ものしり自遊学(小倉百人一首編)
【ものしりじゆうがく おぐらひゃくにんいっしゅへん】
| ジャンル | RPG |  | 
| 対応機種 | 3DO | 
| 発売・開発元 | 神鋼ヒューマン・クリエイト SHCデジタルワークス
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| 発売日 | 1995年12月15日 | 
| 定価 | 8,580円 | 
| プレイ人数 | 1人 (ミニゲームは1〜4人)
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| レーティング | 3DO用審査 E(一般向) | 
| 備考 | FM-TOWNS版も発売 | 
| 判定 | ゲームバランスが不安定 | 
| ポイント | 百人一首×RPGという前代未聞のゲーム RPGと呼べるのか議論の余地あり
 エンカ率が高くテンポが悪い
 攻略困難or敗北要素無しの極端な難易度
 クイズは何かと勉強になる
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概要
数ある3DO向け学習ソフトの一つ。FM-TOWNS向けにも発売された。
パッケージに「あっ小倉百人一首がRPGになった!」とあるように、本作はRPGの戦闘を百人一首に置き換えた斬新なソフトとなっている。
特徴
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モードは4つ。
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今作のメインモード「うたあわせ之巻」「わかるかな之巻」では、戦闘の代わりにクイズを解いてゲームを進めていく。
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その他、百人一首やぼうずめくりが遊べるモードも収録されている。
 
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うたあわせ之巻
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食いしん坊のたぬきが主人公。通りすがりの謎の生き物やまびこの誘いで「うたあわせをしておだんごをたべようツアー」に参加することとなり、おだんごを求めて旅をする。
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ストーリーは簡潔ながらもきちんとまとまっていて、ちょっとしたオチがつく。妙にプレイヤーとの距離感が近い語り部も印象的。
 
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広大なフィールドを探索し、旅のゴールへたどり着けばクリア。
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町やダンジョンはなく、フィールドだけで話が進む。
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フィールドのあちこちには調べられる物がいくつか置いてあり、フラグを建てながらゲームを進めていく。
 
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途中には全部で3つの関門があり、唄合せを数問クリアする事で先に進めるようになる。
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一部関門を突破すると、たぬきが特殊能力を手に入れる。
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道中の木を調べると葉っぱが手に入り、1枚消費して姿を消したり仙人に変身したりできる。
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葉っぱは一度に2枚しか持てないが、何度でも入手可能。
 
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セーブはフィールドでいつでも可能。
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戦闘では、戦いの代わりに百人一首のうたあわせを数問行う。
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提示された上の句に対し、画面下に複数(4、5枚)の下の句が表示されるので、対応するものを選べば正解となる。制限時間が過ぎるか、札を間違えるかするとアウト。
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たぬきには最大5点の体力(おにぎりの個数で表現される)を持っていて、不正解になると1つ失う。全て失うとゲームオーバーとなり、セーブしたところからやり直しとなる。
 
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フィールド上の穴にはアイテムが落ちており、唄合わせを有利にするアイテムが取得できる。
 
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わかるかな之巻
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こちらはやまびこが主人公。やまびこの長・ひこじぃの知恵比べに挑み、「うたあわせ」とは異なるマップを旅する。
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ゲームの基本的な流れは同じだが、こちらは唄合わせの代わりに百人一首関連のクイズを解いていく。
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出題内容は唄の背景知識や決まり字、公式ルールの詳細など。
 
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「うたあわせ」モードのような関門や、変身能力で進む要素は無い。
 
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ゲームとは関係無いが、説明書はなかなか実用的。
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巻末には全ての句が書いてあり、どうしてもクリアできない人のための救済策としても有用。
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百人一首のルールも掲載されており、誤情報の訂正を記した紙も入っているくらいに真面目な監修を受けている。
 
問題点
RPG系のモード
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全体的にテンポが悪い
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その内容は「ちょっとマシになった『元祖西遊記スーパーモンキー大冒険』」と言った感じで、エンカウントが頻発する広大なフィールドをノーヒントで歩き回る苦行が待っている。
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誤解の無いよう書いておくと、『西遊記』と違ってイベントマスはきちんとわかるようになっている。それでもフィールドは広過ぎて、結構な苦労を強いられる。
 
