Spec Ops: The Line
【すぺっくおぷす ざ らいん】
ジャンル
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TPS
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ASINが有効ではありません。 |
対応機種
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プレイステーション3 Xbox 360 Windows 7/8.1/10(Steam)
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発売元
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2K, Missing Link Games
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開発元
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YAGER Development(シングルプレイヤー) Darkside Game Studios(マルチプレイヤー)
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発売日
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2012年6月29日
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定価
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7,980円(定価) 2,980円(現在のSteam価格)
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:Z(18才以上のみ対象)
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判定
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良作
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怪作
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ポイント
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近年のシューターに対する猛烈なアンチテーゼ 短くとも狂気レベルの濃厚なキャンペーン
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紳士諸君、ドバイへようこそ
Gentleman, Welcome to Dubai.
概要
1998年から始まった『Spec Ops』シリーズの10作目で、10年ぶりに突如リリースされたシリーズのリブート作品。
このシリーズはリアル志向のシューターとして多くの粗を持ちつつも一定の人気を持っていた作品であったが、2002年に『Spec Ops: Airborne Commando』が初代PS以降、シリーズの音沙汰がなくなっていた。
本作は特に過去作からシナリオ面において特に繋がりはなく、パブリッシャーがYAGER Developmentに本作の制作条件としてただ「軍事もののシューターを作って欲しい」という条件だけで、ほぼ好き勝手に作らせた。
その結果、独特な世界観と狂気的かつ高品質な『ドラッグ オン ドラグーン』『さよならを教えて』に匹敵するレベルの鬱シナリオが今なお高く評価され続けている。
ゲームシステム
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基本的に『Gears of War』に強く影響されたカバーシューター。
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物陰に隠れながら敵を撃つ。基本的に多くの要素が非常に近く、それをすでにプレイ済みであればとっつきやすい内容となっている。
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本作独自の要素は以下のとおり
・弱っている敵にとどめを刺すと弾薬が補給できる。
・仲間を指示して特定の敵に攻撃、弱った仲間の回復を行える。
・特定のイベントで発生する砂嵐。
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全15チャプターで構成されており、一度クリアしたパートはリプレイ可能。
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中には収集物も存在し、それらを回収し、読むことで本作のストーリーを深く知ることができる。
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マルチエンディングとなっていて、全部で4種類存在する。
あらすじ
ゲーム開始時点から6ヶ月前、史上最大級の砂嵐がアラブ首長国連邦・ドバイを覆いつつある中、ドバイ在住の政府高官や富豪たちは他の市民や外国人を残して秘密裏に脱出計画を立てていた。
アメリカ陸軍第33歩兵大隊(33rd Infantry Battalion)、通称Damned 33rd の指揮官であり、かつて「パットン以来の英雄」とも呼ばながらアフガン派遣時の失敗が元で心的外傷後ストレス障害に苦しめられているジョン・コンラッド大佐は、米本土に帰還してまもなくして砂嵐のニュースを聞き、名誉挽回の好機として救助任務への参加を志願したのである。
しかし砂嵐が激しさを増す中、コンラッドは脱出を断念。砂の中でラジオ塔を残して外部との連絡手段を失った孤立した33部隊は難民と共にドバイ市内に留まることになる。
依然として砂嵐が吹き荒れるドバイ市内では水を始めとする物資が枯渇すると共に治安が悪化し、やがて33部隊は秩序を維持するべく戒厳令を宣言した。その後、33部隊は難民と共にドバイからの脱出を試みる旨の通信を行う。
これを受けてアラブ首長国連邦政府当局はドバイが無人地帯化した事を宣言し、ドバイへの侵入は完全に禁じた。また米政府当局は33部隊の全滅を認めた。こうして、ドバイからの情報は一切途絶えてしまった。
ゲーム開始時点から2週間前、「こちらは米陸軍、ジョン・コンラッド大佐。ドバイ脱出の試みは完全に失敗。犠牲者が多すぎる」というメッセージがドバイから発信された。このメッセージは録音されたもので、繰り返しループ再生されているという。
これを受けて、アメリカ陸軍は生存者の有無およびコンラッド大佐の生死を調査するべく3名のデルタフォース隊員、すなわちマーティン・ウォーカー大尉、アルフォンス・アダムス中尉、ジョン・ルーゴ軍曹の3名を現地に派遣するのだった。
(Wikipediaより引用)
怪作要素
