研修医 天堂独太
【けんしゅうい てんどうどくた】
ジャンル
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病院アドベンチャー
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対応機種
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ニンテンドーDS
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発売・開発元
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スパイク
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発売日
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2004年12月2日
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定価
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5,040円(税込)
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レーティング
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CERO:15歳以上対象
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プレイ人数
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1人
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判定
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クソゲー
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ゲームバランスが不安定
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ポイント
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非常に薄いボリュームとゲーム性 理不尽で詰みやすい手術パート シナリオに見るべきところはある
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概要
ニンテンドーDSのローンチタイトルの1つ。開発・発売ともにスパイクが手がけている。また、『ファイナルファンタジー』初期三作で知られる寺田憲史氏がシナリオを担当している。
外科医を主人公としたテキストADVであり、タッチスクリーンを使った手術を体験できるのが特徴だが…。
ストーリー
2流の「薮医大」を卒業したばかりの新人研修医・天堂独太は、
なぜか名門「聖命医大」の外科部長に直々に推薦され、研修医となる。
不思議に思いながらも聖命医大の門をくぐる医者として半人前の独太は、
やがてひと癖もふた癖もある医師や患者たち相手による奮闘劇に巻き込まれていく…
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主要な登場人物
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天堂 独太
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主人公の外科医。2流の藪医大を卒業後、名門聖命医大の外科部長・沢井に直々に推薦され、研修医となる。外科医としては半人前だが幼い頃から裁縫が得意で、毎日針と糸で練習しているため、縫合には自信がある。お人好しが故トラブルに巻き込まれやすくもある。
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星 幸
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独太が聖命医大で最初に出会う看護師。普段は明るく、患者のために泣くこともある優しい性格だが、早とちりで勘違いして自分を責めがちな癖もある。
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沢井 恭介
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聖命医大の外科部長。日本でも指折りの名医で、職員や患者からも尊敬されている。面識もない独太を聖命医大に推薦した。
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麻生 鈴
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聖命医大の心臓外科医で、独太のオーベン(研修医の指導を担当する医師)。「神の手」と言われるほど天才的な手術の腕前を持つが、スランプによりアルコール依存症に陥っており、酒を飲まないとまともに手術ができない。
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上戸 愛
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独太の2年先輩の研修医。本来なら彼氏も聖命医大に来るはずだったが独太が推薦されたせいで他の病院に飛ばされてしまったため、独太に厳しく当たっている。
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特徴
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病院を舞台にしたアドベンチャーゲーム。ADVパート・手術パートで構成されている。
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ADVパート
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色々な人物と会話したり患者を問診したりしてシナリオを進め、人物の情報やアイテムをカルテとして集めていく。カルテはテキストを読んでいる時もXボタンで下画面に呼び出せる。
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対応するカルテを選んでアイテムを使用したり、人物に話しかけることができる。
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相手の言い分の反証となるカルテを使用し納得させる「説得」もある。間違ったカルテを選択すると相手の心象が悪くなって緑のゲージが減り、無くなるとゲームオーバー。
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他に患者を身体をタッチして診察する「触診」やX線などを用いて対象をスライドで囲む「検査」もある(ボタン操作はなし)。
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手術パート
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入手したカルテを元に手術を行い、患者を助ける。
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患者の体力である緑のゲージがすべて無くなるとゲームオーバー。カルテの選択や手術を誤るとゲージが減っていく。
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切開などの手術は全てタッチスクリーンをスライドして行う(ボタン操作はなし)。操作を誤った場合は位置がどれだけ一致していたか数字が表示される。
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医者として未熟な独太は手術中葛藤を引き起こす場合がある(葛藤パート)。正しいカルテを選択して独太の悩みを打ち払う必要がある。
問題点
極薄のボリューム
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価格に対してボリュームが非常に薄い。
