Big Rigs: Over the Road Racing
【びっぐりぐす おーばーざろーどれーしんぐ】
ジャンル
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レース
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対応機種
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Windows
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発売元
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アクティビジョン
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開発元
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Stellar Stone
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発売日
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2003年11月20日
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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ESRB:E (対象年齢6歳以上)
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判定
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クソゲー
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ポイント
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世界最強のクソゲー 動かないCPU 走ってもいないのにコースクリア 異常過ぎるバック速度 YOU'RE WINNER!
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概要
「Rig」とは、アメリカ圏における俗語で大型のトレーラートラックのこと。
その名の通り、トラックを操作してCPUの相手トラックと競争し、パトカーからの追跡を振り切って特定の荷物を目的地に運ぶという設定の単純なレースゲーム。
だが、運搬すべき荷物もパトカーも見当たらず、相手トラックは微動だにしないという、完全にゲームとして成立していない前代未聞の出来。
本項ではこの訳の分からないゲーム(のような何か)について解説していく。
特徴及び問題点
ゲーム内容以前の不備
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外部入力機器が一切使えず、キーボードしか使えない。更に操作性が悪い上にキーの変更さえも出来ない。
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また、オプションで設定できる項目ですら一度ゲームを終了するとリセットされる。
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ハイスコアの項目があるがこちらもリセットされてしまう。このゲームにおいてスコアは全く意味がない。
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「カスタムレースモード(自由対戦モード)」でステージを選択する際、ステージの画像が表示されないことがある。
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そもそもステージの画像自体実際のステージと合っていないものが多い。
ゲームそのものもレースになっていない
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先述の通りCPUの相手トラックが動かない為競い合えず、プレイヤーがただ1人ゴールまで独走するだけ。
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一応、Tabキーを押すと敵車両の操作に切り替わるため、動かすこと自体は可能。しかし操作を戻そうと
もう一度Tabキーを押すと確定でゲームが落ちる
ため結局対戦として成立しない。
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内部データ上はトラック以外にも数台のスポーツカーが存在するのだが、パトカーは内部データにも存在しない。つまり制作自体されていない。
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操作するトラックの中には牽引車(キャブ)だけでコンテナが無いものもある。この時点で「荷物を運ぶ」という目的をかなぐり捨てている。
一応、車内に荷物を置いて運んでいる、という(無理矢理な)解釈も出来なくはない。しかし、それなら普通の車を使えば良い話である。
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フラグの管理がまともにできていないのか、2回目以降のレースではスタートと同時にゴール判定が発生してしまう。
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「全てのチェックポイントを通過した」という判定がリセットされていないのが原因。そして全てのステージが周回方式であるためゴールの条件を満たしてしまうという理由。
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そもそも、スタートとゴールの地点が同じという時点で「荷物を目的地に運ぶ」という設定が崩壊しているのだが、他の常識を逸した問題点を鑑みればそんな事はもはや些細な問題にすぎない。
物理法則を完全に逸した挙動・仕様の数々
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垂直に近い斜面やマップ外の空間でも普通に走れたり、障害物及びトラック同士に当たり判定が無く通り抜けてしまったりと物理法則も完全無視。つまり障害物は実質背景扱いである。
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高さの計算が狂っているらしくほぼ垂直の地面を走ると逆に加速する。
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橋に当たり判定が無いため、橋を渡ろうとすると橋の下に潜り込む。
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レースの限界範囲というものが設定されていない為、進み続けると前述のようにレース場を突き抜けてマップ外の何もない空間に出る。
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ブレーキを長押しすると急にバックする。しかも普通に進むよりもバックした方が遥かに速いスピードで進める。
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これについてはどうやら「後退速度に上限が無い」らしく、バックし続けるとスピードメーターがあっという間に何周もして光の速度(約30万km/s=10億8000万km/h)すらも超えてしまう。『F-ZERO』も真っ青である。
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実際には、約1.23×10の37乗mph(約1.97×10の37乗km/h)に達すると、全てのチェックポイントを同時に通過したと処理され「YOU'RE WINNER!」と表示されるため、これが後退速度の上限であるということが検証で判明している。
