『シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~』は「判定不一致修正依頼」にて判定と記事内容の不一致が指摘されています。対応できる方はご協力をお願いします。
本ページでは『シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~』『シェルノサージュ OFFLINE ~失われた星へ捧ぐ詩~』『シェルノサージュ DX ~失われた星へ捧ぐ詩~』を紹介する。判定は『無印』『OFFLINE』は賛否両論。『DX』は劣化ゲー。
シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~
【しぇるのさーじゅ うしなわれたほしへささぐうた】
ジャンル
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7次元コミュニケーションゲーム
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対応機種
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プレイステーション・ヴィータ
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発売元
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コーエーテクモゲームス
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開発元
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ガスト
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発売日
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無印: 2012年4月26日 RE:Incarnation: 2013年2月21日 廉価版: 2013年10月10日
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定価(税抜)
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通常版: 5,184円 廉価版: 3,758円 ダウンロード版: 4,200円 → 3,292円 (廉価版発売後) AGENT PACK: 7,344円 RE:Incarnation パッケージ版: 7,344円 ダウンロード版: 6,480円
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判定
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賛否両論
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ポイント
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1人の女の子との生活シミュレーション 本体は1章のみの内容で完結には計5,600円分のDLCが必須 厚い音声作りと微妙なビジュアル表現 作業と虚無で構成されたゲーム性 バグと開発力不足との戦いで予定期間を大幅に延びた2年間 世界観(外部展開)にどこまで入り込めるかが評価の分かれ目
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サージュ・コンチェルトシリーズ
シェルノサージュ
/ アルノサージュ
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概要
コーエーテクモゲームスが買収したガストが、『アルトネリコ』シリーズから連なるエクサピーコ宇宙世界観を広げて送り出した新シリーズ『サージュ・コンチェルト』の第一作。
ガストブランド初のオンラインタイトルでもある。
7次元先の世界にいる少女とのリアルコンタクトをするためのソフトだと標榜するその意気込みとは…。
あらすじ
コミュニケーションパート
PSVを介して偶然7次元先の世界にある古びた端末に接続してしまった、画面の前で操作している"あなた"。
7次元先の世界ではイオンという少女が、家の前に落ちていたその端末を起動しようと試みていた。
端末に外の世界から接続した存在(あなた)の想いを伝える機能がある事に気付いたイオンは、初めての来訪者に喜ぶ。
彼女には過去の記憶がなく、自分とねりこという雑貨屋を営む謎の女性、2人だけの世界で今まで暮らしてきたのだという。
こうして7次元先の世界の観測者となったあなたとイオンの端末越しの奇妙な生活が始まった。
そして端末にはもう1つの機能があった。それは彼女のジェノメトリクス(精神世界)にダイブして失われた記憶を修復する事。
夢セカイ
太陽・ベゼルの膨張により飲み込まれようとしている惑星・ラシェーラ。
この地では、「天文」と「地文」というふたつの組織が人類存続のための計画を掲げる。
天文は宇宙移民船で別星系への移住「グランフェニックス」を提唱。
地文は「セーブ・ベゼル」で詩魔法でラシェーラと太陽の再生を目指そうとしている。
そんななか、この地を収める皇帝の世代交代が行われることになり、天文と地文はそれぞれひとりずつ皇帝候補を擁立した。
皇帝継承の儀の3年間、皇帝候補はラシェーラの一番地理位置の低い町・万寿沙羅(まんじゅさら)に降り立ち、最下層民の身分から皇帝になるのにふさわしい己を磨き、宮城へ帰らなければならない。
登場人物
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コミュニケーションパート
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イオン/イオナサル・ククルル・プリシェール(CV:加隈亜衣)
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偶然繋がった7次元先の世界にいた少女。過去の記憶を失い自分とねりこ、2人だけの世界で孤独に暮らしている。
性格はおっとりした恥ずかしがり屋で、真空管を使った電子工作に目がない。
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夢セカイではかつて天文の皇女だった彼女の視点から物語を追体験することになる。臆病で何も主張する事が出来ず、皇位継承の儀の最初の演説からも逃げ出してしまった彼女が、ラシェーラの人々との出会いを通じてどのように成長していくかがこの物語の見所。
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あなた
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PSVを介して7次元先の世界のイオンの部屋の端末と繋がってしまったあなた。つまりプレイヤーである画面の前で操作している自分自身である。
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この自分自身が登場人物であるということが、サージュコンチェルトシリーズでは非常に重要でストーリー上で大きな意味を持つことになる。公式やファンの間での呼称は「端末さん」である。
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ねりこ(CV:MAKO)
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イオンの家の近所で「雑貨屋ねりこさん」を営む正体不明の謎の女性。
イオンが外出していると部屋にやってきて、プレイヤーに独特な口調で意味深な話をしては去っていく。
夢セカイ
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ター坊(CV:大原桃子)
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皇位継承の儀の開幕で、民衆にもみくちゃにされ怯えて1人万寿沙羅のスラムに隠れていたイオンを家に招き入れたガキ大将の少年。
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彼との出会いをきっかけにして物語は大きく動き始める事になる。
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キャス/キャスティ・リアノイト(CV:水瀬いのり)
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ター坊の結成したチーム「超輝工冒険団」の一員の少女。富裕層の住むコロン「フォーシーズン」から訳あって地上に降りてきたツンデレお嬢様。
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カノン/カノイール・ククルル・プリシェール(CV:井ノ上奈々)
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イオンの対立候補である地文の皇女。非常に厳格な性格で指導力も兼ね備えており、天文派からも不安視されていたイオンと異なり始めから地文波の民衆の高い支持を得ている。当初はあまりに脆弱で頼りないイオンに対して辛く接していたが…?
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イオンと同じ苗字だがククルル・プリシェールとは皇女候補を表す称号でありどちらも本名ではない。
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ネイ/ネィアフラスク(CV:内田真礼)
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2幕より登場。イオンの同行者として勝手に付いてきた快活で脳天気な踊り子の少女。
イオンに関するある重大な秘密を知っている。
夢セカイの物語はイオンと主にこの4人を中心に展開される。
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特徵
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天文の皇帝候補であるはずだが何かの原因で記憶を失い、世界の片隅にある部屋で滞在している少女イオナサル・ククルル・プリシェール(愛称・イオン)。
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部屋にある端末を通してイオンの生活様子を観察、そして触れ合うのがプレイヤーの役目。
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イオンの精神世界に住む妖精シャールを記憶修復作業に割り当てて、ラシェーラの歴史を追体験できる。
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イオンと一緒に過ごし、仲を深めていくこともある。
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ソフト単品ではストーリー第1幕とイオンとのコミュニケーションパートしかプレイすることができず、毎月配信されるDLCによって継続的にイベントが追加され1年で完結するという形式を採っている。
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またオンライン専用タイトルでもあり、インターネットに接続出来る環境がなければ一部の限定的な要素しかプレイすることが出来ない。
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SNS的な機能がゲーム内に用意されていて、オンライン要素はサージュコンチェルトという世界観をユーザー間で共有し継続的なコミュニティを築くための、コミュニケーションツールとしての側面が強い。
各モードの説明
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コミュニケーションパート
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イオンの部屋
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端末としてイオンの部屋を観察し、触れ合う本作の基本となるモード。
イオンはプレイヤーと同じように7次元先の世界をリアルタイムで暮らしている。
だが何もしなければ彼女は同じ生活サイクルを単調に繰り返すのみ。
そんな彼女に対して、プレイヤーがPSVの画面をトントンして干渉することでイオンと会話したり、工作や採取を頼む、デートに行くなど様々なコミュニケーションが行える。
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こうした日々を繰り返していく事で、孤独だった彼女の生活に変化を与えていくのだ。
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仮想世界
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イオンとデートに行くことで入れる空間。
1つのスポットに20以上ものそれなりに長さのあるイベントが用意されている。
後述のマイクロクエーサーのエネルギーの累計量が一定量に到達する毎に、ねりこさんから新しい仮想世界カードが手に入り徐々に行ける場所が増えていく。
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なお、デートで向かう先はイオンが住んでいたラシェーラではなく、何故か我々の住む地球の日本に酷似した場所である。
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シャールウィッシュ
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毎日更新されるシャールから提示されるミッション。
ミッションを達成することで、シャールの勧誘や育成に必要なHympを集めることができる。
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シンフォリズム
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イオンの現在のラブラブ度・体調・機嫌・性格傾向・食の嗜好とそれをグラフ化したデータを見ることができる。
