タケシとヒロシ
【たけしとひろし】
ジャンル
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ロールプレイング
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対応機種
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Nintendo Switch
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発売・開発元
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オインクゲームズ
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発売日
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2020年8月26日
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定価
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【Switch】900円(税込)
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レーティング
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CERO:A(全年齢対象)
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判定
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良作
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ポイント
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ストップモーションを採用したムービー ボリュームはあっさりめ
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概要
アナログゲームの製作・監修をメインに行っているオインクゲームズから2019年11月にApple Arcade向けタイトルとして配信されたADV+RPG。
いわゆるインディーゲームに該当するが、最大の特徴としてムービー・ADVパートが全編ストップモーションにて撮影されているという個性的なタイトルである。
なお、本記事では特段の断りがない限りは2020年8月26日より配信されたNintendo Switch版の内容に準じた記述を行う。
ストーリー
ゲームクリエイターを志す14歳の「タケシ」には7歳の弟「ヒロシ」がいた。
ある日、タケシはヒロシに自作のRPGである『マイティ・ウォリアー』を見せたところヒロシにプレイしてみたいとせがまれる。
ところが『マイティ・ウォリアー』は未完成の作品であり、タケシは遊びたがるヒロシに対してはぐらかそうとする。
しかしゲームをプレイできず悲しむヒロシを見て、いてもたってもいられなくなったタケシはあることを思いつく。
それは、自分で敵を操作することであたかも完成品のように見せかけるということだった。
「ヒロシのために、おれはゲームになる!」
かくして兄弟たちのちょっと不思議なゲームが始まるのであった。
特徴
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基本的にはムービーパートで話が進み、節目節目で作中作である『マイティ・ウォリアー』をヒロシがプレイする…という内容になっている。
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『マイティ・ウォリアー』
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5ラウンド制の戦闘形式を採用しており、5ラウンド終了時にヒロシの「たのしさケージ」が一定値以上ならばそのステージはクリアとなる。
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「たのしさケージ」は毎ラウンドごとのヒロシの「ドキドキ」ポイントに応じて増減する。
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「ドキドキ」は-30からスタートし、主人公がピンチになるほど得点は加算される。極端にダメージを受けず敵を倒してしまうと「ドキドキ」がマイナスのまま終わってしまい、「たのしさケージ」から数値が引かれてしまう。
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出現する敵は初手で9体の敵アイコンが配られ、これを任意の出す順番を決めることができる。
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ヒロシは出した順番に敵を攻撃する。このため大技を使うが溜めが必要な敵を後回しにすることで意図的に大ダメージを与えてドキドキを溜めたり、一体目はHPが高いが二体目に一撃で倒せる耐久力の低い敵を出して事故要素を排して確実に倒しきるようにする…などの調整が行える。
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シナリオの進行すると1ラウンド中に1回限り任意のタイミングで主人公のクリティカル・回避を発生させることができるようになる。
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主人公のHPが0になると当然ゲームオーバーとなるため、HPを0にしないように立ち回らなければならない。
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ステージには途中セーブポイントである「たいまつ」が存在するため、それ以降でHPが0になってしまった場合は「たいまつ」のあった地点から再開できる。
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Switch版の追加要素
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Switch版はApple Arcade版に先行する形で転校生であるヨースケが自作したゲーム『500m Zombie Escape』が作中のミニゲームとして収録されており、遊べるようになっている。
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人間を操作してゾンビから逃げる…というシンプルなゲームだが、キャラクターは片足を軸にくるくると回ってしまうというクセのある挙動のため、左右どちらに回転するかをタイミングよく切り替えつつ進む必要がある。
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ちなみにこのミニゲームはオインクゲームズが過去に3DS/iOS向けタイトルとして販売した『1000m ゾンビエスケープ!』のアレンジ移植・機能縮小版である。
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20年12月のアップデートによりゲームを一度クリアすると「チャレンジモード」に挑戦できるようになった。
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チャレンジモードはゲームオーバーになるまでエンドレスで戦闘を続けることが可能なスコアアタックモードとなっている。
評価点
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ストップモーションアニメ
