返校 -Detention-
【へんこう でぃてんしょん】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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Windows/MacOS/Linux(Steam) Nintendo Switch Android iOS PlayStation4(北米・欧州のみ)
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発売元
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PLAYISM(日本語版) 赤燭遊戯(海外・Android/iOS版)
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開発元
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赤燭遊戯(Red Candle Games)
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発売日
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【Win/Mac/Linux】2017年10月27日 【Switch】2018年3月1日 【Android/iOS】2019年9月5日
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定価
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【Win/Mac/Linux】1,180円 【Switch】1,296円 【Android】600円 【iOS】610円
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:D(17才以上対象)
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判定
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良作
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ポイント
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背中をぞわぞわさせる良質のホラー演出 台湾史のタブーが下地の異色プロット
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概要
台湾発のホラーサバイバルアドベンチャー。
中国国民党支配下にあった1960年代の台湾が舞台となっており、反体制派に対して行われた大規模な政治的弾圧(通称「白色テロ」)をテーマとしていることから大きな話題を呼んだ。
ゲームシステムはサイドビュー型のオーソドックスなアドベンチャーであり、気になるところを調査したり、アイテムの入手を経て謎解きを行ったりしながらストーリーを進行していく。
ストーリー
山上の学校に通う男子学生のウェイ・チョンティンが授業中の居眠りから覚めると、教室には誰もいなくなっていた。
黒板には台風警報の文字があり、外は薄暗く大雨が降っている。
校舎を出て帰り路を進むと、離れの講堂で一人の女生徒が椅子に腰かけているのを発見する。
ウェイは彼女――1年先輩にあたるレイを連れて下山を試みるが、外界へと繋がる橋は壊れており、川には血のように赤い濁流が流れていた。
教室に避難したレイは、救助連絡のため校長室へ向かうウェイを見送ると、つかの間、自身が講堂に戻っていることに気が付いた。
頭上には逆さ吊りにされたウェイの死体。彼女は校舎を脱出することができるのか。
キャラクター
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ウェイ・チョンティン
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プレイ開始時の操作キャラクター。大人しそうな男子生徒だが行動力がある。
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ファン・レイシン
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愛称「レイ」で、ウェイ死亡後の操作キャラクター。翡翠のペンダントを大事にしている。
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聡明で自由を求める性格だが、家庭環境に大きな悩みを持っている。
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イン先生(イン・ツイハン)
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女性教師。プロローグをはじめ、キーパーソンとしてゲーム中に何度か登場する。
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チャン先生(チャン・ミンホイ)
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レイのカウンセリングを担当する先生。留学経験があり、弾圧下においても自由を求めるべしという信念を持っている。
評価点
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ツボを押さえたホラー表現
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先述の通り「プレイアブルキャラが突然凄惨な死体として現れる」というショッキングな展開が序盤に発生し、その後も振ったサイコロが一瞬で人間の歯に変化したり、誰もいないはずの校舎で「生徒指導室へ来るように」という電話がかかってきたり…と、嫌な汗をかくようなシチュエーションが立て続けに襲い掛かってくる。
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全体的に「そうなったら嫌だな」「絶対そうなる」と思ったことが起きなかったり、もしくはしっかり起きつつもその後は何事もなかったように静まり返ったり、といった感じで動と静の塩梅が上手く、気持ちの悪い余韻がねっとりと残り続けるような表現が見られる。
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安易なビックリ系も無くはないが少なく、怖がらせ方へのこだわりを感じさせる。
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またアドベンチャーゲームにはしばしば「室内の気になるものをクリック→ゲーム画面がその物品のみの拡大表示となる」という画面遷移があるが、それを利用して「物品を操作して室内表示に戻すと室内の様子が丸ごと変化している」といったネタがある。
