リアルサウンド ~風のリグレット~
【りあるさうんど かぜのりぐれっと】
ジャンル
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インタラクティヴ・サウンド・ドラマ
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対応機種
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セガサターン ドリームキャスト
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発売・開発元
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ワープ
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発売日
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【SS版】1997年7月18日 【DC版】1999年3月11日
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定価
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【SS版】7,040円 【DC版】6,630円
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プレイ人数
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1人
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判定
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賛否両論
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ポイント
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世界初・画面のないビデオゲーム そのぶん唯一無二の没入感あり 仕様上、UIは不親切 意欲的過ぎて賛否両論 作風を受け入れた人からは評価が高い 視覚障害者でもプレイ可能
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ワープ作品
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概要
意欲的なADVを数多く生み出した鬼才クリエイター、飯野賢治氏の代表作の1つ。
一人の青年と、その子供時代の切ない思い出を巡る、一夏の恋物語を描いたインタラクティブゲームである。
セガサターン後期に出された本作は、ゲーム画面を一切使用しないという斬新な試みで知られている。
発売当時は尖ったコンセプトから拒絶する意見も少なくなかったものの、その一方で根強いファンも数多く生み出した。
あらすじ
大学生・野々村博司は、小学校の頃の懐かしい夢を見ていた。
夏休みが終わったら転校するという隣の席の女の子と"駆け落ち"の約束をするのだが、待ち合わせ場所の時計台に、その子は現れなかった。そして2学期、女の子はそのまま転校してしまっていた。
博司は恋人の桜井泉水に起こされた。彼女の会社の人事部長を紹介してもらう大事な日だった。夢の話をすると、泉水は「もう忘れちゃった」と微笑む。そう、彼女はあのときの初恋の女の子なのだ。ところが、2人で面接に向かう途中、彼女は突然地下鉄を降りてどこかへ行ってしまった。数日たっても何の連絡もない。泉水は失踪してしまったのだ…。
(パッケージ裏面より)
スタッフ
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脚本を務めたのは、ドラマ『東京ラブストーリー』で知られる坂元裕二氏。
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ワープ作品ではこれ以前に『エネミー・ゼロ』のセリフを担当していた。
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2021年現在も脚本家として活躍しており、『風のリグレット』以降も『花束みたいな恋をした』や『カルテット』などの脚本を務めている。
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BGMは『MOTHER』シリーズでもお馴染みのミュージシャン、鈴木慶一氏が担当している。
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ゲーム内には歌詞付きの音楽も流れるため、『MOTHER』とはまた違った趣がある。
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ボイスには俳優を起用。
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柏原崇氏や菅野美穂氏、篠原涼子氏といった、現代でも度々名前を見る有名俳優が主要人物を演じた。
特徴
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本作では、画面が一切使用されない。
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セガサターンをテレビに繋いでも、ディスプレイには黒い画面がひたすら表示されるだけである。もちろんタイトル画面やスタッフロールも存在しない。
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代わりに、シナリオは全てフルボイスで読み上げられる。画面が無いため、プレイヤーの前に広がる世界は個人の想像に大きく委ねられる。
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飯野氏は本作をテレビで遊ぶことは強制しておらず、セガサターンをCDプレイヤーやコンポに繋いで遊ぶことを推奨していた(説明書より)。
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しかし本作はディスク4枚組となっており、ディスク入れ替えの際は一旦セガサターンのメニュー画面に移行してしまう。テレビを使わない場合は混乱する恐れがあるかもしれない。
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説明書では、天気のいい休日の午後に体調を整えて遊ぶ事が推奨されている。プレイ時間は4時間ほど。
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本作は夏の田舎町が舞台であり、ゲームの終わりと共に夏の思い出も幕を下ろす。その流れ上、推奨されている通りに遊ぶと本当に没入感が増すのでおすすめ。更なる没入感を求めるならば、夏場のプレイが推奨される。
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システム
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今作はマルチエンディングを採用している。
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ゲーム内では定期的に選択肢が挿入され、その内容に応じて5種類のエンディングに分岐する。
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ハッピーエンドとなるのは、適切なプレイをした際に見られる1種類のみ。また残りのうち1種類は狙わないと中々見られないレアな内容となっている。
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選択肢の部分に入ると独特なアラートが鳴り、ゲームが中断する。ここで方向ボタンの左右(場合によっては上も含む)を押すと対応したボイスが流れ、再生中にLかAを押すとその選択で確定される。
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しかしこのマルチエンディングシステムが、今作では足枷となってしまっており…(詳細は問題点へ)
評価点
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侮れない没入感
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画面を見せない事で、プレイヤーが思い描く世界は様々な広がりを見せる。想像力が求められる分、その没入感は通常のノベルゲームでは味わえない底力を秘めている。
