攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX
【こうかくきどうたい すたんどあろーんこんぷれっくす】
ジャンル
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アクション・シューティング・アドベンチャー
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対応機種
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プレイステーション2
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メディア
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DVD-ROM 1枚
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発売元
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ソニー・コンピュータエンタテインメント
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開発元
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キャビア、プロダクションI.G.
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発売日
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2004年3月4日
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価格
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6,090円(税込)
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プレイ人数
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1人、2~4人(対戦、マルチタップ使用時)
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レーティング
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CERO:15歳以上対象
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判定
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良作
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あらゆるネットが垣根を巡らせ
光や電子となった意思を
ある一方向に向かわせたとしても
"孤人"が
複合体としての"個"になる程には
情報化されていない時代…
A.D.2030
ストーリー
公安9課課長の荒巻大輔は、陸自情報部の旧友久保田から陸自武器の横流しとその密輸計画の情報を得た。証人を確保して横流しルートを解明するため、公安9課は行動を開始する。
密輸現場に乗り込むのは9課実行部隊隊長・「少佐」こと草薙素子と、その相棒の元レンジャー隊員・バトー。
軍の不手際を愚痴るバトーを諭し、素子はティルトローターから単独降下する。ニイハマ埠頭入口に着地した彼女の目前には、不気味な静けさにつつまれたコンテナの山が広がっていた。
この時までは単なる密輸事件と思われていたこの一件。だが、素子の目前で証人が殺害され、その身元が明らかになったことで話はこじれていく。
殺された証人の名は不和タケル。しかし記録によると、この不和タケルは5年前にニイハマ大学の構内で殺害された筈なのだ。
一方その頃、バトーは武器受け渡し現場である埠頭パーキングエリアで輸送バンを確認し、確保作業に取り掛かる。だが、その中にあったのは武器ではなく……。
過去に死んでいた筈の男と、残された物資。素子とバトーは真相を探るべく、かつて不和が居た「東北自治区」へと飛ぶ。
第四次非核大戦中、科学者を強制的に疎開させ、軍の管理下に置くために建設されたシェルター都市である東北自治区。大戦の痕跡が色濃く残る「負の遺物」で2人を待ち受けるものとは……。
概要
マイクロマシン技術の発達によって、個人の脳をネットに直結する電脳化や、肉体をサイボーグ化する義体化技術が一般化し、殆どの人間が自らの脳を通してネットにアクセスするようになった時代。
その中で多発するテロ・暗殺・汚職・電脳犯罪を事前に察知し、被害を根絶するため設立された内務省直属の攻性の警察組織・公安9課の活躍を描いた、士郎正宗作のコミック『攻殻機動隊』。
本作は、その原作コミックを元にして制作されたTVシリーズ『STAND ALONE COMPLEX』(『S.A.C.』第一シリーズ)の世界観に従って作られたTPSゲームである。
『S.A.C.』本編の単発エピソードのような体裁で尺の短さ以外文句のない品質のオリジナルストーリーが展開され、ファンはすんなりと物語世界に没入できる。
もちろん原作関連の用語も多数登場するが、その全てをカバーする用語辞典機能がついているため、「攻殻」ビギナーにもお勧めできる内容である。
TPSとしてはやや初心者に厳しく、細かい粗が少々見受けられるが、全体としては楽しく遊べる水準をクリアしていると言っていいだろう。
ゲームの流れ
全4章・12ステージから成る。ステージ毎にプレイヤーキャラクターが交代し、アクロバティックな動きが持ち味の草薙素子と、屈強な義体と重火器を駆使するバトーの二人を交互に操作することになる。
また、ある1ステージのみ、公安9課に配備されている思考戦車「タチコマ」を使用することになる。
素子ステージでは彼女の操作特性をフル活用することが求められる高低差の多い構成が、バトーステージではアームスーツ、思考戦車、攻撃ヘリといった兵器と激戦を繰り広げる展開が多くなっている。
基本システム
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基本は幾つかのエリアを経由しつつ指示をこなしていき、ゴール地点にたどり着けばクリアとなる。途中ミス時はチェックポイントから再開。
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体力はゲージ制。ステージに配置されたレストレーションキットの取得で50%回復する。
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ダメージを受けた後しばらくダメージを受けなければ、被ダメージ前の残ライフの30%程度が自動回復する。