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なんといっても小規模な製作体制でストップモーションアニメの製作の大変さとそれを理解した上で一本の作品を作り上げてしまったこと自体が評価点。
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製作工程を知らない人に解説すると「全ての動作を一枚一枚コマ撮りした上で動いてるように見せる」のがストップモーションであり、作中の映像は人物以外の小物含めCGなどではなく全て実際に作られたミニチュアを撮影した物である。
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そして映像業界ではアニメがちゃんと動いているように見せるために慣例的に1秒間に24枚の静画を用いて製作されている。つまりたった1分の動画を作ろうとするだけで1400枚以上の写真とその回数分人形を動かす必要があるわけで、ここまで説明すればいかに大変な作業か想像がつくだろう。
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もちろん作業労力上の限界か全編通して24fpsというわけではなくある程度静止画を用いたり動画枚数が24fps以下と思しき部分は見受けられるものの、極端に枚数が少なくガタガタするような場面はなく登場人物たちはまるで生きてるかのように非常になめらかな動きをする。
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キャラの表情もかなり細かく、しっかりと感情が伝わってくる。作中ではたびたびタケシが「ヒロシの悲しい顔を見ると断れない」とコメントするが、こうした文章にしっかりと説得力を持たせる絵作りに成功している。
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ボイスはないが、その代わりとしてキャラクターがセリフを発する場面では木琴のような優しいSEが鳴る。こちらも映像同様喜怒哀楽に合わせた音使いとなっており、ミニチュアの世界観にマッチした表現となっている。
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心温まるストーリー
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病弱なヒロイン的存在というと00年代の泣きゲーでたびたび見受けられ賛否を呼んでいた「安直な人の死」が連想されるが、そうした物に頼らず穏やかで王道的な兄弟愛が主軸となっている。
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また、最初はヒロシを楽しませることに苦心していたタケシがクリエイターとしての壁にぶち当たり、そこでどうするか…というのがストーリーのもう一つの柱である。
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この展開に「クリエイターあるある」ネタがいくつも仕込まれており、多少でも創作経験がある人ならばタケシにかなり共感できると思われる。
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そして本作は遊ぶ側と製作側の二つの視線でゲームの面白さが描かれるため、プレイすればから改めてゲームの本質的な楽しさを再確認できるだろう。後述の通りボリューム面に関して「軽い」一作だが、ゲームが好きな人にこそぜひ手に取ってもらいたい一作でもある。
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相手を「楽しませる」ゲーム
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主人公が勇者で魔物を倒すゲームはありふれており、逆に主人公が魔物や怪物で勇者や人間を倒す…というゲームもそれなりにあるが、魔物を操って倒さない程度に留めて楽しませるというのは他に類がなく、発想が面白い。
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ザコ敵を一体だけ出すだけではヒロシのドキドキが溜まらず先に進めず、かとか言って強力な敵を並べればすぐにやられてしまうジレンマがあり、単純にはいかないように仕上がっている。
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各モンスターの個別のステータスは表示されず、大まかな能力傾向しか解説文は出ないため、細かな調整はプレーヤーが体感で行う必要がある。この試行錯誤がなかなか楽しい。
賛否両論点
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ボリュームは短め
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(運に左右される部分もあるが)上手くいけばクリアするまでムービーシーン込みで2時間もかからない。1000円近い価格ならば近年は一定のボリュームのあるインディーゲームも少なくないため、比較するとやや気になる。
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もっともこれはオリジナル版が配信されたApple Arcadeは定額制で全タイトルが遊びたい放題という特殊な販売形態をとっているため、本作のようなクリエーターの感性に重点を置いたショート作品が生まれることができたとも言える。
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無駄に風呂敷は広げていないため話はまとまっており、気軽に遊びきれてエンディングも見られるためやりこみ要素が多すぎる大作ゲーに疲れたという人には向いている。上述の通り撮影の手間を考慮すればこれぐらいは妥当な観賞料金と言えるかもしれない。
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一応配信当初よりスコアアタックを極めるというやりこみ自体はあった。公式としてもこれを意識したのか後々チャレンジモードも追加されており、オリジナル版配信当初よりはボリュームは増している。
問題点
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画竜点睛を欠いたエンディング
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上述の通りストーリーの出来はよく物語の起承転結自体はできているのだが、「結」の途中でぶつ切りにされたような終わり方をする。漫画に例えるならば最後の1ページが欠けているような印象を受ける。
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収拾がつかなくなり事態がどんどん悪化していく…というオチではなく読破感自体は悪くないが、登場人物が抱えていた問題が解消されたことが分かりやすく表現されたエピローグが欲しかったところ。
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配信当初はいくつかバグがあり、RPGパートで勇者が攻撃がスカりやすく敵を倒せずに計算が狂うことがたびたびあった。
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現在ではいずれも修正されており、攻撃がミスる確率もかなり低く抑えられている。
総評
ゲームという媒体でゲームを題材にしたアーティスティックな作品。
近年のインディーズゲームは様々な趣向を凝らしたビジュアルのタイトルがあるが、その中でもストップモーションというのはなかなか珍しく、他作に埋もれない独自性があると言える。
ゲームパートもボリュームこそ控えめではあるが、相手を倒さず楽しませるというユニークな発想から作られており、ストーリー共々遊んだ人の心に残る一作だろう。
100点満点とは言い切れない部分はあるものの、アート的な作品としては良作として差し支えないだろう。
最終更新:2021年10月03日 22:39