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身もふたもない事を言ってしまえば、やっている事はラジオドラマそのもの。しかしプレイヤーの手でシナリオを変えていく"アドベンチャーゲーム"の体裁はきちんと取られており、主人公と一体となって物語を体験する魅力も同時に備わっている。
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プレイの最中、思い出したように黒い画面を見つめ、その向こうに広がる田舎町の光景を思い描くのも一興。『ぼくのなつやすみ』のような、ノスタルジーを強く感じさせる作品を求めるプレイヤーにもおすすめできる。
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印象深いキャラクター・セリフ回し他
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ちょっと捻りつつも、どこか印象に残る文章回しは本作の魅力の一つ。
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脚本を務めた坂元氏の実績が遺憾なく発揮されていて、氏が過去に務めた『東京ラブストーリー』との共通項を指摘する声もある。
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参考に、ゲーム冒頭の語りはこんな感じ。
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時に人と人との出会いが初めてじゃないような気がするのは、何も前世なんて言葉で解決するような事じゃないのかもしれない。
幼いころ、それが世界の全てかのように愛した──自転車や虫かごや学校の裏山も、今では何も思い出せず遠い霧の向こうに音も立てずに隠れている。
けれど、記憶喪失の人が自転車の乗り方を忘れないように、それは決して消えて無くなった訳ではなく──
ある日突然、霧は晴れる。
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キャラクター描写は一癖も二癖もあり、掴みは抜群。独特の語りで物語を進める博司はもちろんのこと、もう一人のメインキャラである奈々も何かと強烈な一面を見せる。
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ポケットに小鳥を入れて電車に乗る不思議ちゃんかと思えば、泉水を探す際にガラスを割って不法侵入する凄まじい暴走を見せたりと、濃いキャラを発揮している。
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それでいて二人とも人間臭さは強く、感情移入がしやすい。
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時々流れる挿入歌もインパクトが強い。唐突な「いちなななななな~」(正式名称「天気予報の歌」)は意表を突かれること必至である。
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画面が無い分、打ち付ける雨の音や子供の喧騒、車が走る音なども一般的なサウンドノベルより強く印象に残り、雰囲気を盛り上げてくれる。
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怒涛の後半
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人物の描写に惹かれれば惹かれるほど、DISK3終盤以降の展開は大きな盛り上がりを見せる。
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きちんとフラグを建てていれば、博司の過去と今が一つに繋がり、10年越しの謎が全て明らかになる。そのうえベストエンドを引き当てていれば、鮮やかな構成で物語は幕を閉じる。
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真相を知ってから2周目以降を遊ぶと、参加俳優の演技に伏線が垣間見えて興味深い。
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システム上、視覚障害のプレイヤーでも遊ぶ事が可能。
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本作には点字の案内カードも付属しており、そこに書かれた宛先に手紙を送れば、点字での説明書を受け取る事ができた。
賛否両論点
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そもそものコンセプト自体が賛否両論
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画面を使わないという発想に対し、上記のように没入感に繋がる等として大きく評価する声もある一方、真っ暗な画面を映し出すだけの物をゲームとして販売した事に対して「奇をてらっているだけだ」とみなしてクソゲー評価を下す意見も少なくなかった。
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所々ツッコミ所があるシナリオ
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本作は正確性よりムードを重視したタイプの作品で、人によっては気になるような矛盾点が少なくない。
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例えばゲーム冒頭からして「終業式の日なのに算数の授業を行っている」「7月末なのに台風19号が来ている」など、不自然な箇所が見受けられる。これらをインパクト重視の一面と見るか、没入感を削ぐ要素と見るかはプレイヤー次第である。
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物語の真相からして大胆なので、細かい所を重視するプレイヤーには合わないかもしれない。
問題点
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UI面全般
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「画面が無い」という仕様のため、当然バックログもテキストスキップも存在しない。
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一時停止が一切できない。
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今作は自分でテキストを進める訳ではなく、選択肢以外ノンストップでボイスが読み上げられていく。プレイ中に宅配便や電話が来たり、トイレに行きたくなったりした場合は大変。
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DISK4に至っては一部ルートを除いて選択肢が全く無いため、1時間に渡りゲームが中断できなくなる。入れ替え前はトイレに行ったり飲み物を用意したりするなどの準備を忘れずに。
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ADVなのにオートセーブ制。
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説明書を見る限り「一気に遊んで欲しいけどそれが出来ない人のために仕方なく用意した」といった感じで、ちょっと投げやり。セーブ地点によっては再開時に10~15分近く戻されてしまう。
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このようなシステムにもかかわらず、マルチエンディングを採用したこと。
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オートセーブのせいで選択肢の差分を吟味できないため、バッドエンドを見た場合はまた4時間かけて最初から遊ばなければならない。
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ネタバレになるため詳細は省くが、バッドエンドが確定する行動はごく普通に選んでしまっても仕方がなく、タイトル通り"後悔"した時には後の祭り。
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殆どのバッドエンドは物語に入れ込むほどショックが大きく、初見の感動を保ったまま完走できないのはかなりのマイナス要素である。
