Wolfenstein 3D
【うるふぇんしゅたいん すりーでぃー】
ジャンル
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FPS
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ASINが有効ではありません。 |
対応機種
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MS-DOS
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メディア
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CD-ROM
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発売元
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Apogee Software
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開発元
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id software
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発売日
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1992年5月5日
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定価
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498円(Steam)
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配信
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Steamにてオンライン販売中
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判定
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良作
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ポイント
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FPSを定義したFPS 後に多くの会社が模倣 システムには原始的な部分も多い
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Wolfensteinシリーズ
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ストーリー
第二次世界大戦のさなか。
ナチスドイツの動向を探っていた連合軍諜報機関OSAは、ナチスによる強化兵士製造計画「アイゼンファウスト計画」の存在を突き止める。
しかし、情報を得るため送り込まれたポーランド系アメリカ人ウィリアム.B.J.ブラスコヴィッチは、ドイツ領内での偵察任務に失敗、ナチスに捕らえられ捕虜となってしまう。
尋問のためウルフェンシュタイン城に護送されたブラスコヴィッチだったが、彼はナイフ一本で看守を殺害し脱獄に成功。
たった一挺のルガーP08を握り締め、城からの脱出を図るのだった。
概要
戦車を駆ってカラフルな3D迷路を進み、主砲でモンスターを倒していく『Hover Tank 3D』、Hover Tank 3Dのエンジンを更に強化し、レンガなどのテクスチャのある壁を実現した一人称視点ファンタジーSTG『Catacomb 3D』に続き、id softwareの天才プログラマーであるジョン・カーマックと天才ゲームデザイナーであるジョン・ロメロによって生み出された「3D」系一人称シューティングタイトルの3作目に当たる作品。
オリジナルはMuse softwareによって発売されたレトロPC向けステルス探索アクションだったが、タイトルが同じだけで内容は大幅に異なっている。
「近代を舞台にした銃撃戦主体のFPS」としては世界で最初に発売に漕ぎ着けた作品であり、シェアウェア(とそのコピー)を通じて世界中のゲーマーに拡散・発売元のApogeeも予想外のヒットを飛ばす。その後多くの会社がこれに追従し、id software自身も同作のエンジンをライセンス契約し他社に提供。翌年までにはWolfenstein 3Dとその模倣作で市場が埋め尽くされた。
基本システム
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矢印キーで前後移動と旋回を行い、altキーを押すことで旋回が平行移動(ストレイフ)に切り替わる。ctrlキーで発砲し、スペースキーで扉を開閉。
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ルガーP08やサブマシンガンMP40、機関銃といった火器を使用して施設内のナチス兵を倒し、エリアのどこかに保管されている鍵を入手し、捜索範囲を広げていく。エリアの最後に存在するエレベーターを作動させるとステージクリア。
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マップはダンジョンRPGのようなグリッド単位の迷路となっており、プレイヤーはその中を一人称視点で探索・銃撃戦を行う。
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catacomb 3Dと異なり銃には弾数の概念が存在。残り弾数を気にしつつ銃撃戦を行い、積極的に弾を補充する立ち回りが要求される。
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現在のFPSとは異なり、スコアと残機の概念が存在する。ナチスの財宝を入手することでスコアが上がり、ステージクリア時に得点が集計される方式。
