道化師殺人事件
【どうけしさつじんじけん】
ジャンル
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コマンド入力式アドベンチャー
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対応機種
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PC-9801シリーズ PC-8801シリーズ MZ-2500 X68000
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メディア
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フロッピーディスク
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発売・開発元
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シンキングラビット
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発売日
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【PC98/PC88】1985年 【X68k】1988年
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定価
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【PC98/PC88/X68k】7,800円 【MZ2500】8,800円
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配信
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プロジェクトEGG 【PC98】2016年1月19日/500円 【PC88】2002年8月1日/500円 【X68k】2004年2月21日/500円(全て税抜)
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判定
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良作
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シンキングラビット・ディスクミステリーシリーズ 鍵穴殺人事件 / 道化師殺人事件 / カサブランカに愛を / THE MAN I LOVE / マデリーン / ジャック
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概要
『倉庫番』で有名なシンキングラビットが『鍵穴殺人事件』に続いて発売したディスクミステリーシリーズの第2作目。
当時はすでに『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』に代表されるコマンド選択式ADVへの移行がはじまっていたが、シンキングラビットはコマンド入力式に拘っており、本作もコマンド入力式で開発されている。
PC98で発売後、PC88/MZ2500/X68kへと移植された。
機種ごとにグラフィックの綺麗さやBGMのあり/なしといった差異が存在するが、ストーリーなどは全く同じ。当然だが、最後発のX68k版がもっともクオリティが高い。
パッケージの悲しそうな顔をした道化師のイラストが見る人に強い印象を与え、中には怖がって手に取るのも嫌だった人もいたという程、良くも悪くも本作の象徴となった。
ストーリー
6, august, 1932
ロンドンから南へ50マイル、古くからの港町ブライトンに巡業中のサーカスの一座があった。
テントも張り終え、あとは開幕を待つばかりのその日の朝、ピエロの死体がシャワーワゴンで発見された。
死因は背中から心臓に達するナイフの一突。シャワーの水が出しっぱなしになっていて、血はきれいに流されてしまっていた。
あなたは捜査を開始する。ナイフ投げ、奇術師、猛獣使い、ブランコ乗り、団長、そして、もう一人のピエロ……。
それぞれの証言と収拾した証拠品から、しだいに明かになっていく事実。事件の背後にかくされた恐るべきたくらみとは?
(パッケージ裏より引用)
特徴・評価点
シナリオ
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ディスクミステリーシリーズの持ち味である時代背景を反映した世界観と落ち着いた雰囲気は完成していた。
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犯人を追い詰めるための証言や証拠を集めていく過程が丁寧に描かれている。後半はまず迷う事なく進められるよう設計されている。
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やや賛否はあるものの、後述のような展開が用意されていることから強い印象を残すことに成功しており、本作が名作と語られるのも卓越した脚本の成果であろう。
コマンド入力方式を活かした自由度の高さ
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他のコマンド入力式ADV同様、基本は動詞+名詞の組み合わせでコマンドを入力してゲームを進めていく。この手のゲームは言葉探しが主体になってしまいやすいが、本作はいくつかのゲームで採用されていたファンクションキーをショートカットに割り当てるコマンド選択式との折衷のような形式に準拠している。
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本作のショートカットは複雑な容疑者の名前や「アリバイ ヲ キカセテイタダキマスカ」といった複雑なコマンドを割り振る形になっている。容疑者から詳しい話を聞く際はショートカットから尋問のコマンドを入れて、あとは証拠品を見せたりすればいいので言葉探しになりくく、スムーズに進められる。ショートカットになっていないコマンドは取る、見る、開くなどの基本コマンドなので迷うことはあまりない。
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移動はテンキー入力や単語の頭文字だけの入力にも対応しているので直感的に操作可能。
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また、英語と日本語入力の両方に対応しており、動詞と名詞の前後を入れ替えても反応してくれるなど快適な操作を実現している。例えば「LOOK DOOR」「ミル ドア」「ドア ミル」はいずれも同じと判断される。さらに英語動詞+日本語名詞といった入力も可能だったりと非常にユーザーフレンドリー。英語と日本語の両方に対応しているタイトルはあったが、本作ほど入力の自由度が高いタイトルは少なかった。
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コマンド入力式は自由度が高いが、大抵の場合、有効なコマンド以外は「出来ません」と表示されるだけなゲームも多かった。しかし本作は突拍子もない行動でも異なった反応が返ってくる本来コマンド入力式が持つ自由度の高さでプレイヤーを楽しませてくれる稀有なタイトルとなっている。