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ゲーム的都合をうまく調理しており、ドキッとすると同時に思わず感心してしまう仕掛けと言える。
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陰鬱ながらアーティスティックな演出
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墨絵調の人物を始め、ゲームプレイのほとんど全てがかなり彩度と明度の低いおどろおどろしい雰囲気で形成されている。
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それをベースに、画面全体にノイズのかかる演出や、実写素材、明暗のコントラストが効果的に使われており、息苦しさすら感じさせる重たいムードに繋がっている。
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舞台となる学校の描写がよくできており、錆や汚れ、朽ちた花壇、明滅する電灯、壁に塗りたくられた血痕……と、そこにいるだけで嫌な気持ちになるような、ホラーゲームとして抜群のビジュアルとなっている。
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一方、レイの心理状態が影響している中盤以降のステージでは観念的な表現も見られ、自宅内では一部の家具が重力を無視して反転していたり、一画面内で多視点表現が用いられていたりと、直接的なホラー演出とは異なる独特な構成が見られる。
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また「チャン先生に都会の大通りに連れられた体験」を示したシーンでは、明るいピンク色の背景にネオン看板が賑々しく配置されており、本作の他のシーンとは極端な対比が行われている。
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全体的にホラーゲームとして土台の雰囲気作りを行いつつ、明暗の対比や心象風景によってしっかり空気感が補強されているため、ゲームの頭から終わりまで臨場感を持ってプレイすることができる。
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丁寧なストーリーテリング
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1960年代の世情をモチーフとしていることもあり、ある程度歴史的背景を踏まえたうえでないとわからないプロットではあるのだが、そのあたりは順序良く、かつ語り過ぎない程度に説明されており飲み込みやすく料理されている。
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本作の物語は「中国国民党の思想に沿わない禁止本を密かに読みあう秘密クラブの存在」と「レイのチャン先生に対する思慕の行き違い」という2つの骨子によって形作られているが、いずれも最初は断片的な情報を複数散らしつつ、程よいタイミングで一気に繋がるように提示されるため理解がしやすい。
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終盤はその2つの軸がレイを橋渡しに接続され、なぜレイが校舎に囚われ恐怖体験をするハメになっているのかがわかる仕掛けとなっている。
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このとき同時に、レイが現在どういった境遇にあるのかも暗示的に種明かしされるようになっており、プレイヤーを更に絶望へ突き落とす構造となっている。
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化け物に対する「息を止める」という対処法
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校内にはこの世のものではない化け物がうろついているが、これに対してレイは全く対抗することができない。
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これは一般人をプレイアブルキャラとしたホラーゲームではよくある設定だが、本作では対処法として「逃げ回る」「隠れる」ではなく、「息を止めてやりすごす」という手段で対応することになる。
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息を止めている間は化け物はレイを認識することができない。しかし一定秒数経過するとレイは勝手に大きく呼吸してしまい、強制解除されてしまう。
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そのため、どのタイミングで息を止めるのかや、化け物がどういうルートで動いているのかをある程度計算する必要があり、程よい緊張感をもたらしている。
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ゲームオーバー時にフラグ回収状況が引き継がれている
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化け物に襲撃されることによってレイは死亡しゲームオーバーとなるのだが、最終セーブからその時点までに得たアイテムや手がかりは全て引き継がれた状態でリスタートすることができる。
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本作のマップは広く、移動速度が遅いという後述の問題もあるためこの措置はかなりありがたく、プレイ時のモチベーション維持にもつながっている。
賛否両論点
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謎解きの難度の低さ
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アイテムを利用した進行やダイヤル錠のようなお馴染みの仕掛けもあるため、本作には謎解きアドベンチャーとしての側面があるのだが、概ねその難度は低く、悩む場面が少ない。
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特に多くのギミックは別の箇所で手に入れたアイテムを設置(使用)するだけということが多く、考える・推理するというよりはマップをくまなく回るのが基本攻略となる。
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しかしギミック自体の雰囲気は良く、中盤以降の鏡や影を用いた謎解きなどは、幻想的なビジュアルや詩的なヒントも相まって印象に残るものとなっている。