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また一挙一動のテンポが悪く、ストレスを増大させている。
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初期の『ドラクエ』よろしくAを押すといちいちコマンドメニューが開くようになっており、いわゆる「便利ボタン」が無い(参考に、ドラクエに実装された『V』は本作の3年前)。何かを調べる際はいちいちメニュー内の「しらべる」を選ぶ必要がある。
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エンカウントが発生する度に数秒ほどのロードが入る。
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読み上げ開始も札の正否判定も長めの間があり、各戦闘に時間がかかる。
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お手つきをするといちいち10秒ほど、体力消失のアニメーションが挿入される。
 
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エンカウント率はそこそこ高く、その割に後半の戦闘時間は長い。
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途中からは1回の戦闘につき4枚のカルタを取らされ、時間がかかる。
 
 
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広い世界をノーヒントで歩き回る仕様が災いして、「うたあわせ」モード序盤は厄介な詰みポイントが生じている。
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中央に巨大な池が位置しているのだが、中を通ると大量のおたまじゃくしに襲撃されて戻されてしまう。この池を通るには頭を捻る必要があり、プレイヤーによっては本作最大の難所となる。
 
    
    
        | + | 詳細 | 
直前の関門を超えた後、タヌキはアイテムの葉っぱを消費して透明のまま数マス進めるようになり、岸から数マス以内にある小島なら移動可能となる。
しかしタヌキが所持できる葉っぱは2枚しかなく、2つ小島を渡ったところで行き止まりとなってしまう。
その2つ目の小島には葉っぱの取れる木が無く、周囲は池で囲まれている。
 
    
    
        | + | 答え | 
解法は至ってシンプルで、1枚目の葉っぱを使った後、途中にある木から葉っぱを取る事で池を渡る回数を増やすのが正解である。
「2枚しか持てないから2回しか渡れない」という固定観念から脱却するのがポイント。
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わかってしまえばなんて事は無いのだが、フィールドが無駄に広いせいで「どこかに入手必須アイテムがある」と誤解を招きやすく、自然と難易度が引き上げられている。
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池の南には不自然な袋小路や謎の土俵があるのだが、攻略には何の関係も無い。余計なものを置いたせいで必須フラグか何かと誤解を招きやすくなっている。
 
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うたあわせモード前半の難易度が極端
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ゲーム序盤は下の句が最初から表示されており、同じことが書いてある札を取れば簡単にクリアできてしまう。
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下の句は漢字で、札は平仮名で書かれているが、それ以外に違いは無い。百人一首というよりも漢字の読み仮名テストになっていて、練習用としても簡単すぎる。
 
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最初の関門を進めた後は難易度が上がり、下の句が表示されなくなる。しかし実際の百人一首よろしく少し間を開けてから下の句を読まれるので、やはり苦戦する要素が無い。
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元の競技では下の句が読まれた後でも札を早く取れるかどうかで勝敗が分かれるが、このゲームは制限時間がたっぷりあるので無傷でクリア可能である。
 
 
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うたあわせモードの致命的な欠陥として、全ての唄を覚えてないプレイヤーは下の句が読まれないゲーム後半からなすすべが無くなり、覚えているプレイヤー(もしくは説明書で答えを見ながら遊ぶプレイヤー)は全く苦戦せずに突破できてしまう。
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本作は制限時間内に札を取るだけでOKとされ、実際のカルタのように早く取る見返りが全く無い。
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その制限時間も十数秒あり、下の句を覚えている人がそれを思い出す前に時間切れになる事はまず無い。
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百人一首は速さを競う要素があるからこそ競技として成立しているが、本作は「唄を覚えているかどうか」だけに焦点を当てた結果、ゲーム性が薄くなってしまっている。
 
