殺意の階層 ソフトハウス連続殺人事件
【さついのかいそう そふとはうすれんぞくさつじんじけん】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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ファミリーコンピュータ
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メディア
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2MbitROMカートリッジ
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発売元
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HAL研究所
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開発元
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HAL研究所 ハイパーウェア MGP
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発売日
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1988年1月7日
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定価
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5,900円
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判定
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良作
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ポイント
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FC屈指の難関推理ADV 秀逸なストーリー
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プロローグ
ゲームソフト会社「パワーソフト」の社員、西河正人(にしかわまさと)が崖から転落死した。
彼の大学時代の友人である若き探偵、樫畠明人(かしはたあきひと)はこれを自殺に見せかけた殺人事件であると見破る。
西河の無念を晴らすべく、樫畠は遠戚であり友人でもある警視庁捜査一課の中村警部と共に調査を開始するが、それは更なる連続殺人事件の序章に過ぎなかった…
概要
説明書で「ファミコン上に展開された日本初の本格推理アドベンチャーゲーム」とうたわれた、コマンド選択式ADV。
プレイヤーは樫畠明人となり、ゲームソフト会社に起こる連続殺人事件に挑む事となる。
プレイヤー自身の推理力が如実に問われる旧来型の推理ものADVであり、謳い文句に違わぬ高い難易度を誇る。
登場人物
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樫畠 明人(かしはた あきひと)
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主人公である若き探偵。中村警部から大学時代の友人・西河の訃報を聞き事件を担当する事になる。
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中村 貴継(なかむら たかつぐ)
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警視庁捜査一課警部で樫畠の遠戚。以前から樫畠の推理に世話になっていたらしく、今回も共に事件を担当する。
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西河 正人(にしかわ まさと)
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ゲームソフト会社「パワーソフト」のプログラマー。樫畠の大学時代の友人だが転落死に見せかけられて殺害された。
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ゲーム機「フェアリーコンピューター」の「スーパーマルクスブラザーズ」というソフトの大ヒットで一躍時の人となり、第2作「イメルダの伝説」開発完了寸前という矢先の事だった。社長はその功績が他の社員から妬まれたのではないかと推測する。
社長の娘・美沙子とは婚約関係にあった。
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富野 裕(とみの ゆたか)
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パワーソフト社長。ゲーム内では「しゃちょう」表記。
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金儲けと娘・美沙子を何よりも大事にするやり手社長。功績を上げた西河と美沙子の婚約を決めたのも彼の決断が大きい。
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富野 美沙子(とみの みさこ)
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パワーソフト事務等雑用担当。社長の娘で西河の婚約者だが、本人は気乗りでない。ソフトウェア開発という仕事自体をあまり気に入っておらず、ファッション関係の仕事をしたいようだ。
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松丘 順次(まつおか じゅんじ)
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企画開発部長。社長の甥で、社長にソフトウェア会社を発案したのも彼。その時のイザコザで社長とは仲が悪い。
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元々西河と同じプログラム担当だった。販売の里歌とは恋人関係。
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石橋 和彦(いしばし かずひこ)
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広報及び営業担当。カーマニアで女好きの軽い性格。美人には一通り誘いをかけているという。現在は慶子と付き合っている。
趣味の車にかける金を西河・諸尾から借りている。また生真面目な森田とは反りが合わないようだ。
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森田 陽祐(もりた ようすけ)
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営業担当。趣味は剣道とテニスというバリバリの生真面目体育会系。
慶子に告白するもフラれ、慶子は石橋と付き合っている。その事について本人は気にしていないと言う。
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諸尾 託也(もろお たくや)
