弟切草
【おとぎりそう】
ジャンル
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サウンドノベル
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対応機種
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スーパーファミコン
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メディア
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8MbitROMカートリッジ
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発売・開発元
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チュンソフト
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発売日
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1992年3月7日
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定価
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8,800円
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セーブデータ
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3個(バッテリーバックアップ)
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配信
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バーチャルコンソール 【Wii】2007年8月28日/823Wiiポイント 【WiiU】2014年7月30日/823円 (表示価格は全て税8%込)
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レーティング
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CERO:C(15才以上対象) |
書換
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ニンテンドウパワー 1997年9月30日/1,000円/F×2・B×4
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コンテンツアイコン
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恋愛、セクシャル
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判定
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なし
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ポイント
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サウンドノベル第1作 ホラーの皮をかぶったカオスギャグ
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チュンソフトサウンドノベルシリーズ
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概要
画面全体に表示されるテキストを読むゲーム。同社が打ち立てた、小説をベースに背景グラフィックや音響効果を追加した新ジャンル「サウンドノベル」の第1作目である。
全編に通じて登場するモチーフである「弟切草」とそれにまつわる悲劇の伝説を主軸に、夜道をドライブしていた主人公とヒロイン「奈美」の2人が、山奥の洋館に迷い込むところから物語は展開していく。
シチュエーション設定から想像される通り、本作の全体的な雰囲気はホラーテイストを基調としている。
脚本と監修は、江戸川乱歩賞作家の長坂秀佳氏が担当している。
システム
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プレイヤーの入力操作はボタンを押してテキストを読み進める事と、特定ポイントで2~4種類ほど表示される選択肢を選ぶ事。この2つだけである。
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シナリオは10数本存在し、選択肢に応じて分岐する。ただし、舞台設定は共通で、節ごとに描写のバリエーションはあるがあらすじはだいたい同じ。大きく変化するのは、結末が決定される終盤のみである。
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ゲーム開始時のシーンの描写も複数のパターン(これはランダムで決定される)がある。本作のシナリオを管理するフラグを図示するとあみだクジのような姿をしていて、選択肢によってシナリオ間をジャンプする形をとっている。
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いわゆるゲームオーバーは存在せず、必ず何かしらの結末にたどり着く。
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初回でたどり着ける結末は3通り程度。エンディングを迎えて周回を繰り返すごとに新しい選択肢が追加され、それによって新しいシナリオが解放される仕組みになっている。
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周回数を重ねていくと、先の展開を具体的に先読みしたり、緊急事態に対し不自然なほど冷静になったりと、だんだんギャグ調の選択肢やシナリオも混じってくる。これは、プレイヤー側がゲームに慣れてくる事を見越したメタフィクションの手法によるもの。
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セーブは手動では行わず、ページ送りやエンディングのたびにオートセーブされる。
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クリア達成度に応じて、セーブデータ画面のデータファイルである「栞」の色が変化する隠し要素がある。栞の色がピンクになった時は、ちょっとエッチな内容の新シナリオが解放される。
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劇中テキスト引用:主人公が弟切草の伝承を語るシーン
