鉄人
【てつじん】
ジャンル
|
FPS
|
|
対応機種
|
3DO Interactive Multiplayer
|
発売・開発元
|
シナジー幾何学
|
発売日
|
1994年4月9日
|
定価
|
8,900円(税別)
|
判定
|
賛否両論
|
ポイント
|
独特なサイバーパンクの世界観 実写とCGが織りなす独創的な雰囲気 不自由な操作性・低フレームレートは擁護し難い
|
鉄人シリーズ 鉄人 / RETURNS
|
概要
-
『GADGET』で有名なシナジー幾何学によるFPS。自称、ARPM(アクション・ロールプレイングムービー)。
-
ジャンル故にか、ムービーの作りには特に力が入っている。
-
ムービーやBGMで、全体的に異様な雰囲気を感じさせるゲームである。
-
もっとも、FPSとしての中身はしょぼ過ぎる出来なのだが……
ストーリー
マッドサイエンティストの機械と人間を同化させる実験「同化プロセス」の実験体にされてしまい、「鉄人」というロボットに改造されてしまった主人公。
目覚めた後、マッドサイエンティストは自分に会いに来いと告げる。
彼の言葉に従い、主人公はビルの最上階を目指すのだった。
システム
-
ダンジョン内を巡り、敵ロボットを撃破しつつ、最上階を目指すのがゲームの目的。
-
前後左右の移動・旋回・水平移動ができるが、上下には向けず、ズームはできない。
-
武器は数種類あり、常時選択可能。
-
ダッシュはオプションを装備する事によってできる。
-
ダンジョン内にはアイテムが落ちている。以下、その効果。
-
弾倉
-
シールドエネルギー
-
ターボブースター
-
ダッシュ移動を行えるようになる。
-
使用回数には制限があり、道中に点在するのセーブ地点でのみ補充可能。
-
武器
-
シールドエネルギーの増設タンク
-
セーブはサプライルームで行う。
-
ここでは全ての武器、シールド、ターボブースターの補充が行われる。
評価点
-
サイバーパンクを唯一無二な形で描き切った世界観は高評価。今作の象徴ともいえる要素で、初期の3DOに爪痕を残した。
-
各所に挟まれるムービーはえも言えぬ不気味さを醸し出しており、一度見ると忘れられないインパクトを誇る。
-
全体的に暗い映像、奥がよく見えない暗いダンジョン、機械のランプだけが光る壁などは重苦しい雰囲気を出している。
-
特にオープニング、スタート時、エンディングの各ムービーは前衛的ですらある。
-
何と言っても特徴的なのは、当時の最先端であった3DCGに実写映像までミックスしていること。独特のミスマッチさから来る威圧感はすさまじい。
-
出演したのは『帝都物語』の加藤保憲役などで知られる嶋田久作氏。その淡々とした話口調は、本作の纏う雰囲気を象徴している。
-
禍々しいサウンド面も魅力の一面である。
-
執拗に連発されるシャウトのような音源は、もはや今作のサウンドロゴとも言うべきインパクト。一度ゲームをクリアすれば、効果音を聞いただけでこのゲームを連想できることだろう。
-
このSEは次回作でも、今作の要素が再登場する場面で象徴的に使用される。
-
ギミックも豊富。
-
例えば、一方通行の廊下や扉、破壊しないと進めない扉、動く壁、地雷、壁に仕込まれた防衛機構などが存在。
-
階を上下する事で道を切り開くギミックもあり、同一フロアをただひたすら進むだけの作りにはなっていない。
-
難易度が控えめで遊びやすい。
-
弾が減ってもサプライルームで全補充できるため、プレイヤーの状態は割と余裕が持てる。
-
ゲーム再開後や階を移動した後もアイテムが復活するので、補充は比較的楽。ただし、敵も復活してしまうが。
問題点
作りが未熟で、様々な試みやゲーム性を台無しにしてしまっている。
-
ゲーム中の微妙なグラフィックと酷い処理落ち。
-
フレームレートは約10FPS。もはやコマ送り状態。
-
しかも敵が出るどころか、ドアが見えてくるだけで処理落ちし出す。
-
右ボタンを1回押すと15度右に旋回するシステムで、6回押すと90度右に旋回するのだが、後者の時はカタカタと15度ずつ動く。なんと全てがこの調子。
-
ちなみに同ハード・同ジャンルのゲームとしては後に『DOOM』が「史上最悪の移植版」と呼ばれるほど低品質な形で送り出されるのだが、こちらがマシに感じられるレベルでテンポが酷い。3DO版『DOOM』は曲がりなりにもFPSをしているが、『鉄人』はもはやADVである。