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グラフィックデザイン一般担当。「もろオタクや」のもじりの通り、名が体を表している外見のオタク青年。
趣味はアニメ鑑賞で、会社の彼の部屋には6台ものビデオデッキが積まれている。
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吉川 慶子(よしかわ けいこ)
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販売及び事務担当。森田を振り、石橋と付き合っているが彼の女癖の悪さにはいささか困っているようだ。
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長嶋 里歌(ながしま りか)
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店舗での販売担当。キャピキャピ(死語)の22歳。松丘と付き合っている。
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片桐 花枝(かたぎり はなえ)
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事務担当。ベテラン女社員で、趣味は人の噂話。社内の人間関係は最初は彼女から聞きだすのがいいだろう。
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ちなみに本作のストーリーは、シナリオ原作者である佐伯市高氏が友人の樫畠が担当した事件を元に作ったという設定。
特徴
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時間制限がある。
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システム仕様上は「行動回数制限」であり、ゲーム中にコマンドを1つ実行するごとに3分が経過し、18時(午後6時)になるとその日の捜査を終了しなければならない(捜査開始時刻は初日は正午の12時、二日目からは午前10時)。既読の情報を確認しようと同じ行動をしても3分消費する。
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事件を大事にしたくない社長は最初3日の調査期間しか与えてくれない。グッドエンドを迎えるには、この3日間の捜査で一定の成果を出し、真犯人への糸口を捉えておかなければならない。
また重要な証言や証拠を取り逃して1日を終えると即ゲームオーバーの危険も。
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しかも実行できるコマンドの種類が多く、登場人物の数も多いため、非常に難易度が高い。
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主要人物は、主人公や警部を含めて12人。この二人と被害者を除く9人が、ゲーム開始当初から全員関係者として調査対象となる。
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重要でない情報も多い。
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一般的なADVでは、事件解決の本筋と直接関係のない話は軽く触れる程度にしか扱われないものだが、本作の情報の重要度はぱっと見ではわかりにくい。中でも社内の人間関係に関する情報は、事件解決のキーとなる上に分量も多く、聞き込みで得た情報の取捨選択は全て自分で行う必要がある。
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しかし、調査開始時点では何を頼りに聞き込みを行えばいいのか全くわからない。説明書には「登場人物の自己紹介をよく聞き、情報を持ってそうな人に当たりをつけろ」というような助言が載っており、そこから先は完全に手探りでの捜査となる。
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日にちの経過によって起こるイベントがある。
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タイトルにもあるとおり、このゲームの事件は連続殺人に発展する。しかしその事件が実際に発生する日付は決まっており、初日で事件の全貌を知る事はできない。
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時限イベントは事件の重要なヒントを多く含むが、調査できるチャンスは1回限り。ここでの証拠集めが不十分だとラストで詰む。もちろん、調査が充分かどうか判断するのは自分。
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エンディングの前に犯人指名パートがある。ストーリーは一本道だが、エンディングはここでの結果で分岐する。
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「動機」「証拠」「推理の根拠」なども仔細に突っ込まれるが、すべて適切に答えられないとバッドエンドになる。
記憶力だけですべて正答しきるのはおよそ無理なので、プレイ中はメモ必須。
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解答が合っているだけでなく、その推理に必要な証拠を調査中に見つけたというフラグ立てもグッドエンドの条件に含まれている。
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スタートとセレクトを押すとセーブ出来るが、終盤は出来なくなる。
評価点
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ストーリーは殺人事件の犯人の指名に成功すれば一件落着という単純なものではない。事件の背景に隠されたもう一つの物語に対しても、証拠と共に真実を探り出して決着をつける事で、初めて真のエンディングに到達できる。本作発売当時の推理ADVとしては、一捻り加わった奥の深い物語構成と言える。
真のエンディングに到達して、初めて「殺意の階層」というタイトルの意味を知る事が出来るだろう。
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単純な総当り解法が通用しない時間制限付きシステムは斬新であり、自分で論理を組み立てる楽しみがある。グラフィックやサウンドも推理の根拠として重要な要素という点も芸が細かい。
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謎解きの一例:ネタバレ注意
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本作における伏線の張り方の巧みさとともに、他の追随を許さない難易度の高さを物語る謎解きの一例を紹介する。
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犯人を特定する根拠として「利き手」を用いる手法はメジャーだが、本作では、現場に残された証拠品の特徴と私室のレイアウトから推理する。それぞれのグラフィックとテキストの両方をよく把握しないと気がつきにくい。
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殺人犯を特定した後の真エンドを見るために必要な推理に、数多くの選択肢の中から一見関連性の薄い二つの証拠品を抜き出す、というものがある。その決定的な根拠となるのが「音」(プレイヤーが実際に耳から聞き取るサウンドで判断する)であり、以降はそれらの証拠品を結びつける事で生じる大きな矛盾と謎に迫っていく展開となる。
