彼岸花
【ひがんばな】
ジャンル
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サウンドノベル
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対応機種
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プレイステーション2
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発売元
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サミー
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発売日
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2002年12月26日
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定価
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6,800円
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レーティング
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CERO:15歳以上対象
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判定
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クソゲー
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ポイント
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エンディング水増し キモい顔グラフィック 最悪な主人公 原作者公認の大失敗作
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概要
作家・脚本家の長坂秀佳が製作総指揮を執ったノベルゲーム。
氏が脚本を手掛けたゲーム作品としては『弟切草』『街』に続く3作目となる。
PS版『弟切草 蘇生篇』の発売に合わせて小説版『弟切草』が書かれたが、この小説版には『彼岸花』『寄生木』という続編が存在し、3部作となっていた。
そのうち『彼岸花』がゲームボーイアドバンスとPS2でそれぞれ別内容でゲーム化されており、本項は後者のPS2版の方である。
つまり「ゲーム → 小説」となった『弟切草』に対し、こちらは「小説 → ゲーム」という流れである。
なお、繋がりがあるのはあくまで小説版の方であり、ゲーム版『弟切草』を発売したチュンソフトとは全くの無関係。
京都を舞台としたホラーもので、何者かによって京都に招き寄せられた3人の女子大生に次々と怪奇現象が襲いかかるという内容である。
特徴
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まず3人の女子大生「六条有沙」(お嬢様)、「水元融」(美大生)、「川原菜つみ」(ボクっ娘)の中から主人公を1人選び、その主人公の1人称視点のシナリオをプレイする。
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ストーリーは新幹線で京都に着くまで・京都散策・ある寺に到着する・謎の旅館に辿り着く・事件の黒幕との対決という5つの章から成る。
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3人は5章の終盤近くまで、ほぼ1組で行動する。時折他の2人の視点にザッピングできるが、「他の主人公は内心どう思っているか」を垣間見ることができるだけで、すぐに元の主人公の視点に戻る。
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『弟切草 蘇生篇』同様、「どんでん返しシステム」が採用されている。これは一度見たエンディングにもう一度辿り着くと、その続きである新たなエンディングが出現するというもの。
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エンディングは主人公3人の合計で187種類(+隠しが4種類)存在する。
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エンディングリスト、既読文章スキップ、ムービースキップ機能は存在する。
問題点
システム面
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総指揮の長坂氏は「エンディングの数はギネスもの」「どのエンディングも会心の作」と攻略本で豪語しているが、実際には数だけ増やした露骨な水増しのものばかり。エンディングの水増しぶりと酷さに限って言えば、かの『四八(仮)』より上。
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最初に見る事のできるエンディングは主人公1人に付き4種類で、大体は「事件解決」と言えるオチである。しかし、それを台無しにするのが上記の「どんでん返しシステム」なのである。
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「犯人は無事逮捕された」というエンドを見た後、もう一度そのエンドに辿り着くとその続きとして「犯人が脱走した」というエンドになり、更にその次の結末に辿り着く度に「その犯人を追って行ったら幽霊が現れた」「その幽霊は実は幻だった」「なんか知らないけどロボットが出てきた」「全てはUFOの仕業だった」と言ったように、綺麗に終わった話に無理矢理後日談を作り、更にその後日談をいくつも細切れにして「エンディングは191種類もある」と言い張っている。
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特に酷いケースは「旅館の女将に"電話貸して"と頼んだら、突然女将が鬼に変身した」というもの。このエンドの後には「もう一度女将に同じことを頼んだらやっぱり鬼に変身した」というエンドが4回ほど続く。
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エンディングを埋める為には、「もうすぐ終わりそうだと思ったらセーブする→エンドを見た後そのセーブ地点からやり直す」というやり方が1番効率が良いのだが、1つのセーブデータに付き5箇所までしかセーブできず足りなすぎる。
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ザッピングで他の主人公の内心を垣間見ても、その主人公のシナリオのテキストを流用しているだけ。しかも「3人の中に犯人がいる」というエンドに辿り着いた場合に矛盾が発生してしまため、ザッピングが完全に意味をなしていない。
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選択肢はどれも3択なのだが、3番目の選択肢は9割バッドエンドに繋がる。
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しかも内容は基本的に「突然子供の鬼が現れて襲ってきた」「突然幽霊が現れて襲ってきた」「突然鬼の生首が降ってきて爆発した」の3パターンの意味不明なエンディング。
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さらに厄介なのがランダム分岐。本作は基本的に「選択肢が登場してからその次の選択肢に辿り着くまで」を1パートとしており、最終章以外の各パートはランダムで組み合わさっている。