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これはcatacomb 3Dのエンジンとシステムを流用して作られたことによるもの。catacombシリーズはガントレットの模倣作であり、それをFPS化したcatacomb 3Dにもアーケードゲームの要素が複数含まれていた。
評価点
適度な情報量の3D世界
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本作以前・直後に登場したCorporation(1991)やUltima Underworld: The Stygian Abyss(1992)といった一人称視点タイトルは、処理落ちを軽減すべく3D表示画面を小さく(=画質を落と)し、残りの2D画面枠で様々な要素を追加していくという方式がほとんどだった。その結果として肝心の3D部分は画面が小さすぎてアクション性が皆無・画面枠部分の要素が多すぎて情報量過多、という構成の作品ばかりとなり、非常に不便かつ高難度なジャンルとして敬遠されがちだった。
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この傾向に反しWolfenstein 3Dはよりアクション性のある3Dシューターに特化。情報表示は画面下端にまとめてそれ以外をプレイヤーの視界にし、純粋に銃撃戦のみを楽しめる。無駄に情報量が多いタイトルばかりの3Dゲーム黎明期としては極めて画期的な画面構成により、縦横無尽に3次元空間を歩き銃を撃つ快適なゲーム性を実現した。
充実した銃撃戦
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限定的な空間ながら一人称視点で人間敵相手に派手な銃撃戦を繰り広げることができ、当時から創作の題材として人気であった第二次世界大戦の3Dシューティングへの落とし込みに成功している。
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それ以前のFPSの多くと異なり、使用中の銃が手元に表示されるように。マズルフラッシュや反動表現により「銃を撃っている感」がより強調され、プレイヤーの没入感を高めることに成功した。
簡単な操作
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数字キーで武器を選択し、矢印キーで移動・旋回。altキーで平行移動し、ctrlキーで発砲。操作は極めて簡略化されており、マウスを利用したアイテム選択やクリックによる視界操作などといった複雑な操作は一切要求されない。
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簡単な操作故にとっつきやすく、慣れればすぐに自分の体のように操作することができる。
迷路で終わらないマップ
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ドッグフードが置かれ、骸骨の散乱した独房エリア、甲冑や絵画が並び、兵士の巡回する廊下、滅多に使われずに所々苔むした城の地下など、テクスチャや2Dオブジェクトの配置によって巧妙にエリアの雰囲気の差別化が行われている。バリエーションは少ないものの当時としては非常にリアルであり、3D迷路でありながらマンネリ感を感じにくい。
豊富なシークレット
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マップ上の至る所にナチスの財宝が隠されており、中には絵画の裏などノーヒントの場所も多く存在する。これらを探すのもプレイ中の楽しみの一つとなり、ただ銃撃戦を繰り広げるだけでなく城中を探索して財宝を探すというゲーム内容の拡張に成功している。
顔
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元々は前作「Catacomb 3D」で登場、攻撃を食らうごとに骸骨化しHPメーターとしての役割を担っていた「主人公の顔」だが、続編である本作ではより多彩な表情を見せるように。
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ブラスコヴィッチは体力残量に応じて表情が変化するだけでなく、左右を見回す、突然の衝撃に驚く、アイテムを取得してニヤリと笑うなど多彩な表情を見せる。本編は殺伐とした展開ながら表情はコミカルなものばかりであり、主人公への愛着を湧かせると共にゲームの硬派な雰囲気を緩和するのにも役立っている。
賛否両論点
過激すぎる作風
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ナチスやSS(ナチスの親衛隊)ならまだしも、本編における終盤ではなんと巨大メカに搭乗したヒトラー本人までもがラスボスとして登場。「Let's see that again!(もう一度見てみよう!)」の文字と共に爆発四散するシーンがリプレイされるというかなり凄まじい演出も合わさり、なんとも言えないアングラ感の漂う作品となっている。
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マップ上もハーケンクロイツ(鉤十字)やヒトラーの肖像まみれ。殺害可能な敵として犬も登場し、暴力ゲーム規制派から動物愛護団体まであらゆる勢力を敵に回しての大ヒットとなった。
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案の定ドイツを初めとするヨーロッパ圏では発禁に。移植作であるスーパーファミコン版でもストーリー部分からグラフィックに至るまで大規模な改変が行われるなど表現規制に関する逸話が非常に多い。
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諸々の要素を考案したのはゲームデザイナーのジョン・ロメロ。本作の後に彼が担当したDOOMにおいても悪魔崇拝をデザインとして取り入れ、天才デザイナーとして絶賛されつつも社会問題を巻き起こすこととなった。
問題点
原始的な操作性
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前述の通り本作は一人称戦車STGをベースとしているため、「基本的に左右キーは旋回、状況に応じてaltキーでストレイフ(機銃掃射)」という操作法となっている。左右平行移動がデフォルトの現在からすると違和感が強い。