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他のゲーム、例えばかの名作『グランツーリスモ3 A-spec』でも特殊なセッティングさえすれば簡単に2147483647km/hを出せるのだが、このゲームに関してはセッティングなどの面倒な手順を一切踏んでいない、デフォルトの状態でもバック操作だけで恐るべき速度を出せてしまうのである。
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そしてどれだけスピードがあってもブレーキ1つで瞬時で0km/hになり停止する。
明らかにおかしいグラフィック
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ポリゴンが欠けているのか、時々地面が透けている事があったりする。
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物の縮尺がおかしく、トラックと民家のドアの大きさが同じだったりする。
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橋の支柱は地面にくっ付いておらず、空中に浮いている。恐らく「川の水」を描写し、見えなくする予定だったと考えられるが、造りかけのままになっていることは言うまでもない。
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夜間ステージでは何故かボロボロになった小さな戦闘ヘリがある。
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家ですら貫通するこのゲームだが何故かこれに近づくとちょっと引っ掛かる。
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ステージ中には監視塔のようなものがあったりするので、戦場であるという解釈も出来なくはない。
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道路の傍にある街灯の向きがおかしく、道路を照らしていない物がある。
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昼のステージに夜間ステージでの光っている街灯が1つだけ存在する。
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時間表示部分の数字が枠から食み出ている。
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トラックのゲームなのに、ロード画面にはスポーツカーの画像が使われている。
BGMが流れない上効果音すら無い
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そのためクソゲーの最後の砦「曲は良い」という抜け道すら無く、全方面擁護不可能と言ってよい。
文法ミス「YOU'RE WINNER!」
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レースに勝利すると出る字幕「YOU'RE WINNER!」
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日本語には冠詞が存在しないため日本人だと気づきにくいと思うが、「YOU'RE "THE" WINNER」とするのが正しい。冠詞の付け忘れは英語としては初歩中の初歩のミスであり、これがないだけでこの文は英語として正しく解釈出来なくなってしまう。
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ニュアンスを汲んで意訳するなら「あんた勝者!」といったところか。
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ちなみに『マリオパーティ』『ポケットモンスター エメラルド』『ポケットモンスター ブラック2・ホワイト2』でも全く同じ文法ミスが存在する。ただしそれらは日本の作品で、いずれも海外版ではちゃんと修正されている。
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こんな出来のゲームの最後の最後にトロフィーと共にデカデカとそんな誤記が表示されるもんだから、本国アメリカでは「YOU'RE WINNER」のフレーズは本作を象徴するネタとして扱われている。Googleや同画像検索で「YOU'RE WINNER」で検索してみるとよく分かるだろう。
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これについては「開発者が全員ロシア人だから、公用語が英語でない地域の人間が英語表現としては明らかにおかしな点に気づかなかった」という指摘されている。
その他
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ミニマップも当然のように無い。
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レースゲームというジャンルですでに標準化されているはずの機能であり、これが無いせいでコースの先が全く見通せない。
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後述の「ULTRANAV」欄で全体のどれだけ走ったかは概ねわかるものの、コースの規模などは判断がつかない。
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本作に
鋭いカーブや障害物、ギミックなどといった要素はそもそも存在しない
ため、コースの先を見通したところで大した意味が無いと言えばないのだが…
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特徴のある目印になるような建物もほぼ無く、今どの辺りを走っているのかを外観から判断するのは困難を極める。
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順位表示も無い。相手CPUが動かないので不要だと言われればその通りなのだが。
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LAP数の表示はあるのだが、全てのステージが1周固定であるため何の意味もない。
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途中のゲートを全て通過していないとゴール判定されずゴールをそのままくぐり抜けてしまうのだが、どのゲートをくぐり忘れたのか外見上ほぼ確認できない。
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一応、左上の「ULTRANAV」欄に多数表示されている赤いマーカーがそれぞれのゲートに対応し、ゲートをくぐると対応するマーカーが緑色に変わる(=全てのマーカーを緑色にするとゴールできるようになる)ため、ゲートをくぐった判定自体は確認できるのだが、各ゲートについては既にくぐったものかどうか視覚的に判断する手段は全くない。
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本作にミニマップが無いことも合わせて、1度いずれかのゲートをくぐり忘れると、マーカーの順番とゲートの位置の対応関係を事前に完璧に記憶していない限り、後からどのゲートだったかという判断をするのはほぼ不可能であり、コースに沿ってゲートを総ざらいしていくしかない。
評価点