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「パートが1つ終わる → 複数用意された次パートのどれかにランダムで繋がり、選択肢が表示される → そこでバッド以外を選び、パートの最後まで読み進む → また次のパートのどれかにランダムで繋がる」の繰り返しである。攻略本にも「ランダム分岐の為に展開が混沌」と書かれており、攻略になっていない(というかしようがない)。
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要するに「過去のパートでどの選択肢を選んだか」というフラグ機能自体が存在しないのである。その結果お嬢様が「私これでも居合いをやるのよ」というセリフを1回のプレイ中に5回も6回も発言してしまう。他の2人も「またそのセリフか」などと反応はしない。
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4章の冒頭である選択肢を選ぶとそのまま4章を丸ごとすっ飛ばし、5章にジャンプしてしまう。初プレイで選んでしまったら完全に置いてきぼりになる。
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中盤のバッドエンドの1つでは、話の核心に関わる情報がバラされ、「私達はその事をまだ知らないはずなんだよ、ネタバレするな」とメタな発言が出て終わってしまう。このバッドエンドも、初プレイで到達し得る。再プレイ時にのみ到達し得るなら、ギャグエンドに成り得ただろうに。
端的に言えば『弟切草 蘇生篇』のカオスなシステムにランダム要素が加わったもの。
むしろ1周が長すぎる事とバッドエンドシステムの影響で改悪されたと言える。
最悪の主人公
メイン主人公であるお嬢様の性格が異常なまでに悪い。「正義感が強く人当たりが良いため、一行のリーダー的存在となる」と紹介されているが、実際は度を越した押し付けがましいだけの独善者である。
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とにかく自分の意見を他人に押し付けないと気が済まない。「幽霊なんて非科学的だからこの世にはいない」と公言しており、幽霊を信じている、あるいは見たと主張する他2人を「いない。非科学的だ」とひたすらゴリ押しして言い負かそうとし、相手が折れるまで無言の圧力をかけ、「ここで目を反らしたら負けだ」と意味もなく勝敗に拘る。
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因みに幽霊を否定する理由は単に自分が怖がりだから。つまり自分が怖がりたくないというだけの理由で、他人に同意を強要する。他2人とはついさっき知り合ったばかりである。
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そして相手が折れれば「良かった。これで私達、楽しく旅を続けられるわね」などと発言。
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それでも幽霊の存在を信じ続けるボクっ娘の事は露骨に無視したり冷たくあしらったりする。
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更に強引かつ一方的な推理を進めて仲間内の雰囲気を自ら悪化させておきながら「ああ、私達の信頼が壊れていく。皆気が立っているのだ」と他人事の様に嘆く。
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自分の知識をひけらかし、周りが感心したり自分の意見を引っ込めたりすると機嫌良く飲み物を奢り始める。
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普段から身勝手な言動で周囲を振り回しておきながら、他の2人が少しでも勝手な行動を取ると「まるでガキ大将だ」と呆れたり、「人の意見も聞いたら?身勝手は良くないわ」と説教を垂れたりする。お前が言うな!
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この様に、明らかに「イヤな奴」なのだが、どうした事か他の2人は「彼女はオトナだ」「いつも正しい」と服従する。
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普段は他の2人を振り回し、そのくせ急な事態が起こると真っ先に取り乱すというのに、「あんたは私達のリーダーなんだから」「あんたに頼るしかないんだよ」と持ち上げられる。
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そして本人も、他2人にフォローされているというのにその自覚すら無く「私がしっかりしないと終わりだ」と内心呟く。
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ちなみに他の2人が彼女に反発するシーンも少しはあるのだが、なぜか逆らう方が悪いかのような描かれ方をする。つまりこの作品世界には「彼女のする事は何が何でも正しい」という謎のベクトルが働いており、プレイヤーからは違和感しか出てこない。
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その悪辣ぶりはWikipediaの本作の記事でさえもボロクソに、しかし的確に記述されているほど。
その他
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登場人物は3Dで描かれているが、はっきり言って不出来。
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2002年のPS2ソフトとは思えないクオリティの低さに加え、単純に造形も気持ち悪い。シーンによっては主人公達の顔の方がホラーと化しているパターンも。
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お嬢様は特に不細工で性格も上述の有り様なので、外見も内面もブスという救いの無い事になっている。
評価点
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BGMは良好。ホラーゲームとしての雰囲気を上手く演出できている。
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長坂氏がこれまで出がけた、様々な作品の小ネタが登場する。特撮番組『人造人間キカイダー』や、かの『街』まで。
総評
「(ゲームを制作するに当たって)必ず世界初という仕掛けを組み込むように心掛けている」とは本作制作時の長坂氏のコメントである。
だが、ユーザーは純粋な物語の面白さや何度も繰り返して遊びたくなるようなプレイバリューを求めているのであって、「世界初」云々はどうでもいいのである。
この「世界初」に拘るあまり、本作におけるナガサカ節はかつて手掛けたTVドラマ群や『街』のような冴えを失う結果となってしまった。
後に長坂氏は、著書『長坂秀佳術』にて「彼岸花は大失敗だった」と語っている。
その影響かは不明だが、氏は本作以降は『街』の移植版を除けばゲーム制作には携わっていない。
余談
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PS2版発売より1ヶ月前にアテナからGBA版が発売されている。
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GBA版はPS2版とは異なるストーリーとなっている。グラフィックも可愛らしいアニメ調で、PS2版のようなデザインの問題は無い。
と言うか、何故PS2版で変更したのか。
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ただし、こちらも原作者は同じなので上記に挙げた主要人物の性格設定はそのままである。
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ゲーム版発売後、原作のパラレル小説『死人花』『幽霊花』も発売されており、これらは「彼岸花3部作」と位置づけられている。
最終更新:2024年05月14日 10:30