TIME TRAVELERS
【たいむとらべらーず】
ジャンル
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タイムトラベルアドベンチャー プレイングシネマ
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対応機種
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ニンテンドー3DS プレイステーション・ヴィータ プレイステーション・ポータブル
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発売・開発元
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レベルファイブ
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発売日
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【3DS/PSV】2012年7月12日 【PSP】2012年7月19日
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定価
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5,980円
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レーティング
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CERO:C(15才以上対象)
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判定
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なし
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概要
『金八先生』や『428』を手掛けたクリエイター、イシイジロウ氏がレベルファイブ移籍後に製作したアドベンチャーゲーム。
『428』にて脚本を担当した北島行徳氏が脚本を、音楽を担当した坂本英城がコンポーザーを担当するなど、『428』のメインスタッフが再集結している。
それ以外にも、「5人の主人公のザッピング」「TIPSをつかった用語説明」といったシステム面でも『428』やその前身たる『街』を意識した部分が多く、ストーリーチャートのデザインも『428』のものを踏襲している。
また、作品中で取り上げられることはほとんどないものの、本作は『428』と世界観を共有しており、ファンサービスとして『428』に登場した「タマ」の着ぐるみが登場したり、一部のTIPSに『428』のキャラクターの名前が登場している。
特徴
ストーリー
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2013年、「ロストホール」と呼ばれる現象によって東京は甚大な被害を被った。それから18年後の2031年、とあるバスジャック事件を皮切りに始まる巨大な事件に巻き込まれた人々の群像劇を描く。
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主人公は不死身と呼ばれる刑事の「神谷壮馬」、ニュースキャスターを目指す女子アナ「伏見雛」、クールだが幼馴染に振り回されっぱなしの高校生「深瀬有理」、自称・天才科学者の詐欺師「新道究悟」、無職のリアルライフヒーロー「ルサンチ☆マン」こと「犬山かける」の5人。それに加え、同じ時間軸に何故か複数人存在する少女「新道みこと」を中心に物語は展開する。
システム
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プレイングシネマ
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ゲームは基本的にテキストを読み、要所要所で出てくる選択肢を選んでいくというサウンドノベルに近い形式だが、今作はキャラクターのセリフがフルボイスになっている他に背景やキャラクター全てがCGで表現されており、シーンごとにキャラが動くという映画やドラマのような演出がなされている。本作ではこれを「プレイングシネマ」と名付けている。
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プレイングシネマイベント(PCE)
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いわゆるQTE。ムービー中に指定されたボタンを押すことでイベントが進む。
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ザッピング
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『街』『428』と同様、主人公達の行動は互いに影響を及ぼし合っており、ある主人公の行動によって別の主人公がバッドエンドを迎えてしまう事がある。その時は正しい選択を選び直して物語をあるべき形で動かさなければならない。
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本作ではバッドエンドを「TIME STOP」と呼ぶ。
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TTフォン(タイムトラベラーズフォン)
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本編シナリオをクリアするとプレイできるようになるおまけモード。
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プレイヤーは「ある日、偶然から過去に繋がる(?)携帯電話を手に入れた男子高校生」となり、「2002年にいる"みこと"という少女」とテレビ通話でコミュニケーションを取っていく。
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「TTフォン」の時間はゲーム機本体の時間と連動しており、その他に「SKIP(みことの時間を最大48時間まで4時間刻みで進める)」「WAIT(みことの時間を進めた場合、主人公の時間が追い付くまでみことの時間を止める)」という操作を活用してみこととの親交を深めていく。
評価点
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タイムトラベル物の小ネタの数々
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タイトルの通り、本作はタイムトラベルを題材にしたゲーム。そのためか要所要所に有名なタイムトラベル物のSF小説や映画の小ネタが散りばめられており、知っているほどニヤリとできる。
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各キャラにはテーマソングがあり、曲の題名が「The Door Into Summer」だったり、歌詞がタイムトラベルを皮肉ったものだったりと多彩である。
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中にはあからさまな『ドラ○もん』ネタが仕込まれていたりもする。
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シナリオ面
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物語の設定自体に破綻した部分はなく、しっかりまとまっている。