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ストーリーにかなり踏み込んだ内容であるので ※ネタバレ注意
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本作のストーリーのテーマはタイトルに記されている「The Line (境界)」から分かる通り、様々なモラルやゲームとしての境目である。
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本作のストーリー、キャンペーンモードについては、最初は普通のFPS/TPSのように始まるが、Chapter 8におけるゲートの白リン弾の登場によって本作の毛色はかなり変わっていく。
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敵に白リン弾を撃たれた後に、プレイヤーサイドが白リン弾が発射することになる。必然的にそれを撃つことになり、自然に誘導をされるのだが、プレイヤーが発射した白リンによって罪のない多くの民間人まで巻き込んで殺してしまう。
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だが主人公の任務は単純に敵の殲滅というわけでなく、民間人とコンラッド含む33部隊の救助である。その事故によって、ウォーカーの心情が狂い始める。
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その後、進んだ先でコンラッドの側近の焼かれて処刑された死体と、その近くで無線機を拾ってコンラッドが無線機越しで語り、ウォーカーはコンラッドがドバイで狂ってしまったことを知ることになる。だが、ここで何かがおかしいことにアダムスとルーゴは気づいている。
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その後、物語はさらに進み終盤のChapter 13・14でおいてルーゴの死により、さらにゲームの様子が狂っていき、居ないはずのルーゴが襲ってきたり、発射されてないはずの白リン弾によって苦しむが何かがおかしいことに気づくだろう。
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そう、ウォーカーは白リン弾の発射からのトラウマで解離性同一性障害(いわゆる多重人格)を発症してしまうのだ。
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ゲーム内のドバイにおいてもゲームの進展によることで現状の悪化が酷くなっていき、多くの人が死んでいき一向に良くならず、そのダメージが悪化していくことによりウォーカーの精神を蝕んでいるのがわかる。
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そのダメージを押し付けていたコンラッドも、最初からコンラッドはエンディングでとっくに自殺していることが分かり、すべて幻覚だった事実を知る。
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コンラッドは語る。「君が引き返せば、こんな事にならなかった。」引き返し、体制を整えてからまた向かうなどが出来たのになぜそうしなかったのか?それはウォーカーが英雄になりたいという願望を持っていたからである。
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そして引き返さず戦い続けたウォーカー、そしてプレイヤーが行ってしまったことだからだ。
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プレイヤーはその一本道のストーリーでやってしまったことを自分のことじゃないと割り切れるか?ロード画面はプレイヤーに問う。
「そろそろ目を覚ませ」「全部ウォーカーの責任だ」「英雄らしい気分になってきたか?」
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本作を怪作と名指す人が多いのはそのゲームのプレイヤーの人助け目的で戦い続けても、決してプレイヤーが助け出すことができず、だがウォーカーの英雄願望から救えもしない命を助け出そうとし、最終的にすべて失ってしまうこと、そしてそれを犯したのはウォーカーでもありプレイヤーでもあること。
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そして、他のミリタリーゲームと一線を画し、単なる敵と味方の打ち合い、そして英雄というだけでなく、その狂気性や闇を嫌と言うまで、ホラー的な演出を交えながら、そしてプレイヤーの行動と重ね合わせながら描いていることで、本作のストーリーを傑作というだけでなく唯一無二の怪作と評される理由である。
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評価点
濃厚かつ衝撃的なストーリー
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本作の魅力を語る上で外せない要素である。
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本作のシナリオは『闇の奥』『地獄の黙示録』などのような反戦作品から強く影響されており、『Call of Duty』シリーズなどの他のシューターに対する風刺も込められた、戦争への狂気にスポットを当てている。
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ゲーム内暴力に対する批判をしっかり受け止め、真摯に向き合うことで、誰が正義か、何が正しいのか、そして銃を持つ意味とは?について深く考えさせてくれるストーリーとして強い説得力を持たせている。
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惜しむべくはその個々の内容が非常にネタバレになってしまうため、中々ここで解説できないことだろうか。ぜひ手に取って、そのストーリーを味わってほしい。
ストーリーを盛り上げるゲーム的演出
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本作のストーリーにおける個々の演出も丁寧かつ過激であり、そしてゲームという媒体を上手に生かしている内容となっている。
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本作にはプレイヤーが行う個々の行動が分技のない物語にもかかわらず、大きく影響し、心を揺さぶる内容となっている。
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所々見られる「メタ演出」も見どころの1つ。かといって、詰め込みすぎず、やりすぎて醒めてしまう事もない程々の演出で、そこも人によって差が出ず好評。英雄らしい気分になってきたか?
