TIZ -Tokyo Insect Zoo-
【てぃず とうきょういんせくとずー】
ジャンル
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アドベンチャー
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対応機種
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プレイステーション
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発売・開発元
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ゼネラル・エンタテイメント
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発売日
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1996年3月29日
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定価
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5,800円(税別)
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判定
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賛否両論
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怪作
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ポイント
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虫になった少年の不思議な物語 ゲームをゼロから変えすぎた 文字を使わない斬新すぎるシステム 何もかも奇抜すぎて電波ゲー扱いに シナリオは高評価
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ある日突然、カブトムシになってしまったらどうしますか?
概要
かつて映画やテレビ番組などの映像作品を手掛けていたゼネラル・エンタテイメントがおくる、輪廻転生と終末思想を題材とした甲虫3Dアドベンチャー。
キャッチコピーに「ゲームを、ゼロから変えてみた。」とある通り、これまでのゲームの常識を覆すような演出がなされ、他作品には見られないような独特すぎる世界観とゲームシステム、そして数々の問題点を抱えていた。
特徴
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シナリオ
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主人公の少年・リョウは突然カブトムシとなり、虫たちが住む世界に放りこまれてしまう。彼は様々な虫たちと出会い、ちょっと不思議な冒険を繰り広げる。
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パッケージ裏に書かれたキャッチコピーは、「
ある日突然、カブトムシになってしまったらどうしますか?
」これだけでインパクト絶大。
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挑戦的なシステムの数々
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本作のゲームシステムは「Active Talking System」と名付けられていて、
煩わしい文字表現に頼らない
ことを売り文句にしている(パッケージ裏より)。
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ゲーム内で文字が使われる場面はタイトルとスタッフロールしか無い。セーブデータ選択画面でさえ、ファイル番号や説明などは一切表示されない。
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構成
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ゲームを始めると「モーフ画面」という特殊なシーン(後述)に移行し、これを終えるとストーリーが始まる。
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シナリオは主に、誰かと会話する画面とFPS視点で3D空間を移動する画面の2種類で進行する。
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シナリオの節目にはアニメーション・ムービーが入る事がある。
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物語の舞台は、虫たちが住む楽園「Tokyo Insect Zoo」。リョウはカブトムシの姿でTIZに放り込まれ、仲間たちとの珍道中を経て脱出を目指すことになる。
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TIZが一体どういう場所なのかは、ストーリーを進めていくことで明らかになっていく。
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ある程度ゲームを進めるとTIZ内を歩き回るオープンワールドとなり、必要なイベントを全て回収することで物語が進む。
電波ゲーとして
斬新かつ実験的なコンセプトを採用した結果、本作は「PS黎明期の意味不明な電波ゲー」としてマニアックに語り継がれることになってしまった。
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予測不能なゲーム展開(ネタバレ注意)
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電源を入れると、まずはセーブデータ選択画面が表示される。しかしプレイヤーが目にするのはバスケットボールとその周囲を回る4つのカブトムシ。何をしたらいいのかは一切表示されず、説明書を読まないプレイヤーは困惑する羽目に。
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なお本作を真面目に遊ぼうと思ったら説明書が必須。付属していない中古品は間違っても買わないように。
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ここではカーソル代りの虫かごを動かし、ボールを選ぶと新規ゲーム、カブトムシを選ぶとセーブ済みデータを開始する。
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ニューゲームを始めると、
青空をバックに3DCGの変な球体が浮かぶ様子を唐突に見せられる。
何をしたらいいのかはゲーム内で説明されず、後ろでは「リョウ!リョウ!」と叫ぶ少女の声が繰り返される。どことなく不気味で、まるで悪夢のよう。