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本作は全4章で構成されているが、1章あたり1時間前後でクリアすることが可能。
つまり4時間程度でシナリオを終えることが出来てしまう。隠しシナリオやエンディング分岐は存在しない。
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後述の手術回数の少なさも、ボリュームの薄さに拍車をかけている。
ADVとしての機能面の不備
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テキスト送りのテンポが遅い。一応Bボタンを押して早送りすることはできるが、テキスト速度を変えるオプションはない。
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説得や手術パートではゲームオーバーになるとセーブした地点からやり直しのため、手動での中断セーブを忘れると同じ会話を長々と聞かされるハメになる。手術中はこまめに保存することを推奨する。
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というか、このゲームにはオプションそのものが存在しない。充実したオプションどころの話ではない。
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その他、既読スキップやバックログといったADVお馴染みの便利機能も搭載されていない。特に既読スキップがないのは痛く、カルテや移動先を選び間違えた際のテンポを大幅に悪くしている。
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カルテの一覧が存在せず、1つずつページを送って見なくてはならない。後半になるにつれカルテの量が膨大になるのでカルテを使う際に面倒になる。カルテをソートできる機能もない。
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類似のシステムとして「証拠品リスト」を搭載している『逆転裁判』は本作の後に発売されたDS移植版で細かいリスト化をする改善を行ったのだが、本作はそういう工夫すらしていない。
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またカルテの中には攻略上1回も使わないものもあり、単純にカルテを選ぶ際の邪魔になっている。
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最初に独太が受け取る「PHS」などがそれ。一応シナリオ上はPHSで連絡を受ける場面もあるのだが、カルテとしては結局最後まで使うことはない。
粗だらけの手術パート
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核であるはずの手術パートが全く練り込まれておらず、単調で薄い反面難易度が異常。
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手術は基本的に対象を囲む・線をなぞるの2パターンのみでゲーム性に乏しい。
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特にガイドラインのない手術の場合、判定は割とシビア。後述の説明不足も併せて単純な割には難易度が理不尽。攻略情報なしにノーミスでクリアできたプレイヤーがどれだけいたのか…。
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ミスする度に長々と叱られる場面もあり、テキスト送りの遅さも相まってストレスがたまる。
体力ゲージの存在によりやり直しに若干の手間がかかるのもストレスに拍車をかける。
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あろうことか一番最初の手術を含む、一部の手術の説明が致命的に足りていない。
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医学的な知識を要求される場面もあり、外部の攻略情報がないとクリア困難なレベルの手術もある。簡単な操作の反面、初っ端から詰まったプレイヤー多数。
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特に理不尽とされる手術
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虫垂炎が疑われる患者に対して手術をする場面。
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「右脇腹を斜めに切る」という情報のみ与えられて手術が開始する。
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これを成功させるには設定された範囲内に斜めの線を描かなければいけないのだが、プレイヤーは知る由もない。そのため高確率で詰まる。
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範囲内に線を引く方式の手術はこの1回のみ。
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理不尽さを知ってか単なる位置の関係か、同じ「切開」でも2度目はガイドラインをなぞる方式に変わっている。
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「左右内胸動脈」「胃大網動脈」を選択する場面。
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名称からある程度推察できるものの、知識のないプレイヤーにどの血管がそうであるか判断するのは難しい。特に後者は分かりづらく、詰まりやすい。
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2章の手術からこのような場面が登場し、難易度曲線も歪である。
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救済措置としてか、失敗した場合は正解に近いかどうかがパーセンテージ換算で表示される。
しかし0%から905%など、極端な数字になることが多く、かえって混乱を招く原因になってしまっている。
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手術中に挟まる「インナーコンフリクト」(葛藤パート)も問題だらけ。ボリュームの水増しと言われても致し方ないレベル。
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内容としては「主人公が手術中決断を迫られ葛藤するなか、カルテを選択して正しい方向に導く」というもの。
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そもそも一刻を争う手術中の心情として不自然。よほど難しい決断を迫られるならともかく、「(難しい手術だが)自分にできるのか?」「難しいから諦めようか?」というどうしようもないものが殆ど。
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この通り薄い内容を無理に広げたために、主人公の発言と選択すべきカルテとの関連性がないことが多い。その場合当てずっぽうで対応するしかない。
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総当たりできるだけ手術よりわずかにマシだが、それで正解したところで爽快感を得られるはずもない。
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一例(ネタバレ注意)
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血行再建が要求される場面で、自分にできるだろうかと葛藤する主人公。
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これには「針と糸」を使用するのが正解(毎日練習を続けているため)。あまりにも脈絡がなさすぎる。
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しかも結局主人公は「どのみち迷っているヒマはない」と一蹴する。今までの時間はなんだったのか?
