ZAVAS

【さばっしゅ】

ジャンル RPG
対応機種 PC-8801mkIISR以降、PC-9801VM/UV以降、X68000
発売元 ポプコムソフト(小学館)
開発元 グローディア
発売日 【PC88】1988年12月
定価 【PC88】7,800円
配信 プロジェクトEGG:2013年10月29日/440円
判定 なし
ポイント 落語家・三遊亭圓丈がシナリオ執筆
全自動戦闘
正統派RPGだが色々と粗削り


概要

  • 落語家の三代目・三遊亭圓丈氏がシナリオを手がけたRPG。氏はゲームフリークとしても知られ、当時は小学館のパソコンゲーム雑誌『ポプコム』に「円丈のドラゴンスレイヤー」と言う連載も持っていた。そのため、話題作りのために有名人が名義だけを貸したのとは訳が違い、制作に本格的に関わっている。…ただし(後述)。
  • 開発は後に『エメラルドドラゴン』を生み出したグローディア。
  • そして出来上がったゲームは…微妙に同人っぽい…。

ストーリー

今から数百年前。突如、ドルゲスタン大陸に魔王ダルグが現れる。ダルグは神王オルムズトに闘いを挑むが、破れ地中深くに封じ込められた。しかしやがて目覚め、その強大な魔力で、地上に魔物を解き放った。魔物は方々で暴れ、殺戮の嵐が吹き荒れる。
ある日、トマという村が魔物に襲われる。その襲撃で、村の若者マーディは二人の姉と両親を失った。やがて彼は神に復讐を誓う。それを受けた遊神プートスは彼に不死身の体を与えダルグ討伐を手助けする。そして助言を与えた、カーラマン、グレッシ、ビリンチ、サージの四つの職種の者を集めよと。マーディはZAVAS(復讐の戦い)を胸に旅立った。


システム・特徴

  • 正統派寄りのRPG。ただし戦闘システムは独特。
    • フィールドで町や砦、洞窟を巡り、情報を集め、宝を集め話を進めていく。まさに正統派。ただ情報は断片的なものが多い。頭を働かせないといけない場面が結構ある。
    • 戦闘システムはターン制のタクティクスタイプだが、操作そのものはなんと全自動。主人公すら自由に動かせない。プレイヤーができるのは、逃げる、目標を定める、薬を使うの三つだけ。
    • パラメーターは最小限だが、変わっているのがCTMというもの。これは主人公との親密度で、これが低いと指示に従わなかったり全力で戦おうとしない。
  • パーティの構成は自由。
    • ストーリーでは四種の職種でパーティを組むように言っているが、偏っててもかまわない。途中でメンバーを変える事もできる。しかしサージはストーリー上、最低一人は必要。グレッシも事実上一人は必須(いないと、ダンジョンの崩せる壁を崩すことができず、先に進めない)。
    • ただし、やっかいなのはメンバーに日当を払わないといけない事。5人揃ったパーティでは、稼ぎの半分が日当として持っていかれる。しかも日当貰っているくせにパーティの装備や薬などは、主人公の支払い。
    • 仲間はストーリー上の個性には乏しい。しかし初期能力や成長率は個人ごとにきちんと区別されている。能力が最弱だが、育てば終盤は最強になる仲間も居る。
  • 稼ぎはすぐに自分のものにならない。
    • モンスターを倒しても、稼ぎは主人公のものにはならない。一時的にプールされ、キャンプの時に分配される。このキャンプ時、体力も復活する。またキャンプコマンドではいろいろと遊び要素もある。
      • 「HPの回復にだけ気をつけてれば、キャンプを張らなくてもいいのでは?」と思うかもしれない。しかし、戦闘回数を重ねるとパラメーターの「AGI」が一時的に下がっていってしまい、最終的には敵に攻撃が全く当たらなくなってしまう。このため、嫌でもある程度戦ったらキャンプを張って、AGIを回復してやらねばならないのだ。
    • 食料システムがあり、キャンプの時、人数分の食料が消費されていく。食料が足りないとキャンプによるHP及びAGI回復がなくなる上、先述のCTMが大幅に下がってしまう。
  • 通貨が三種類もある。
    • 人間の間で流通しているのが「ティラ」、魔物の間では「ダルグ」、そして他に「ゴールド」がある。これらは換金が可能。そして実はダルグ、ゴールドを稼いだ時は分配する必要がなく、全て主人公のものとなる。
  • 物価が結構高い。またモンスターのパワーインフレもなかなか激しい。
    • とは言っても物価が響くのは序盤だけで、中盤以降はそうでもない。実は宝物のほとんどがお金なので、十分とはいえないものの、稼ぎに必死にならないといけないというほどでもないのだ。
  • 一風変わった会話コマンド。
    • キャラクターと話しているときに、会話コマンドを実行できる。相手に食べ物をあげたり、闘いを挑んだりできる。お遊びっぽいが、実は話を進めるため要所々で使うもの。使い所に一工夫必要。

