RPGツクール5
【あーるぴーじーつくーる ふぁいぶ】
ジャンル
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RPGコンストラクションソフト
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対応機種
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プレイステーション2
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発売元
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エンターブレイン
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開発元
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空想科学
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発売日
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2002年8月8日
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定価
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7,800円
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判定
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スルメゲー
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ゲームバランスが不安定
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ポイント
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シリーズ初のフル3Dを採用 機能性、独自性、そして難解さも最強の家庭用ツクール 内容が本格的すぎてユーザーがついて行けなかった ドラ○エツクールへ一気に逆戻り 「残念ながらできません」→頑張れば大体なんでもできる イベント演出の自由度はPC版すら軽く超える
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ツクールシリーズリンク
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概要
コンシューマー向け『RPGツクール』の第5弾。本作よりハードがPS2に移った。
アジェンダ製の前作『RPGツクール4』が多くの問題を抱えていたためか、開発元が『3』までの空想科学に戻された。ただし、スタッフは大幅に異なる。
内容面ではスクリプトの採用によってできることの幅が広がり自由度が格段に増加した。
反面、制作手順もこれまでに比べて一気に複雑化してしまったため、批判と不評の声も大きい作品となった。
特徴
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スクリプトの採用。多彩なスクリプトコマンドを組み合わせることで、さまざまなことが出来るようになった。
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簡単に言うと、前作までの「イベントコマンド」の中身をいじることが出来るようになった、ということである。
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道具や魔法の効果などもスクリプトを組むことによって作成する。
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今までは用意されたものを使うしかなかった「ダメージ計算式」も自分でツクれるようになった。
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エフェクトをかなり自由にツクれるようになった。
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非常に自由度が高い分、高負荷のエフェクトを同時にいくつも表示したりするといとも簡単にフリーズしてしまう点には要注意。
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制作開始時に初級から上級まで選ぶことが出来る。
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初級や中級を選ぶと「プリセットデータ」というある程度完成されたデータが読み込まれ、これをもとにゲームをツクることが出来る。そのかわり一部の入力箇所が封印されているので、細かく作り込むことが出来ない。
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上級は、すべての入力可能箇所が解禁されるが、そのぶんありとあらゆるすべてを一からツクる必要がある。
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これは制作途中でも変更可能なので、上級で作るにしても初級や中級で始めてある程度プリセットデータだけ読み込んでおいてから、上級に切り替えて細部を調整することが強く推奨されている。(理由は後述)
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サンプルゲーム『fu-ma』は過去最大のボリュームの作品。
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シナリオとコンセプトはドラゴンクエスト7に参加した折尾一則氏。BGMは、すぎやまこういち氏と関係が深い松尾早人氏が担当した。内容は良くも悪くもドラゴンクエストに近い雰囲気となっている。
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今作のサンプルゲームにはパスワードが設定されており、最初からサンプルロードする事はできない。このパスワードはサンプルゲームをクリアする事でわかるようになっている。
問題点
意欲的なツクールであった本作だが、今まで慣れ親しんだ仕様から大きく変わったことに多くのツクラーは苦しみ挫折していく。
スクリプト導入による制作難易度の急激な上昇
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従来のツクールと全く異なる制作手法による弊害