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緊急回避ボタンを押すことで「緊急回避」アクションが発動。大ジャンプやローリングで回避移動を行い、発動中は被弾率が2/3に、被爆風率が1/2にダウンする。
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所持できるメインウェポンは2種類で、適宜交換していくことになる。
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サブウェポンとなる手榴弾はグレネードとプラズマグレネードの2種を最大5ヶまで所持可能。素子のみ、ステージ開始時に5本の「スローイングナイフ」を所持。
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格闘攻撃はスティックの倒し方によって技が変わり、コンボも可能。スタンユニットを装着すれば追尾範囲と威力が上昇、爽快な連続攻撃が可能(素子ステージのみ)。
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ライフが1/5まで減少した場合、サブ武器の切り替えで「センスアクセラレーション」が発動可能。30秒間(ゲーム内の設定上は6秒間)全ての動きがスローモーションになる。
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特定の敵を倒すと「部隊識別信号」か「ハッキングキー」が入手可能。前者を取得するとフロア内の敵にインジケータが付き、壁越しでも確認できるようになる。後者は入手した状態でハッキング可能な敵に照準を合わせボタンを入力すると、一定時間その敵を操作することが出来る。
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ステージ内には「光学迷彩ユニット」が設置されているところがある。取得すると一定時間不可視となり、敵の目を欺くことが出来る。
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1周クリアでアサルトライフル・サブマシンガン・ショットガン・サブウェポンで無限弾モード&隠しコスチューム解禁。難易度ごとに対戦モードの使用キャラが解禁される。
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2周目以降は各ステージに3つの「扇子」が配置され、ノーコンティニュークリアのチェッカーが表示される。全ステージノーコンクリア達成で全ての武器の無限弾モード解禁、扇子破壊コンプリートで隠し武器解禁。
評価点
S.A.C.の世界へ
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本作の最大の評価点は、原作の雰囲気に忠実な設定・シナリオ構成と、なおかつゲーム作品(番外編)としての独特な雰囲気を両立している点にある。総監督を務めたアニメ版『S.A.C.』の監督でもある藤咲淳一氏が「アニメの2時間スペシャルを目指した」と語る通りの内容になっている。
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『S.A.C.』本編ではシリーズを通して描かれる「笑い男事件」と、それ以外の単発エピソードが混在しながら描かれる手法が取られている。本作でも「笑い男」関連の話は一切ないため、やはり『攻殻』を知らない人でも気軽に遊ぶことが出来る。
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しょっぱい仕事→変な出来事が起こる→探りを入れると何やら深そう→出張 の流れや、落ちる素子に叫ぶバトー、ぼやくトグサとかわいいタチコマと、原作の「お約束」に沿った、それゆえになじみやすい演出がしっかり盛り込まれている。
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アニメではあまり馴染みのない「第四次非核大戦」を下敷きとして展開されるシナリオの流れは俊逸。原作設定をうまく生かした好例である。
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もちろん原作キャスト・フルボイス。『攻殻』の特徴である「電通」によってストーリーが進むため、無駄な説明やムービーでゲームテンポが悪くなることはない。
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例によって話の展開はやや難しく会話の数もかなり多いのに加えアクションシーン中の会話も多いが、これまでに流れたムービーと会話をいつでも見直すことが出来るログ機能があるため、ストーリーの把握や考察がしやすい。
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さらにログ機能に加え、ゲーム中で、そして原作アニメで登場し、さらにアニメでも詳しく説明されなかった単語・事件を紹介する用語辞典が収録されている。ステージを経るごとに随時追記されて行くため、これで原作の知識を補完することも可能。
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ログ機能と用語辞典は自分の行動によって追記される。リストに穴がある場合それは掲載フラグを満たしていないしるし。これを探す楽しみもある。
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各ステージには原作を意識したいろいろな小ネタが仕込まれている。
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アニメで妙な人気を得ている「ジェイムスン型義体(通称:社長)」をハッキングして操作したり、『S.A.C.』第2話で登場した剣菱重工の思考戦車や、対戦車ヘリ「ジガバチ」に、輸送ヘリ「オニヤンマ」も登場。
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ティルトローターや武器デザイン(セブロC26、サブマシンガン、スナイパーライフル)は本編でも登場したもの。原作メカがふんだんに登場するのも原作ファンには嬉しい。
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ニイハマ埠頭の立ち入り禁止警告や東北自治区の公衆電話、自動販売機など、少し踏み込んだところのフィーチャーも。海に落ちるともちろん沈む。
サイバネティック・アクション
