Commander Keen: Invasion of the Vorticons
【こまんだーきーん いんべーしょん おぶ ざ ぼるてぃこんず】
ジャンル
|
横スクロールアクション
|
対応機種
|
MS-DOS Windows(Steam)
|
発売元
|
Apogee Software id Software(Steam)
|
開発元
|
Ideas from the Deep(id Software)
|
発売日
|
1990年12月14日
|
判定
|
良作
|
ポイント
|
『マリオ3』移植からオリジナルタイトルへ スムーズな画面スクロールを実現 id Software設立の切っ掛け
|
概要
後に独立しid Softwareを結成するSoftdiskの若手プログラマー集団「Ideas from the Deep」が開発し、1990年にApogeeから発売された横スクロールアクションゲーム。
元々『スーパーマリオブラザーズ3』の移植として作られていたが任天堂にライセンス許諾を申し出たものの拒否され(後述)、その後オリジナルタイトルとして再出発した。
ストーリー
8歳の少年「ビリー・ブレイズ」は、IQ314の天才児。彼は日用品から様々な発明品を生み出し、「コマンダーキーン」を名乗っていた。
兄から借りたアメリカンフットボール用ヘルメットを被った彼は、スープ缶から組み立てた宇宙船「ビーンズ・ウィズ・ベーコン」号に乗って両親の留守中に火星へと飛び立ったが、火星に住むヴォルティコンたちに宇宙船のパーツを盗まれてしまう。
なんとかパーツを奪い返し両親の帰宅前に帰還したキーンだったが、キーンを追いかけるヴォルティコンたちは大砲を搭載した巨大な宇宙船で地球へと迫っていた。
もはや地球を救えるのはキーンしかいない。コマンダーキーンよ、地球を守れ!
ゲームシステム
-
「Marooned on Mars」「The Earth explodes」「Keen must die!」の全3エピソードで構成される横スクロールアクションゲーム。基本的な部分は『マリオ3』をベースとしており、ワールドマップ方式やステージ構成、残機制や一部グラフィックなどにその名残が見られる。
-
エピソードごとに登場する勢力は異なり、最初のエピソードでは火星人、2つ目はロボット、3つ目はエイリアンが出現する。また、無くしたパーツの収集など独自の任務も課せられる。
-
ステージクリアはゴール地点にあるドアを通ることで行う。
-
ライフ制を採用しており、トラップや敵の攻撃でダメージを受けるとライフが減少、0になると死亡する。道中にある食料を一定数拾うと回復。
-
遠距離攻撃が可能なレイガンや高く飛べるホッピング(ポゴスティック)といったアイテムが配置されており、これらを利用することでより有利に進むことが可能。またキーカードなども存在し、扉を開けるためには探索が必要となる。
-
敵を踏みつけることで一定時間行動不能にすることが出来るが、倒すことは出来ない。
-
一つ目のヨープスのように接触ダメージのない敵も存在するが、基本的には接触するとダメージを受ける。
評価点
スムーズなスクロール
-
描画性能でファミコンに劣るIBM-PC互換機向けソフトながら、ジョン・カーマックによって独自に編み出されたプログラムによりスムーズな画面スクロールを実現。
-
これによりファミコン同様のスピーディーなゲーム内容を実現しており、当時アクション性の高い作品が少なかったPCユーザーから高く評価された。
綺麗なグラフィック
-
カラフルながら視覚的に見やすいグラフィックを採用しており、しっかりとアニメーションするなど完成度は高い。
-
また、敵造形もコミカルでバリエーション豊富であり、遊んでいて飽きないよう工夫されている。
探索範囲の広いワールドマップ方式
-
『マリオ3』のようなワールドマップを実装しており、プレイヤーは任意でキャラクターを移動して通常ステージやボーナスステージへと進むことが可能。ワールドクリアのためのパーツ集めに必要なステージはあるが、ボーナスなどは任意で向かうことができる。
-
また、PCであることを活かしてセーブ機能も搭載されており、中断しても再開が容易。
広めで歩き回り甲斐のあるマップ
-
マップはかなり縦横に広く、各所にアイテムが設置されているなど探索しがいがある。やや迷いがちではあるが、地形を駆使したギミックは豊富。
賛否両論点
ややクセのある操作性
-
予備動作のあるジャンプやポゴスティックなど、微妙にクセのある操作性を有している。
-
あくまでマリオと比較すれば、であり、慣れれば問題なく進める範囲ではある。