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キャラクターも5人しっかり個性付けされており、見せ場もあるので印象に残る。
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『街』や『428』と同じく、おバカ全開なネタ選択肢や一部バッドエンディングのぶっ飛びぶりなども魅力の1つとなっている。「ピンクのラベル」「粋なジョーク」辺りは初プレイで思わず選んでしまい吹いたプレイヤーも多いだろう。
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ネタ選択肢の数々はボイス付きになったことで更に強烈になっている。「声優が真面目にネタ選択肢を演じるオムニバス形式の群像劇」というと『街』や『428』というより別のなにかに近付いたような気もするが。
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音楽
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タイムトラベラーズのテーマ曲、各キャラクターのテーマソング(ボーカル付き)は非常に評価が高い。演出効果も優れておりひとつの曲としての完成度も高い。
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映像の作り込み
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1シーン1シーンフルCGでキャラがしっかり動く演出などは、『428』や『街』での実写の静止画とはまた違った魅力がある。
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モーションキャプチャーを使用したリアルな動作の他に、一部のアクションシーンではアニメの演出家に絵コンテを依頼しており、迫力あるアクションが描かれている。
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TIPSリストが追加
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一度見たTIPSがリストに登録され、いつでもメニュー画面で見ることができる。
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『街』と『428』では面白いTIPSを読み返すというのが面倒であったが、このおかげで何時でも読み直せるようになったことは好意的に受け止められている。
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また、VITA版はトロフィー取得にも関わっているので、1つのやりこみ要素になっている。
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一度エンディングを迎えると、開発者の裏話を参照できるTIPSが追加され、再プレイのモチベーションにも繋がる。
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小ネタの数々
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『428』やタイムトラベル物のネタの他にも、VOCALOIDを使用した脅迫電話や、ACジャパンの「あいさつの魔法。」に酷似したCMなどの細かいネタも仕込まれている。
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スパイク・チュンソフトの『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』とは他社間提携を行っており、同シリーズの悪役・モノクマがぬいぐるみとして登場する。
問題点
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難易度が非常に低い
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出てくる選択肢のほとんどが「真面目な選択肢」「明らかに間違った選択肢」「完全にネタに走った選択肢」の3通りに区分できるほど分かりやすく、すぐに正解が分かってしまう。
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このためどの選択肢が適切かと迷うことがほとんどない。流石に終盤は難易度が上がるが、ストーリーの大半はこの通り簡単に進んでしまう。
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悩まされる選択肢もあるものの、そういうものに限ってどれを選んでも同じだったりする。
『街』や『428』では「一見どれを選んでも正解に見えるが、実は他のキャラクターの物語に大きな影響を与える」という選択肢もあったのだが、本作ではそういったケースはほとんどない。
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更に、正しい選択肢を選ぶと「Good Choice」と表示されるので、すぐにそれが正解か否かが分かってしまう。後から「ひょっとしてあそこを間違えたのかな?」と再考する事もほとんどない。
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また、「TIME STOP」を解除するとご親切にも「TIME STOP解除」と表示されるので、これもあまり悩む必要が無い。
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物語が佳境に入るまで勝手にキャラクターが切り替わってしまい、「プレイヤーの手で物語を動かす」という感覚が薄い。
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その為、ゲームの大部分が一本道のストーリーを読み進めるだけであり、ストーリーを進めるだけなら意図してザッピングを行う必要が殆ど無い。
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選択肢ミス以外でTIME STOPになれば「その原因となった主人公の当該シーンのシナリオ」が新たに出現するので、そこに移動して正しい選択肢を選ぶだけである。
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『街』や『428』と違いZAPS(JAMP)のシステムも無いので、ストーリーを進める為の試行錯誤も殆ど必要無い。
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終盤になってようやく『街』や『428』と同じく主人公選択画面が登場し、プレイヤーが物語を動かしていく流れとなるが、もうストーリーは終了間近であり、ザッピングシステムを活かしたプレイを出来る期間は極めて短い。
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一応、これらに理由付けはされているが、ゲームの面白さを犠牲にした割にはあまり納得できるものではない。
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バッドエンドである「TIME STOP」、『428』の「KEEP OUT」に当たる「TIME LOCK」が存在するが、「TIME LOCK」の方は前述の主人公選択画面が出るまで登場しない。
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また、「TIME LOCK」も「ZAPS」が無い為に、他の主人公で正しい選択を選ぶ事で解除されると言う点では「TIME STOP」と変わらず、要は主人公が死ぬか否かの違いでしか無い。