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アクションゲームとしては、草薙素子のダイナミックなアクションが見もの。
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サイボーグであることを生かした大ジャンプ、更に壁蹴りからの3段ジャンプを駆使した進行が求められる。うまくジャンプして先へ進んだ時の爽快感は抜群。
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素子ステージは「高低差」が重要な要素として位置づけられており、飛んだり下りたりぶら下がったりして先へ進んでいくことになる。この高低差の表現が俊逸で、お馴染みの少佐の落下シーンを震えながら体感できる。高所恐怖症の人にはつらいかも。
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ステージの構造も相まってアクションの自由度はかなり高い。足場を無視して三段跳びで無理やり障害物を乗り越えたり、落下ダメージを直前の壁蹴りで回避するといった小技もできる。
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素子の緊急回避モーションは非常にアクロバティックなものになっており、ただ発動するだけでも楽しい。緊急回避発動が敵の攻撃とうまくかみ合うとスローモーション演出(いわゆるバレットタイム)が入るが、これがよく映える。
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演出も細かい。
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敵を倒す、そして自分が斃れる時のモーションが妙に細かい。格闘で相手を仕留めたときにはバレットタイム。
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ステージ進行中に音楽が入るタイミングがよく計算されている。台詞が流れる時には音量が下がる気配りも。
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背景やステージの作りこみも非常に細かい。不気味なムードの港湾地区、無機質なビルが連なるもどこか田舎臭い自治区、映画『GHOST IN THE SHELL』を思わせる拡張工区と、入り組んだ人工物を連続させてきて、最終ステージ前半のノスタルジー漂う光景を見せつける構成もニクイ。ラストカットは必見の美しさ。
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ムービーはクオリティはもちろんのこと、演出やカット割りもよく考えられている。
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ゲームのテンポもよく、慣れればさくさくと突っ走っていく爽快感が味わえる。緊急回避とジャンプを組み合わせて敵をスルーするスリリングな楽しみ方も。
充実したユーティリティ
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画面比率の変更が可能だが、当時多かった「アクション画面だけが変わってムービーはそのまま」ということがない。
問題点
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プレイヤーキャラが妙に弱い。
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主人公の二人はどちらも全身を義体化したサイボーグなのだが、義体化技術が一般化した世界に置いては特別に高い戦闘能力を有しているとは言えない。だがその設定を踏まえたとしても、やけにあっさり死亡してしまう状況が多い。
主な死亡原因
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高所から落下する。
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素子は高低差を意識したステージが多いが、常に落下死の危険が付きまとう。
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即死ポイントが無い場所でも、約4~5階の高さから落ちれば落下ダメージに耐えられず即死する。ムービーではもっと高い場所から落下してるようにも見えるが…
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水中に転落する。
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情けない死亡原因にも見えるが、れっきとした原作再現である。全身サイボーグであるため水に浮かべず、海に入ると即死してしまう。
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スナイパーライフルで撃たれる。
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サイボーグの脳核でも吹き飛ばすライフルとゲーム内でも解説があり、レーザーポインターに触れたら約2~3秒以内に物影に隠れなければ撃たれて即死する。
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物影の無い場所では絶対にかわすことが出来ず、スナイパー兵をどうやり過ごすかがポイントになる。
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打たれ弱い。
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前述の通り体力はゲージ制だが、自動回復を前提としたダメージなので最弱の攻撃であるサブマシンガンでも集中砲火を食らえばあっというまに死んでしまう。
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自動回復を最大限に活用しつつ、ダメージを散らしながら立ち回る必要がある。
なお、これらの死亡状況はすべて1面で体験できる。それを受け入れられるかどうかがこのゲームを楽しめるかの分かれ目になるだろう。
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TPSとしては当然のことだがカメラの自動追従・ロックオン機能などはないため、本作独自のアクションも相まってFPSやTPSが苦手な人にはとことんお勧めできない。
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説明書に細かいヒントが掲載されている1面で投げたという報告もある。そうした人たちのためにチュートリアルがあるのだが……。