評価点

  • 正統派らしく取っ付きやすいシステム。戦闘が自動なため、覚える事はわずか。
  • 広いフィールドに冒険要素盛りだくさんのボリューム。
    • とにかくダンジョンや砦がかなりある。実はストーリーを進める上では、回るのは半分程度でいい。だが、とにかく制覇してやろうという気になってしまう。
  • モンスターのパワーインフレと同じく、武装のインフレも結構あり、より強い武器を手に入れたときの収得感はなかなか。
    • 中には特定の名前のキャラしか取得・装備できない、半ば隠し武器もある。
  • 当時にしてはキャラ性が出ている。キャンプやホテルでのイベントや、フィールドCTMが下がるイベント、モブキャラとのかかわりなどショートイベントが結構ある。キャラクター性というには少々弱いが、それまでのRPGの形式的なキャラよりは色濃いものがある。また、モンスター側も多彩でやる気のない連中、敵である主人公を見逃す者などもおり、こちらも一辺通りではない。
  • BGMメロディーはなかなかいい。

問題点

  • クリアに時間がかかる。ボリュームがある長いシナリオが作られているのだから、そこで時間がかかるのはまぁ当然だろう。が、問題なのはそれ以外の部分で膨大に時間を食うのだ。
    • 原因の一つが歩くのが遅い事。とにかく遅い。お使いイベントで行ったり来たりするようなものは、かなり苦痛。
      • 後半になればあるアイテムで、フィールド上を高速で飛行することができるので少しマシになるが、先述の通り世界が広大なのでやはりある程度の時間はかかるし、ダンジョン内では使えないので結局歩くことは避けられない。
    • 全体的にダンジョンの中も広め。中には1ダンジョンとは思えないほど、とにかく広大なもの*1があり、そこで敵と戦いながら探索すると、少し迷っただけで数時間経過してしまうこともザラである。
    • 次はレベル上げ。タクティクスタイプなため全自動とは言っても時間がかかる。全体的に俯瞰すると、敵モンスターはかなり強めな上にタフに設定されており、相当な実力差(またはクリティカルを引く運)がないと、1~2回の攻撃で倒すと言うことは不可能。
      • モンスターの中には「移動距離が長い上に、1回攻撃するとこちらの味方から離れるように逃げ回る」ようなものがおり、それと追っかけっこし続け、戦闘がなかなか終わらないなんてのもよくある。
      • さらに、後述するAIの頭の悪さ加減がこれらの仕様に拍車をかけている。
    • 断片的なヒントも多く、回答が思いつかないと総当り的な攻略をせざるを得ない。結果時間がかかる。1980年代半ばまではその手の要素は当たり前だったが、本作の時期では少々不親切。
  • 世界観がちぐはぐ。
    • 魔物の暴力が席捲した世界。のはずなのだが、どこかのんびりした雰囲気に包まれている。
      • 魔物が跋扈しているはずのフィールドには、宝探しや嫁探し、職探しをしている暢気な人々多数。
      • アドバイスをくれるモブキャラもいるが、それもポツリといるのではなくフィールのあちこちに。魔物の砦の中にすら、一般人が入り込んでいる。重要拠点にただのおばあさんがうろうろしているなんて、よくある光景だったりする。
    • さらに世界観を微妙にしているのが、スタッフが出張ってしまっている点。お遊び的な場所にだけならいいのだが、他にもいる。しかも重要アイテムを渡すキャラの一人だったりする。
      • 当時のパソコンゲーム誌では、編集者やライターのキャラを立たせた上で、読者にイジらせる手法を取っていたところが多い*2ので、そのノリをゲームに持ち込んでしまったとも言える。とは言え、ポプコムにはキャラが立った名物編集者はおらず、その分圓丈氏や立川談之助氏などの芸能人が登場していた。
      • モブキャラの中には、メタい事を言うキャラもチョコチョコと。