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本編のボリューム不足
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本編は10時間程度でエンディングを迎えられるほどボリュームが薄く、上記の選択肢の分かりやすさも相まって余計に早く終わったような感覚を受ける。
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『街』『428』と違って登場人物が動き、(スキップしない限り)フルボイスの台詞を全て聞くと言う映像作品的な特性上、プレイしている最中は長くやっているようにも思えるが、終わってみるとADVとしては驚くほど短い事が判る。
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また、TTフォンがあるとは言え、『街』『428』にあったような「条件を満たすとプレイ可能になる隠しシナリオ」なども存在せず、余計に物足りなく感じる。
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後述のように後半の展開には駆け足の部分もあるので、全編通してフルCGのキャラクターが動くという特徴上、モーションキャプチャーなどの手間が膨大であまりシナリオを伸ばせなかったのかもしれない。
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イシイジロウ本人は「ライトプレイヤーへ間口を広げるためプレイ時間を意識的に短くしたが、プレイヤーからお叱りを受けた」「ちゃんと計算して、あえて(『428』の)半分にしてある」とコメントしている(参考)。
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煩雑なPCE
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入力時間はとても余裕があるため、わざと失敗しようと思わない限り失敗することはまずない。
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むしろこれを失敗しないと見られないTIPSやバッドエンディングがあるので逆に面倒な要素になってしまっている。
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一応、2回目以降はスタートボタンでボタン入力をスキップできたり一部は選択肢次第で回避できたりと周回プレイに対する配慮はあるのだが、演出の関係上PCE中の会話はスキップ不可な上、PCEが関係するバッドエンディングの中には数個とはいえ「タイミングよく6回ボタン入力しなければいけない場面で6回全てミスする」「1回正解のボタンを押せばいい場面で3回連続でミスする」「途中で長めの会話が入るPCEを失敗」といった面倒な条件のものがある。
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シナリオ面
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タイムトラベル感が薄い。
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詳細は後述するが、『タイムトラベラーズ』という題名ではあるもののプレイしているとタイムトラベルしているという感覚はあまり感じられない。
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ネタバレを含むので注意
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5人の主人公たちは作中で「タイムトラベラー」と呼ばれるのだが、その能力は「命の危機に陥ったり取り返しのつかない失敗を犯してしまった際、無意識に時間を巻き戻す」というものであり、彼らには時間を遡っているという自覚は全くないため「タイムトラベルしている」とは言い難い。ゲームとしては『街』『428』と同じ事をやっているだけである。
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本作の登場人物で厳密な意味でのタイムトラベルを行ったのは2名のみであり、更にその様子が描写されるのは終盤に入ってからである。
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後半からとにかく駆け足。
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中盤までは濃密に進んでいくのだが、突然急速に伏線が回収されあっという間に終わってしまう。
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特に最終章は描写自体も薄く、「え?これで終わり?」と思う人が多いだろう。
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音楽面
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上述の通り、ボーカル付きテーマソングの評価は高いのだが、場面に合っていないような使われ方をしているケースもある。
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また、ボーカルの音量が大きくて台詞が聞き取り辛い箇所も。
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TTフォンの仕様
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おまけモードの「TTフォン」だが、VITA版ではこれをプレイしなければ獲得できないトロフィーが全トロフィーの3分の1以上を占めている。
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更に、TTフォンのプレイで獲得できるトロフィーの中には「決まった日時に発生するイベントを見る」というものが4つあり、本体の時計をいじるなどの工夫をしなければ全てを回収するまでには最低半年かかるという代物である。
2年も掛かる上に時計もいじれないよりはマシかもしれないが。
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TTフォン自体は決まった日にしか聞けないメッセージを多数収録していたり、シナリオも最後に意外な展開が待っていたりと力は入っているのだが、あくまで「おまけ」の域を出る出来ではなく、更に(設定上仕方ないのかもしれないが)電話中の会話がスキップできなかったりと周回プレイがキツい仕様のため、「このトロフィーの数はどうなのか」という声も出た。
総評
CGを使ったプレイングシネマという試み自体は新しく、独自の魅力もあるので決して出来が悪いわけではない。
しかしシナリオのボリューム不足や難易度の低さなど、『428』のような作品を期待したプレイヤーからはガッカリする部分が非常に多い作品ではあった。
惜しむらくは、「フルCGのキャラクターを映画やドラマの如く動かす」という演出のために必要な手間の多さが、結果的にシナリオ面に制約を与えてしまっていると思しき点だろう。
しかし、制作者であるイシイジロウ本人はテキストアドベンチャーに文章ボリュームがありすぎるのはプレイヤーの間口を狭めて「普通の人」を遠ざけているのではないかとコメントしており、そういった批判が来るのも承知だったようである。確かにそれも一理あるし、ライトユーザー向けと言う意味ではその意図は果たせていると言える。
ならば今度はヘビーユーザーも満足できるように、上記の点を克服したプレイングシネマの魅力と大ボリュームを兼ね備えた次世代の作品が生み出されることを期待したいところである。
最終更新:2021年07月04日 17:56