殺風景な背景が多い
-
壁面テクスチャ一色で構成された背景が多く、視認性は良いがあまり見栄えは良くない。
-
低予算タイトル故の苦肉の策であり、ヒット後のコマンダーキーンシリーズでは背景が大幅に強化された。
問題点
BGMがない
-
効果音は鳴るものの、性能の問題でBGMが存在しない。もっとも、当時のDOSゲーにはよくあることだが。
総評
ファミコンの映像処理能力に劣るIBM-PC互換機ながらもスムーズな画面スクロールを実現し、当時のファミコン製アクションゲームと同等のゲームプレイを実現した作品。
性能限界ゆえにアドベンチャー作品ばかりでアクションゲームのなかったMS-DOS市場で歓迎され大ヒットし、後にシリーズ化、開発メンバーが独立を果たすきっかけにもなった。
ファミコンと比較するとスペック上の限界を感じる箇所は多いものの、全体的な内容は『マリオ3』をベースに堅実に纏まっており、破綻も少ない。
当時のid Softwareメンバーの熱意を感じられる、小規模ながら出来の良いアクションゲームとなっている。
余談
-
本作の主人公の本名は「ウィリアム・ジョゼフ"ビリー・ブレイズ"ブラスコヴィッチ二世」、かのB.J.ブラスコヴィッチの孫...という後付設定がある。
-
本作のヒット後、逆に本作をファミコンに移植するとApogee社から発表が行われたが、結局実現することは無かった。
-
ビデオゲーム界におけるミームとして北米産FPS・TPSに数多く登場する『Dope Fish』は本作の時点では登場しておらず、登場するのはシリーズ四作目『Commander Keen: Goodbye, Galaxy!』からとなる。
開発の経緯
-
1989年、アメリカ。月刊PCゲーム雑誌を取り扱う会社「Softdisk」のApple II部門に所属し、雑誌の付録となるゲームの開発を行っていたジョン・カーマックは、ある日より少ない負荷で滑らかなスクロールを可能にする「アダプティブタイルリフレッシュ」と呼ばれる技術を開発する。
-
その後一週間かけてMS-DOS上で『スーパーマリオブラザーズ3』の1-1を再現した「Dangerous Dave In Copyright Infringement(デンジャラス・デイブと著作権侵害)」を完成させたカーマックは同僚のジョン・ロメロたちと共有し、これに可能性を感じたロメロたち後のid Softwareメンバーは夜間のSoftdiskオフィスを利用したMS-DOSへの『マリオ3』完全移植に着手。一通り動作可能な状態まで移植した彼らはライセンス取得のため任天堂へと向かったが、PCハード上でのマリオの展開を望まなかった任天堂に「マリオのゲームは任天堂のコンソール専用であり続ける」と申し出を拒否されてしまう。
-
失意のカーマックたちに声をかけたのは、後に『Wolfenstein 3D』や『Duke Nukem 3D』でも関わることになるApogee Software(後の3D realms)のスコット・ミラーだった。Softdiskに勤務しながらも副業として1からオリジナルタイトルとしての開発を行ったカーマックたちは、三ヶ月後に無事『コマンダーキーン』を完成させ、Apogeeを通じて発売を開始した。
-
結果、スペックの劣るはずのMS-DOSでマリオ並みの内容を実現した『コマンダーキーン』は(PCタイトルとしては)異例の大ヒットを遂げる。当時ヒット作に恵まれず月間売上高が約7,000ドルだったApogee社は、最初の2週間でコマンダーキーンだけで30,000ドル、6月までに月額60,000ドルを稼ぐことに成功。そのあまりの売り上げに驚愕したApogeeのスコット・ミラーはコマンダーキーンを「小さな原子爆弾だ」と称した。
-
一方、Softdiskに所属していたジョン・カーマック、ジョン・ロメロ、トム・ホール、エイドリアン・カーマックら開発メンバーも独立し、『コマンダーキーン』で得た資金でid softwareを設立。以降『Wolfenstein 3D』、『DOOM』、『QUAKE』とヒット作を連発し、高い技術力と過激で独特な作風を誇るアメリカを代表するFPSデベロッパーとして活躍することとなった。
-
なお、これまで映像のみの存在であったPC版「マリオ3」は2021年7月にフロッピーディスクに収められたオリジナルが発見され無事イメージ化。FPS史を語る上で欠かせない歴史的な資料として、「Video Game Hall of Fame(ビデオゲームの殿堂)」でも知られるアメリカ・ストロング国立演劇博物館に寄贈されることとなった。
最終更新:2021年07月16日 11:18