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4では作りたい項目を選んでから内容を作る制作手法を取っていたが、本作ではスクリプトで内容を作ってからそれをどの項目にするかという全く異なる製作手法になっている。
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そのため本作の「上級」モードはスクリプトをきちんと理解した上で選択しないと最初からつまずいてしまう。
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しかしこれらの仕様に気が付かず、4までの製作手法と同じ感覚で「上級」モードで作ろうとして、あまりの製作感覚の違いに対応できずいきなりつまずく人が多く発生してしまった。
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かといって「初級」から始めるにしても、簡単な回復魔法を一つツクるだけでも相当に仕様を理解する必要があり、中途半端に編集しようものなら、当然「バグ」も発生する。
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追い打ちをかけるように初心者救済となるはずだった「プリセットデータ」の多くにミスがあり、そのまま使うと確実に不具合が出る。
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結局、読み込んでも上級に切り替えて修正しなければならなかった。
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当然、修正には仕様を理解することが必須。初心者は負のスパイラルに陥るしかなかった。
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スクリプトの仕様に慣れ切った熟練者でも、「素早さサーチ」のように、「苦手なので、できれば使いたくない」と言われるものもある。
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あまりに内容が膨大なので「説明書」は当然役に立たない。
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説明書の内容は「とても難しいのでプリセットで作ってください」の一点張りである。
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これをカバーするためのヘルプ機能がある。が、分からない人にとってはそのヘルプの内容自体がすでに謎の塊である。
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これらの仕様を理解できたとしても、完成させるには前作までと比にならない膨大な量の入力とテストプレイ(バグチェック)作業が必要である。よほどゲーム作りに思い入れがなければ、とても気が持たない。
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商業ベースでのゲーム作りの過酷さを嫌というほど味わわせてくれるといっても過言ではない程。
本来ならより細かく作りこめるとなるはずだった「スクリプト」だが、4までの製作手法に慣れ切った人達ほどそのスクリプト、スクリプトコマンド、スクリプトとイベントの関係の仕様がわかりづらく本作の入口時点で挫折者を多く出してしまう結果となってしまった。
結局、このツクールを使いこなそうと思うと「プリセットデータ」「スクリプトコマンド」を一つ一つ解析し、スクリプトの仕様と組み立て方を頭に入れるという、気の遠くなる苦労が必要となってしまう。もはやそこに「誰でも簡単にRPGを作れるソフト」の面影はない。
その他
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3Dマップ制作の仕様も操作が極めて複雑で、これも直感でなんとかなるものではなかった。
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マップだけでなくイベント配置なども三次元で物をとらえねばならず、これも人によっては厳しいものだった。
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操作方法からして非常に難しく、L3R3を含めた3つボタン同時押しでの作業は当たり前。
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ロード時間がとにかく長い。フロア移動、戦闘開始終了全てに時間がかかりすぎる。
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迂闊にエンカウント率を上げたり小さなフロアが大量にある町やダンジョンを作りたい人には嫌がらせである。
賛否両論点
ドラクエシリーズに酷似しているサンプルゲーム
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サンプルゲーム『fu-ma』を作ったスタッフがドラゴンクエストシリーズに関わっていた影響からなのか、メニューウインドー、戦闘シーン、職業熟練度システム等、とにかく様々な箇所が、当時の最新作である『ドラゴンクエストVII』に酷似している。何も知らない人が画面を見たら「ドラクエの新作?」と言われそうなほど、そっくりそのままである。
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主人公の成長パターンのサンプルの中にも、『戦士系』『魔法使い系』などのオーソドックスなものに混じって、他のRPGではあまり見られない職業である『船乗り系』『羊飼い系』『笑わせ師系』(全て『ドラゴンクエストVII』に登場する職業)というものがある。
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戦闘時に行動する時の効果音(電子音)は正にドラクエそのものでしかない。
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実際、シナリオ担当の折尾一則氏も自らのサイトで「ミニドラクエ」と語っていた。
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本家から何か文句言われるのではと思われてもおかしくない程、酷似しすぎていてドラクエっぽさを嫌う人にとっては最大の不評点となってしまった。
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ただ、RPGツクールはRPGを作るツールソフトであり、日本のRPGがドラクエスタイルの影響下で発展してきたことを鑑みれば、サンプルの一例として取り上げること自体はおかしいことではないだろう。
また、他のRPGツクールでも本作ほど露骨ではないにしろドラクエを意識している部分がある事も追記しておく。