-
劣悪すぎる操作性。
-
複数の移動ボタンを同時に押すと主人公の動きが停止してしまう。このため、移動しながらの旋回や斜め移動などが全て不可能。
-
後方移動以外では敵を視界に捉えながら攻撃をかわす事ができない。つまり、攻撃をかわすと敵を見失う事になり、特にボス戦では泣かされる。
-
また、壁に対して斜めの状態で敵と壁に挟まれると、旋回して壁に対して垂直か水平になるまで逃げられない。この間、攻撃され放題。
-
旋回する時は15度ずつなので、中途半端な角度に敵が位置すると狙いが付けられない。
-
当たり判定がかなり適当。敵によっては照準を合わせても当たったり外れたりする。
-
攻撃が効かなかった場合のエフェクトがなく、外れたのか効かなかったのか分りにくい。しかも、特定の攻撃しか効かない敵もいるため困りもの。
-
主人公はムービーのみの出演のためかリアリティのある姿になっているが、敵のデザインは投げやり過ぎる。
-
四角い箱に足がついただけ、ただの三角錐、四角い箱が二つ重なっただけなど。ボスはもう少しマシだが、大差ない。
ハードスペックなどの関係か、丸みを感じるものがほとんどなく、こういった少ないポリゴンを組み合わせただけというものが多い。
-
唯一まともなのは、屋上がステージなので壁や天井のポリゴンが無い為か、余裕があったと思われるラスボスくらいのもの。
-
ゲーム展開が単調。
-
道の繋がりが直線、直角のみで構成されており、どの階も『Wizardry』のダンジョンの様な代わり映えの無さ。
-
特にゲーム序盤はギミックの類がほとんど無く、1時間近く迷路を探索するだけの単調な作業をやらされる。
-
高低差も傾斜も階段もないが、通路の幅は存在する。
-
オートマッピングもないため、フロアマップを見つけるまでは現在位置が分らない。ダンジョンの背景に加え、同一フロアの壁は狭い通路と拾い通路以外は同じテクスチャーとなっているために迷いやすい。
-
処理落ちが激しいためかザコ敵の出現も単体が多く、次々と敵を打ち倒す爽快感はない。
-
AIも出来が悪く、よく角で引っ掛かっている事がある。
-
地味な問題点ではあるが、弾やターボ機能など何らかのリソースが枯渇寸前になるとけたたましいブザーが常時鳴り響いてうるさい。
-
これらはセーブ地点到達まで一切回復できないため、それまで常に騒音に悩まされる。
-
このブザーはSASUKEで時間切れ間際に流れるあの音。これが常時流れ続けるところを想像してみてほしい。
-
体力が減った時になるのはまだしも、無くなったところで大した問題のないターボまで警告されるのは非常に迷惑である。
総評
前衛芸術かというような、独特の雰囲気を纏ったFPS。アートの心意気が強く、不思議な印象のあるゲームである。
しかし、ゲーム部分に関しては技術もアイディアも不足しており、同じFPSのSFC版『DOOM』にすら遠く及ばない。本当に32bit機のゲームなのかと疑いたくなる出来となっている。
ただし3DOは「映像を見るハード」としての需要が大きかったこともあり、アートの一種として根強く愛するファンも少なくはない。
「アクション要素のあるアドベンチャーゲーム」と見れば許容できる内容には収まっており、ゲーム性より映像面偏重な同ハードの路線が良くも悪くも前面に出た一作となっている。
プレイ時間は長くなく、難易度的にもサクっと遊べるため、CG黎明期の挑戦的なアートに興味があるのであれば触れる意義は十分にある。
余談
-
今作がとんでもない低フレームレートになってしまった原因は、デバッガーが頑張りすぎたかららしい。
-
張本人がSNSでひっそり明かしたところによると、開発版はターボ機能で壁すり抜けができてしまい、このバグを回避しようとした結果、製品版の出来になってしまったのだという(参考1、参考2)。
-
スタッフロールにはこの投稿者と同じ名前が「製作協力」としてクレジットされている。
-
翌年に純粋な続編である『Tetsujin RETURNS』が3DOにリリースされ、後にWindows95にも展開された。
-
こちらは本作の問題点がほとんど解消されており、無難に遊べるゲームとなっている。
-
逆に本作と比べると、アートの個性が退化してしまったと言われる。
最終更新:2025年02月14日 20:06