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マップデザインにおいてもそれが現れており、主人公が通った場所、行動でストーリーを分技しない程度だが、何かしらの変化が起こる。
2012年当時としては美しいグラフィック
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本作のゲームエンジンはUnreal Engine 3を使用。PS3/360の末期で、開発ノウハウが蓄積されたおかげもあって、当時としては美しいグラフィックを表現しており、特に本作の砂嵐の表現はよくできている。
良質なサウンドトラック
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本作の音楽はエリア・クミラルが担当している。
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本作の演出と見事にマッチしたゲーム音楽であり、また音楽のみで見ても質が高い。
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戦闘曲の「Hell Suite」や「Get To The Choppa!」も本作の魅力に欠かせない要素となっている。
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特にエンディングカットシーンの「Truth Revealed」は演出も込で本作の結末を見事に味付けする存在となっている。
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プレイ中に流れる実在の音楽も中々良いチョイスとなっている。
独自の世界観設定
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砂に飲まれたドバイという独特の設定。砂や死体で荒れたショッピングモール、吹き飛ばされた高級車でまみれる道路など、本作の独自の世界観は素晴らしい。
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グラフィックの丁寧さ、そして砂嵐も相まって、本作の素晴らしい世界観表現に貢献している。
丁寧なキャラクター描写
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本作のメインキャラクター、若造の「ルーゴ」鍛えられた黒人兵士「アダムス」主人公の「ウォーカー」のミリタリー物ではよくある設定の3人で構成されているのにもかかわらず、本作の戦火に飲まれていく中で多彩な表現を見せてくれるため、キャラクターに自然に魅力が発生している。
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声の演技も非常によく、戦争の狂気にマッチした演技であり、主人公であるウォーカーを演じたNolan North氏はEntertainment Weekly誌にて2012年ベスト声優を受賞している。
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本作のメインキャラクターの変化も興味深い。惜しむべきはそこに字幕が出てこないので、英語が聞き取れないと分かりづらいことか。
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ストーリーが進行し、より過酷な戦いになっていく中、キャラクターの言動、アニメーション、姿がより痛々しく変化していき、ストーリーに対する没入感を深めてくれる。
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脇役も非常にキャラクターが濃く、謎に満ちた英雄「コンラッド」主人公たちを煽る「DJ」など、どれも奇妙で、異常行動に走ってはいるものの、そのバックグラウンドも丁寧であり、非常に好評。
そこそこ良好なローカライズ
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後述する機密情報を除いては、本作のローカライズは概ね良好。日本語含め幅広い言語に対応しており、本作のシナリオを最大限楽しめることとなっている。
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暴力表現規制においてもかなり頑張っていて、Win版はゴア表現を無修正で、家庭用ゲーム機版は軽度の修正でリリースされている。
賛否両論点
平凡なシューター部分
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本作には特別面白い要素があるわけでもなく、あるとしても仲間への指示システムと砂嵐程度。
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難易度もカバーシューターとして少し高めであり、少しの油断が死・球切れにつながるが、バランスはそれなりに調整されて入る。
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シンプルだが歯ごたえがあり、緊張感のあるゲームプレイと取るか、やたら難易度が高く、独自性のないつまらないゲームプレイと取るかは人によって異なってくる。
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本作の砂に埋れたドバイ…という設定も上手に活かしきることができず、せいぜいスクリプトイベント状態の砂嵐や、砂とグレネードを使った煙幕程度。
激しい暴力表現
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本作の暴力表現はストーリーを演出する演出することにはつながってはいるが、苦手な人にはとことん苦手。
複雑なストーリー
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本作はアクションゲームとしては非常に複雑なストーリー内容となっており、考察しがいのある内容だが、それを深いととるか、難解すぎる内容ととるかもまた人によって受け取り方が異なってくる。
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かというもの、本作のストーリーにおいて、どれが正史かどうかさえ開発者の中でもかなり揺れている。むしろ無いといったほうが良い。
キャンペーンが短い
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本作のキャンペーンモードはフルプライスの内容で、キャンペーン重視の内容でもあるにもかかわらず6~10時間程度の内容であり、過去にリリースされた『Half-Life』が30時間程度であると考えると非常に短い。
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しかし、圧巻のストーリーや濃い演出など、ゲームに飽きる前にほど良く終わるのでちょうどいいとして、あまり問題としない人もいる。
問題点
高めの難易度
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難易度ハードにおける難易度は結構高い。