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本作は知識さえあればメニュー画面から戦闘システムに至るまでオリジナルのものを作ることが出来るため、ドラクエらしさを感じさせないゲームにすることも可能。「
サンプルはサンプルでありあくまで作例の一つに過ぎない
」ということである。
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人物の3Dモデル自体が、キャラ頭身も低くデフォルメの効いたかわいらしい造詣になっており、シリアス系には向かない。それ故に自由度が確保されているとはいえ、レトロゲームブームが始まる前のこの時期においては賛否が強かった。
評価点
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曲がりなりにも3D
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頭身が低いとはいえ、3Dであるため非常に自由度が高い。キャラクターサイズの拡大といった演出も可能。
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スクリプトによる自由度の高さ
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解析が進んだことにより、先のスクリプトによって概ね公式サイトで「残念ながらできません」といわれたものが、知識と工夫により実現出来ることがわかり、拡張性が広がった。
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そして、本作を極めた者の中には「アクションRPG」や「シューティング」「ボンバーマン」などのRPG以外のゲームをツクる猛者まで出現し、本作のポテンシャルの高さを多くの人々に見せつけ驚愕させた。
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当然、ソフト本来の用途であるRPG制作の上でも優秀であり、3Dポリゴンであることを活かして、カラクリ仕掛けが作動するといったようなマップ演出をすることが可能。
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隠し階段一つとっても、従来のツクールならばマップチップを動かしたり出現させるだけの演出で終わりだが、本作は階段の段差の仕掛けが動いていくシーンを作ることが出来る。仕掛けが動いて床が階段へと変化していく演出などは、PC版でも未だに実現出来ていない部分と言える。
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ただし、その自由度の高さを実現しようとすると容量問題が湧いて出てくるため、ある程度容量削減のテクニックを必要とする点は留意しないといけない。
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ヘルプ機能を搭載したこと
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各所でセレクトボタンを押すと、逐次解説が入る。ただし会話ウィンドウ形式なため読むのに時間がかかるうえ、途中で切ることが出来ない。
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問題ありきとはいえ、この手のゲームに必要な要素が搭載されたということは十分評価が出来る。
総評
スクリプトの導入に伴って制作の自由度が大幅に増えた反面、従来のシリーズと大きく異なる制作仕様の難解さ・複雑さによって、明らかな上級者向けのツールと化してしまい、ツクールシリーズならではの利点が大きく損なわれたために大きな不評を買ってしまった。
数多の使えない駄ツクールの1作と認識されてしまった本作であるが、後年になって意外にも再評価の動きが現れることになった。
複雑・難解ではあるがそのポテンシャルは高く、スクリプトに関する知識をしっかり持っている人であるならば、家庭用でPC版シリーズに匹敵する以上のクオリティを持つ作品も作れる。その点だけ見ればパッケージ裏に躍る「
史上最強のツクール
」の謳い文句に偽りはないと言っても過言ではない。
本作の本質的な問題点は、これだけのポテンシャルを兼ね備えた高度なソフトを「初心者向けとして出してしまった」という点にあると言える。本流のシリーズとは別口の扱いにして、最初から上級者向けを謳って出していれば評価も大きく違っていたことだろう。公式側にとってもこれだけの制作難度の上昇は想定外だったのかもしれないが……。
いずれにせよ、初心者向けの家庭用制作ツールとしてみた場合、スクリプトの仕様の理解から要求する作り自体に厳しいものがあるのは事実。
家庭向けゲーム制作ツールにおける制作自由度の高さと制作の容易さの両立がいかに難しいかを端的に示した1作となったと言えよう。
余談
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公式サイトに質問受付があったが「こうしたいのですがどうすればいいですか?」と質問すると、たいてい「残念ながらできません」と返答されてしまい、「じゃあ、なにもツクれないの?」とツクラーを悩ませた。
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一応「制作者の想定以上のことはわからない、できるものもある」と返したこともあった。
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発売直後にVジャンプブックスから本作のガイドブックが発売され、複雑な仕様を理解する為にそれに頼る人もいた。後にエンターブレイン自らも発売する予定だったが突然発売中止となるという異例の事態となった。
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恒例のコンテストは同時期に開催されたゲーム甲子園のコンストラクションツール部門の1つとして行われ、定期的に開催されるはずだったのだが、コンストラクションツール部門の審査方法に問題があったために1回限りで打ち切られてしまい、第2回ゲーム甲子園以降はゲームプログラム部門に統合・代替される形でXPといったスクリプト機能を搭載したPC版ツクールで製作した作品のみ対象となり、ツクール5をはじめとした家庭用コンストラクションソフトを使用した作品は対象外となってしまった。
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本作は『RPG MAKER 2』のタイトルで海外版も販売されている。
その後
一部には評価された『RPGツクール5』だったが、やはり複雑化への不評を無視できなかったのか、またPC版との差別化もあったのか、その後の作品は難易度が下がり簡略化していく傾向にある。
最終更新:2024年08月08日 22:00