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ラブラブ度はストーリーの進行とデートに行った回数で上昇する。
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体調の状態でイオンがいつ頃食事を摂るか、睡眠をするか等をある程度予測する事が出来る。
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性格傾向と食の嗜好はプレイヤーが会話の中で選んだ選択肢によって、派手or地味、マメorおおらか、辛党or甘党、さっぱりorコッテリの中で4段階に徐々に変化し服や食事の好みに影響する。
味の好みがコッテリになるとハードな肉料理ばかり食べるようになるのでユーザーの間ではすっかり肉食キャラが定着してしまった。
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SNS、メッセージ機能
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Twitterのように他のユーザーをフォローしてメッセージのやり取りを行う事が出来る。
これで同好の士を探してコミュニケーションを取るのが、見てるだけの時間がとにかく長い本作において、ある意味一番インタラクティブ性のあった部分だと言えなくもない。
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ジェノメトリクスパート
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夢セカイ
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イオンの部屋と並んで本作のメインとなるモード。
廃墟となったイオンの記憶の世界をシャールの手によって修復させていくことで、かつてラシェーラで暮らしていた彼女の記憶を追体験することが出来る。
記憶を復元する度に忘れていた工作や料理のレシピを思い出し、イオンの部屋でまた新たなアイテムを作ることが出来るようになる。
2章以降はセカイパックというDLCとして配信(各章514円、2章のみ無料)され全ての記憶を復元するまでに足掛け2年3ヶ月もの時を要した。
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シャールの巣
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記憶の修復で使用することになる妖精シャールを雇用したり育成することができる。メインに置いておけるのは6体。
新しいシャールの雇用はバーコードをPSVのカメラで読み取ることで行う。
シャールは様々な要素で経験値を得てレベルアップする他、Hympを使用して修復能力を高めるスキルを覚えさせたり、装備品で見た目をカスタマイズする育成要素がある。
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各シャールのクエーサー情報からイオンの住む惑星に、シャールが集めたエネルギーを送れる。
このエネルギーは全プレイヤーで共有で累計ポイントが一定量になるごとに、報酬として前述の仮想世界カードの他にもシャールの新しいスキル、装備品、イオンの部屋で流せるBGMなどが解禁されていった。
貯めたエネルギーは続編のアルノサージュにて驚愕の理由で使われることに…。
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発売当時はここでコミュイベントという四択の問題やアンケートに答えるイベントが定期的に行われ、正解者に大量のHympが支給されたり、Web上で展開されていた企画でアンケート結果が集計されたりしていた。
評価点
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シナリオ
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イオンの記憶が見せるラシェーラの存亡をかけた群像劇の中で、各人の思惑が交差する様は見ごたえあり。
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名ありキャラの数を絞った分、各人の役割は明確。
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時系列順に修復される記憶での出来事に、部屋内のイオンの一喜一憂が伝わる。衝撃的な事実と向き合うには、プレイヤーの相伴が必要になってくる。
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世界観・設定
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『アルトネリコ』シリーズ譲りの世界観の奥深さは健在。綿密に組み込まれた設定が我々の世界の7次元先に存在するとされる世界「ラシェーラ」の説得力を高めている。
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イオンを眺める楽しさ
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部屋内のイオンは様々なことに打ち込む。物つくり・料理・食事・昼寝・入浴と言ったイオン1人の活動のほかにも、触らせてもらう、仮想世界へのデートに行く、一緒に就寝などのスキンシップ要素を多種搭載。
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材料採集でイオンが部屋から離れる代わりに、雑貨屋ねりこがイオン不在を狙って端末と話すためにやってきて、物を贈呈してくれることもある。ときにはねりこに会う目的でイオンを部屋からどかすのも一興。
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手堅く作りこまれる音声関係
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歌手に『アルトネリコ』シリーズ御用達の志方あきこ氏、霜月はるか氏、みとせのりこ氏など豪華な陣容。
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ADVで進んでいくストーリーの中で、クライマックスでムービーとともに披露する詩魔法はミュージカル然としていて盛り上がる。ムービー映像の質はそんなに高くはないが…。
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『アルトネリコ』シリーズではヒュムノス語という架空言語が詩魔法の歌詞に盛り込まれていたが、本作ではそれに代わり主に地文側が使うジェノムと呼ばれる生命体の公用語「契絆想界詩」と、天文側が使うシェルノトロンという機械で使用されるプログラム言語「REON-4213」の2つの架空言語が使われている。
詩魔法を発動させる人物の思想や、その時の状況でこの2つの言語が使い分けられ世界観の構築に一役買っている。
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ヒュムノス語と同じく架空言語の歌詞にはしっかりその発動者の心情や物語的な意味があり、ストーリーを観たあとに改めて歌詞を見るとその奥深さに驚かされるだろう。
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鑑賞コマンドで呼び出せる詩の数は多くないが、本作では志方あきこが詩ではない曲もいくつか作曲・歌唱し、数の面では劣らない。
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声優陣も当時新人だがいまや売れっ子の加隈亜衣氏や内田真礼氏、水瀬いのり氏らが熱演している。とくにイオン役の加隈氏はその仕事量により人気が急上昇した。
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コンセプト上、加隈氏が公式の広報に出席するときはイオン役ではなく「イオンのお友達」と自称するとか。
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豊富な収録音声がキャラの魅力や世界観・ストーリーの訴求力を高めている。
賛否両論点
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複雑な世界観設定
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本作独自な概念がかなり多い。現実の専門知識を下敷きにする設定も点在する。
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『アルトネリコ』シリーズとの類似概念はあるが、そうではない点も多いため、ガストファンにも新規ユーザーにもハードルが高まったといえる。
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インタラクティブ性の薄さ
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イオン相手に一緒にやれることが少ない。不規則なイオンの生活リズムは後のアプデである程度プレイヤーに合わせてくれるようになったが、それでも長時間の工作をさせると簡単にずれてしまい一緒に生活している感は薄れてしまう。
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イオンに物つくりを依頼できるが、衣装・薬・デートアイテム以外の大半は完成してもイオンの感想を聞けるだけで、機械類ならギミックを体験させる、といったこともない。
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物作り依頼のほとんどが「完成時の感想を聞くという」目的以外でプレイヤーに行わせる動機づけがされていない。
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窓もないワンルームで実質的に外界も無いも同然、土日も祝日も無い、昼夜もよく分からない、仕事も学校も無い少女を眺める以上は生活感が薄い。
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日常の何気ないランダムイベントといったものが用意されていないのも生活を眺めるゲームとしては無理がある設計であり、上記の物作り依頼で感想を聞くぐらいしかやることがない状態に陥りがちになる。PSVの省電機能により眺めていると強制的に暗転するのも大きなネック。
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単調で生活感がない暮らしのためにコミュニケーションにおける日常会話もバラエティが薄く感じられる。豊富な筈の収録音声は工作や料理の感想といった固定会話に集中してしまっている。
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ゲームのコンセプト
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本作の開発コンセプトの1つにあるのが「画面越しの世界にいる女の子と1年間生活を共にするコミュニケーションツール」である。
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このコンセプトを実践するにはゲーム側で与えられる要素を受動的に消化するのではなく、プレイヤー自身が能動的に7次元先の世界に住んでいるイオンとの端末越しの生活をロールプレイし続ける必要がある。
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発売日からリアルタイムでプレイした場合、プレイヤーは2年以上もの月日を毎日彼女と過ごすことになるので、彼女に対する愛着は一般的なギャルゲーのキャラクターとは比較にならないほど深いものとなる。
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逆に言えば、そこまでイオンに愛着を持てなかったプレイヤーは2年以上もの虚無期間に付き合いきれずに篩い落とされるという選別が行われ、結果的にファンコミュニティの結束は高まった。意地の悪い見方ではあるが、事実その状態になってしまったのは否定できない。
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プレイヤーにイオンとの生活をロールプレイさせ、このテンションを維持したまま続編のアルノサージュへと繋げるのがこの作品の狙いだったが、そういった「受け身ではなく能動的にロールプレイしなければならない」といった話はとっつきが悪い印象を与えるために当然ながら公開的な宣伝では伏せられ、熱心なファンの間だけの認識にとどまっていた。
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問題点や上述の項でも触れられているが、本作を(発売当時からリアルタイムで)普通のADVとしてプレイしようとすると次の章が配信されるまでかなりの長い間、虚無期間を過ごすこととなる上、肝心のコミュニケーション部分も同じ会話に動作を繰り返すばかりで変化に乏しい。
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はっきり言って客観的にゲームとしての面白さ"だけ"を評価した場合この作品の優れている部分は評価点でも述べられている通りキャラクターの魅力と(外部展開による世界設定込みでの)シナリオの完成度、そして音楽、音声周りくらいしかない。
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このコンセプトに対してプレイヤーが理解を示し、7次元先の世界と端末で繋がった生活というシチュエーションに入り込み、イオンと単なるゲームキャラクターを越えた関係を築けるかで評価がかなり変わってくるだろう。
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上記で挙げられたようなコンセプトや外部展開主体の手法はTRPGの文法に近いものであり、本作は単体のデジタルゲームというよりもサージュコンチェルトという大枠の中のブックのひとつといった性格が強い。
