ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者 前編/後編
【ふぁみこんたんていくらぶ きえたこうけいしゃ ぜんぺん/こうへん】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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ファミリーコンピュータ ディスクシステム
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発売元
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任天堂
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開発元
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トーセ
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発売日
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前編:1988年4月27日/書き換え開始日:1988年5月14日 後編:1988年6月14日/書き換え開始日:1988年6月28日
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価格
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各2,600円
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レーティング
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【VC】CERO:A(全年齢対象)
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配信
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バーチャルコンソール 【Wii】2007年10月16日/600Wiiポイント 【3DS】2013年4月24日/500円 【WiiU】2014年5月28日/514円 ※2in1で『前後編』として発売
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備考
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GBA『ファミコンミニシリーズ』第三弾(2004年8月10日発売) ※2in1で『前後編』として発売
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判定
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良作
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ポイント
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ストーリー性に主眼を置いたアドベンチャー 王道かつ丁寧に纏められた完成度の高いシナリオ 推理アドベンチャーゲーム初「記憶喪失の主人公」
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ファミコン探偵倶楽部シリーズ
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概要
『ふぁみこんむかし話 新・鬼ヶ島』を第1弾とする任天堂の前後編テキストアドベンチャーシリーズの新作として制作されたコマンド選択型テキストアドベンチャーゲーム。
任天堂初の本格的推理アドベンチャーであり、前後編2枚組ディスクとしては第2弾、任天堂テキストアドベンチャーとしては第3弾となる。
世界観や物語は従来のアドベンチャーによくあるサスペンスものだが、『プレイヤー自身が推理して謎を解くこと』よりも『物語を味わうこと』に重きを置いており、その形式を持ったアドベンチャーの走りとも言える作風となっている。
プレイヤーは事故で記憶を失った17歳の少年探偵となり、地方の旧家・綾城家で起こった殺人事件の真相を追っていく。
原作は『バルーンファイト』や『メトロイド』を手掛けた坂本賀勇。
ストーリー
どことも知れぬ場所で目覚めた時、少年は全ての記憶を失っていた。
偶然現場を通りがかり介抱してくれた男・天地によると、崖から落ちたらしい。
彼の助言で現場に戻った少年は、そこで橘あゆみと名乗る少女に出会う。
自分が探偵事務所で助手として働いていたと聞かされ、事務所に連れていかれた少年は、
なんとか自分の名前だけを思い出す。
その後手元に持っていたメモから明神村の良家・綾城家を訪ねた少年は、
綾城家の執事・田辺善蔵から「当主キクの不審な死」について調査依頼を受けていたことを思い出し、
善藏のサポートを受けつつ調査を再開する。
その中で、キクの死の裏に、土葬の風習が残るこの村に伝わる恐怖の伝説「死人甦り伝説」や、
関係者の欲望が渦巻く綾城家の遺産相続問題が横たわっていることが明らかとなっていく。
やがてキクの不審死を発端として始まった事件は、村に伝わる怨念の伝説を背景にした恐怖の連続殺人に発展する……。
特徴
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主人公
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本作は記憶喪失の少年が主人公。主人公が事故で記憶を失い、偶然そこを通りかかったという人物に介抱されるシーンからゲームが始まる。
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物語の序章では、主人公が「自分は空木探偵事務所に所属する少年探偵である事」を思い出すところまでを描く。
この時にプレイヤーは主人公の名前を入力。その後タイトルバックが挿入されて、ゲーム本編が始まる。
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シナリオ
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主人公の特殊な境遇の他、事件の背景に「地方の伝承」というオカルト要素が絡み、小説家・横溝正史の有名推理小説「金田一」シリーズの「八つ墓村」を彷彿とさせるオカルトホラー風味の雰囲気を漂わせている。
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グラフィック