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後半は1戦闘につき3~4問解くことになるため、およそ2/3の戦闘で回復アイテムが出るとすると、78句から85句ほど覚えているごく限られた人で無ければ丁度良いゲームバランスにならない。
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百人一首のゲームで唄を覚えず遊ぶのはおかしいことでは無い。実際の百人一首を遊ぶには必ずしも全ての句を覚える必要が無いし、このゲームを通じて唄を覚えたい人にとっては明確な問題点となる。
 
    
    
        | + | 参考:別の学習ソフトとの比較 | 
百人一首と全く同じ「暗記」「速さ」のスキルが求められる題材としてタイピングが挙げられるが、そのロングセラーとして知られる学習用PCソフト『特打』はブラインドタッチが出来ない人も出来る人も学習の余地があるソフトに仕上がっている。
このゲームには初心者用の講習モードが用意されており、列ごとのキーボード配置を遊びながら学ぶことができる。
また初心者向けから上級者向けまで幅広くコースが用意されている。配置を覚えてしまった人でも制限時間付きの最難関のモードをクリアするにはそれなりの鍛錬が必要となり、より腕を磨くことができる。
そもそもタイピングはキーボードを見ながらでも行えるため、無理して配置を覚える必要も無く、遊ぶための敷居が低い。
その代わり高難易度のモードをクリアするにはブラインドタッチが必須となり、自然と学習の意欲を与えてくれる。
反面『ものしり自遊学』に初心者が学べるモードは無く、上級者は百人一首の競技性を味わう事ができない。これらの点がフォローされていれば、本作は違った評価を得られたかもしれない。
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戦闘の見返りがほとんど無い。
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勝利しても経験値が入る事は無く、手に入るのは回復アイテムのみ。
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このためエンカウントがゲーム進行を妨げるストレス要因にしかならず、単にわずらわしい物となっている。
 
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育成要素が無いとなれば、そもそもRPGと呼んで良いのか微妙な話になってくる。
 
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「うたあわせ」で札を読み上げる際は句に対応したイラストが表示されるのだが、約1/4が何かしら下の句をネタバレしている。
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例えば「これやこの 行くも帰るも 別れては」に対して逢坂の関が描かれたイラストが出てきたり、「難波(なには)江の 芦のかりねの ひとよゆゑ」に対して澪標(みおつくし)が描かれたイラストが表示されるなど。
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それぞれ下の句は「知るも知らぬも 逢坂(あふさか)の関」「みをつくしてや 恋ひわたるべき」で、少しでも百人一首をかじった事のある人なら即座に答えがわかってしまう。
 
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こうした極端な例以外にも、上の句には出てこない「月」「雪」のイラストから下の句が推測できるパターンも多い。
 
その他のモード
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百人一首で遊べるという触れ込みのモードがあるが、これは上の句を読み上げるだけ。札は自分で用意しなければならない。
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仮にもゲームソフトなのに、本ソフトのみで対戦するゲームなどは付いていない(あったとしたら別物の競技になるが)。
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百人一首の読み上げCDは当時の時点でも存在しているため、この機能は本作独自のメリットとは言い難い。
 
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ミニゲームとしてぼうずめくりが収録されている。これはプレイヤーが介入する余地の無いビンゴゲームのような運ゲーで、3DOを使ってまで遊ぶ意義があるのか謎。
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というか上記の百人一首モードに使える札があるならそれを使って遊べば良いだけの話なので、ますます存在意義が不明である。わざわざこのモードを必要とするシチュエーションがあるならば、百人一首の読み上げ機能が無意味になる。
 
賛否両論点
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RPGモードの出題順序は固定で、セーブ地点からやり直すとその後は必ず同じ順番で問題が出題される。
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ランダム性が重要となる百人一首においては致命的な欠陥とも言える。
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しかし同じ問題が反復される都合、入門者が札を覚えるには都合が良い。一度間違えた問題を復習できるため、漫然と遊ぶよりも学習の糧になる。
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そもそも本作は百人一首を覚えて挑まないとクリア困難になるため、救済策としても機能している。
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相当な根気が必要となるものの、これを利用すればノーヒントでのクリアも理論上は可能である。
 