    • キャラ絵がバラバラ。CGは三人が担当している。その一人は次作エメラルドドラゴンでもキャラ絵を担当することになる木村明広氏。だがそれぞれが担当のシーンで自分の絵を使っているので、同じキャラなのに絵がまるで違う。
  • 頭の弱いAI。
    • 戦闘が全自動なのだが、このAIが微妙。
      • アルゴリズムが単純で、モンスターの多彩さについていけない。戦闘に時間がかかってしまうのも、このせいである点は否めない。頭の悪い行動を取ってしまい、死亡する事も度々。かなり強くなっていても、味方が本当によく死ぬので生き返り薬は必須。
      • 本作は主人公である「マーディ」が死亡した瞬間に全滅扱い=敗北となってしまう仕様であり、これも難易度の上昇に拍車をかけている。絶対有利なはずの魔物からクリティカルヒット*3を貰って死亡、という場面に何度も出くわすことであろう。
    • さらに戦闘を悪化させているのが、仲間であるはずのビリンチ。足を引っ張る所ではない、獅子身中の虫。
      • 基本パラメーターは低く、武装の種類も少ない。弓系の武器を装備させれば手数だけは多くなるのだが、中盤まではまだしも、後半になると完全に火力不足になってしまうため、お荷物になりがち。指示にも従わない。
      • だがそれ以上に問題なのが、テレポート(ヘジラ)というビリンチだけの魔法。戦闘中に敵味方をワープさせる魔法で、後半になると頻繁に使うようになるのだが、味方が得をするケースはごくごく限られ、まず味方が不利になるようにしか使わない。そしてビリンチが使えないと気づいた時には、かなりレベルが上がってしまっているのだった…。
      • エンディングの出番に関わるので、入れてクリアするメリットは一応ある。もっとも最後のメンツによってEDが変わるので、ラストバトル直前のデータをセーブしておき、そのデータを好みのメンバーに入れ替えればいいのだが。
    • 魔法に弱いプレイキャラ達。
      • モンスターの魔法で一番恐ろしいのは錯乱の魔法。かかると味方を攻撃しだす。鍛えに鍛えた味方の攻撃は、レベルに関わらず脅威。これで死ぬ事もよくある。
      • これだけではなく、非攻撃系の魔法*4にモンスターとのレベル差関係なくかかり易いのだ。これがまた戦闘時間を延ばす。
  • ステータスのうち、「AGT」*5の影響が非常に極端。
    • 戦闘システム上この値がある程度高くならないと、攻撃をヒットさせることがほぼできない。
      • わずか数ポイントの差でもその影響は大きく、雲泥の差がある。このため、「全然攻撃が当たらなくて勝てない」と感じたら、攻撃が当たるようになるまで経験値を稼いでレベルを上げないと、まず戦闘に勝つことができない。先述の通り、レベルアップに必要な経験値がかなり多目のゲームであるため、これがなかなか面倒臭くて苦痛な作業なのである。
      • さらに、「こちらのレベルが上がるにつれ、弱い敵とはランダムエンカウントしなくなる」という仕様があるため、レベルアップには一工夫必要になる(絶対に勝てるダンジョン内の固定敵を何度もイビる…など)。
    • サージが「SLOW」の魔法を使えるなら、敵のAGTを落とすことができるため、僅かながら勝ち目が出るが…このゲームの魔法習得システムは独特*6で、「SLOW」が使える期間が最終盤以外だとごく限られがち。結局、レベル上げを避けて通ることは難しい。
  • 手間がかかるだけの三種類の通貨。
    • ティラ、ダルグ、ゴールドの三種類の通貨は、使う都度それぞれ換金する事となる。この換金が手間。序盤はそうでもないが中盤以降はただの苦痛。というのも換金の額面単位が小さいのだ。後半になると何百回と換金するハメになる。
  • シナリオの印象が弱い。
    • ヒントが断片的なようにシナリオも断片的。いろんなショートイベントをこなしていると、ふとストーリーが始まったりするので、出てきた名前が誰だか忘れていることも。ただシナリオそのものは悪くない。