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残念ながら単体の通常のゲームとしても楽しめるようにはあまり作られておらず、「コンセプトを理解しロールプレイし続ける必要がある」という要求は、一般ユーザーにとっては「ゲーム自体が提示するものが貧相なのに対してプレイヤーが脳内で補完してやる必要がある」という意味にしかならなかった。
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この問題は結局のところ、作品媒体をも内包する壮大な世界観に対してゲーム自体のクオリティがまるで追いついていないことに起因している。
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ギャルゲーとして
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セールスポイントの1つとしてヒロインと交流し絆を深めていく、言わばギャルゲー要素がある。PSVのタッチ機能を利用したスキンシップも有り、注目を集めた部分である。
しかしDLCを含めたシナリオの進行度と好感度に該当するラブラブ度が連動しており、シナリオを放置して交流だけを楽しむことができない問題があった。
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ソフト本体(第1章に該当)だけを購入しても関係は赤の他人止まりである。友達にすらなれない。
そして続きのDLC(第3章から有料)が配信されるのは数ヶ月後。加えて後述するバグの問題もあった。ギャルゲー目当てで購入した層の大半はここで見限ったと思われる。
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そもそもラブラブ度が事実上のシナリオ進行度でしかないことは伏せられていた。発売から半年ほど経ち、イオンと交流することに興味を持っていなかった批判側寄りのユーザーが、毎日熱心にイオンと交流しているユーザーとの間にラブラブ度の差がない点に気づいたことで判明した経緯がある。
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つまり思い入れの強いユーザーほど(ゲーム的には)無駄なことに時間を費やしたことになるわけで、しばらくはこの事実を否定または保留する意見が少なくなかった。今は受け入れられているとはいえ、ロールプレイをしているという高い意識を持っていないと白ける話である。
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恋人になるためには13年4月配信の第5章まで進める必要があった。交流以外の要素もあったとは言え、当時のプレイヤーはそれまで辛抱強く待たされていた。
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なお、プレイヤー側はイオンの姿を普通に認識して話を聞くことができるが、イオンから見たプレイヤーはイオンに対して触れた感覚や想いを伝えるだけの機械でしかないので、このガードの固さはイオンを1人の人間として考えれば当然と言えば当然の反応だったりする。
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しかし、それは設定だけを重んじゲームとしての設計を度外視していることの証左でもある。ゲーム本体だけでは、1年間辛抱強く待ち続けなければ宣伝で謡っているようなコミュニケーションなど全く意味がないのだ。
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また問題点で挙げるようにリアルタイム進行による制約があり、思った通りのタイミングでイベントを起こせない。
一緒にお話したいと思いゲームを起動しても、寝ていたり食事中で相手をしてもらえないことがある。ゲームとしてはかなり萎える展開である。
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完了までの27か月の大半を占めることになった何も起きない虚無期間やDLC費用を無視すれば、デートイベントが豊富で、友達から恋人果ては夫婦までの流れを描いているなど、ボリュームは相当なものがある。
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逆に言えばそのボリュームは間延びした配信期間で大幅に希釈されているうえに費用も嵩むものており、実際のプレイ感とはかけ離れている。
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多く見られる批判意見の1つが「価格に比してボリュームが無さすぎる、特に本体は基本無料でもおかしくない」というものであり、ファンと批判者との意見はここでも一致を見ない。
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関係を深めていくと普段の台詞も変化する。仲良くなれた実感が沸き、一緒の生活がより楽しくなる。
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ギャルゲーの醍醐味である告白のシーンはかなりドキドキさせられる。同様にプロポーズイベントもある。
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ヒロインが想う相手が主人公のキャラクターではなくプレイヤー本人という設定もポイント。ロールプレイを楽しめる人ならとことん嵌る。
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リアルタイムだからこその演出もある。ゲーム起動時には寝ていなければ「あ、きた!」とヒロインが満面の笑みで出迎えてくれる。
時間を操作できないからこそ「待っていてくれた」という説得力がある。仕事や学校からの帰宅直後に言ってもらえれば嬉しいはず。
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見限った層がいる一方で、上述した魅力の虜になってのめり込むプレイヤーもおり、ゲームのコンセプトの項と合わせて本作が賛否両論と言われる所以となっている。
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ただし、結局は「関係を深める=シナリオ進行度を上げる」でしかなく、毎日優しく扱おうが雑に扱おうが実際には差は出ない。
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極端な話、ナデナデ要求を拒否し続ける程にイオンを嫌うプレイでもシナリオとデートイベントさえ進めていれば全く問題なく関係は進行するし、仮に機嫌が悪くなったとしてもデメリットは一切ない。
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しかも、数回画面を叩いて喋らせるだけで簡単に機嫌は直ってしまう。はたしてこれをコミュニケーションメインの作品と見ていいのか、この点においてもファンと批判者との間で実際には意見は分かれている…最終的には後述のアイテム作成で差が出たわけだが。
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また「関係の変化」は本体発売からリアル一年経ってようやく変化らしいものが見られるぐらいに遅く、その頃には登録ユーザーの9割が脱落していた。変化を実感できたユーザーはごく一部である。
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リアルタイムでプレイし続ける事を前提としたストーリー進行の制約
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エンディングを迎えるには重要カテゴリというアイテムをほぼ全て2個ずつ作って、「とあるアイテム」を作成する必要があるのだが、これを作成するためにかかる工作時間が累計300時間以上かかる。
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その重要カテゴリを作成するのに上位素材、上位素材を作成するのに中間素材、そして中間素材を作成するのに膨大な数の下位素材と採取素材が必要となる(参照)。
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この膨大な作業量でも発売からリアルタイムでプレイする分には、重要カテゴリアイテムの追加はDLCに合わせて数ヶ月に1度だったので、毎日プレイしていたユーザーからすれば実はそこまで問題ではなかった。
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しかしそういったユーザーにしてもアイテムが何個必要になるかまでは最後まで分からず、不足を恐れて最大の9個まで揃えるという力業で対応していた者が多かった。
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その場合は累計で1000時間を大きく越える。どちらにしても一般ユーザーが付いてこれるものではない。
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しかしDLCが全て実装されたあとに始めたプレイヤーや、コンセプトをあまり理解せずストーリーだけを見て放置していたプレイヤーはこの膨大な作業に一気に向き合う羽目となり、ブラック企業社員の如く働かされることとなったイオンと共に地獄を見ることに…。
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また、イオンと結婚するには第10章までのデートをほぼ全て行う必要があるのだが、1日1回しか行けない約束デートというものがありこれが63回、特定の工作アイテムを差し出して行けるアイテムデートが67回もある(参照)。
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これもリアルタイムでプレイする分には大した問題ではないのだが、『アルノサージュ』のためにエンディングと合わせて終盤から一気に目指そうとすると重い足枷になってしまう。
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『アルノサージュ』の発売時期
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エンディングに繋がる最後のセカイパックが配信されたのは2014年7月31日のことなのだが、それより4ヶ月も前にエンディングから直接繋がるストーリーにして、『シェルノサージュ』から続くプレイヤーとイオンの物語の完結編『アルノサージュ ~生まれいずる星へ祈る詩~』が発売されてしまった。
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こちらは普通の買い切り型のRPGなので制限なく最後までプレイすることができるのだが、おかげで物語の核心に関する様々な衝撃的事実が本作が完結する前にネタバレされてしまうことに。
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ただし、本作とアルノサージュを連動させるとプレイヤーが続編の時間軸の出来事を知っていることを前提とした選択肢やイベントが追加される仕掛けが用意されているので、プレイヤーのこの世界での役割を表現する演出として意図して行われていると思われる。
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また、『アルノサージュ』にも本作を最後までプレイしないと分からない設定があるので、ネタバレを知ってしまったからといって本作をプレイする意義がなくなってしまう訳ではない。
問題点
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3Dゲームとしてのビジュアル表現の貧相さ
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背景オブジェクトがチープすぎる。ほとんどが紙の板でできているように見え、ディテールも粗い。PS2、ひいてはPS1レベルの出来具合。
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キャラのモーションも少ない。イオン以外のキャラのほとんどは決まった動きしかしない。イオンも、長く触れ合うことになるプレイ過程で、モーションを十数種のみ持つと代り映えしない。
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上述の量を誇るデートイベントは乱暴的に言ってしまえば数歩でループする背景で少しお喋りしたら終わりという代物である。
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工作や食事の種類が多い一方でモーションやオブジェクトがあまりにも少なく、「鍋を食べている場面のはずなのに食パンを齧っている」「電子回路を作っているはずなのに金づちで石をたたいている」といったシーンと合致しない光景が多発する。少ないなりに工夫できそうなところでもまともに選んでいない場面が多い。
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モデル自体は及第点。とはいえテクスチャー貫通も目立つ。
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女性キャラには乳揺れが印象に残るものがいる。シリアスシーンでもなりふり構わず揺れまくるので、雰囲気が怪しくなること間違いなし。
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詩魔法ムービーの質にもアラあり。本作で最も評価される1章と比べて、キャラがその場で適当に動くだけの2章・3章は特に批判される。特に3章は舞台演出が話の中心となる故、ムービーの低品質さはそのまま話の悪さに繋がる。
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重要なはずの器具であるシェルノトロンにまともに画像やモデルが用意されておらず、詩魔法もビジュアルエフェクトを欠けたものが多い。
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たとえば、7章でシャールが使った攻撃魔法はゲーム外で提供された資料で詠唱文を読解しないと攻撃がどんな性質なのかさえわからない。
