このページの内容は2020/11/25に配信されたVer.1.5、Definitive Editionを基準にしています。

BLλCK MESA

【ぶらっくめさ】

ジャンル FPS
対応機種 Windows
Linux
発売元 Crowbar Collective
開発元 Crowbar Collective
発売日 2012年9月14日(無料MOD版)
2015年5月10(アーリーアクセス版)
2020年3月7日(完成版)
定価 1,980円
プレイ人数 1人(キャンペーン)
最大32人(マルチプレイ)
配信 Steamにてオンライン販売中
MOD版もModdbで配信継続
判定 良作
ポイント Half-Life』のファンメイドリメイク
グラフィック・演出・ゲーム性・マップ等が洗練
リメイクMODをValveがSteamで販売承認した異色作
Half-Lifeシリーズ



Good Morning, and Welcome to the
BLλCK MESA
Research Facility



概要

1998年に発売され、臨場感溢れるゲームプレイが高い評価を得たFPS『Half-Life』のリメイク作品。『Half-Life: Source』同様に『Half-Life 2』で使用されたSource Engineで動作している。

元々2004年にはリマスター版として『Half-Life: Source』が発売されてはいたのだが、こちらはあらゆる点で『1』の「Goldsrc」を凌駕する高性能の「Source engine」を使用しながらもただのベタ移植でしかなかった*1
それに対し、不満を抱いたファンがSource Engineを生かした良いリメイクを作ろうとCrowbar CollectiveというMODチームを結成し2005年に開発がスタート、途中で開発が中断された時期を含めて実に15年という長い月日を経てリリースされた。

ストーリーは基本的に初代『Half-Life』と同様。オリジナルの作品ページで確認してほしい。
一方、一部イベントの追加や、サブキャラクターの追加、一部モブキャラの名前の変更もあり、現行作品との整合性はあり公式の認可も受けてはいるものの、一応は非正史扱いである。
ゲームシステム面においても多くの変更が入っていて、ダッシュの追加、(一部武器のみ)武器のサブ発射モードの追加、『2』をベースとした物理演算の追加、少し地味だがスライディングの追加がある。

なお、現在は本編の舞台となるブラックメサ研究所にちなんだSteamストアページでの正式名称である「Black Mesa」というタイトルで呼ばれるのが一般的だが、Mod時代の名残で「Black Mesa: Source」や「Half-Life - Black Mesa」などの表記が用いられる場合もある。


評価点

より強化された演出

  • 初代『Half-Life』(1998年)のスクリプト演出は今見ると画質の差もあり少し寂しいが、本作では現代(2007年以降)クラスの基準にまで引き上げられており、臨場感が大幅に強化されている。バールの入手時期が遅れることで発煙筒でしか敵に対処できず序盤のパニック映画的臨場感が増すなど、レベルデザインも巧妙。
    • 所内ラジオ放送によって緊急事態であると伝えるなどのイベントの追加にもよってよりブラックメサでの惨劇がより細かく描かれる。
    • 担当声優は大幅に増加しており、前作でネタにされがちな同じ科学者・警備員モブのバリエーションの少なさは改善されている。研究について熱心に議論する二人もいれば、欠陥の多い初期のHEVスーツで苦悩を味わった先輩科学者も登場し、より稼働中の研究所らしさが強化されている。

武器の調整

  • 全体的にあまり性能の良くなかったMP5が強化されている、あまり使い物にならなかったグルオルガンの大規模強化等のバランス調整が行われていて、武器のバランスがだいぶ良くなっている。
    • それだけでなく武器の効果音も非常に射撃感が良くなっており、特にショットガンは迫力・爽快感ともに強化されている。
      • ほかにも、武器全体に取得時のアニメーションの追加に加え、他のリロードアニメーションなども作り直されている。

マップの改善・拡張

  • 原作で一部つまらないと評されていた戦闘パートもゲームとしての質を一段と上げており、ボスの改善などが行われている。
    • 特にエピソード12のダム編が分かりやすい。原作では初見殺しのような見えにくい兵士が突然ロケットランチャーをぶちかまされて即死だったのに対し、Black Mesaではそれが廃止され、ヘリコプターとの激しい戦闘がメインになっている。
    • 造形・ゲームプレイ共々最悪のラスボスと揶揄されることもあったニヒランスについてもXen共々大幅に手が加えられており、シールド発生装置やクリスタルから供給されるエネルギーが明確に描かれるようになったことで攻略法が分かりやすくなった。エフェクトも派手になり、最終決戦にふさわしいドラマチックな戦いが繰り広げられるように。

