのような状態であるためか、追加された要素の評判も芳しくない。
オリジナルの持つ個性を捨てなかった事で、『サウンドノベルエボリューション』の一角としては独特のプレイ感を保っている。
しかし1つのADV作品として見ると、内容が混沌としすぎていた。残念ながら、作品を昇華させるには至らなかった惜しいリメイクである。
その後の展開・メディアミックス
リメイク版発売以降、様々なメディアミックス展開がなされることになった。
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リメイク版の発売と同年、角川ホラー文庫より本作のノベライズ『弟切草』が刊行されている。
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小説版の著者はゲームで監修・脚本を務めた長坂秀佳氏だが、主人公が怪奇現象をみて戦慄した直後に何事も無かったかのようにスケベな妄想を始めるなど、ホラーとエロとギャグのどれをやりたいのかわからない内容となっていた。
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ある意味、ゲームでのカオスさをそのまま小説にしたものと言うこともでき、その意味ではゲーム版のノベライズとして再現度が高い。
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上記の小説版の続編として、『彼岸花』『寄生木』という小説も発売され、3部作となった。
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また、『彼岸花』にも続編小説『死人花』『幽霊花』があるため、実質的には5部作である。
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後に『彼岸花』も別のメーカーから2002年にGBAとPS2でゲーム化されるのだが…。
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角川ホラーコミックスより、服部あゆみによる漫画版『弟切草』も存在する。
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独自のオリジナルストーリーになっており、こちらはまるで『リング』のような内容となっている。
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上記とは別に、小説版を元にしたコミカライズ『弟切草~創世~』(画・小野双葉)もあり、こちらは続編の『彼岸花』も同作者によりコミカライズされている。
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実写映画『弟切草』も奥菜恵(奈美と直美の2役)主演で2001年に公開されている。DVDも発売された。
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ゲーム版と小説版を混ぜたような内容で、細部の設定は映画独自のものとなり(例として直美が姉ではなく女装した兄など)、小説版の展開とも異なる内容になっている。
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肝心の内容はホラーを演出するためかカメラワークや演出加工が過多で見づらく、話自体も設定があまり生かされておらず酷評という散々な結果に終わってしまった。
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2005年にゲームノベル(ゲームブック)『八百比丘尼の斎―弟切草オリジナルゲームノベル』も出版された。
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著者は原案・脚本の麻野一哉氏で、ゲームの半年後の世界を描いている。
最終更新:2024年06月25日 20:20