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コミュニケーションパートのイオンの生活パターンが貧弱。トイレや就寝を除けば机に座っているのがほとんど。殺風景な部屋だからそうなるのは仕方ないのだが…。
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せめて家具を配置する機能だったり、それによってイオンの行動が変化するなどがあれば違っただろう。長時間の工作作業をさせると休憩なしで黙々と作業し続け延び一つしないといったディテールの甘さも無機質感と単調さに拍車をかける。
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リアルタイム進行による制約
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イオンの工作はいずれも時間単位を要するが、仕事の動きは数十秒でループするモーションで占められている。完成所要時間はアイテムごとに決まっており、早めることはできない。途中でトントンして喋らせる以外、待つほかない。
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また上記どおりグラフィックが貧しいせいで、臨場感は皆無。リアルタイム進行は作業感を増幅するだけで終わる。
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イオンの生活サイクルはある程度プレイヤーと合わせるようにはできるものの、急な生活の変化でイオンの就寝時間がこちらの活動時間になったりその逆もあり、その場合出来ることがかなり制限されてしまう。
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イベントが原則1回きり
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デートは9つのスポットにフルボイスで分岐のあるイベントが約20種類用意されているのだがゲーム中1度しか見ることが出来ない。さらに言えば配信の遅れにより、個々は2~4分程度のデートが数か月に10回強のペースで起きる程度なので密度が薄い。
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夢セカイのイベントを最初に見た時や工作完成時の感想の初回(1度目と2度目以降で変わる)、ねりこさんとの会話でも分岐があるのだがこういう会話もやはり1度しか見ることが出来ない。
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一部の分岐ではイオンの過去に纏わる重要な設定がサラッと出てきたりするのだが分岐を間違うと当然見れなくなってしまう。OFFLINE版ではロードができるようになったのである程度改善されたものの素直にイベント回想などを用意して欲しかったところ。
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この仕様のせいでデートはイベントを全て消化してしまうとミニデートという目的地に着いた瞬間何かと理由を付けてすぐ帰ろうとするイオンを見るだけのイベントしか発生しなくなってしまい非常に味気ない。
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さらに当初はミニデートすらなく、イベントを一通り消化した後のデートの誘いは次のDLC配信までのあいだ絶対に断られるようになっていた。
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日常会話は2、3回喋らせただけで一時的に会話しなくなってしまい、以降30分経過するまでは相槌を打つだけになる。定期的なコミュニケーションによる好感度上げといった要素もなく、後述の通りシャールのシステムもシナリオが終わればほとんど用を為さない。そのため、イベントを消化してしまうと工作を頼む以外にすることがなくなってしまう。
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しかも、工作がゲーム進行に必要な要素だと判明したのは全DLCの配信完了後であった。本作が一部から「虚無ゲー」と評されるのは、このような設計に由来している。
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シナリオパートに既読スキップ機能がない
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分割されているおかげで比較的問題にならなかったとはいえ、タッチ操作オンリーなので画面をぺちぺち叩き続けねばならない。2012年の作品としては基本部分が極めて遅れている。
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詩を聞くだけなら部屋内の「詩を鑑賞」コマンドでいいが、ムービーまで見返したい場合は該当チャプターに行ってムービーが出るまで画面を叩き続けることになる。
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特に8章ではオートだとチャプター選択して詩魔法ムービーになるまで30分弱かかるといえば面倒さが伝わるだろうか。
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ソシャゲ要素の劣化でしかないシャール・クエーサー送信
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シャールはレアとされるものを除いてランダムパーツの組み合わせでしかなく、そもそもレアシャールほど所持者が多い。
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その用途はシナリオ進行ながらやることといえば配置してしばらく待つだけであり、シャールの能力は待ち時間を軽減するためのものでしかない。さらにフリーミッションといったものもなく、シナリオ消化後は次のDLC配信まで宙ぶらりんの状態が続く。
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バーコード読み取りによるシャール生成システムも一見すると面白そうに見えるが、実際は最初の1体はランダム生成で消去して同じものを読み込めば違う組み合わせが出てくるという雑さ。一応存在する育成要素もどれもアンバランスでやはり全く練られていない。
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世界設定的には重要ではあるものの、ゲームのシステムとしてはソシャゲの上辺だけを真似て育成収集という核を大きく削ったものでしかない。
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また当初HymPは新規シャール所有に要求されるポイントとして想定されていたと思われるが、レアシャール所有に必要なポイントが非現実的な数値に跳ね上がってしまったことへの対応処置で頻繁な無料引き換えの発行が為されたため、メインの使い道が事実上消滅してしまった。
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ただ、シャールの着せ替えやランダム生成シャール育成等の趣味の領域にはまだ使い道が残っている。
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クエーサー送信は個々のユーザーが皆でエネルギーを送るという体のソシャゲ風全ユーザー参加型システムだが、これも実態としては虚無であり参加するかどうかはロールプレイの問題だったと言っていい。
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シャールのシンクロ率によって効率が上がるという一応のゲーム的要素は備えているものの、やることといえば「一々個別にシャールを選択>クエーサーメニューを開く>クエーサーへエネルギーを送信させる>シャールの巣に戻る…以下ループ」するだけのソシャゲもびっくりなデイリークエストである。
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全ユーザーの送信総量によって全ユーザーに特典を提供するという触れ込みだったが規定値に達しても表示がバグったとして発布を遅らせる、または逆に規定値に及ばなくても発布する、と運営の不備(または出来レース)をひしひしと感じさせていた。
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頻発するバグ
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軽くは画像乱れ・音飛び、重くは進行不能・強制終了・データ破壊など。PSVのC2エラートリガーとして悪名高い。
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最初期バージョンはユーザーを阿鼻叫喚させていた。パッチを重ねた今でもたびたび遭遇するやっかいなバグが多い。
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2章公開後にシナリオを一定以上進めるとイオンがタッチに反応しなくなり一切喋らなくなるバグが起きたが、普通にプレイしていれば確実に発生する重篤なバグにもかかわらず修正に1か月を要した。しかもこのバグは数か月後にも再発している。
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例えば、ユーザー間のコミュニケーション機能は階層を深く潜っていくにつれて高確率でC2エラーが発生する、本作プレイ後PSVを再起動せずに別のゲームをプレイしているとそのうちにC2エラーが起こるなどあるが、これらは最後まで修正されていない。
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「既にバグは治った」という声は、この種の細かい不具合を無視したものであった点に留意する必要がある。
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DLC配信直後に重篤なバグが報告されるケースが多かったが、個人差が大きいことや再度DLすることによって直る場合が少なくなかったことから、本来あるべきDLデータの破損チェックが機能していなかった可能性が高い。
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このことから、セーブデータのバックアップを取っておくことはユーザー間で常識化していた。本作はオートセーブのみである。PSプラス(有料)のセーブデータ預かりサービスが始まるまでは外部機器が必要なうえ、何Gバイトもある本体データを含めて丸ごとコピーしなければならない状況が続き、ユーザーに強い負担がかかっていた。
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サポート自体も杜撰だった。ガストがユーザーに対してバグ報告をお願いしているにもかかわらず、報告フォームに対して返事を返すことはごく稀であった。特にゲーム内機能によるスタッフへのメッセージに至っては完全に無反応を貫き、ダミー機能と化していた。
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報告してもまともに読んでいないのではないかという疑いから、確実にバグ報告を伝えるためには電話を直接かけることが推奨されていたほどである。
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そのうえ収集されたバグ情報で公式が公表するものは一部に過ぎず、ユーザー間で自主的にバグ情報を共有し合わねばならなかった。
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ちなみに、声優の水瀬いのり氏も本作のアカウントを所持しているのだが、発売から半年後「キャス役の水瀬いのりです。データ壊れた!」という言葉を残して別アカウントを作り直している。それに他のユーザー達が群がってよくあることとして励ましている光景は、本作特有のあまりに特殊なものであった。
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コンテンツの持続更新体勢
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購入したてのゲーム本体は3~4時間ほどで読了できるボリュームの1章ストーリーとわずかな部屋内イベントしかない。そして2~3ヶ月の間隔で少しずつ追加していく。記憶修復作業でゲーム進行を遅らせてくるが、やはりユーザーのコンテンツ消費速度に耐えられない。
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本来なら1ヶ月に1章のペースで新しいエピソードが配信され1年で完結する予定だったのだが開発が遅れに遅れ、時には3ヶ月(Extraシナリオを数に入れなければ5か月)近く新規コンテンツの配信がない時期もあった。そして実際に完結したのは上述の通り2年3ヶ月後のことである。
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発売当初の日常会話のバリエーションはさらに乏しく、「生まれ変わったら何になりたい?」という同じ質問をイオンが健忘症のように毎日繰り返してきた。DLCでの追加を前提にしていたにしてもそれに甘えすぎである。
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本作にはプレイヤーの誕生日を祝ってくれるイベントがあるが、1年以上の配信は想定していなかったらしく1度きりのイベントだった。よって以降はイオンから忘れられるという悲しいことに。こういった細々とした部分での雑な造りが、本作の主張する「コミュニケーションツール」としての説得力を減少させている。アップデートによる対応可能なはずのそれらも、対処されなかったものが目に付く。
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前半部のイオンは良く言えば守ってあげたくなるタイプ、悪く言えば頭が弱くて流されやすいという性格が強調されているが、これは人によって大きく好みの分かれるものである。
