マヨナカ・ガラン
【まよなか がらん】
ジャンル
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3Dアニメーションノベルゲーム
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対応機種
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プレイステーション4 Nintendo Switch Windows
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発売元
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【PS4/Steam】ソニー・ミュージックエンタテインメント 【Switch】UNTIES
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開発元
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CavyHouse
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発売日
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2018年10月4日
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定価
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1,222円(税込)
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プレイ人数
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1人
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レーティング
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CERO:B(12歳以上対象)
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判定
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なし
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ポイント
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独創性の光るビジュアルコンセプト ボリュームは少なめ
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概要
オリジナル同人ゲーム制作サークル「CavyHouse」による初の家庭用ゲーム機向けタイトル。
構造的にはシンプルなアドベンチャーであり、2Dマップ上から行先を選択することで3Dモデルのキャラクターたちによる会話劇が再生、読了によって新たな行先やストーリーが展開されていくという流れ。
時は大正時代。かつて迫害から逃れたキリシタンによって作られた「大臼村(だいうすむら)」。
そこでは村人たちの悲願であった聖堂の完成をきっかけに、近代化へ向けた村おこしの機運が高まっていた。
東北の教会に勤務する女性牧師「橘はももる」は、若くして村の代表格を務める「大臼寿安」に村おこしのコンサルタントを依頼され、村内の民話や伝説の調査を開始する。
しかし閉鎖的環境の中で変化が生じたのか、村人たちが拠り所としているのはキリスト教とも異なる独自のマレビト信仰、及び「聖人信仰」だった。
はももるは戸惑いながらも調査を続けるが、目の前で聖人の奇跡と呼ぶべき予想外の出来事が発生、更に村の様子もどこかおかしくなっていく。果たして村おこしはどうなってしまうのか?
評価点
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強烈かつ独自性の強いビジュアル
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ジャンル名は3Dアニメーションノベルとなっているが、背景、主要人物ともにポリゴン数の少ない図形的なデザインであり、且つ、配色もパーツごとに単色ベタ塗りという思い切ったものとなっている。
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人工物はほぼ直線のみで構成され、屋外の木についてもモロに多角形を組み合わせだけのような平面的見た目、更に屋内シーンにおいて屋外は全く描画すらされておらず白一色であるなど、言ってしまえば「雑」とも言えるものなのだが……
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ゲーム画面の背景(最奥のレイヤー)には、常に花や鳥をあしらったステンドグラス風のイラストが表示されており、3Dパートの全モブキャラや煙など特定のオブジェクトはこのイラストを透過するように表示されている。
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説明がやや難しいが、モブキャラたちは輪郭と顔面以外いっさい着色されておらず、代わりにその部分は背景のイラストが透けて見える仕組みになっている。
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これにより、3Dポリゴンの世界をうねうねと色鮮やかな模様が動く独特の表現となっており、他のゲームやメディアでは類を見ないインパクトを発揮している。
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また、キリシタン村でありながら独自の信仰体系を築き上げてきた本作の舞台において、どこか異世界めいた印象を持たせる効果を担っている。
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好奇心をくすぐるオカルト的ストーリー
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橘はももるは外来者として大臼村を調べることになるが、調査を進めるに連れ奇妙な民話や、村人たちとの根底の認識のギャップなど様々な面で不穏さを感じるようになっていく。
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閉鎖的な村という舞台もあり、序盤はさながら金田一耕助シリーズのような日本文化に根差したオカルト的空気感を感じることができる。
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やがて大臼村が持つ決定的な異常さに触れ、前述の奇抜な視覚効果すらその伏線であったことに気付いた瞬間はハッとすること請け合いである。
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橘はももるのキャラクター性
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はももるは牧師ではあるが極めて社交的、且つ、気さくな性格であり、また常識外れなほどの食いしん坊でもある 。