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さらに、その上のベテラン難易度は隠し要素とはいえ、実績解除に関わる難易度の高すぎるベテランは批判の的となった。
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本作のゲームプレイにおけるチャプター14においても、ここだけやたら難易度が高く、バランスが調整されているとは言い難い。
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仲間は1人抜けているのにもかかわらず、敵の攻撃は苛烈を極めているため、あまり良いとは言えない。
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幸い、ゲーム中に難易度を下げることはできるのだが、ノーマル以上で遊ぶ場合は問題となる。
まともに遊べない対戦マルチプレイヤー
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本作のマルチプレイヤーは無理やりとってつけたような内容であり、かなり出来が悪い。
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Darkside Game Studiosに外注して作らせたもの。
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もともと、本作のゲームシステムそのものが特別面白いものではないのだが、このマルチプレイヤー部分はさらに酷い。具体的な問題点を上げるとすると
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武器のゲームバランスが非常に悪く、ショットガンで遠距離射撃でヘッドショットができる。
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パークのバランスもめちゃくちゃで、やたら強いのや、やたら弱いものが入り混じっている。
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バグや遅延が非常に多く、不安定。バグの例を挙げると「ホストのマウス感度に全プレイヤーが合わせられる」などがある。
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演出が全く盛り上がらず、手抜き感が強い。
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などなど問題づくしである。挙句の果てにYAGERの開発者そのものまで「本作を蝕む癌のようなもの」と散々な言われようである。
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幸い、CO-OPはさほど遊べる内容にはなっているが。ちなみにゲーム本編のMAPではなくCO-OP専用に作られたMAP(4種)を攻略していくという作りになっている。
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本作の影響もしくは教訓か、後に登場した本作と同じようにストーリー・シングルプレイヤー重視の『The New Order』以降の『Wolfenstein』シリーズや『BioShock Infinite』『Half-Life: Alyx』などはマルチプレイヤーを省くこととなった。
キーボード&マウスの操作性の悪さ
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コントローラーで遊ぶ際はそこまで問題にはならないが、パソコンで遊ぶ際は問題になる操作性の悪さ。
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コントローラーの操作をそのままパソコンに割り当てた内容のため、特定の動作が重複しており、慣れればそこまで問題にならないが、キーボード&マウスではかなり遊びづらい。
一部の誤訳
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基本的に翻訳は良質ではあるものの、収集アイテム「機密情報」などに誤訳が見られ、混乱を招く元になっている。
総評
戦争の狂気にスポットライトを当てたストーリーを中心とし、苦しく、悲しい内容ではあるものの、ストーリーを構成する個々の内容が狂気といえるほど丁寧な作りこみ。
ゲーム性にスポットを当てるとあまり楽しい内容、マルチプレイヤーは崩壊しているものではある。
だが、ストーリーだけでお釣りがくる素晴らしい内容で、発売から10年以上たった今もSteamやSNSの普及によるジワ売れのおかげで、今なおカルト的な支持を獲得し続けている。
暴力表現、鬱ストーリーに抵抗がないのであるならば、一般的な軍事もののシューターが嫌いならなおさら、ぜひ手に取って遊んでもらいたい、隠れた名作である。
余談
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本作はドバイが舞台ということでアラブ首長国連邦では販売が禁止されている。
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どういうわけかこの国だけが本作を規制対象としており、それに関するPSNやSteamページなどへのアクセスも禁止されている。
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本作のストーリーの内容はドバイを批判する内容でもないようなのになぜ…。
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本作のシナリオライターは後に「本作の続編は作るのか」という問いにTwitterで答えている(参照)。
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「何故なら同作の開発は過酷でとてもつらいものだったからです。プロジェクトに関わった人間は皆、もう1作品つくるくらいならガラスの破片を食べる方がマシだと思うでしょう。それに売れなかったですし」と返答しているため、続編は無いと思われる。
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先述した通り、本作の売り上げはあまり良くなく、発売してすぐに半額セールに突入するほどであった。
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その原因として、プロモーション・宣伝において、本作の魅力を全く伝えることができなかったこと、残念クオリティのマルチプレイヤーを猛プッシュされてしまったことで、有象無象のよくある残念なシューターとして見做されてしまった事が失敗の要因として挙げられる。
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発表(2009年)から実際の発売(2011年発売の予定が2012年に延期)まで内容の宣伝などがほぼ行われなかったのも要因と考えられる。
最終更新:2024年04月28日 15:00