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「あのダエン形の葉を光にすかすと、黒い点々がいくつも見える。それは・・・弟の怨みの血なのさ」 「弟の血・・・」 「平安の昔、ある鷹匠の兄弟がいた。その家には代々、鷹の傷を治す秘薬が伝えられていたんだ。ところが、その秘伝が世間に広まってしまった。弟が自分の恋人に教えたせいだ。・・・怒り狂った兄は」 奈美が息を呑むのがわかった。 「刀で弟の首を、バサッ」 ・・・奈美は小さく首をすくめた。 「その血しぶきが、葉にかかった・・・。それから、あの花は弟切草と呼ばれるようになった」 「そんなことが・・・」 降り出した雨を受けて、あたりの弟切草が一斉にうなずいたように見えた。 「悲しい話ね。兄弟で殺し合うなんて」 うっすらと涙まで浮かべている。 一人ッ子の奈美を感傷的にさせてしまった。
A 感傷的になっている奈美を観ショウした。 ※周回で追加される選択肢 B ぼくはちょっとやりすぎたかなと思った。 C ぼくは話題を変えようとしていった。「奈美、おなかすいたな」 D ぼくは奈美の肩へ手を回すタイミングをはかった。 ※ピンクの栞後の追加選択肢
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大抵の選択肢制ADVは、選択肢と分岐先の因果関係がなんとなくわかるものだが、本作で最初から解放されている選択肢(ここではB・C)は、それを推察できないケースが多い。反面、周回で追加される選択肢は分岐・シナリオ展開とも茶目っ気があり、ピンクの栞で追加される選択肢は選択肢自体がややピンク、という傾向がある。
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このシーンは引用した通常パターンの他に、細部を盛ったロング版、ホラー風味のスプラッタ版、適当に切り上げるショート版、やり込み後のお楽しみであるピンク版がある。これ以外のシーンも、同様に複数のパターンが用意されている。
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評価点
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1つのシチュエーションから複数のシナリオが展開する仕掛けは、繰り返しプレイするモチベーションとして十分である。多くのシナリオを読ませるという目的に対し、新機軸のゲームデザインはうまくハマった。シナリオ自体も、襲いくる怪奇現象、館の謎、ヒロインの秘密などをテンポ良く読ませる。
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周回をこなす事で少しずつ新しい要素が解放されていくスタイルを明確に打ち出した代表的なADVは本作である。本作の存在は、他のADVゲームにも大きく影響を与えた。
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映像や音響効果などに支えられた恐怖演出は、非常にインパクトが大きかった。サウンドノベルの初っ端にホラージャンルを選んだのは正解だったと言える。
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要所でしかBGMはかからず基本無音状態だが、使いどころが限定されている分、曲が印象的なものになる。
問題点
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フラグ管理の構造上、ストーリーの前後がつながらず整合性がメチャクチャになるという欠点がある。
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「冒頭シーンはシナリオA、館に迷い込むシーンはシナリオCのもの、物語が急展開するシーンはシナリオBで、結末はシナリオF」…この調子では話がうまくつながるはずがない。
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話の流れによっては、さっき台所に行ったばかりなのに「キッチンを探そう!」と言い出したり、唐突にどこから持ってきたのか分からないビンを取り出して割ったり、主人公が奈美を連れ込むために下見までした館だったはずなのに結末は奈美一家の芝居だったりと、露骨に矛盾が多発する。
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選択肢の数が少ない初回プレイ時は、不自然なつながり方をしないきちんとした形で遊べる。しかし、選択肢を増やすと辻褄が合わなくなる事は必至なので、追加シナリオにメタフィクションギャグが増えていく、というわけである。
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読みやすいがやや崩し気味の文章であるため、小説をよく読む人ほど、文体にひっかかりを覚えるかもしれない。
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ギャグセンスも一種独特。ツボにはまる人と肌に合わない人で感想が割れる事もある。
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スタッフロール後に「完」と表示される本作の本当のラストシーンを見る条件は、「すべてのエンディングを踏破する」という、フローチャートや速読機能のない時代のノベルゲームにおいては極めて困難なもの。
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中でもとあるエンディングは結末が全く一緒でありながら「道中で選んだ選択肢が違う」というだけで別物扱いになるので、攻略情報などを参照しないことにはまず辿り着けない。
総評
映像とテキストを主体とするADVでコマンド選択型以外のスタイルを一般に広め、新しいジャンルとして定着させた、ノベルゲームの代表作である。後に続く同様のノベルゲームにホラーものが多かったのも、本作の影響があったと思われる。
一方で、単体のゲームとしての評価について言えば、映像などの演出は効果的に働き、物語の筋道もしっかりしているが、周回を重ねると多く見られる突拍子も無い伏線ブレイクはシナリオ主体のゲームの仕様としていかがなものか、という問題はつきまとう。グラフィックの質も場面ごとにムラがあり、完成度は少々不安定と言わざるを得ないだろう。
しかし、このサウンドノベル処女作が果たした役割は大きかった。後にチュンソフトは、一般的にも高い評価を獲得する同ジャンル作品を多数輩出していくが、その起点に本作の存在がある事は紛れもない事実である。
余談
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あくまで「サウンドノベル」を名乗る第1作目であり、ノベルゲームの元祖ではない。
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花言葉について
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劇中に登場する花言葉はゲーム内の独自設定であり、現実のものとは異なっている。