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ここではLRボタンを押すことで球体が変形し、全ての形に変化させると本編が始まる。
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テストプレイ段階でも詰まるスタッフがいたのか、説明書にはここから進めなくなった場合の対処法がきちんと書かれている。
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会話画面も文字を使わないことにこだわっており、シュール極まりない絵面になってしまっている。
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意味不明なモーフ画面を終えてほっとするのもつかの間、ゲームを進めていくと
いきなり画面が停止し、棒立ちでこちらを見つめるリョウの顔を見るハメになる。
何をしたらゲームが進むのかは、例によって全く説明されない。
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ここではLRボタンを押すことで、リョウのモノローグが読み上げられる。好きな音声を再生してから〇ボタンを押すと、その内容に応じてストーリーが進行する。
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しかし肝心の選択肢も、状況に合っていないズレた内容だったり、小学生らしからぬ"ませた"発言が飛び出すなど、プレイヤーを置いてけぼりにさせていく。(目の前の幼馴染と結婚する前提のセリフが飛び出したり、相手の台詞を無視して関係ない事を考え込んだりするなど)
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その他にも、シュールな部分が多い。
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LRボタンを連打すると会話がリピートされる。遊んだプレイヤーなら誰もが試すであろう小ネタ。
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会話シーンでは顔の輪郭が一切変わらず、口や目だけが動く不自然な様相に。まるで福笑いのよう。
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その後リョウは突然意識を失い、気が付くとカブトムシになってしまう。こうして虫たちの世界を冒険する事になるのだが……
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登場する虫たちのセリフが何から何まで意味不明すぎる。
「ケッコンちゃんをさがす」「じゃーん!」など意味不明なセリフの宝庫。
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「じゃーん!」というセリフは、TIZの解説員である昆虫学者のDr.マーチンが、珍しい昆虫を子供たちに見せるときの口癖だったらしい。
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これはカブトムシの会話を再現するための演出だと言われているが、初見では意味不明と感じる人も少なくないだろう。
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セリフのテンポはやたら良く、聞いていて飽きさせない不思議な魅力がある。
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主人公だけは真面目なのかと思いきや、目の前のカブトムシに対して殆ど疑問を抱いていなかったり、こんな状況でも幼馴染のことを考え続けるなど、常人では考えられないリアクションを取り続ける。
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問題点
本作がクソゲー呼ばわりされやすい所以として、ゲームパートの進めづらさが挙げられる。
様々な要因が進行を妨げており、まともにクリアするのもままならない。
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序盤こそ一本道で親切なつくりになっているが、中盤のオープンワールド化以降はシナリオを進めるヒントがほとんど存在せず、進行が困難になる。
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TIZの世界は広大で道に迷いやすく、どれだけ歩いても新規イベントになかなかたどり着けない。
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誘導も何かと不親切。
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草原で「君の仲間たちをさっき見た」というセリフが出てくるのだがそこで仲間に関するイベントは発生しない。ずっと歩いていると無駄足を食うことになる。
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昆虫園内にはある程度進行方向を指し示した看板があるものの、かなりアバウト。その方向に進んでいっても何も起きないことがある。
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中でも悪名高いのが、各エリアをつなぐ
換気ダクト
。クリアまでに何度も通ることになるのだが、ここで挫折するプレイヤーも多い。
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これは『Wizardry』のような3D迷路なのだが、分岐が多いうえに目印がほとんど無く、一歩間違えれば抜け出すことすら困難になる。
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その上、一方通行の強風地帯が至るところに存在する。運悪く到達すると視点を回され、現在地が分からなくなることも。
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操作性が悪い
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探索が主体のゲームにもかかわらず、ボタン入力と実際の動きに酷いラグがあったり、当たり判定に不備があったりと、とにかく操作がしづらい。
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特に落下時の動きは遅く、急に着地が入るため、人によっては画面酔いを起こしてしまう。その際のSEも不快さに拍車をかけている。
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ジャングル地帯ではジャンプで葉っぱを乗り着いていくのだが、飛距離が短いので頻繁に落下する。
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運悪く落ちてしまった場合、先述のダクトを使うなどしてまた戻らなければならない。
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一番上に上るには多段ジャンプが必須だが、この操作は