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シナリオにはその成長物語という側面があるのだが、成長するまでリアル時間で膨大な待ち時間がある性質上、最初からヒロインを好きになれなければそのままリタイアを招きやすい。
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追加コンテンツの大半は有料で、最終的にはゲームソフト2本相当の価格。時間的にも金銭的にもユーザーにかける負担は並のゲームを突き放している。
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DLC必須なことに対する説明不足
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パッケージ版とDL版の本体どちらにも追加DLCについての記述はない。ネット記事や雑誌などでは確かにシナリオが追加DLC形式であることに触れていたが、最も基本的な部分においてはおざなりであった。ファンは周知させていたとするが、何となくで手に取ったような一般層の視点とはかけ離れたものである。
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発売前のアナウンスの嘘
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当初は「1ヶ月に一度DLCを配信する」以外にも「DLCを入れなくても単体で十分なボリュームがある」「無料でモーションやミニゲームが追加される」などと喧伝していたのだが、実際は本体だけでは体験版レベルの内容しかなく、モーション追加やミニゲームに関しても有料のシナリオDLCが前提で本体のみでは反映されないものだった。
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DLCが一か月毎に配信されないことに関しては当初はバグを言い訳にしていたものの、1年経つ頃にはいつのまにか言い訳すらなくなり常態化した。
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ミニゲームに関して付け加えると、これは一応じゃんけんの形を取ってはいるが勝率が5割から全く変動しない出来レースでゲーム性皆無な代物だった。
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つまり、じゃんけんのふりをする会話が追加されただけであり、ミニゲームと呼べるようなものではない。
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本編で語られない設定の多さ
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本作というよりサージュコンチェルトシリーズ全体の問題ではあるが良くも悪くもゲーム外のコンテンツで明かされた要素に重要な物が多い。
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前日談や後日談、脇役達のサイドストーリー、裏設定等本編で語られない重要なエピソードが限定版の特典CD、当時のWebで配信されていたコンテンツ、絵本、漫画版、小説版、その小説版のおまけで期間限定配布されていたPDFとかなりの数がゲーム外のコンテンツで展開された。グッズ類は当然有料であり、設定に大きく関わるものだけに絞って揃えるとしても軽く一万円を超える。
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大筋のストーリー自体は本作と続編のアルノサージュできちんと完結しているのだが、一部この前日談を知っている事前提で進む箇所があり、エンディングも後日談を知らないとやや消化不良感が残る。
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ゲーム自体のバグやクオリティのチープさ、配信の遅延等の諸問題が重なっていたにもかかわらず、各メディアでしたり顔で設定を語るディレクターの姿勢に違和感や不信感を覚えて離れていった者は数多い。
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今でこそ外部展開が主なことは認識されつつあるが、その展開手法はコア層向けの内輪臭が強いものだったことや、当時の宣伝がゲームだけで充分な内容を含むかのようなものであったことが、開発と一般層ユーザーとの間に認識の齟齬を招いた。
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以前から土屋氏は公式交流サイト「トウコウスフィア」でコアなファン達と一緒に盛り上がっていた経緯がある。いわば本作はその延長線上の、その内輪ノリの楽しさを同人ではなく(外野の一般ユーザーも巻き込んでしまう)商業作品で展開しようとした実験的かつ無謀な試みであった。
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現在ではそのほとんどが配信終了や絶版と化していて、作品自体がマイナー寄りな為流通数も少なく、これら全ての内容を把握してストーリーを完全に理解するのは非常にハードルが高い。
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ストーリー細部の演出
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上記の外部展開に触れずにゲームのシナリオのみを追った場合、キャラの感情変化の過程が説明不足で唐突に映る場面が多いうえに演出もチープで出来が良いとは感じにくいだろう。特に序盤は「無垢なイオンが考えなしに行動した結果問題発生 → 謳って解決(したことにして皆が反省したり感動したりする)」という一見しただけでは雑な展開が続く。しかもこれが最初の一年続いたため、プレイヤーは相当篩に掛けられたと思われる。
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一方、各人の背景が掘り下げられるにつれ、序盤の疑問を生む展開は多くが納得できるようになるが、それまでは混乱必至。
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テキストがキャラのセリフだけで進行するのはアルトネリコシリーズのコスモスフィアと同じだが、あちらと違って主人公のイオンは状況に逐一突っ込みをするようなキャラではなく、状況説明や進行役を兼ねた俯瞰視点持ちのマスコットキャラも存在しない。ビジュアル面で見せるという点でも不足していたため、外部展開やExtraシナリオに補足を頼るのが避けられない構造になってしまったきらいがある。
総評
少女とのリアルライフを謳っていたものの技術力と開発費が全く追いついておらず、単純に手抜きと感じられる造りが随所に見受けられ、さらにリアルタイム進行による待ちが必要となる場面が多くストレスフル、バグの嵐も追い打ちをかける。
シナリオも、序盤の演出のショボさと商品のアーリーアクセスに近い販売手法のせいで発売当時は手放しで褒められない。そもそもが「生活感をだせない空間設定」「1分操作しないだけで音も画面も暗転停止する当時のPSV」という条件と生活観察ゲーという形態は相性が最悪であり、それを無視して事を進めていた開発にまともに「ゲーム」を作る気があったかについては大いに疑問が残ると言わざるを得ない。
一方でよく作りこまれた世界観はニコニコ生放送や公式特設サイト、設定資料集の販売などで幅広く外部展開され、ゲーム本体よりもむしろ力が入ってすらいる。
これは普通の感覚からすると優先順位を取り違えているように見えるものの、『アルトネリコ』の時代から設定にのめりこんで公式に入り浸っていたようなコア層にとっては馴染みやすく刺さる手法であった。
つまるところ完全に世界観ありきの造りで特定層だけを狙い撃ちにしたニッチな作品であり、誤解を恐れずに言えばクリエイター土屋暁が商業ゲーム作品のディレクターとしてやるべき仕事もリソースも全て無視して「やりたいことだけを一切の躊躇なくやってしまった」作品である。
よって彼のファンにとっては垂涎の一品、そうでない人にとってはゲームですらない何かとなった。そして実態と乖離した宣伝内容に釣られて(まともなゲームを期待して)購入してしまった一般層と旧来のコア層との間で当然ながら評価が割れてしまい、安くない本体価格にもかかわらずシナリオが半分も進んでいない一年経過時点で既に9割の脱落を招くことになった。
乏しい本体ボリューム的にも、基本無料の代わりにDLCで稼ぐ形式にしておけば不幸は生まれなかっただろう。
しかし本作と向き合った時間が長ければ長いほど、イオンという存在に対して単なる二次元のキャラクター以上の愛着を抱けるようになるのは確かであり、OFFLINE版が発売され9年経った現在でも本作をプレイし続けてるという熱心なファンも多い。
万人にとってのナンバーワンにはなり得ないが、この作品の持つ世界観にどっぷり浸かることができれば、イオンと過ごした日々はその人にとって一生ものの忘れられない体験になり得る。
また、一方でできない約束を乱発した開発運営の結果「ガスト(土屋 暁)の作品は二度と買わない」というユーザーも少なからず生み出した。そんな両極端な作品であった。
余談
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『RE:Incarnation』は発売日までにリリースしたDLCを収録したバージョン。その後のコンテンツはやはり別途で購入・ダウンロードする必要がある。
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本来通りのスケジュールであればDLCが完結間近であったはずが、不備に不備を重ねて半分も進行できていなかった状況でこんなものを出したら普通は大炎上ものだろう。
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だが、幸か不幸か既にユーザーが徹底的に篩にかけられた後だったために外野が騒ぐ程度で終わった。
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今でこそ当たり前の動画サイトの生放送を通じて作品のアップデートの最新情報や物語の解説を行う単独のゲーム作品の広報番組だがそれを最初期に行ったのが実は本作である。
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一部は現在でも動画サイトで見ることができるので、当時の空気感に触れてみるのも一興かもしれない。
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ネタバレの塊なので本作と『アルノサージュ』を一通りクリア後に見ることを勧めるが「SurgeConcerto WorldSettingDocuments」というサージュコンチェルトシリーズの世界観共有の為に開発者向けに用意され後に一般公開された公式の設定資料Wikiが存在する。
これを読めばこの作品が単なるギャルゲーではないことが未プレイ者でも理解出来る筈。
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架空言語「契絆想界詩」と「REON-4213」の解説もある。一部の記述は本編との違いがあるので注意。
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設定資料Wikiとシェルノ・アルノ本編の違いについて
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「zu-fao jen-din;」で世界が巻き戻されたとき、設定資料Wikiによればネロが7章におけるシェルノトロンサーバーからの解放すら無かったことにされるが、本編ではレッドスクリーンの原因となる詩が謳われる直前までにとどまり、ネロがぱれす・にゅろきーるに訪れてキャスと打ち明けることに繋がる。
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『アルノサージュ』の舞台となる第七紀において、コーザルはいろんな計画を進んでおり、イオンを星詠台に閉じ込めることや、あの「人間を養分にして星を育てる」計画も彼が画策したとWikiにあったが、さすがにこれでは彼が許されない悪役になってしまい大地の心臓に至る資格もなくなるのか、本編では上述の行為が他の者の画策とし、彼が11章で力場に吸い込まれた苦しみゆえにそれらの計画を最初的には同調しただけにとどまった。
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本作の発売に先駆けて2012年1月26日にラシェーラの都市、万寿沙羅を定点ライブカメラで観測し市民の会話を聞くことのできるアプリ「genomirai7」がIOSで配信された。
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このアプリをプレイしてからシェルノサージュ本編を始めると、世界観によりすんなり入っていけたのだが、残念ながら現在は配信終了している。
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7次元先の世界と現実世界の繋がりを表現する一環としてゲームのイベントと連動する2つのイベントが行われた。
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1度目が2012年12月6日~31日限定で発生したイオンが絵本を描く「7つのソラを越えた想い」イベント。描かれた絵本は「フィラメントスター」というタイトルで実際に星海社より出版され、コミックマーケット83のガストブースにてイオンの世界から送られてきた本という体で先行販売された。
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この絵本は続編のとあるイベントにてイオンとプレイヤーの関係性を表すアイテムとして密接に関わってくる。
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2度目が2013年9月から無料DLCとして配信された「7つのソラを越えたレシピ」イベント。イオンがこれまで作ってきた料理をレシピブックにまとめるというイベントなのだが、そのレシピ本がこれまた星海社より「イオンのあなたと作りたい♪レシピブック」というタイトルで出版された。