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殺人事件の現場のシーンは被害者にカメラが大きく寄った構図があり、かなり鮮烈な描かれ方をしている。
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後編では一部キャラクターのグラフィックが書き直されている。また背景は同じ場所でも全て一新されている。
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謎解き
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本作は「物語を読む」点が重視されているため、それまでのアドベンチャーに見られた複雑な謎解きのロジックや高度な推理力の要求等、アドベンチャーならではのゲーム性は控えめである。
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一方、ゲーム内で得た情報を整理してゲーム内で解答を入力し正解を導かねばならない局面があったり、画面内での対象物を調べる、3D迷路のダンジョンが存在するなどの従来作に見られた要素も多く踏襲されており、単純にはクリアできないように難易度が調整されている。
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システム
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ゲーム進行に必要のないコマンドや移動先等はシステム側で省略されるなどの配慮があるため、コマンド総当りが可能。
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キャラクター
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語尾の「じゃ」を「ぢゃ」を発音する熊田(熊田先生)という医師がおり、後半の謎が深まっていく緊迫した展開の中で、いろいろと冗談めいたことを言ったりボケをかましたりと緊張が続く場面で軽く気分を和ませてくれる。
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続編でも、この「ぢゃ」を踏襲した「先生」と呼ばれるキャラが登場する。
評価点
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シナリオ
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連続殺人という題材にオカルト要素を絡めて緊迫感を深め、衝撃の真相へと繋げていくシナリオ運びが高く評価されている。
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主人公についても記憶喪失という設定により、よくある「プレイヤーとの一体感」を演出し上手く物語に生かしている。調査が進むにつれて徐々に記憶が戻り謎が明かされ、クライマックスに向けて意外な展開を見せる。
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名前入力というゲーム準備の部分も、ゲーム開始時に入力するという恒例の方式ではなく、まず「あなた」という表記で自分でもわからないままプロローグをプレイさせ、その流れで「名前を思い出す」というストーリーに乗って入力させるという方式を取っており、これも記憶喪失という設定を巧みに活かした「プレイヤーとの一体感」の演出と言える。
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事件の背景に関するネタバレを含む
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実はこの主人公、本作の連続殺人事件が起こる背景とかなり深く関わりのある人物である。前編では「意味不明な情報」や「そもそも何故主人公が事故にあったのか」といった謎をいくつも抱えつつそれを脇においた状態で調査が進み、後編で一気に伏線の回収が行われる。
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クライマックスで主人公が記憶を取り戻していくことにより「プレイヤーとの一体感」が失われていくのだが、時を同じくして失われた過去や、まだ知らない過去を知ることにより全く新しい感動に変わってゆく。この切り替わりのタイミングの絶妙さやその内容も非常に秀逸。
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演出
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後編では「引きで描かれて近くに寄れない現場」のシーンがあり、具体的に描写される前編のそれとは違って、想像力をかきたてられるタイプの怖さを持っている。一口にオカルト・ホラーといっても、一本調子にならず様々な切り口からの恐怖を描いていた事も、本作の評価点の一つである。
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コマンドにも主人公の記憶の断片を演出するようなものがある。
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「呼ぶ」コマンドは大体その場に関係ありそうな人物や今知ったばかりの人物がリストアップされるが、時としてまるで無関係にしか思えない意味不明な人物が対象になっていることがある。
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ところが、後になってみるとそれは失った記憶にまつわる理由であったことがわかる。こういった部分がセカンドプレイで新しい発見になる面白さがある。
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システム
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あまり整備の進んでいない古いタイプのADVだが、移動先や会話内容などをある程度システム側で絞り込んでくれるので、総当りの煩わしさは幾らか緩和されている。
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サウンド
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本作のBGMはサスペンス調のゲーム内容にふさわしい渋い曲調のものや、緊迫感や恐怖感を煽る淡々とした曲調のものが多い。
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何かしらの事実が発覚した際に唐突に流れる「
デロレロレン……!