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弟切草の花言葉が劇中では「復讐」と語られるが、現実では「迷信」「敵意」「秘密」「恨み」等となっている。「恨み」がやや近いとも言えなくはないが。
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「復讐」の花言葉を持つ花は、現実では「シロツメクサ」「トリカブト」「アザミ」等である。
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また、ライラックの花言葉も「初恋の痛み」と語られるが、現実では「思い出」「友情」「謙虚」等である。
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「初恋の痛み」については、現実ではライラックどころかそのような花言葉の植物が存在しない。
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一応、紫色のライラックには「恋の芽生え」「初恋」といった花言葉がある。
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一応フォローしておくと、そもそもこの部分で重要なのは花言葉ではなく、弟切草の由来である「弟」を「切」ったという不気味さを感じさせる名前と逸話の方である。花言葉はいわば伝承に真実味を持たせる為のエッセンスであり、正確さは求められていない。
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ピンクの栞を出した写真をチュンソフトに送るとプレゼントがもらえるキャンペーンが行われていた。
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『チャンピオンシップ・ロードランナー』の認定証キャンペーンなどにも似ているが、SFCソフトのADVでこれをやったのは当時としては珍しい(PCソフトのADVなら類似のキャンペーンは数多く存在したが)のではないだろうか。
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本作のゲームデザインはベースが小説なだけあって、「ソフト代金を小説購入費に充てた方がいいのでは」という突っ込みを受ける事がある。実際には本作のシナリオ演出や音響演出などは、小説にはないTVゲーム独自のものであるが、ゲームに慣れ親しんでいない層からはそのように見えるようだ。
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チュンソフト開発のローグライクRPG『不思議のダンジョンシリーズ』には、第1作『トルネコの大冒険 不思議のダンジョン』から通して、HP+状態異常回復の万能薬アイテムとしてしばしば「弟切草」が登場している。
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この名称及び効能は(実際の「オトギリソウ科オトギリソウ属オトギリソウ」と比べると誇張されているが)本作を意識したものと考えられる。
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弟切草をショーで初のお披露目で中村光一氏は堀井雄二氏に「難しい事やってるね」と声をかけられたとファミ通のインタビューで答えている。
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前例の無いジャンルで、他社がグラフィックに力を入れる中、サウンドに目をつけた挑戦に対してのもの。
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インタビューでは開発途中の話で最初の落雷の音だけで数メガ吹っ飛んだ等のエピソードも語られている。
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本作はいわば「ビデオゲーム化した書籍」だが、1970~1990年代にかけて、その祖先と言える「ゲームブック」というジャンルの書籍が盛り上がりを見せた。
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ゲームブックの物語は数行ずつ分割され、番号付きの項目としてランダムな順序で並べられている。読者/プレイヤーは文中の指示に従って、あるいは「怪物と戦う→11へ/隠れてやり過ごす→22へ」のように選択肢を選んで、次々と項目を飛びながら読み進める。本作は基本的な構造がゲームブックを踏襲しており、直系の子孫と言える。
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ビデオゲームに押される形で次第にジャンルごと衰退していったが、日本では双葉社がマリオやメトロイドといった版権物のゲームブックを手掛け、1980年代を中心に共存共栄の時期があった。
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ちなみに、本格的なゲームブックの元祖は、1982年にイギリスで出版された『The Warlock of Firetop Mountain』(邦題『火吹山の魔法使い』)とされる。著者のスティーブ・ジャクソンとイアン・リビングストンは、共に現代のビデオゲームにも多大な影響を与えるTRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の普及にも貢献した人物である。
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本作のリメイク作『弟切草 蘇生編』では、メディアミックス企画の一環としてゲームブックも制作された。後述の「その後の展開」を参照。
その後の展開
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サウンドノベル2作目『かまいたちの夜』はミステリー仕立てのストーリーになった。映像面・演出面とも全体的にパワーアップした名作である。
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「普段冴えないけどやる時はやる男性」と「ちょっと勝ち気で才色兼備の女性」という主人公とヒロインの組み合わせは、どことなく本作のメイン2人のコンビを彷彿とさせる。
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本作の後にチュンソフトが出したサウンドノベルの3作品をPSでリメイクする「サウンドノベルエボリューション」の企画の一環として、『弟切草 蘇生篇』が発売された。
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また、リメイク版の発売以降、小説・漫画・ゲームブック・実写映画等の様々なメディアミックスがなされた。そちらの詳細も『蘇生篇』のページを参照。
最終更新:2025年02月12日 10:52