六花の印


あらすじ

 機関車の吐く烟が微風に誘われていく間から、新橋停車場はその番模様に似た左右一組の巨影をふたたび背景の夜へ甦らせた。
 夜の陰は表面を白く殺がれている。
 明治三十八年一月末の某日――。
 その夜、東京市には雪が降っている。

明治38年、藤沢家の新人俥夫・弥吉は、高知の里に帰されていた当主の妻・藤沢島を新橋駅に迎えた。島が一挺の拳銃を隠し持っていることに、弥吉は気付く。
一方、現代(昭和50年代)の東京。新人運転手の沼田はアメリカから帰国してきた主人の善岡を迎えた。善岡もまた、その手に一挺の拳銃を持っていて……。

登場人物

  • 明治38年
    • 弥吉
      • 藤沢家に雇われた人力車の俥夫。源爺の遠縁。
    • 藤沢島
      • 藤沢家当主・欣蔵の妻。
    • 藤沢欣蔵
      • 藤沢家当主。
    • 藤沢市蔵
      • 欣蔵の弟。
    • 源助
      • 源爺。藤沢家の元俥夫。
  • 現代
    • 沼田卓也
      • 運転手。
    • 善岡圭介
      • 大手電機メーカーのロス代理店店長。
    • 善岡克代
      • 善岡の妻。
    • 笹原竣太郎
      • 克代の愛人。
    • 菅井
      • 謎の老人。

解題

「幻影城」1978年5月号に掲載された短編第3作。
明治と現代、2つの酷似した物語がカットバック形式で並行して語られ、最後に驚くべき真相が明らかになる。

過去の時代を舞台にしたミステリという意味で、この後書かれる花葬シリーズのプレ版という趣きが強い。
初期連城三紀彦の作風の方向性を決定付けた記念碑的作品というべきだろう。

 しかし集中の白眉は、「六花の印」であるに違いない。明治三十八年と現代、不思議に符合してゆく二つの事件をカットバックで描きながら、連城は読者の心をとらえて、悲劇的な死の瞬間に向けてひたはしるドラマの中に否応なく引きずり込んでしまう。そして、事件の真相が明かされるとき、読者は、このドラマの進行そのものが思いがけない罠であったことを知るのだ。この後連城三紀彦は〈幻影城〉に「花葬」と題した中編連作を開始し、雑誌が消滅した後に発表された『戻り川心中』〔10位〕に至った。「花葬」連作は、日本推理小説史上稀に見る大胆な試みに満ちた傑作だったが、「六花の印」はその序曲というべきものであり、作者が思うままに読者を操る技法を見出したことをはっきり示している。
(『本格ミステリ・ベスト100 1975→1994』より 執筆者:巽昌章)

上記引用の通り、時代設定に加え、タイトルに「花」の字が入ることもあって、プレ「花葬」的に位置づけられることが多いが、連城本人にとっては本作は「花葬」には入らないらしい。

――「六花の印」は、御自分としては、花葬シリーズとして書かれた訳ですか。
「全く違いますね」
――雪の結晶を、ひとつの花と例えれば……。
「泡坂さんなんかは、これ花葬に入れろって言いますね。「だからこれが、これを入れなくちゃ花葬駄目だよ、って」
(「地下室」1982年9月号 「特別例会報告4」より)

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収録アンソロジー

  • 長谷部史親編『日本ミステリーの一世紀〈下〉』(1995年、廣済堂出版)
  • 大河内昭爾編『ふるさと文学館 第一五巻 東京Ⅱ』(1995年、ぎょうせい)

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最終更新:2018年07月06日 02:07