 
評価点
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ゲームの性質上、多人数で1人用のゲームが遊べる。
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出題された問題に対し、知恵を出し合ったり早さを競ったりすれば、今作の難点もある程度緩和されると思われる。
 
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「わかるかな」モードの出題内容はためになる雑学が多く、教養を深められるモードとして良くできている。
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知識が無くても歌の内容から答えを推測できる問題も多く、「うたあわせ」と異なり無難な難易度に収まっている。解説も読み応えがあり、今作で一番おすすめできるモードである。
 
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「わかるかな」モードでコメディタッチに描かれる恋愛劇は、様々な恋模様を描いた百人一首のように単純に終わらないものとなっていて、ある種の原作再現とも言える。
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問題点で触れたぼうずめくりだが、坊主の顔芸は面白く、バカゲーとしては評価の余地がある。
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また実在するローカルルール「蟬丸を坊主に含めるかどうか」を選択できるこだわりっぷり。
 
総評
RPGを別の競技と組み合わせる発想に行き着いても、それだけでは面白さが保証されないという、ちょっと考えさせられる作品。
今作は単に2つのジャンルをなぞるだけに終始しており、「時間を競う要素が無いと百人一首として成立しない」「RPGのエンカウントは見返りが無いと面倒なだけ」といった副次的に生まれた問題点にフォローが無い。
両方の面白さの本質が欠けている、なんとも勿体ないソフトである。
教育ソフトとしても「遊びながら覚える」といった要素は薄く、出題固定仕様を駆使して攻略するにはストレスが溜まる。そのうえイラストでのネタバレや出題固定といった回避不可能なヒントは学習の妨げにもなる場合もある。
本作を勉強に使うくらいなら、市販の読み上げCDで十分と思われる。
しかしコンセプトのユニークさは間違いなく本物なので、百人一首をある程度知っている人同士ネタとしてワイワイ楽しむのには適しているかもしれない。
「わかるかな」モードは百人一首の世界を拡げる魅力があるので、人によっては百人一首への関心を深めるきっかけになるかも。
余談
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本作の開発元は製鋼企業のグループ会社で、ゲームソフトとしては異色の分野からの参入である。
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この会社ではPCを使った社員教育のノウハウが蓄積されており、その流れを汲んだ事業部門が本作の開発元にあたる。(参考)
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しかしセールスが思わしくなかったのか、他に教育用のソフトウェアが発売された様子は確認できない。
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企業自体は存続しており、社員のインタビューなどがネット上で確認できる。
 
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大元の神戸製鋼は何かと多角的に事業展開をしていたらしく、当時の公式ホームページによればゴルフコースやマンションの経営、果てはさぬきうどんの販売まで行っていたそうな。
 
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本作に限らず、RPGの戦闘を別競技に置き換えた挑戦的なゲームは数多く存在する(麻雀、野球、ぷよぷよetc)。しかしその多くはテンポの悪さが問題視されており、良くてイロモノ扱いに終わっているのが現状である。
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「百人一首を知らなければ一戦も勝てない」「とてもクリア不可能」と紹介しているサイトが複数あるが、これは大げさに誇張されたガセネタである。
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先述の通り、ゲーム序盤は極端に簡単なので、解けないはずがない。
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説明書では全ての句が紹介されており、これを見ながら進めれば誰でもゴリ押しでクリア可能である。
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このようなカンニングを行わなくとも、乱数固定の仕様があるおかげで全く解けないという事はほぼありえない。
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皮肉な事に、本作一番の詰み要素は百人一首と関係ない池渡りである。
 
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『小倉百人一首編』と銘打たれた本作だが、残念ながら他の『ものしり自遊学』シリーズが出る事は無かった。
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シナリオは続編を匂わせる終わり方となっており、未解決の伏線が残されている。語り部も次回作を楽しみにするような発言をしているだけに、ちょっと悲しい。
 
最終更新:2022年01月22日 13:42