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攻略の歯応えより世界とのリンクを重視したと思えば、破綻の少ない良質な謎と考えることもできるだろう。
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前半はサバイバルホラーだが、後半はサイコスリラー
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先述の通りマップ上を化け物がうろついてはいるのだが、ある程度ストーリーが進行するとぱったりといなくなってしまう。
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というのがある時点から目的が「校舎の探索」ではなく「自分自身が置かれた状況の真相究明」にシフトしており、学校で何が起こったのかや、レイの深層心理の読み解きをメインとした展開になる。
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そのため化け物のつけ入る隙がなくなってしまうのだが、同時にシナリオとしても、いわゆる「お化けより人間の悪意が怖い」というサイコスリラー方面に変化していく。
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ゲームに限らずホラー映画などでも「途中からジャンルが変わってしまう」のを嫌うユーザーは見られるが、途中から明らかに「敵キャラ」がいなくなる本作においても違和感を抱く可能性はあるだろう。
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とはいえシナリオから見れば当然の流れであり、むしろ後半に敵がいては興ざめとすらいえる。
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また前半は前半で敵がいないとゲームとして成立しない恐れがあるため、その移り変わり含めてこその本作であり、必然だということもできる。
問題点
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セーブデータが1つのみ
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セーブが1箇所で上書きセーブのみのため、気に入った場面の直前データを残しておくことができない。
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この仕様のせいで後述の通り、マルチエンド回収が辛くなっている。
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行ったり来たりの多いレベルデザイン
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前項でも触れたが、マップをくまなく回ってアイテムや手がかりの回収に励む必要があり、必要以上に移動する回数が多い。
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例えば扉をひとつ開けるのにも、1階でアイテムを入手 ⇒ 校舎を出て講堂へ ⇒ 校舎に戻り3階へ ⇒ 再度1階へ戻って…のようにフラグ立てを行うため、手間を感じさせる。
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ゲームテンポの遅さ
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上記の問題を更に補強するものとして、移動が全体的に遅く、またテキスト送りもボタン連打で読み飛ばすことができない。
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この「のろさ」がホラー的雰囲気を醸成している面は大いにあるのだが、同じ場面を繰り返しプレイするには苦痛を伴う恐れがある。
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特に本作はバッドエンドとトゥルーエンドがあり最終章で分岐するのだが、前述の通りセーブが1箇所のみであるため、もし手順をミスした状態でセーブしてしまうと、最短でもチャプターセレクトで章の頭からやり直すことになる。
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攻略情報なしでトゥルーに行くには多少のトライ&エラーが必要になるが、果たしてこのゲームテンポで何度も試行したいかと言われると…。
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ただ、この件についてはチャプターセレクトがあるだけまだマシという擁護もできなくはない。
総評
陰鬱な時代背景を下地に、じっとりと恐ろしい良質なホラー体験を提供する一作。
プレイ時間は3時間程度と短めだが、印象的なビジュアルと、さりげなく語られる登場人物たちの心の移ろいは、プレイを終えても後を引く重い余韻を残すことになるだろう。
歴史に関する事前知識は必須ではなくプレイ開始のハードル自体は高くないため、ホラー好きにも、史実に基づく怪異譚に興味があるという人にもおすすめである。
余談
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Steamでは一時売り上げランキング世界3位になるほどの大ヒットとなり、その結果を受けてか2019年に実写映画化した。
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さらに、2020年には本作の30年後を舞台にしたオリジナルドラマがNetflixで配信された。
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赤燭遊戯はその後続けてホラーゲーム『還願』をリリース、本作の好評から大きな注目を浴びることとなったが、そちらはゲームデータに中国の国家主席である習近平氏を揶揄する文言の絵素材があることが発覚。中華圏で論争が起きるほどの大問題に発展し短期間で配信停止となってしまった。
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その後、2020年12月16日にGOG.comにて配信することを発表したが、発表から数時間後にGOG.com側から配信を取り下げる旨のアナウンスが報じられた。
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最終的には2021年3月15日にRed Candle Gamesが自社のストアページを開設。開設と同日に再配信されることとなった。DRMフリーとなっており日本語字幕もサポートされている。また、本作とのセットで両作のサントラも同梱された『DETENTION + DEVOTION Complete Edition』も配信されている。
最終更新:2024年05月14日 15:55