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グラフィックの品質自体は多少レンダリングのバグはあるものの、2003年のDirectX 8世代のゲームとしてはテクスチャはそれなりにはキレイなので標準~やや良といえるレベル。
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Windows 98, Pentium 3などのレガシーハードウェアでの動作を前提としたゲームではあるが、最新のAMD Ryzen, Nvidia RTX, Windows 11環境でも特にこれといった
このゲームそのものが不具合なのだが
不具合はなく動作する。
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800x600解像度固定ではあるものの、一応144fpsの高フレームレートは出るので、高リフレッシュレートのゲーミングモニターを使用してる人なら多少ではあるが恩恵はある。
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本当に「空っぽ」なため、他のクソゲーのような苦痛や不快感といったものはほとんどない。
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上述したように非常に低価格なので金銭ダメージによるショックも薄い。間違いなく史上最悪クラスのクソゲーではあるが実害は薄い。もっとも個人の価値観や捉え方にもよるが。
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ゲームの内容も薄いため、「クリアするためにとんでもない苦行を強いられる」ということもない。
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クソっぷりは突き抜けているが不快感は薄いので、かのヨンパチのように「酷さをネタにして笑う」という楽しみ方は出来なくもない。が、あちらと違ってまともなツッコミどころすら少ない為それもすぐ飽きが来る。
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タイトルの「Big Rigs」は、日本語に訳すと「大型トラック達」と言った意味になるため、一応タイトル詐欺にはなっていない。
総評
兎にも角にも世界最強のクソゲーとして今もなお悪名高い作品であり、明らかに未完成品の状態で出た本作はもはやクソゲーを通り越して「商品」とすら言えない。開発途中の実行ファイルに無理矢理値札を付けているかのような代物である。
何より、問題点だけで塗り固められている本作だが、一番の問題はアクティビジョンが「このような不良品を堂々と世に出す」という、詐欺紛いの行為をしでかした事であろう。本作をプレイする事はまともな遊びとは言えず、単なる「有償デバッグ」と称しても過言ではない。
商業流通ゲームにおける「最低最悪の存在」としてこれからも本作は君臨し続けることであろう。
修正版
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メーカーから公式にパッチが2回配布されたのだが、これによる改善点は「ステージ選択時に画像がちゃんと出るようになる」、「選ぶとクラッシュするステージが差し替えられて選べるようになる」、「効果音(トラックのエンジン音)が鳴るようになる」、「CPUのトラックが動くようになる」、「ハイスコアに記録が載るようになる」、「"YOU'RE WINNER"の誤植が"YOU WIN"に修正される」…と微妙なところのみ。
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敵トラックが動くようにはなったものの、何故かゴール寸前で停止してしまうため相変わらずどうやっても負ける事はない。もう何がしたいのか分からない。相手側が勝利するプログラムが作れなかったのだろうか?
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追加されたサウンドも、スリップしているわけでもないのに突然タイヤのスキール音が大音量で鳴る。
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アクティビジョンのサイトには本作に関する記述が無い。
余談
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パッケージは迫力があって面白そうに見える。実際の購入者の話の中には「エンボス加工があって(廉価帯ソフトでありながら)立体感や高級感をそれなりにアピールしている」と評している。
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世界最強のクソゲーというジャンルでは『CRAZYBUS』と比較されやすいが、あちらは単なるテストプログラムとして開発されたものであるため、明確に区別されることが多い。
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Game Sparkにおいて「本来のコンセプトを再現したまともなゲームとしてPSPに移植する」というエイプリルフールネタがあった。
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2025年3月23日(日本時間)に、Steamにて本作のストアページが公開され、2025年4月8日に発売された。
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プレイ動画を見る限り「16:9対応」等、完全オリジナルではないが、「You're Winner」は修正されず、ある意味狙った仕様となる模様。
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Steam版の販売元とされているMargarite Entertainmentは、本作の権利を取得したと主張している。しかし、プレイ動画は第三者から、またストアのパッケージ画像は非公式の画像投稿サイトから取得したとも発言しており、本当に公式のものなのか、現時点でははっきりしていない。(参照)
発売当時における出来事
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ESRBは日本のCEROと同様のレーティング機関なのでゲームの質を問う場所ではないのだが、それにしても審査を拒否・「審査不可能」とされてもおかしくない出来である。この所為でESRBも本当に審査したのかどうかも疑われる始末だが、ESRBのサイトで本作を検索するとページは存在するのできちんと審査は通っているのは事実である。(参照)
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最初から「Activision Value」という$10~$20前後 の低価格帯シリーズ作品の1つとして発売しているので、金銭的なダメージはそこまで重篤ではない。日本で言うなら『SIMPLEシリーズ』クラスよりも安価な、電気屋の片隅に1000円で売られている廉価PCゲームのようなものである。
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邪推の域でしかないが、低価格なら苦情も少ないだろうと言う魂胆のもとに最初から騙す気満々で販売しているという説もある。それが本当なら大問題であるが、真偽は不明。
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しかし、低価格帯で入手できたのもあくまで発売当初の話。現在ではその(悪い意味で)伝説的な出来で話題となったためかコレクター品としての需要が高く、なんと中古品が200ドル前後という(ゲーム自体の出来からすれば)とんでもない高額で取引されている。未開封新品ともなるとさらにその数倍の出費は覚悟しなくてはならない。
ユーザーサイドによる努力(?)