」「
ピロリロピロリロ~
」という短いジングルもいい意味でびっくりさせてくれる。(音色のニュアンスや音程を変えつつ続編にも受け継がれている)
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BGM・SE含め、事件現場などのインパクトの強いシーンではそれに見合った印象的なものが使用されている。平時と非常時にメリハリがついていて、演出としても効果的。
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具体例、一部ネタバレを含む
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寺の住職から村の伝承が語られるシーン。BGMおよびグラフィックの色調がいきなり変わるため、否が上にも心理面を揺さぶられてしまう。
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後編でより謎を深めるアイテムが見つかると同時に、新しいBGMを聴くことになるのだがこれが非常に不気味な雰囲気を漂わせるもので、深まりゆく謎の恐怖を一層強めている。
同時にそれまで、普段通りのBGMが流れていた場所のBGMも以後これになり、その雰囲気をガラリと変える効果にもなっている。
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主人公の記憶が明らかになる場面で使われているBGMはその感動を最大限に盛り上げており屈指の名曲に数えられる。
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問題点
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メッセージの表示スピードが遅い。表示スピードの調整もメッセージ送りも不可。
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関係者へ聞き込んだ際のメッセージには、長文がかなり含まれている。総当り式の常で、1度聞いた後すぐに2度聞きしてしまう局面は多く、その度に全文が繰り返し表示されるのでストレスがたまる。
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カーソルポイントの判定がシビアな箇所がいくつか存在する。
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ある特定の場所をカーソルで調べることにより新たな情報が分かりフラグが立つポイントがあるのだが、本作では数ドット単位で指定されたエリアを調べなければならない箇所がいくつか存在する。上手く調べられないと、かなりイライラしてしまう。
総評
ホラーアドベンチャーとしての期待を裏切らない恐怖。謎が深まるほどにより戦慄する展開。そしてそれを乗り越えた先に待っているのは当初の展開からは想像もつかなかった感動。
推理ものとしてのロジックや犯人当ての面白みではなく、純粋に物語を楽しむものとして、よく練りこまれたシナリオが大きな魅力。それを彩るグラフィック・BGMといった要素にも穴がなく、プレイヤーに印象的と思わせるシーンの多い作品である。
また、少年探偵である主人公にも「プレイヤーの分身」というだけに留まらないキャラクター性を持たせて後編のどんでん返しにつなげる展開には、強く引き込まれるものがある。
不満点として挙げられるものは「ゲーム進行におけるシステム面でのフォロー不足」という点くらいであり、ストーリー、キャラクター、演出、音楽など、ほぼ全方位に渡り高い評価を獲得している。
時代を超えてなお評価されるシナリオ・演出の秀逸さこそ、本作が「名作」と呼ばれる所以だろう。
続編
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本作から約一年後、二作目である『ファミコン探偵倶楽部 PARTII うしろに立つ少女』が発売。
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作中の時系列としては本作よりも2年ほど前の話であり、主人公が空木探偵事務所に身を置く事となった経緯を含めて描く。
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続編においても本作の作風を踏襲し、純粋な探偵ものADVに「オカルト」の要素を取り入れ、特に「恐怖」に重点を置いた内容となっている。
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1997年にはサテラビュー配信で『BS探偵倶楽部-雪に消えた過去-』が放送された。
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これも作中の時系列では本作より前(1988年の2月)のストーリーとなる。
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『雪に消えた過去』から実に27年を経て、そして『ファミコン探偵倶楽部』としては前述の続編以来35年ぶりとなる新作『ファミコン探偵倶楽部 笑み男』がNintendo Switchソフトとして2024年8月29日発売。
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この作品では本作の2年後にあたる1990年を舞台としている。
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本作は第1作目ながら長年にわたり「初作品ながらシリーズ作品中の時系列では最後」だったが36年を経てはじめて本作より後の時系列での物語が展開されることとなった。
その後の展開
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『PARTII』のようなスーパーファミコンでのリメイク版が発売されなかったが、2004年8月にゲームボーイアドバンスの「ファミコンミニ ディスクシステムセレクションシリーズ」で移植発売されたことによりプレイ環境が確保された。
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その後Wii、Wii U、ニンテンドー3DSのバーチャルコンソールで配信された。
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2019年9月5日、『PARTII』と同時にリメイクが発表された。原作から実に30年以上の時を経た待望のリメイクとなった。
余談
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原作の坂本賀勇氏によると、前年12月発売の『アイドルホットライン 中山美穂のトキメキハイスクール』の原作も担当していたが、同作では理想としていたストーリーを構築できなかったことに大いに不満を残していた。その不満を爆発させた形で生み出されたのが本作であるとのこと。
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ネタバレを含む
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後編で手に入れる「ユリの写真」を熊田医師に見せると「おっ!これはユリさんの生写真! くれー くれー」とねだってくる。
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これは上記作の「ウオ! これはみぽりんの生写真 くれー くれー くれー」(主人公の友人・山村貞吉)が元ネタ。
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坂本氏は推理小説を特に読み込んでいたというわけではなかったが、『犬神家の一族』と『悪魔の手毬唄』は読んでいたため、本作には横溝正史の世界観が色濃く反映されている。