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3Dパートにおいても村内で起こる様々な出来事に全身で驚き、落ち着いた柔らかい口調ながら感情を豊かに表現し、一方で村人に勧められた食べ物をテキスト送りの度に飲み込むように摂取する様子が簡素なモデリングながら生き生きと描かれており、先の気になるストーリーと併せて本作の魅力となっている。
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また他の登場人物についても、大臼村で神父を務めながらどこか憂いを帯びた「岡田黒州」や、正体不明の謎の少女、表情が描かれないが口調や行動によってキャラ立ちしている村人たちなど、独自の世界観を彩る脇役がゲームプレイを牽引している。
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過去シーン閲覧機能がある
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チャプターセレクトやバックログのない代わりに、進行済みの物語をシーン単位で見返せる「LOG」というメニューがある。
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いわばADVやRPGに時折搭載されているイベントギャラリーのようなものだが、ロープライスADVでこの機能を実装しているのは評価点にあたるだろう。
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操作性には難ありだが……(後述)
賛否両論点
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やや目に痛いビジュアル
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評価点であり、本作に触れたすべてのプレイヤーが最初に感じるだろう最大の特徴でもあるが、図形的オブジェクトと多数の色で描かれた世界には「見づらい」という評価が想定できる。
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先述の屋内シーンにおける屋外のように、描ききる必要のない場所は完全白一色になっているなど、コントラスト比が強いのも原因。
問題点
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少なめのボリューム
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章立てはされているもののそれぞれ数十分で読み終わるものであり、エンディングの到達には5時間もかからない。テキストアドベンチャーの価格あたりのボリューム相場を鑑みて大きく下回るわけではないが、あっさり目の印象は強い。
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ノベルゲーにやりこみを期待するのは筋違いではあるが、とはいえキャラ紹介といったおまけ要素もいっさい無く、ストーリーを最後まで読み終えた時点でゲームプレイとしては全て終了する。
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なお、劇中には選択肢は全く存在せず、よってストーリー分岐やマルチエンドも無い。これについては作劇上の都合もあるので必ずしも問題点とはいいにくいが。
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キャラクター「お嬢様」の表情とモーションが不自然
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ゲーム序盤で出会う「お嬢様」は、ほぼ常に何かをいぶかしむような「片目だけ細めた」表情をしており、人によるかもしれないが少々可愛げが感じられにくい。
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また、歩行モーションも怪我でもしているような不器用な動きであり、元々特徴的なモデリングであるとはいえ、デザイン性やキャラクター性というよりは、奇妙さの方が強く感じられるかもしれない。
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アニメーション演出の間の悪さ
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ゲームの大部分が3Dでのキャラクターのかけあいによって構成される本作だが、時折間が悪く感じられるシーンがある。
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例えば「子供のついていた鞠が川のほうに転がっていき落ちてしまう」シーンで、鞠が手元を外れ川に到達する様子を全員で見守ってから「鞠が……」と言及するなど。
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全般的に、他の人や物が動作を行っている最中に割り込んで喋るといったことがないため、セリフとセリフの間が不自然に空き、もたつきがちとなる。
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モブキャラに棒読み感がある
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主要人物についてはプロダクション所属の声優が担当しており、キャラクターの雰囲気とも合った演技となっているのだが、村人たちについてはかなり朴訥とした調子となっている。
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「LOG」機能が使いにくい
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進行済みの会話シーンは「LOG」メニューから視聴可能だが、以下のようなUIで「矢印にカーソルを合わせ、更に同方向へボタンを押すとシーン切り替え」「プレビューにカーソルを合わせ、決定ボタンを押すとシーン再生」という操作体系になっている。
<(左矢印)|(シーンのプレビュー画面)|(右矢印)>
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そのためシーンの閲覧後、次のシーンを見るには「右・右・左・決定」という手順を踏む必要がある。
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更にシーン閲覧後はカーソルが初期位置である2つ上の別項目にいちいち戻るため、実際に連続してシーンを見る場合、1つシーンを見るたびに「下・下・右・右・右・左・決定」と操作する必要があり、手間。
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矢印は飾りにして単純に左右に入力したらシーンが切り替わる、で良かったのでは……
総評
インディーならではの独自性と挑戦心溢れる作品。
ボリュームに難はあるものの、その特異なビジュアルはノベルゲームの中でもきらりと光るものがある。
万人向けとは言い難いかもしれないが、ゲーム画面やサークルの特設サイトなどを見てみて引っかかるものがあれば、その世界観に触れてほしい。
特設サイトには体験版もアリ。
余談
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PC版、及びPS4版のバージョン1.01ではVRプレイに対応している。世界観に全身で没入したい人は試してみても良いだろう。
最終更新:2021年10月30日 11:21