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こんなクソ以下の代物であっても一応タイムアタックは不可能ではない。Speedrun.comや動画サイトでその様子を見ることができる。
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Any%では上述のパッチが当たっていない初期バージョンで順番にコースをクリアしていき、最後にプレイ不可能なコースを選んでゲームがクラッシュしたらゲームクリアというのがレギュレーションである…らしい。
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世界最大級のビデオゲームのタイムアタックイベント「Awesome Games Done Quick」の2015年ではなんと本作でタイムアタックするプレイヤーが出現した。規定通りにゲームをクラッシュさせて渾身のガッツポーズを決めるプレイヤーの姿はなかなかにシュール。(動画)
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なお、100%の方のレギュレーションではv3のパッチ適用後のゲームが使われる。おそらく、初期版およびv2では全てのステージを遊べないため。
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本作はPCゲームであるがゆえ、有志の手によって実車MODや非公式パッチ等が製作されていたりする。
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またクソゲーハンターのAVGN氏によるネタCMが製作されたり等、「クソ過ぎて逆に人気が出る」という状況になっている。
開発元
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開発元のStellar Stoneは、カリフォルニア州に本社を構えていたが、実際の開発はロシアやウクライナに駐在しているメンバーに丸投げというオフショアリング体制を取っていた。その結果、開発費も欧米のデベロッパーの平均予算の1/3~1/5という低予算で済む事を売りにしていた。
開発元のその後
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そして、何を考えたのかStellar Stoneは本作のアセットをほぼ流用した、『Midnight Race Club: Supercharged!』を2004年1月にこっそり発売している。パブリッシャーはカジュアルゲームを中心にリリースしているアメリカのGameMill Publishing。ちなみに『Big Rigs』と処女作である『Taxi Racer』を除くStellar Stone開発作はここが発売元である。
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車種がトラックの他にスポーツカーやバイクが加わってバラエティさが増したり、オブジェクトが一部書き直されていたり、障害物等の当たり判定がちゃんと存在する、坂では減速する、橋がちゃんと渡れるという追加・修正された要素以外は『Big Rigs』と何ら変わっておらず、例のバック時のスピードが無限になる、プレイヤーが負けることはなくゴールすれば必ず「YOU WIN!」で終わるといった部分等はそのままという始末。おまけにバイクやスポーツカー使用時、トラックのテールランプが変な位置でそのまま残っているという間抜けっぷり。
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今作よりも更に販売本数が少なく、入手困難であるとされている。
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その後、2006年にStellar Stoneは業務停止により会社組織を解散。同社の共同オーナーであり本作のプロデューサーでもあったセルゲイ・ティトフは、2012年12月にSteamにてアーリーアクセス版としてリリースしたオープンワールドのゾンビサバイバルホラーMMORPG『The War Z』を手がける。
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ところが当初から「販売ページに書かれている仕様が全く実装されていない」と言った詐欺同然の未完成ぶりにSteamのフォーラムは大炎上。Valve側からも「まともな品質管理が出来ていない」という理由により
Steamでのアーリーアクセス配信開始2日後に一時販売停止措置を食らった上に、当時は異例とも言うべき「購入済みのユーザーで希望者には返金する」措置が取られる
という有様であった。なおその3ヶ月後の2013年3月頃に販売停止が解除されている。後に『Infestation: Survivor Stories』→『Romero's Aftermath』→『Infestation: The New Z』と改題され、現在は基本無料ゲーとして存続中。
レビューサイト等での反応
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あまりに常軌を逸した衝撃的な出来だった為に返金騒動が勃発。同時に海外レビューサイト各所で最低記録を更新し、全米クソゲーランキングで堂々の1位をとった。
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GameSpotでは史上初の1.0点をマークした他、レビュアーが呆れ果ててついには道路に大の字に寝転がるという動画まで作成された(Gamespotのレビューページ)。
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Netjakも同じく前人未到の0.0。Morgan Webb氏に至っては1~5の5段階評価に対して「0をつけるのも嫌だ」と採点を放棄。
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「点数と言う概念を付けるに値しない」と言うニュアンスになのか「0点を付けるのは流石に可哀想だ」と言う良心の呵責によるものかは不明だが、いずれにせよ悪い意味で衝撃的な完成度を物語るエピソードと言えるだろう。
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Metascoreでも100点満点中8点という驚異的な低得点となった。
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クソゲーレビューで有名なAVGNでもリクエストが多かった事で取り上げられ、本作は100を超える既存レビュー作の中でも最低の出来であると結論づけられた。
色々な理由で本作以上のクソとする評価も後に出しているが。
最終更新:2025年04月10日 00:19