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有名どころではサーカスのゾウに対して「ゾウ タタク」と入力すると「ゲームだと思って!」とメタ的なメッセージで返してくれるなどギャグ的な演出も多く、思いついたコマンドを片っ端から試してみたくなる。
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ただし、入力したコマンドによっては住人からの協力を得られなくなり、最悪詰む場合もある。会話やお遊びコマンドを入れる前にセーブしておくと安心。
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入力受け付けの幅が広いこともあり、しっかり自分で考えながらゲームを進めることで本当に自分で捜査している気分になり、没入感を得られる長所にもなっている。
グラフィック・BGM
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前作『鍵穴殺人事件』から進化し、フルカラー表示に対応。表現力豊かになったおかげで当時としては情景も美しく描写される。
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その上、左右移動の際に画面がスクロールしたり、前進時は画面中央から、後退時は画面端から中央に向かって画面が切り替わる演出が行われ、視覚的に移動先がわかるのも当時のADVでは画期的だった。
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マップもサーカス内だけでなく町中も移動可能。前述の自由度の高さと合わせて自分で捜査を行っている実感がわく。
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最初にマッピングしておくとスムーズに捜査を進められる。ちなみに、プレイヤーは常に北側を向いており、一部のマップでは後退すると後ろを振り向くことが出来るという事を憶えておくと良い。
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X68k版で追加されたBGMも秀逸で、雰囲気を盛り上げてくれる。
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特にゲーム開始時に毎回聞くことになるオープニング曲はサーカスの持つ怪しげな雰囲気を醸し出す曲になっており、作品のイメージにぴったり。
賛否両論点
エピローグにおけるどんでん返し
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物語の肝であり、本作のシナリオで語り草となっているのが事件解決後のエピローグにおけるどんでん返し展開である。
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ここに至るまでに伏線もしっかり張られており、表向きの事件内容とは異なる裏の背景事情が見えてくる。まさに驚きの結末と言うにふさわしい。
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エピローグ後に主要登場人物による挨拶があり、「『鍵穴殺人事件』と同じ役者による舞台劇」という形であることを語るのだが、ここで真相に関する補足を教えてくれるので、少々野暮だがわかりやすくなっている。
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ただし、ある意味ではすっきりしない結末とも言える。小説などでは、ままある展開ではあるのだが。
問題点
高い難易度
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自由度の高さとの弊害で難易度は高くなっている。プレイヤーはいきなりサーカスのテント前に放り出され、特に情報もないまま捜査を始めさせられる。次に何をすればいいかの指針もなく、捜査方針は全て自分で決めなければならない。
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いきなり放り出されるのは当時のコマンド入力式ADVではよくあったので、本作に限った話ではないが…。一応、マニュアルに序盤の進め方の指針が書かれている。
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また、フラグの立て忘れにより状況変化後に詰み状態に陥ることもある。これも当時としてはよくある要素。
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ドアをノックせずに入ろうとして相手を不機嫌にさせてしまうなど、ちょっとした要因で詰むことも。セーブは複数可能なので、データを分けていくと良い。
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ただ、前述のように言葉探しゲームになってしまう場面は少ないので推理ADVとしてはちゃんと成立している。しっかりメモを取りつつ証拠や証言を集めていけば自力クリアは十分可能。
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スクロールや漢字表示を採用しているためか、PC88版はメインスクリーンが画面の1/6程度の大きさしかなく非常に小さい。
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先に発売されたPC98との性能差もあるので仕方ない点だが、かなり残念に思いやすい。雰囲気や演出は残しているし漢字表示のおかげでメッセージが読みやすいなどの利点もあるのだが。
総評
コマンド入力方式が本来持つ自由度の高さを活用し、シンキングラビットの名を広めた名作。
作りこまれたゲーム内容と驚きの結末がプレイヤーから高い評価を獲得し、同社を代表する作品のひとつとなった。
リメイク
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SS ミントン警部の捜査ファイル 道化師殺人事件(1997年10月30日/リバーヒルソフト)
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シンキングラビットと同時代から推理ADVを展開していたリバーヒルソフトによるリメイク作。
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家庭用機向けに移植するにあたってコマンド選択式に変更、マップの移動は3Dムービーで表現され、人物はオリジナル版のパッケージアートを手がけた米田朗氏による描きおろしイラスト、会話はフルボイスとなっている。
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コマンド選択式になったことでマップ移動以外の自由度が削られて面白みを失い、飛ばせないムービーや会話のせいで面倒臭さが目立つ残念なリメイクになってしまった。
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後にプレイステーション、Windows95へと移植された。Win版はオリジナル版の移植ではないので、オリジナル版をプレイしたい場合はプロジェクトEGGを利用するといいだろう。
最終更新:2020年03月14日 12:00