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フォローしておくと、バッドエンドのクオリティ自体は高い。
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女性の恋愛観がかなり生々しく描かれており、俳優の演技力も相まって失意が強く残る。登場人物の真意も細かい描写から垣間見え、真相を知ったうえで行間を読み解くとかなり切ない。
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いちおう強硬手段として、サターンのデータをパワーメモリーに移しておくことにより、オートセーブを回避する荒業もある。
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後に出たドリームキャスト版では、ビジュアルメモリを抜くだけで手軽にこの裏技が使えるようになった。
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音量バランス
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極端に音が小さいシーンがあり、テレビの音量をかなり上げないとボイスを聞き取れない事がある。
総評
「画面を使わないゲーム」という発想の奇抜さゆえ、コンセプトからして合わない人もいる反面、作風を受け入れたプレイヤーからは名作と名高い評価を受けている。
シナリオを彩る文章回しも演出も印象的で、何も映らない画面の向こうにプレイヤーだけの世界を思い描けるADVは本作だけ。
もし興味を持てたなら、暑い日に冷たい飲み物を用意して、午後のひと時を本作で過ごしてみるのも悪くないかも。
移植
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ドリームキャスト版(1999年3月11日、ワープ)
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本作がセガサターンで発売された2年後、セガの次世代機であるドリームキャストに移植された。
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GD-ROMの採用により、DISK数は4枚から2枚に減っている。
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こちらは振動機能が追加された他、画面に風景写真が表示されるようになった。
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先述の通り、ビジュアルメモリを抜く事で気軽にオートセーブが回避できるようになった長所もある。
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初回限定盤には今回もハーブの種の他『D2-Shock』と題したおまけディスクが同梱されており、このディスクからデータをビジュアルメモリにセーブすると「3DO M2版」Dの食卓2のオープニングムービーが見られるなどのおまけが楽しめた。
余談
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初回限定特典として、ハーブの種が封入されていた。
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劇中、泉水がハーブを育てているシーンが存在し、物語とのリンクを図ったおまけと思われる。
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作中の泉水がそうだったように、育ててはみたものの枯らしてしまったプレイヤーも少なくない模様。
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そもそも発売即ワゴンに行ったので、通常版を見た人が居ない
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セガサターンのコンプライアンスの都合なのか、説明書には光過敏性てんかんに関する注意書きや、休憩を取る事を求める注意書きが他のソフト同様に収録されている。
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もちろん、本作を遊んでてんかんを発症したり目の疲れを訴えたりするはずもなく、全く意味がない。
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最後は「よくここまで読みましたね」と一言だけ付け加えられている。
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本作発売の2か月後には、ラジオドラマとして再編集された「ノンインタラクティブバージョン」がFMラジオで配信された。
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本作がきっかけで、主演の2人が付き合い始めたというゴシップが存在する。
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『リアルサウンド』シリーズはこれ以降も続編が企画されていたが、いずれも発売される事は無かった。
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ソフトにも出演者募集用のメッセージカードが封入されていた。
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2作目はホラーを題材とした『霧のオルゴール』、3作目はコメディ作品の『スパイランチ』が予定されていた。
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このうち『霧のオルゴール』のストーリーは『Dの食卓2』に転用されたという。
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街ではこのゲームの存在が話題に上がる。
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「今作っているゲームには画面がないんだ」「画面がないゲームならもうあるよ」「自分が作ったのは音も画面もないゲーム。これぞ想像力が求められる究極のゲームだ」「それって手抜きなんじゃ…」という形であまり好意的には扱われてなかった。
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本作の評価についてはやはり色々な場所でも大きく評価は割れた。
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発売当時はかの『超クソゲー』で紹介された事もある他、漫画家の久米田康治氏は自身の作品『かってに改蔵』の中で本作を何度か酷評していた。
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その一方、ネット上には本作を絶賛する個人サイトやブログは少なくなく、2ch(現5ch)でもいくつもスレが完走する程には話し合いが交わされ、Amazonのカスタマーレビュー(DC版)も高得点を維持している。
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近年は以前のような酷評を聞く事は減ってきているが、今になってプレイするのはこういった事情をある程度知った上でプレイする人間が多いのもあるだろう。
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元々、飯野氏からして賛否の激しいクリエイターだった事もあり、遊ぶ前から懐疑的に捉えていた人も少なくないと思われる。
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本作と対極にあるゲームとして、21年後にスクウェア・エニックスから発売された『THE QUIET MAN』が存在する。こちらは逆に画面はあるが音が出ないゲームである。
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しかしそのせいでストーリーの理解が困難となり、海外を中心に炎上。本作とは違った形で物議を醸す作品となってしまった。
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障害者に対しても意欲的な試みとなった本作だが、23年後にはとあるゲームで視覚障害のプレイヤーによるクリア報告が上がった。時代が追いついたと言えるかもしれない。
最終更新:2024年06月14日 15:05