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このレシピを元にゲーム中でイオンが作った料理を実際に再現したメニューが当時秋葉原に存在したメイドカフェ「シャッツキステ」(2020年閉店)にて期間限定で提供された。
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本作の特異性を象徴するものとして今でも語り草となっているのが「ラストメッセージCD」の存在だろう。
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2014年3月6日に発売された『アルノサージュ』と、2014年7月31日に配信された最後のセカイパックをもってサージュ・コンチェルトの物語は完結したのだが、その後12月28日より本作の真のエンディングを迎えることのできたプレイヤーを対象に、『シェルノサージュ』のクリア認定証とイオンからプレイヤーに向けた感謝のメッセージが収録されたCDが販売された。
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このCDであるがなんとプレイヤーの名前がイオン(CV:加隈亜衣)により1枚1枚収録され、さらにシェルノサージュのサーバーに保存された個々のプレイヤーが選んだ選択肢に合わせて内容が変化するという正に世界に1枚しか存在しないものになっていると当時のインタビューで語られている。
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なお、下記のOFFLINE版はこのキャンペーンの対象外。
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「リアルタイム」「少女との付き合い」という触れ込み、そしてバグの多さは同年に発売された『NEWラブプラス』と結び付けられた。
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実のところ、世界設定ありきでゲームを志向していない本作と、あくまでゲームであることを基本に置く『ラブプラス』とでは目指すものが根本から異なっており、比較自体がナンセンスである。
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これらはゲハ論争に発展しKOTYに選評が届く事態にまでなったものの、バグばかりが問題にされ作品の本質については正しく語られたとは言い難い。そして本作について出された結論は「ゲーム性自体は十分にあり、バグが直ったから選外」という投げやりなものであった。
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当時の選評は「本作を1つのゲームとして評価するなら」決して間違ってはいないものだったが、ファン層はそもそもゲームを求めておらず、その意味では的外れと言えた。
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一方で擁護意見も「バグは多いがシナリオはいい」といった、当時のシナリオの範囲の出来と合致しないうえに肝心の外部展開にも触れない不自然な内容が多かった。
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ゲームのみを重点に取り扱うKOTYにマルチメディア展開に詳尽な評価を下せというのは些か無理であったとはいえ、ゲームのみの評価である選評を嘘扱いしたあげくにシャールにさえゲーム性があることにしてしまった当時の議論は異常なものだった。この一件は、匿名掲示板の議論に大量の無関係の人間が流入すればまともに成立しなくなることを物語っている。
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シェルノサージュは発売前の3か月だけでも2大ゲハブログで50以上も記事が作られるなど規模に見合わない不自然な取り上げ方をされており、実際に作品に触れていない怪しげな連中が擁護と批判双方に多く混じっていた可能性が高い。
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作品を無謬として問題をバグだけに押し付けようとした一部の先鋭的なファンと、バグをネタに嘲笑したいだけのアンチの利害が奇しくも一致した結果ともいえる。本作に対する冷静な意見が見られるようになったのはごく最近の話であり、今なお過去の爪痕は深い。
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2017年4月12日より本作と設定や世界観を共有するスマートフォン向けソーシャルゲーム『拡張少女系トライナリー』が配信された。
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並行世界の本作のとある人物が物語の鍵を握るキャラとして登場する他、コラボイベントも行われた。ゲームコンセプト的にも共通点が多い。
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僅か1年半でサービス終了となったが、世界観偏重の内輪向け作品という傾向は本作と共通しており、サービス終了したあともメディア展開は継続した。
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2019年の7周年の際にサントラ・ボーカル曲セット『ETHESTRON ~Surge Concerto sonic-spheres complete BOX』が発売された。付属する7インチレコードのレコード音源(ダウンロードサイトも付記)で本シリーズ完結の後のイオンの動向が語られる。
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同時に本作仕様のニキシー管時計(107,307円)が受注生産されたのだが、こちらも4期まで受注を採れるほど応募者がいた。
シェルノサージュ OFFLINE ~失われた星へ捧ぐ詩~
【しぇるのさーじゅ おふらいん うしなわれたほしへささぐうた】
ジャンル
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7次元コミュニケーションゲーム
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対応機種
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プレイステーション・ヴィータ
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発売元
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コーエーテクモゲームス
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開発元
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ガスト
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発売日
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2014年10月2日
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定価(税抜)
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通常版: 5,800円 ダウンロード版: 5,143円 AGENT PACK: 8,800円
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判定
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賛否両論
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ポイント
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オンライン版の有料DLCをほぼ内包 時間操作で幾分は楽に 相変わらずの高いプレイハードル
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概要(OFFLINE)
ゲーム起動にガストのサーバーへの接続が必要なくなったOFFLINE版。『シェルノサージュ』の完全版ともいえるバージョン。
続編『アルノサージュ』のPSV移植版である『アルノサージュPlus』との同時発売である。
変更点(OFFLINE)
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時間操作機能の追加。未来へスキップできるように。過去へも一般のゲームらしくセーブデータをロードすることでいける。
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季節限定の追加イベント、時間を教えてくれるコマンド、プレイヤー自身のことを話す(そしてイオンの反応を聞く)コマンドなどが実装される。
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無印では食事、デート、睡眠の時間を任意の曜日、時間に決めて実際にその時間まで待つ必要があったが提案したらその場で行えるようになった。また約束デートは別なスポットなら1日複数行ける。
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一定の条件を満たすとイオンの容姿をシェルノサージュとアルノサージュを両方プレイしたユーザーには感慨深い「ある人物」の姿にすることが出来る。
評価点(OFFLINE)
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無印版の有料DLCをほとんど内包
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オンライン版であればゲーム2~3本相当の金額を要求されていた内容を通常の価格で楽しめる。
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数か月毎のDLC配信形式から解放されたことによりゲーム上およびシナリオの構成上の問題が軽減された
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無印版は配信の遅れもあり「ゲーム単体の描写では疑問符が付くキャラクターの行動や感情描写の不足が数か月先のDLCまでフォローされない」「購入が必須ではないはずのEXシナリオでそのフォローを行っている」といった構成上の問題を抱えていた。OFFLINE版も外部展開に大きく依存しているのは変わらないものの、その点ではまともになったと言える。
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無印の人を選ぶ最大の要因であった「次のDLCが配信されるまではシナリオと生活パートの双方で何も起きなくなってしまい、机とベッドとバスルームを往復するだけのイオンを眺めるだけになってしまう」虚無期間に付き合う必要がなくなった。
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すでに工作がゲーム進行上必要な行為と判明している点からも、何の意味があるのかわからないという不安を抱えたまま工作作業を頼み続けるという虚無感から解放されている。
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ネット接続無しでプレイ可能に
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無印版はプレイするのにネット接続が必須だったので、携帯機のゲームにもかかわらずPSVを3G回線に契約するかフリーWi-Fiスポットのある場所でないと限定的な要素しか外出先でプレイすることができなかったが、これで何時でもどこでもイオンの生活を覗くことが出来るようになった。
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また無印版はオンライン専用であるが故に、サーバー側の都合で事実上プレイ不可能になる日が来ることが予想されるが、オフラインならこの問題とも無縁である。
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無印版のデータを引き継げる
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無印版を発売日からプレイしていたユーザーは、2年以上の月日を"無印版の"イオンと共に過ごしてきたのだが、そのイオンとのデータをOFFLINEに引き継ぐことができる。これで上述のいずれ訪れるであろうサーバー終了の日を迎えても安心。
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3G契約のキャンペーンや雑誌の特典で付いてきた限定のデートスポット「プラネタリウム」や一部衣装は、この方法で無印版から引き継がないと入手出来ない。
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時間操作で快適に
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無印版にもあったリソースのHymPを支払う必要があるが、所要量はごくわずか。
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イオンが就寝したら朝までスキップ、工作を開始させたら終わった後まで飛ぶ、などの目的なら余裕。よほど無駄な飛ばし方でもしない限り自由に飛ばせられる。
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無印と比べて圧縮したプレイ過程にできるが、無印版の更新速度が遅すぎるだけで、ようやく普通のゲームと同じペースで遊べると言えよう。
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重要であろう工作完成感想も、完成の瞬間から離れていてもしっかりしてくれるので聞き逃れの心配もない。
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リアルタイム進行のらしさを残しながら不便さを一気に解決したのである。