質の高いサウンドトラック

  • 本作のサウンドトラックはJoel Nielsenという作曲家が手掛けており、音楽の質が良好である。
    • 特にその中でもロンチトレーラーで使われたXen編のAscension (v2)とQuestionable Ethicsの2つは高く評価されている。

いい意味で別物と化したXen

  • 本作の終盤に当たるXenはもともとが不評だったことと、そこにだいぶ時間を費やしたこともあってか、大規模な改修が行われている。
    • アクションパートも減っており、後述の『2』への伏線の強化や、ギミックの強化、本編の序盤で登場したクリスタルがどのような経緯でやって来たのかの描画が強化されているなど、設定が本編以上に深く掘り下げられている。
      • そして、このXen編のみ落下ダメージが無効化されていて、穴に落ちる以外での落下死が無くなっている。

美しいグラフィック

  • 本作で使われているSource Engineは初版が2004年にリリースされた骨董品*2ではあるが、その性能を最大限に生かしたマップのおかげで『2』と同じエンジンとは思えないほど美しいグラフィック描画がされている。
    • マップの強化されたディテールにもそれが表れていて、ブラックメサ研究所が実際にあるような雰囲気が楽しめる。また武器のモデルや装填動作なども拘っており、特に蠢くエイリアン武器の生々しさはシリーズ随一。

シリーズファン向けの『2』準拠の演出追加

  • 主にブラックメサ研究所における研究者と、Xenにおける各生物の生態にスピンオフや『2』の後付け設定が逆輸入されている。
    • 研究所では『2』のメインキャラクターであるイーライ・ヴァンスやアイザック・クライナーが新規登場するほか、『Blue Shift』のバーニーや『EP2』のマグニッセン博士も間接的に言及される。さらには『2』のトラブルメーカー「ラマー」を彷彿とさせる演出も登場している。
    • 一方のXenでは「奴隷身分のボーティガンツを上位種が支配し、それを更にニヒランスが束ねている」という社会構図がより分かりやすく描かれるように。異質ながらもコンバイン帝国に似た文化・技術的側面や兵隊の製造過程など、オリジナル版では描かれずに終わった世界観がより深く掘り下げられている。

ゴア演出の大幅強化

  • オリジナル版と『Source』では技術的な都合で即座に肉片となり『2』ではコンシューマ移植の都合で削られたゴア要素だが、MOD発でありDL専売の本作では『LEFT 4 DEAD 2』の機能を逆輸入し全部位分離可能なキャラクターモデルが採用されている。
    • この恩恵は序盤に顕著で、レーザーが直撃した生存者が血しぶきと共にバラバラに吹き飛ぶ、ダクト内に引っ張られた生存者が肉片になって吐き出されるなどオリジナル版を凌駕する強烈なパニックホラー的演出に寄与している。

軽い

  • 本作は元が古いのもあってか、そこまで高性能ではないパソコンでもグラフィックの割にかなり快適に動作できる。
    • 例としてGT 710を搭載したパソコンでも快適にというほどまでではないが、通常のプレイが出来るくらいまでには動作できる。
      • ただし、fpsは出てもIntel系のGPUではゲーム進行に関わるバグ*3があるため、コマンドを入力しないとクリアまで遊ぶことは困難である。

操作性の改善

  • 原作は元となった『QUAKE』の早いが滑りやすい操作性を受け継いでおり、アスレチック要素のあるマップなどで少し遊びにくいところがあったが、本作では『2』のダッシュ機能を逆輸入することで動きやすさが改善している。
    • それに加え、元々の操作の方が好みだった人に向け”常にダッシュ”というオプションもあり、新規もすでにプレイした人も入り込みやすい配慮がなされている。
  • 終盤で入手するロングジャンプモジュールにもテコ入れが入り、発動方法が大きく変化。
    • 原作ではしゃがんだ直後にジャンプという特殊な操作性だったが、本作ではジャンプボタンを2回押すだけで簡単に発動できる。
      • レスポンス面も改善されており、原作では向いている視点にかかわらず前進してしまうのだが、本作では向いている視点に合わせて飛ぶようになり、変な方向に飛ぶということが少なくなった。