説明書にも記載されていない。
これに気づかないと到達できないイベントがいくつかあるのだが……。
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フォローしておくと、こうした不自由さはカブトムシとして生きる難しさの表現にもつながっている。これを通じ、リョウが人間に戻りたいと切に願う気持ちをプレイヤーも感じることができるかもしれない。
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その他、説明不足な操作システム
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電波ゲーの項で書いた内容を始め、本作は初めから終わりまでノーヒントの操作を要求されるシーンが多い。
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セーブするには会話画面でセレクトを押す必要がある。これもゲーム中で説明されないため、データ保存の方法がわからないまま行き詰まるプレイヤーも……。
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ある程度進めるとファストトラベルが解禁されるのだが、操作が非常にわかりづらい。
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ここではカブトムシとなったリョウを操作し、正しく羽を動かすことで別の場所に移動できる。
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「固い羽根を開いた状態で、やわらかい羽根を1秒ほどひたすら動かす」というのが正解なのだが、説明書を読んだ上でも理解するのが厳しい。途中からこの操作を強制されるシーンがあり、攻略の手が止まってしまう。
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ゲーム後半、
奇妙奇天烈な宇宙空間に飛ばされたのち、芋虫型の電車を突然操作させられる。
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多段ジャンプ同様、これも
説明書に操作方法が記載されていない。
このシーンに到達したら、色々動かして自力で操作を考えなければ進めなくなる。
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セーブ周り
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先述の通り会話シーンでしかセーブできないのだが、オープンワールド化した後はなかなか会話に辿り着けず、自由に中断できない。
賛否両論点
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ボリュームが少なめ
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攻略のスムーズ度合いにもよるが、EDまでにかかる時間はそこまで長くない。
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裏を返すと、攻略ルートさえわかればさくっと1周遊べる。
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会話のバリエーションが非常に豊富なので、周回プレイで違ったパターンを楽しむのも一興。
評価点
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電波な描写と不親切なシステムが目についてしまうが、
それらを受け止めた上で味わえるストーリーは概ね評価が高い。
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本作のテーマを簡潔に言えば「生と死」。リョウはたくさんの昆虫たちと出会う中で、新しい命をつなげることや、私たちが限りある命を持った生き物であることを学んでいく。終盤に近付くにつれて、その真髄に迫る様子は考えさせられるところがある。
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奇ゲーと聞いてふざけた気持ちで遊んでいたら、終盤で心を動かされてしまったプレイヤーもいるのではないだろうか。
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一見すると電波な世界観だが、「種を残すために懸命に生きる生き物たち」「自力で食物を集めなければならない自然の厳しさ」といった要素は一貫しており、決して煩雑には作られていない。夜に見る夢のように、ピントがずれているようできちんと成立している不思議さがある。
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ジャングルで出会えるハナカマキリとの会話、躊躇なく描かれる交尾シーンなど、強く印象に残る場面もちらほらとある。
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ステージの節々からは、虫たちの楽園が失われゆく事実が垣間見える。無邪気な昆虫たちと、プレイヤーが目にする現実のギャップは溝が深く、ポストアポカリプスのような重さが味わえる。
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発売から年月が経った今、これらの要素をわかりやすく説明するなら「
早すぎたけものフレンズ(一期アニメ版)
」といったところ。
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意味不明なようで一貫した奥深い世界観は、かのアニメに通ずるものがある。実際、放送時には本作を引き合いに出す視聴者がSNSで散見された。
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参加声優が豪華。
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ホンジャマカや爆笑問題と言った芸人から千葉繫や三木眞一郎といったプロ声優まで、幅広いジャンルの業界人が参加している。
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声優でないからといって侮るなかれ。主演の芸人二人をはじめ演技の質は高く、雰囲気を台無しにする極端な棒演技もそれほど無い。この手のPSの奇妙ゲームはいい声優を使うことで無駄にプレイヤーを世界観に惹きつけることに成功している。
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PS屈指のハイレベルなアニメーション
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ゼネラル・エンタテイメントは元々映像作品を手掛けていたこともあって、時折流される映像はPSの中でもかなり良質な部類に入る。アニメとしても違和感のない出来で、登場人物も可愛らしく描かれており、どこか愛着の湧くような見た目をしている。