総評

いろんな意味で荒削りなゲーム。十分なボリュームやAI戦闘などの要素が、粗い作りのせいで魅力を減らしてしまっている。
三遊亭圓丈氏のシナリオも、まだまだストーリー性やキャラクター性が強くなる途上の頃のRPGらしく、煮詰めきれていない。世界観の構築も不十分(圓丈氏の中では煮詰まっていたのかもしれないが、ケンカ別れで投げ出してしまっては期待出来ない)。
言ってしまうと、全体的に成長期の同人ゲームくさい雰囲気が漂っている。これを本作の独特の空気と見るか、未成熟と見るかは微妙な所。
一方で、ゲームとしては破綻しているという訳ではない。また、PCのRPGはARPGやWizardryタイプのものが中心に発展したため、正統派スタイルはそれほどでもなかった。その意味では本作はPCで遊べる正統派RPGの一つであった。


余談

  • 遊神プートスの像があちこちに立っているのだが、その顔はもろに三遊亭圓丈氏。クセのある特徴的な顔なので、ファンタジー世界に似合わない気もするが…圓丈氏のファンなら許せるのだろう。
  • 三遊亭圓丈氏は当時のスタッフと対立した末、シナリオを書き切らず中途で抜けてしまい、ゲーム最終盤のシナリオはバイト君が埋めたとの事。そのため本作の問題点に関してはすべて「俺は途中で抜けたから知らん」で通している。芸人としては問題ないのかもしれないが、ゲーム制作者として見ると無責任と言わざるを得ない。
    • その影響なのか、2を遊ぶとOPでマーディと魔王ダルグの神話的な最終決戦の様子が語られるのだが、(今作を最後まで遊んだ人には)いきなり辻褄の合わない設定の説明をされる。詳しくは本作のネタバレになるので自分で調べてみて欲しい。
    • その圓丈氏なのだが、ポプコムの連載当時でも結構なオジさんで、主なプレイ層の若者と、オジさん落語家の価値観は一致していたとは言い難い。ただし、圓丈氏は新作落語の旗手として有名だったため、その独特の台詞回しが好きでたまらない人も一定数はいた。
  • 続編の『サバッシュII メヒテの大予言』は、採集・交易・海戦などの要素があるかなり独特なゲーム性。評価としてはおおむねIIのほうが高く、「思い出のRPG」として挙げるマニアもそれなりに多い。
  • ターン制の自動タクティカルコンバットのRPGというシステム的な後継は、主人公を自分で操作可能にするなど改良されながら『エメラルドドラゴン』『ヴェインドリーム』『ヴェインドリームII』といった同社のRPGがシステムを受け継いでいる。
    • レベルによって使用する魔法のテーブルが変わるシステムによる弊害も受け継いでいる。
  • 桑田浩之*7氏のサイトで『サバッシュ』のX68(エミュレーター)版が公開されている。きちんと最後までプレイできる上、元スタッフだけあって再現度も上々。気になる方は一度やってみては如何だろうか。
  • 当然ながらポプコム誌上でのヨイショ具合は相当なもので、同誌の人気ゲームランキングでは、イースIIなどを差し置いて常に1位であった。ちなみにこれは不正操作という訳ではなく、ランキング集計において、読者アンケートだけでなく編集部の意向も加点要素にしていたためである*8
  • 2017年現在、プロジェットEGGでもPC88版、X68K版共に配信中(有料)。

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最終更新:2021年05月18日 04:50

*1 「アルフールの大要塞」「ストゥーパ 210」などの極悪さが本作プレイヤーには有名。

*2 ベーマガの影さん・編さん、ログインの伊藤ガビンや金盥鉄五郎、コンプティークのイボンヌ木村など

*3 今作のクリティカルヒットは、攻撃力倍率が3倍~5倍程度とかなり高い上、確率的にも出やすい。

*4 凍結や幻想など、味方が動けなくなる状態異常は意外と多い上、使ってくる敵の種類も多い。

*5 おそらくは英語で言う「Agirity(敏捷性)」の略と思われる

*6 あるアイテムを貰うことにより魔法を覚えるのだが、途中で奪われたりと一筋縄ではいかない。

*7 元グローディアのプログラマー。ちなみに現スクエニにも同姓同名の人が勤務しているが、全くの別人

*8 そのことを誌上で詳しく説明されることはなかったが。同業他誌では読者アンケートのみのランキングであった