イベントの進み方の改善

  • 一部のイベントに関して、プレイヤーの進める際にストレスが減らされていたり、進みやすくなっている場面が存在する。
    • 仲間を誘導してドアを解除する場面においては、逆に仲間に誘導される形になり、プレイヤーが進み方が分からず、混乱したりしてしまうことが少なくなった。
      • 前述したXen編においても、多くの進むのが分かりづらい場面が改善されている。

賛否両論点

広大なマップ

  • 本編よりマップが広くなったためディテールの強化の甲斐もあって研究所の壮大さが原作より感じやすくなっている。
    • 一方で攻略上不必要な部屋なども拡張によって追加されており、少し道に迷いやすくなっていたり、パズルの解き方が分かりにくくなっている、ダレやすくなっている等の問題が挙げられている。
    • 1年以上かけて大幅にボリュームアップしたXenパートも同様にくどさを感じるほどに拡張されており、特にラスボス手前のエイリアン・グラント製造工場などが顕著。
      • Definitive Editionアップデートで少し規模を縮小されたりしたマップもいくつかあったが、それでもまだ広すぎると感じる箇所が多い。

前時代的なマルチプレイ

  • マルチプレイも搭載されてはいるのだが、『Deathmatch: Source』に似たシンプルな内容でリメイクによって特に手が加えられているわけではない。
    • ただし、『Black Mesa』自体シングルプレイ部分のリメイク計画が発端のプロジェクトのため、普通に遊ぶ分にはさして問題点とは見做されない要素ではある。

問題点

途中で挟まれるロード

  • ゲームエンジンの問題として仕方ないのだが、初代及び『2』から相変わらず唐突にロードが挟まれるため、テンポが削がれている。

遠距離戦の単調さ

  • アイアンサイトのADSがある武器が少ししかなく、遠距離狙撃に使える武器が実質的にリボルバーとボウガンしかないため遠距離戦に関してはあまり出来は良くない。主力武器であるMP5とSPAS-12はどちらも弾がバラけるため近距離戦向き。
    • 公式外伝である『Opposing Force』にはスナイパーライフルやM60機関銃、レーザーサイト付きデザートイーグルといった遠距離戦も可能な装備が多く追加されたことで武器バランスが保たれていたのだが、あくまで初代『Half-Life』のリメイクである本作にはそれらは登場しない。
    • マップが全体的に広めに改築されている上、エンジン性能に伴い描画範囲も向上したため、交戦距離はオリジナル版と比較すると広め。これは『Call of Duty 4: Modern Warfare』以後のFPSに慣れたプレイヤーであれば一般的な距離ではある。

一部アセットが古い

  • 全体的に見ればグラフィックも音質も問題ない本作だが、なぜか一部のパートで古臭いアセットが見受けられる。
    • ラムダコア編で流れる初代と変わらないサイレン*4、『2』のモデルをそのまま持ってきたオブジェクト、『2』と同じモデルを流用しているためグラフィックが粗いせいで微妙に浮いているG-manなどである。

トレーニングの欠落

  • 本作は原作で存在していたハザードコース(HEVスーツの取り扱い訓練)がカットされてしまっている。
    • 代わりに本編内で多少操作説明が入るようになっており初心者が困る事はないが、世界観に組み込まれた巧妙なチュートリアル要素だけに惜しむ声も見られる。
      • 一応ワークショップMODでハザードコースのリメイクは存在するが、字幕の日本語化はされていない。

総評

初代『Half-Life』はいくら良作だったとはいえ今遊ぶと時代を感じてしまう点も多く、光源処理の改善に留まった『Half-Life: Source』も新しい体験を与えるほどの物でもなかった。
その落胆からか、本作はMOD版のリリース初日にアクセス過多でダウンロード先のModdbのサーバーをダウンさせてしまうなど、コミュニティから高い期待を寄せられる事となった。

結果、本作『Black Mesa』は原作の良さを残したまま、様々な要素を現代のFPSの基準までしっかり昇華させファンの期待に沿った作品となり、2012年にはMod of The Yearを受賞、2013年と2015年にはインディゲームとしてIndie of the Yearを受賞。
2020年にはビジュアルの高さによりSteam Awards 2020にノミネートするなどの快挙を打ち立てるなど、ユーザー・メディア共々原作に勝るとも劣らない高い評価を獲得し続けている。