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複数セーブ、ロードも可能に
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無印版ではPSVのバックアップ以外で原則ロードをすることが出来ずセーブもオートセーブで分けることはできなかったので同じ場面をやり直す事は不可能だったがOFFLINE版では可能に。
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これにより一度しか見ることのできなかったイベントを何度も見返せるようになった。
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しかし、『アルノサージュ』でイオンから提示されたこのゲームならではの"ある設定"を知ってしまうとやり直すのが少し躊躇われるかもしれない。
賛否両論点(OFFLINE)
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楽にはなったが、相変わらず時間はかかる
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時間操作はあくまで待機時間等を飛ばせるだけであり、記憶修復・採取・調合といった作業をチマチマとこなすゲーム性は変わっていない。
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一般的なソーシャルゲームのスタミナをほぼ無尽蔵に回復できるといえば近いか。ノベルパートだけを楽しむようなプレイは不可能である。
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それでも無印よりは早くクリアまで辿り付けるため、当シリーズに興味はあるが膨大な有料DLCの前に二の足を踏んでいる層にとっては救いとなった。
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ストーリーの複雑さは変わっていない
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外部情報を取り入れないと分からない情報や独自の概念は依然として多い。
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コンセプトの否定
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時間操作の実装で確かに遊びやすくはなったのだが、その分7次元先の世界に住む少女と共にリアルタイムで生活を送る、というコンセプトは薄くなってしまっている。
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本作のエンディングや続編の『アルノサージュ』は、イオンとリアルタイムで過ごした時間の深さがプレイヤーの感情移入に直結すると言っても過言ではないため、無印版本来のコンセプトを理解してプレイしていたプレイヤーからは、このシステムを否定的に捉える者も多い。
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『アルノサージュ』から知った層や新規にとっては短期間で一気に読み進められるOFFLINE版はありがたい存在であり、一概に改悪とは言い切れないので賛否が分かれるところ。
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時間操作機能を使わなければDLCが全て実装されたあとの無印版に近い感覚で遊ぶことはできる。
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無印版はオートセーブでやり直しが利かないからこそ、イオンに対してプレイヤーが取った個々の行動に意味があったのだが手動セーブ、ロードの実装でこれも意味が薄れてしまった。
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一般的なゲームなら便利になることは歓迎されるべきことなのだが、こうした賛否が出てしまうほどにこの作品の世界観に入り込んでいたプレイヤーにとっては、不便さすらも7次元先の世界の実在性を演出する魅力となっていたのだ。
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起こったことを話すコマンド
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プレイヤー自身に対応できるネタに限りがある。そしてコマンドを選択したらキャンセルできず、自身が思い浮かべたことがうやむやのまま発せねばならない癖の強いコマンドである。
問題点(OFFLINE)
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オンライン要素
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本作は完全なオフライン専用タイトルではなく、「OFFLINE」の題目と矛盾が生じている。
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季節限定イベント
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OFFLINE版でも唯一時間判定がガストのサーバーに依存する要素、つまり本体時間をいじって目当ての…という手段は通じない。OFFLINE版の名前負け。
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もっとも、本作の開発コンセプトを考えれば時間を飛ばすのは本来言語道断である。季節限定イベントのリアルタイム連動はOFFLINE版でユーザーに最大限譲歩した開発者の最後の抵抗と言えなくもない。
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ちなみに季節限定イベントは2年目以降、1年目とは別なパターンのイベントが用意されており全てのイベントを見ようと思ったら無印版の完結に要した時間と同じく2年プレイし続ける必要がある。
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ボイスデータは別途PSストアから無料ダウンロードする形を取っている。DLせずともゲームクリアに支障は無いが、一部台詞がボイス無しになる。
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イオンが異常に疲れやすい
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不具合なのか時間操作や複数作成を踏まえてのバランス調整なのか不明だが、無印に比べてイオンがすぐに疲れてしまう。
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現実時間に合わせてプレイしていた場合、採取と工作をそれぞれ3回行うとほぼ確実に「とても疲れています」状態になり、18時には風呂に入って眠ってしまう。
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無印版は採取に3回出かけたあとさらに工作を6回程度はこなせる体力があり、普通にプレイする分には疲労を気にする事はほとんどなかったのだが…。
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この問題とは別に採取時にソフトを起動したままにしていると、疲労度が異常に早く蓄積するという不具合(未修正)もあり、時間操作を活用するとさほど邪魔にならないが、とにかく無印版のコンセプトを大事にしたい層に優しくない。
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食事
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寝起き、昼12時、午後6時で固定した平常の食事準備だが、作り置きした料理を食べくれない。バグなのか仕様なのか不明だが、プレイヤーが料理を頼んで作り置きしてもらっても平常食事時に選ぼうとせず、毎回新しい料理を作るか果物を食べだしてしまう。
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この仕様のせいでイオンが無駄に採取に出掛けて料理を作ってしまうため、上述の疲労度の問題に引っかかりやすくなっている。しかも料理に時間を消費してしまうので、1日辺りに使える工作の時間も減る。
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また無印では献立思考中に料理を頼むと、その料理を作って食べてくれたのだがこれも廃止されてしまっている。
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時間を飛ばさずに食事を始めるまでに待つと進食前感想がスキップされてしまう。食事中まで時間を飛ばしても進食中感想 → 進食前感想の順に発表される、といった具合に怪しい処理が多い。
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プレイヤーが頼んだ料理の感想を聞きたかったらその場で冷蔵庫にある料理を食べてくれるコマンド「一緒にご飯を食べよう」で食べてもらうしかないのだが、優先度の設定に問題があるのか空腹状態でも作り置きした料理を無視して果物を食べてしまうことが多い。
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確実に目当ての料理の感想を聞くにはセーブして食べる料理をリセマラしなければならないという不自然な仕様になっている。
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イオンが独り言を言わなくなった。
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無印では放置しているとイオンが様々な独り言を喋っていたのだが、何故か削除されてしまった。環境ゲーム的な側面が強い本作では、重要な要素だと思うのだが…。
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有機ELを採用していた当時のPSVでは一分間の放置で画面が暗転し音声も停止したため、実際には本作を環境ゲームとしてプレイするのは無理があった。それを明確化させたかったのかもしれない。
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削除された要素
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イオンのタスク移行時のモーションがアイキャッチに取り替われる形で消失。中には専用モーションが。ただ代わりに挿入されるイオンのイラストは非常に可愛らしい。
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特にバスルーム内タスクの多くは覗けなくなってしまった。
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一時期経った後のONLINE版では行動変更時に一瞬ながら高速ワープしたり体がねじ曲がったり座標がおかしくなったりする表示バグが発生していたため、それを潰すための処置だと思われる。座標を変更する際に座標が違ったまま強引にモーションを繋げていた結果の産物だろう。
+
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ネタバレ
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記憶修復具合に応じて部屋がひび割れしなくなり、ターミネイト突入時に一気に崩壊する。
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無印ならターミネイトでようやく覗けた風呂は、終始カーテンがかかったまま。
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相変わらずのバグの多さ
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上述のバグか仕様か怪しい現象の他にもゲームがクラッシュするような致命的な物は存在しないがやはりバグが大量に存在する。
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大半はパッチで修正されたものの一部深刻な物が未修正になっており本作をベースとしたリマスター版のDXでもそのままになっている。
総評(OFFLINE)
オリジナルは「通常のテキストアドベンチャーにして分割商法などしなければ誰も不幸にならずに済んだ」とも言われていたが、その膨大な負荷とコンテンツ・技術不足をものともせず生き残ったファンの一部はOFFLINE版をして「7次元先の世界とコミュニケーションを取る"ツール"から普通の"ゲーム"になってしまった」とも評する。
いずれにせよ本作は超スローライフしか歩めなかった無印版からかなりの時短が可能になり、プレイ負荷は良くも悪くも常識的な範囲に収まることになった。
ただし、なおも作業ゲーである点や世界設定を外部に依存する点は変わらず。
余談(OFFLINE)
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ガストショップ限定ではあるが、無印購入者を対象に本作が値引きされるディスカウントキャンペーンが行われた。最大まで値引きされると1500円で購入できてしまう。
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その値引き方法であるが無印のサーバーにあるデータと照合してクリアしていると-500円、夫婦になっていると-1000円といったように無印の進行状況で判定されるという一風変わったユニークなものになっている。
シェルノサージュ ~失われた星へ捧ぐ詩~ DX
【しぇるのさーじゅ うしなわれたほしへささぐうた でらっくす】
ジャンル
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7次元コミュニケーションゲーム
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対応機種