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扇子やノーミスクリアのやりこみ要素を考えても、1本のアクションゲームとしてはややボリューム不足という意見が多い。
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また、敵AIの反応が鈍く、ずれた台詞を口走ることもしばしば。単調な動きしかしない点も尺の短さを際立たせる。
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バトーステージはごく普通のTPSステージで、ロケットやミサイルが拾えるくらいしかバトー独自のアクションがなく、ナイフやスタンユニットも使えないのでどうしても地味に感じてしまう。普通のTPSとしては十分面白いのだが。
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操作可能キャラが2名+1機と少ない。シナリオ上キャラは少ないほうが自然なのだが、ゲームとしてはやはり寂しい。他の九課メンバーも、せめて対戦モードで使えれば評価は変わっただろう。
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また、タチコマが使用可能なステージがただ一つ、それもボーナスステージのような面であるため、タチコマファンにも寂しいものとなっている。
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使用可能なメインウェポンは9種(+隠し2種)とまずまずの数だが、そのうちセブロC26-Aとサブマシンガン、ミサイルランチャーとミサイルポッドは性質がほとんど同じでバリエーションに乏しい。ちなみにハンドガンはない。
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一応、本作のシチュエーションは「潜入調査」なのだが、ゲーム中では終始ドンパチをやらかしている。あくまでもアクションシューティングであり、ステルスゲームを期待してはいけない。
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自在に行えたら行えたでゲームバランスがおかしくなるだろうが、熱光学迷彩やハッキングが自在にできないのも、原作設定からすると違和感がある。
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熱光学迷彩については湿気の多い場所では無意味とゲーム中でもフォローがあるが、ちょっと無理がある。
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ムービー・ステージ・背景のグラフィックは高品質なのだが、ゲーム中のキャラのモデル・モーションはややぎこちない。特にオーバーに手をペタペタ動かしながらぶら下がり移動する素子は思わず吹き出すこと受けあい。
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ムービーも写実的なタッチ(ただし断じて“邪神”ではない)であるため、中には「コレジャナイ」感を覚える人も。
総評
操作の癖もあってアクションが苦手な人にはお勧めしづらいが、『S.A.C.』ファンであれば購入して損はないと言い切れる作品。
とりわけ、テンポの良いゲーム展開と相まって先へ先へと引き込まれるストーリーの完成度はTVアニメシリーズに勝るとも劣らない。
余談:無方に広がる巨きな道
今作のシナリオは、岩手県出身の童話作家・宮沢賢治が元ネタとなっている部分が大きい。
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ネタバレ注意
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東北自治区
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賢治の地元である岩手県付近に存在する設定
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トグサが聞き込みに赴く都市「ハナマキ」
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花巻川口町、現在の花巻市は賢治の生まれ故郷
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矢沢ケイ
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ミヤザワ ケンジのもじり
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田上トシミ
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賢治の妹・トシ
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居住区の書置き「下の畑に居ります」
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「下ノ 畑ニ 居リマス 賢治」 羅須地人協会での活動時、宮沢家別宅の黒板に書かれた賢治の書置き
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振付師の言葉「わたくしはいま再び本当の幸いを待つひとびとのために~」
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「農民芸術概論綱要」とその他の賢治の手記を混ぜ合わせたものと思われる。 「透明な意思」「巨きな熱」等の賢治独特の表現との共通点が多い
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ラスボスの行動原理である飢餓の撲滅による貧困の根絶
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科学と農民を一体化させた農業成長という、賢治の思想と近いところがある
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実験農場の墓と墓石にかかるハット帽
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田に佇む賢治の写真
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最終更新:2024年05月31日 10:10