オリジナルを尊重しつつも、独自のアレンジも程よい範囲で配合し、更には続編展開を前提とした演出も増加。
初めて『Half-Life』に触れるという人も、『Half-Life』を懐かしみ、久しぶりにもう一度やってみたいという人も、『2』以降のシリーズを追い続けている人もにも強くおすすめできる、非常に優秀なリメイクである。


余談

  • 一方のValve公式もファンの待ち望む『Half-Life 3』は発売できなかったものの、同年にVR作品として『Half-Life: Alyx』を発売。こちらも高い没入感と極めて良好な操作性が評価され、シリーズの再起を成し遂げた。
    • また、『Opposing force』『Blue Shift』のスピンオフ2作品も本作同様にリメイク計画が進行しており、前者は単独作品『Operation Black Mesa』として、後者は『Black Mesa』のMODである「Black Mesa: Blue Shift」として開発が進んでいる。
  • MODベースの公認作品というとゲーム業界全体で見れば異例の出来事ではあるが、自社販売サイトであるSteamを持つValveにとっては日常茶飯事*5。 『Counter-Strike』『Team Fortress』『Day of Defeat』『Portal』『Garry's Mod』『Sven CO-OP』といった多くのタイトルが、『Half-Life』のMODを起源としている。
  • 本作のエイリアン武器「Hive Hand」には、オリジナル版にはなかった取得前のアイテム状態からウネウネと動くアニメーションが追加されている。さらに取得するとゴードンが数秒躊躇した後に持ち手部分(肛門?)に手を挿し込んでいき、痛がったHive Handが激しく蠢きながら絶叫するという凄まじい装備演出も見ることができる。
    • 通常のゲームプレイでは配置されている場所であるリフトで即座に拾うはずなのだが、拾わずにリフトごと下の階へ移動し、下で戦う警備員を襲撃から守り、戻って取得することでこの装備演出を見せつけることが可能。見せられた警備員はそのあまりの気持ち悪い行動にドン引きし、専用の台詞(複数あり)も喋ってくれるという隠し要素がある。
  • 本作も初代『Half-Life』のModに対応してはいないが、その代わりか本作専用のワークショップ機能に対応している。 そこから、いくつか気に入ったマップを導入したり、武器Modや、音を変更するもの、CO-OPモードといった追加要素を導入することなどが出来る。
    • このワークショップには初代のMODを移植したものが少なからず配信されており、体験版の『Half-Life: Uplink』をリメイクしたマップや、上述のハザードコースをリメイクしたマップ、ぼちぼちと開発されている『Half-Life: Echoes』や『Half-Life: Blue Shift』のBlack Mesa版。そしてどういう風の吹き回しか、Crack-Life*6のBlack Mesa版なんてのもある。
  • 本作は発売からいくらか経ってはいるが、無料であるMOD版は体験版的な位置づけとしてModdbで引き続き配信を継続している。
    • 製品版との差異として、
      • 1.Xen編以降が実装されていない
      • 2.武器のアニメーションが製品版と比べて全体的にチープ
      • 3.一部マップ構造の変化
      • 4.ゲームエンジンの微妙な差でIntel系GPUでも動く
      • 5.Steam版と比べて少しグラフィックが粗い
      • 6.標準で日本語化はされていないため、パッチの導入が必須
      • 7.HUDの表示が違う
    • ただし、本作の雰囲気はしっかり保っているので、興味をもって試しに遊びたい方には導入をお勧めする*7
+ オリジナル版とリメイク版の比較動画

最終更新:2024年05月10日 16:43

*1 単純な移植の方向性以外にも、バグの多さやMOD互換性なし、オリジナル版を配信しないなどいろいろと当時は問題が多かった。

*2 もちろんエンジン自体はアップデートが続けられており、2004年のものと現在のものはほぼ別物といっていい。最新版は『Apex Legends』が採用しているなど、今なお現役のエンジンである。

*3 光源処理がおかしくなり、フラッシュライトが正常に機能しない。

*4 高音質化されているサイレンは序盤の予期せぬ結果編ですでに流れているが、なぜかそこでは使われていない。

*5 そもそもPCゲームにおいては「既存作のMODが出発点となっている単独作品」も多く存在する。

*6 初代『Half-Life』の悪名高いおバカMOD。科学者たちが四六時中叫ぶようになり、何故かXenのクリーチャーがナチスとなっていたり、武器が変な物ばっかりになったりするMOD。

*7 Source SDK 2007が必要となる。一応『2』を持っていなくてもプレイすることは可能。