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Nintendo Switch プレイステーション4 Windows(Steam)
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発売元
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コーエーテクモゲームス
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開発元
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コーエーテクモゲームス(ガスト)
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発売日
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2021年3月4日
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定価(税抜)
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5,800円
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判定
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劣化ゲー
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概要(DX)
『OFFLINE』のリマスター版。『アルノサージュDX』と同時発売。
評価点(DX)
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オンライン要素が完全に取り払われている
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OFFLINEの名を取り上げられてから、というツッコミどころだが、これでネットにつながらずとも季節イベントを見られるように。
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ハード本体時間変更で目当てのイベントを狙えるようになった。
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しかし本体時間を前後させたら、プレイヤー側時間が関わるシャールウィッシュが更新されなくなり、HymP収集に支障をきたすことがある。
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なお同じくプレイヤー側の1日1回できるクエーサー送信は問題なく継続できる。
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据置機でプレイ出来るようになったことによる恩恵
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元はPSV専用ソフトだったのでどうしても映像面や音響面で限界があったが、モニターに出力できるようになったことでよりクリアな環境で楽しめる。
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7次元先の世界を端末を通して覗き見る感は薄れてしまうが、モニターで等身大サイズのイオンと生活できるのは、オリジナルとはまた違った魅力があると言えるだろう。
賛否両論点(DX)
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ボイスメール
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ゲーム内での進行状況によってゲーム外で届く仕組みであったボイスメールは、ゲーム内で受信・閲覧できるように。
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ただ編集に問題があってか変なところで再生終了になったものもある。
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シャール雇用の謎の仕様変更
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新しいシャールを勧誘する為のコードを読み込むと、次の勧誘までに1時間待たなければならないようになった。無印及びOFFLINE版共にこんな制限は存在せず何故変更したのか謎である。
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時間を操作すればこの1時間も飛ばせるが、交流の為に必要だった無印と異なりOFFLINE版は各属性のシャールを揃えれば新たなシャールを雇用する必要性は薄いため、この制限は使えるHympが少ない最序盤のプレイの嫌がらせにしかなっていない。
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オリジナルの方がよほど実際の待ち時間は長くHymPの形骸化も強い…というかシャールは世界設定の構成要素としてはともかくゲームシステムとしては最初から破綻しているものであり、前の方が良かったとは単純には言いがたいところがある。
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こういったオリジナル至上主義的な批判は、バグ以外の面でもけっして無謬ではなかったそれを神格化する一部の過激なファンの主観によるものが大きいだろう。まあDXはそういった人達こそが購入層ではあるのだが…
問題点(DX)
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触りモードの劣化
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PCに合わせてかカーソルエイム式になったが、タッチパネルを持つPS4(DUALSHOCK4)とSwitch版でもそれに準じてタッチ操作はなくなってしまった。
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それだけでなく、ゲーム内ではPS4のDUALSHOCK4もSwitchのゲームパッドも左スティック押下+移動という癖の強い操作方法で固定されていて、目当ての箇所を触り難く、スティックに非常に負荷が掛かる。
アーシェスにレーザービーム当てるよりダイレクトに端末の干渉を妨害出来るのでは…。
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コントローラー側でコンフィグすればいくらか操作感は改善されるものの、ほかのゲームとの兼ね合いの問題は言うまでもない。もっとも、元のオンライン版自体が他のゲームとの兼ね合いなど一切考慮していないのだが。
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こういう操作方法は『聖剣伝説3 TRIALS of MANA』の初期バージョンなどでよく批評されたが、あちらのようにアップデートで別の操作方法をゲーム内で提供することはなかった。
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アルノのおまけ要素としてのタッチとは違い、シェルノの場合はメインとなっているので、ゲーム体験に深刻な影響を与えてしまった。画面をタッチする操作「トントン」は本作の代名詞とも言える要素だったのでこれでは台無しである。
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スリープ時に時間の進行が止まる
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お触りと並んで重要な要素だった時間の連動も廃止。ハードをスリープするとその間の時間の経過が止まり、時間操作で合わせないとどんどん現実時間と時間がズレていってしまう。
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これを回避するにはスリープで中断する度に毎回セーブして再開時にロードして経過時間を進めるしかない。
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OFFLINE版で時間操作が実装された時点でリアルタイム制は形骸化していたが、あくまで時間を操作するというプレイの選択肢も用意されているだけで無印と同じくリアルタイムでプレイすることもできていた。
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触りモードと時間連動の仕様変更はゲームの根幹を揺るがす重大な変更にもかかわらず発売まで伏せられておりWin版アルノサージュの一部表現の変更と併せて物議を醸した。
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もっとも、無印の記述にもある通りオリジナルも工作依頼などで簡単に現実時間とずれてしまう。オリジナルからして現実時間と合わせる気はない作りであり、プレイヤー側が頑張ってコントロールすれば合わせることもできるという程度のものだった。その設計思想を継承しているだけともいえる。
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なんちゃって高画質化
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平時では光影表現が薄くなっていて、fpsも低い。
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ムービーにだけ光影表現が復活するが、今度は解像度が落ちる。
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DX版を含んだジェノミリンクは同ハード内でしかできない
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メーカーの違うNSのシェルノとPS4のアルノとの連動ができないのはまだしも、旧PSV版・PS3版のソフトとDX版のも連動できない。PSV版『シェルノサージュ』とPS3版『アルノサージュ』ができたと考えるとまた劣化。
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また、無印版 → OFFLINE版シェルノへの引継ぎのようにPSV → DXへの引継ぎはできない。つまり、旧ハードでのイオンとの積み重ねをDX版に移すことはできない。DXのキャッチコピー「ーあなたに出逢えた、あの奇跡の瞬間を、もう一度ー」とは、一からのやり直しを意味する。
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もっともマルチの都合を考えると引き継ぎの実装は難しく、それでなくともOFFLINE版ですら既に7年前の作品なので仕方の無い面はある。
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しかし、この影響で無印版の引き継ぎのみで使用出来た限定のデートスポットや衣装が失われてしまった。OFFLINE版のベタ移植な以上データは残っている筈なので、引き継げないにしても別な形で実装はできたと思うのだが…。
総評(DX)
7年越しのリマスター版だが、PSVのOFFLINE版と比較して、特にコミュニケーションパートにおいてコンセプト崩壊レベルの劣化点が目立つ。
PSV版をプレイしていたユーザーからの批判が相次いだタッチ操作と時間連動の仕様変更はマルチ化した際、各ハードに合わせる手間を省いた結果と言わざるを得ず、どれか1つの機種に絞って開発していればと思わずにはいられない。
とはいえ旧バージョンのPSVに付きまとっていた「環境ソフトめいた作風にもかかわらず放置していると暗転し音が止まる」という致命的な問題は完全になくなってもいる。
そもそもオリジナルの"コンセプト"はユーザーに強い負荷を敷き大量の脱落者を招いた負の側面を抱えており、けっして手放しで賛辞出来るものではない。それでありながらもその点にこだわった不評の多さは、本作購入者のほとんどが熱烈な既存ユーザーであったことを窺わせている。
余談(DX)
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通常版の他に『アルノサージュDX』とセットになった限定版が3種類発売されたのだが「AGENT PACK CODE:SILVER/.」(税込19,250円)、「CODE:GOLD/.」(税込27,280円)はこの手のゲームの限定版の価格としては分かるとして最上位セットの「CODE:GOLD/. with 7DGATE CONNECTION Bundle.」はなんと108,790円である。
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これでも即時完売してしまうのだからこの作品に魅せられたユーザーの熱量は凄まじい。
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内訳の4万近くを占めるフィギュアの出来に憤慨するユーザーも多かったが…。
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「CODE:GOLD/.」に付属しているインタラクティブドラマCD「私の想い、あなたに届け――」には描き下ろし曲「ih=fao-i iyon-du;」が収録されるほか、上記の7インチレコードの音源のさらに後のイオンの動向が語られ、当時サービス終了してすでに2年も経過した『拡張少女系トライナリー』とのつながりを意識した内容がある。
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『拡張少女系トライナリー』をプレイできるはずのないサージュ新規プレイヤーなどの層に、プレイ動画を通しての履修をファンがすすめた結果、「トライナリー令和世代」が生まれたとか。
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『トライナリー』の方は2021年12月10日から特注グッズと一緒に「ラストメッセージ」に似た個々のヒロインとの交信サービスが始まったが、1人に付き197,001円の出費がかかる。
最終更新:2024年04月13日 08:33