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まず原作となる小説を書いてそれをスタッフに読んでもらってからゲーム部分や実際のシナリオの開発に移っていたが、この作品の原作はわずか数日足らずで書き上げたという。氏いわく「書き始めたらサラサラ書き進んで、3日でできちゃった」らしい。
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当時電話を使うゲームでは恒例の110番イタ電ネタは本作にもありゲーム中で110番にかけると「大里警察署」という警察に繋がり「いたずら電話は困るよ」と怒られる。更に後編では「こら!いたずら電話は死刑だぞ!」と更にきつく怒られる。
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いたずら電話は悪質行為で警察に対して行うと罪に問われるには違いないが、いくら警察相手とはいえこの程度で死刑になってはたまったもんじゃないし、仮に本当ならむしろそれを逆手に取って死刑にさせる狙いの知能犯が出そうである。
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続編でも「死刑」と言われるが「こら!いたずら電話は死刑なのだ」とバカボンのパパ風な口調で冗談半分っぽいニュアンスにやわらげられている。
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Switch版のリメイクではさすがに大袈裟すぎると思ったか「こら!いたずら電話は犯罪だぞ!」に変わっている(続編の「死刑なのだ」はそのまま)。
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ほとんど取るに足らないような小ネタだが徳間書店の『ファミリーコンピュータMagazine』1988年12号の裏技コーナー『超ウルトラテクニック50+1』に裏技として掲載され、その後も大技林など徳間書店の裏技書籍にくまなく掲載されている。上記の通り続編にも持ち越されているが、そちらのはファミマガ本誌の上記コーナーでは載せられたが大技林などには何故か掲載されなかった。
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次回作共に音楽の評価が高い本シリーズだが、今作のみ音楽は外注である。
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スタッフロールには「ひろみ」とあるが、詳細は不明。
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空木探偵事務所の所長、空木俊介探偵は説明書に名前が載っているのみで本編では登場しない。
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『ファミリーコンピュータMagazine』(通称「ファミマガ」)の新作情報では空木のイメージイラストが描かれていたが、翌年続編で登場した折には全然違うものになっていた。
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後編は当初ちょうど1ヶ月後の5月27日発売、ディスクライターでの書換は6月10日開始を予定されていたが、延期され発売は6月14日、書換開始は6月28日となった。
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結果的に前編発売から48日後と非常に長いブランクとなった。
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ソフトの後編発売から2ヶ月後に、双葉社からゲームブック版が刊行された。
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一部の展開やキャラクターの設定に相違点が見られる他、主人公に「高田 直哉」という名前が設定されており、デフォルトネームが特にない本作における主人公のデフォルトネームとして認識しているファンも多い。
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ゲーム本編に比べると、かなり手が加えられている。
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ディスクシステム衰退期という不遇な時代の中で書換えを含めて前後編とも約50万枚というスマッシュヒットを記録した。これにより続編が制作されることに繋がった。
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1988年2月にゲーム誌の新作情報で紹介された当初は注目度は低く、前人気ランキングではベスト20の15位前後とあまり目立たない地味な存在だった。
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物語を読んで楽しむゲームオーバーのない仕様のゲームながら攻略書籍もかなり多く発売された。
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徳間書店からは前編、後編の後に「事件解決編」まで刊行された。
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ケイブンシャ(勁文社)の攻略本は、ラストを除いて全ての手順が網羅されており、これを参照しながら進めれば「物語を読んで楽しむ」という本作の醍醐味をとことん味わえる。
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続編発売直後の頃にファミマガで行われたファミコン美少女コンテスト(13号で発表)でヒロインのあゆみが3位、ファミコン美少年コンテスト(16号で発表)で主人公が1位とキャラクター評価は当時から非常に高かった。
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この際に書き下ろされたイラストの内、未使用となったものの1つがSFC版『PartII』のサイトに隠されている。
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『月刊少年ジャンプ』に連載されていたファミコンゲームのパロディ漫画『われらホビーズ ファミコンゼミナール(作:あおきけい)』の29話で、その題材として本作が使われた。
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根本はギャグ漫画で犯人も記憶喪失のいきさつもゲーム本編とは全く違う。ただサブタイトルのコマは本作の前編パッケージイラストを模している。
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本作発売以後『ファミ探』は本シリーズの略称として定着しているが、実はそれ以前にこの略称を持っていた作品があった。
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それは本作発売の1年程前まで『月刊少年チャンピオン』で連載されていた『ファミコン探偵団』(作:佐藤元)という漫画で『ファミ探』とは元々この漫画の略称だった。
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また本作の元となる企画は『ファミコン少年探偵団』で上記の漫画と被ったような名称であった。
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当時放映されていたCMは、それまでの明るい楽しさを前面に押し出していた任天堂のカラーとは趣が異なるものだった。
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CMの中で見られる少年の頭に鎖が巻かれている描写はゲーム本編では登場しないのだが、これを模したイラストが攻略書籍の挿絵に使われた。
最終更新:2024年12月17日 08:06