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ストレイフキーが左右平行移動キーとして独立するようになったのは、続編である『DOOM』からのこと。これにより後のDOOMのような「縦横無尽に動ける、撃ちまくりのスポーツFPS」とはならず、移動せず遮蔽物に隠れてのカバーアクションが基本となっている。ある意味ではリアルな銃撃戦の演出とも捉えられるが。
射程距離の計算システム
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照準実装が簡易的なものであるのを補強するため、距離によって弾の威力を減衰させる内部処理が行われる。しっかりと接近して発砲しないと敵を倒すことができず、現在は一般的な狙いを定めて遠距離から敵を狙撃、というプレイスタイルが実質的に不可能。
グリッド単位で生成されたマップ
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全ての壁やドアが同じ比率の四角形で構成されているため、古のダンジョンRPGのような古臭さは否めない。一応オブジェクトを配置して差別化は図られているもののいまいち不自然。
総評
「多数の武器を状況に応じて使い分け、銃撃戦で敵を倒しながら進んでいく」という、後にFPSと呼ばれるジャンルの基礎となった作品。その革命的なゲーム構成はそれまで作品によってルールが曖昧だったFPSというジャンルを強固に再定義し、それ以前の一人称視点ゲームタイトルを一気に過去のものにした。
また、id softwareは他社とライセンス契約を結び、本作に使用された「Wolfensteinエンジン」を他社に供与。それによって『Blake Stone』や『Corridor 7』といった多くの兄弟タイトルが発売された。
本作とそれに追従した各種「Wolf 3D clone」、そして同社による更なる革命的作品「DOOM」を以って、FPSというジャンルの方向性は完全に定まることとなった。
余談
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ナチス要素全開のゲームプレイが原因となり、ドイツを中心とするヨーロッパ圏では発売されるなり即座に規制された。しかしヨーロッパ圏のゲーマーにも本作をプレイしたがる層は多く、最終的には売り上げの20%以上が米国外のプレイヤーによる購入だったという。
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追加エピソードとして4ヵ月後の1992年9月18日には「Spear of destiny」が発売。こちらは本編の前日譚となっており、強力なパワーを秘めた槍を奪取すべくベルリンに潜入したブラスコヴィッチの戦いが描かれる。
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巨大モンスターやゴーストなど本編以上にオカルト・ファンタジー色が増すなど本編とはまた変わった戦いが描かれる。難易度はかなり上級者向けに調整されており、Wolf 3Dのファンからは概して好評。
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扱われ方に差異はあるが、本作に登場した死亡の瞬間をズームインする機能「DeathCam」は、『Sniper Elite』などの作品に形を変えて受け継がれている。
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本作の亜種として語られる1994年の任天堂非認可SNESソフト『Super Noah's Ark 3D』だが、本作のスーパーファミコン/SNESへの移植の際に大量の規制が為されたことを不満に思ったId softwareが規制した任天堂への報復としてWisdom Tree社に極めて好条件でWolf3Dエンジンのライセンスを供与、SNES向け非認可FPSを販売させたという経緯がある。
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ちなみに同作は翌年にMS-DOS版が発売され、更に2014年に「20周年記念版」の名目でWindows/Mac OSX/Linuxへの移植版がDL配信の形でリリースされた
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任天堂と対立したのかと思いきや結局翌年1995年には同じスーファミ/SNESで『DOOM』も移植。こちらは原作をかなり忠実に再現し規制も為されなかった。
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トム・ホールとジョン・ロメロによる初期の裏設定では本作主人公B.J.ブラスコヴィッチの孫が『Commander Keen』のビリー・ブレイズ、そしてビリーの孫が『DOOM』のドゥームガイということになっていた。外伝である『Wolfenstein RPG』と『DOOM II RPG』ではこの設定を仄めかす演出が登場。しかし『Wolfenstein』『DOOM』両シリーズ共に大規模なリブートが行われたため、現在この設定は公式には用いられていないと思われていたが・・・
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スマートフォン用コマンダーキーンのリブートのトレーラーではビリーとブレイズの遠い祖父がブラスコヴィッチの一族であることをほのめかす表現が登場。しかしDoomにつながるかと言われればまだ確信的なものはない。
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一方Doomの方ではDoom→Doom 2→Doom 64→Doom(2016)→Doom Eternalとストーリーが正史の世界線で続いているとファンの間で推測されており、MachineGamesのWolfensteinリブート世界はDoomの世界に繋がりはなく、つながるのは本作、及びRtCWからWolfenstein(2009)であると言われている。
最終更新:2022年03月13日 02:46