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ADVパートに対する手術の割合も少なく、1章につきわずか2~4回という少なさは擁護できない。
オペ(手術)自体の回数ではなく、タッチスクリーンを使って操作をする回数である。一番少ない章の場合、カルテを選んで2回線を引くだけで終わるということ。
賛否両論点
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キャラクターデザインは発売時期を考慮しても古めで、人物は全般的に顔が濃く絵柄のクセが強い。
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「手鏡で女性のスカートの中を覗くのが趣味の入院患者」「酒を飲まないとマトモに手術ができない医者」
「戦場帰りの元軍医で常に帯銃している医師」といった今となってはコンプライアンスに引っかかりかねない、極端なキャラがいる。
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また「(指示に従わなかったからとはいえ)余命2〜3ヶ月の狭心症患者に絞め技をかける看護師長」など、命を軽く見ているようなギャグも散見される。
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他にも「口癖が『プップップッ!』の老婆」など意図がよくわからないのもいる。
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シナリオは一応の決着を見るが、エンドロール後に続編を匂わせた終わり方をする。
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「どうして独太が名門病院に推薦されたのか」については判明するが、その事実についてモヤモヤが残ったまま終わる。
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なお、ここで例の葛藤パートが入るが、作中で最も難易度が低い(恐らく演出としてもここが一番自然)。
評価点
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タッチスクリーンを使った手術ゲームは当時としては画期的である。
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シナリオは十分に登場人物が掘り下げられており、飽きさせない。
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(急患だから当然とはいえ)ぽっと出の患者もいるが、主要な患者はそれぞれのストーリーが掘り下げられており、手術して助け出そうという気にさせられる。
だからこそ先述の葛藤パートで諦めそうになる独太とプレイヤーの気持ちが乖離してしまい興醒めな面もあるのだが…。
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先述の通りギャグタッチなシーンもあるものの、医療ものならではの「命のドラマ」は十分に描かれており、ラストはそれらしく感動的なシーンで終わる。
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キャラクターの個性が強く、印象的で面白みがある。
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立ち絵やスチルもよく動き、表情豊かでアニメを見ているかのような感覚がある。
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ほとんどいつでも中断セーブが可能。中断といってもゲームを再開してもセーブが消えることはなく、ゲームオーバー時にも最後に中断セーブした地点からのやり直しになる。
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手術中もセーブできるのでゲームオーバーになった時のリトライに役立つ。
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ただし、あくまで「中断」セーブのため、「セーブして続きを読みたい」という場合にもいちいちタイトル画面に戻されてしまうのは難点。
総評
「DSのタッチスクリーンで外科手術ができる」という触れ込みの本作だが、肝心の手術パートは練り込み不足でお粗末なものであり、極薄のボリュームと合わせてローンチタイトルとしての期待に応えることはできなかった。
本作を評価する声もあるが、それらは主にシナリオやキャラクターに重きを置いたものであり、手術パートの単調さと理不尽さは拭い切れない。
シナリオやアイデア自体は悪くなかったため、ゲーム性をもう少し練り込んでいたら評価は全く違っていたと思われる、惜しい作品である。
余談
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続編『研修医 天堂独太2 ~命の天秤~』が2005年10月20日に発売されている。
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こちらでは本作の問題点の多くが解消されており、評価も高い。
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元がマイナーな上に1の評判が散々だったが故に埋もれてしまったのは残念である。
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よりによって、同年にアトラスから同じく手術を題材にした『超執刀カドゥケウス』がリリースされたのも不運な出来事と言えるかもしれない。
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主人公の母校である「薮医大」の名前の由来は「藪医者」だと思われる。2流という設定とはいえど、そのネーミングはどうなのだろうか…。
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ゲーム内容が『逆転裁判』に酷似している。
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プレイして真っ先に抱くであろう感想は「裁判を手術に置き替えた逆裁」である。そのぐらい意識して作られているのがプレイ中に伝わってくる(当時は逆転裁判の人気が特に高まっていた時期であった事も付記しておく)。
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前述したカルテの問題点もそうだが「妙に濃さを強調した登場人物」「微妙に垢抜けない濃い目の絵柄」といったキャラ造形面、テキストの雰囲気やメッセージウィンドウを始めとするUIやシステムの構造も非常に似通っており、安直な模倣・パクリと糾弾するプレイヤーも少なくない。
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特に「カルテ」は「証拠品リスト」、「説得」は「サイコ・ロック」の設定を変えただけといっても過言ではない。
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「ほぼいつでも再開しても消えない中断セーブが可能」という評価できる仕様から「オプションそのものが存在しない」「バックログ機能がない」といった問題点の仕様もほぼ同一。むしろあちらではGBAの『2』『3』の時点で既読スキップ機能が搭載されていたことを踏まえると、それにすら及ばない未成熟さである。
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他にも逆転裁判から劣化してる点が多く、例えば「探偵パート」にあたる「ADVパート」は「調べる」「話す」「つきつける」がオミットされ自由度が格段に下がっている。
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共通の問題点を解消した上で、差別化要素である手術の出来がもっと良ければそこまで悪目立ちしなかったのではという意見もある。
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問題点にある通り、あまりにもボリュームに乏しい本作に対して、某掲示板にて「
独太を売った金でカレーを食べたら、独太よりもボリュームがあった
」という書き込みがされ、
作品のボリュームの無さに対する皮肉や嫌味的な意味に限らず、純粋にネタとしても秀逸だった事から作品スレで大ウケ、掲示板・スレッドを飛び出した流行になった。
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ちなみにこの「独太を売った金で食べたカレー」のことを「独太カレー」と呼んでいたりする。
最終更新:2024年05月30日 18:47