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前述の通り推理に一部関係してくる他、特定のキャラクターには専用テーマがあるなど、BGMが効果的に働いている。物悲しい雰囲気の通常捜査中BGMも耳に残りやすい。
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登場人物はナンパ男・体育会系・オタク・噂好き・きゃぴきゃぴなど、全体的にキャラ付けが特徴的。そして設定上は全員知り合い同士なので、聞き込みの際のリアクションが多様性に富んでいる。
問題点
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真エンドの高難易度
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ネタバレ注意
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本作に登場する犯人は実は3人おり、
・ゲーム冒頭で西河を殺害した「犯人A」 ・西河の事件には全く関与していないが、ある事実に気づき結果的に連続殺人を犯した「犯人B」 ・そして自らは手を汚さずに犯人Bが殺人を犯す様に工作した「犯人C」 がそれぞれ存在する。
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西河を殺した犯人、つまり犯人Aの捜索から始まる本作だが、順調に連続殺人の証拠をキッチリ集めて捜索を続けていると終盤、犯人Aは自動的に判明する。
つまるところ社内の連続殺人の実行犯である犯人Bの指名・トリックと証拠・動機を当てる事がこのゲームの表向きの最終戦となる。が…
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上記の通り黒幕とも言える犯人Cが存在し、それを突き止める為には
犯人Bの捜査とは無関係な犯人Cの個人的な情報も期限内に集めなければいけない
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見事犯人Bの逮捕に成功してもエピローグで奇妙な選択肢が現れ、それまでに犯人Cの情報を集めた上で正解を選ばないと真エンドには到達できず、正しい選択肢以外はどれを選んでも消化不良、またはバッドエンドじみたマルチエンディングとなってしまう。
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上記評価点にある「音」の推理で、とある二つの証拠品に同じ曲が使われていることが鍵となるのだが、イントロの有無とアレンジの違いにより同じ曲であることがわかりづらい。樫畠の「なぜ同じ曲が?」という推理を見て初めて同じであることに気づくことも有り得る。
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攻略情報無しに自力で真エンドにたどり着くのはかなりの高難易度である。そのぶん、真エンドの真実と達成感はひとしお。
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ちなみにバッドエンドの一つの犯人Cの行動はかなり怪しいので、勘の良い人なら気づくかもしれない。
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謎解きに詰まった際の救済措置がない
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真犯人指名の時点で証拠が足りずに詰んでいる、という状況は当然起こりうる。しかし推理に失敗した場合の救済措置(ヒントを小出しにするなど)が無く、何故失敗してしまったのか原因に気付きにくい。
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ゲーム中で把握しづらい情報を証拠として提出しなければならない場面もある。
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ゲーム中では明かされない詳しい人物情報・相関図等が説明書や付属品に記載されているが、それらの情報が無いと難易度がさらに上がる。
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時代的に見てグラフィックはややチープ。
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人物も背景も影がほとんど無く、のっぺりした印象。斜め線のジャギーも目立つ。
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人物の顔グラフィックは80年代アニメ調の絵柄で、今見ると少々クセが強い。左側が主人公・樫畠明人(28)。全体的にちょっとギザギザ。
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Aボタンがキャンセル、Bボタンが決定と、当時の普遍的なゲームとは入力操作が逆になっている。
総評
「作者からの挑戦状」というスタイルで、コマンド選択式でありながらプレイヤーに本当に筋道立った論理構築を要求するアイデアはFCゲームとしては画期的だった。
ストーリーは大変素晴らしく、「殺意の階層」というタイトルも偽りなく活かされている、良質の推理ADVである。
しかし、推理小説のように先を読めば正解がわかるというヌルい逃げ道は存在せず、難易度は非常に高い。
何度も失敗を繰り返し、情報を絞り込んでようやく正解に辿り着いた時の達成感は相当なものだが、すべてのプレイヤーがこの高いハードルを乗り越えられるという保証はない。
アイデアは良かった。難易度が高い事も、それ自体は大きな問題ではない。ただ、ヒント周りにもうほんの少しの親切さがあったら、優れたストーリー性を持つ本作に対する、知名度含めての評判はもっと違ったものになっていたかもしれない。
マイナーどころに留まってしまった事が惜しまれる一作である。
余談
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続編も企画されていたのだが、売り上げが芳しくなかったため頓挫してしまったらしい。
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僅かながら漏れた情報によると、本作の主人公である樫畠が何者かに殺害されてしまうところから始まる、非常にショッキングなストーリーであったとか。
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このゲームの背景色は終始「灰色」なのだが、電源を入れてすぐ(メーカーロゴが表示される前)の瞬間が、接触不良などでソフトが起動しなかった時の症状に似ていて紛らわしい。
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ゲーム中、1980年代に放映された魔女っ娘アニメ「魔法のプリンセス ミンキーモモ」の主人公モモのポスターが貼られている部屋がある。
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サブタイトルは箱や説明書では「ソフトハウス連続殺人事件」だが、なぜかタイトル画面では「パワーソフトれんぞくさつじんじけん」。
最終更新:2024年03月14日 20:38