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自然の描写はまるでジブリのように、身近にありながらも我々が憧れているような自然の在り方がうまく表現されている。本作はストーリーの特性上、植物などの自然も積極的に描かれるので、普段から人工物に囚われがちな私たちには癒しにもなる。
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特に序盤のリョウが転生する前までのシーンではどこか遠くにある埃かぶった思い出をえぐるような、そんな夏の描写がされており、プレイヤーによっては「ぼくのなつやすみ」と同じような感覚に陥るのではなかろうか。
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世界観とマッチした音楽
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本作の主題歌的位置として田嶋里香の「I Wish ~これからもずっと~」が起用されている。エンディング間近でこの曲が流れ、その涙腺を緩まされたプレイヤーも多いのではないだろうか。
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後年のゲームに近いオープンワールド要素をいち早く採用したのは特筆に値する。
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本作はメインイベントを進めるまでシナリオが進行しない。プレイヤーは好きな場所を進み、好きなようにイベントをこなすことができる。更にはファストトラベルや昼夜の概念も存在する。
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そのうえ日本ではなじみの薄いFPS視点も取り入れている。
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何かと荒削りな要素ではあるが、3Dゲームの未来を見据えていたのは間違いないだろう。
総評
PS初期の奇ゲーとして、頻繁に名前が上がる一作。
90年代半ばに生まれた第5世代ゲーム機は新しい表現を可能にし、多くのクリエイター達が実験的な作品を作っては、奇妙な作品群が世に送り出されていった。本作もまたその一つである。
プレイヤーの前に突きつけられるのは、意味不明なゲーム展開・電波な会話といった情報の洪水である。
ゲームとしてはとにかく不親切で、お世辞にも万人受けするとは言い難い。根気が無いと最後まで遊びきる事ができず、苦痛に耐えかねて投げ出しかねない一面がある。
だからといって、決して一概に否定できる作品ではない。根底にあるストーリーや世界観を評価する声は多く、負の要素をおしてまで良作とみなすユーザーも数多く存在する。
ゲーム性の悪さをストーリーが良しとしてくれる、いえば『ゲームでなければ良かった』不遇の作品である。もし単なる映像作品であれば、また評価は変わったかもしれない。
意味不明さを前に投げ出すか、その裏に隠れた強烈な魅力を味わうか、それはプレイヤー次第である。
余談
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本作には公式ガイドブックが存在する。
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裏設定や制作秘話が網羅してあり、世界観を完全に楽しむ上で必須の書籍とされている。
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このゲームは「リョウのかぶとむし旅行」という絵本を基に制作された。しかしオリジナルとはかなり物語の内容に相違がある。
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本作に声優として出演した石塚英彦氏が後にラジオ番組『爆笑問題の日曜サンデー』に出演した際に、本作の話題を出し、演出家から「カブトムシの声でやってくんないかな」という演技指導がされていたことが明かされた。
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その際に石塚氏も流石にキレて「お前カブトムシの声聞いたことあんのか?」と言い返したとのこと。
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「言葉を使わないゲーム」という試みは本作に限らず、新旧様々な作品で試みられている。
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94年発売のオムニバスRPG『ライブ・ア・ライブ』には、言葉が無い原始時代を舞台としたシナリオが存在する。ここではシステムなどを除き、一切文字が使われない。
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この設定はシナリオ的にも意味が大きく、ゲーム終盤のテーマを壮大にする役割も果たしている。ただし記事にもある通りゲーム進行が不親切になる欠点も兼ね備えている。
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セガサターンには、文字どころか
ゲーム画面が存在しない
ADV『リアルサウンド ~風のリグレット~』が存在する。
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視覚障碍者でも楽しめるのが大きな特徴であったが、発売時は大きな賛否を呼ぶことに。続編も構想されていたが、立ち消えに終わっている。
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なお選択肢に遭遇した際のUIは、『TIZ』の会話パートにかなり近い。
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2018年にはスクウェア・エニックスより、聴覚障碍者が主人公のゲーム『THE QUIET MAN』が発売された。
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コンセプトにちなんでゲーム内では一切の音声が流れないのだが、当然ストーリーなども一切説明がなされない。こちらは酷評を受け、海外では記録的に低いメタスコアを記録してしまった。
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いずれの作品を見ても、
文字を使わないゲームを作るのは何かと無謀なチャレンジになる
事が窺える。
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パッケージ裏には「ゲーム史上初の、アニメーション・ムービーと3Dポリゴンの完全融合」と書かれているが、どこまで本当なのかは怪しい。
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舞台となるTIZのモチーフは多摩動物公園の昆虫館。説明書には東京湾埋立地の前にTIZが存在していたという旨が著されているが、
実際に存在していたかは不明
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最終更新:2022年05月04日 23:45