8Doors: Arum's Afterlife Adventure

【えいとどあーず あるむず あふたーらいふ あどべんちゃー】

ジャンル アドベンチャー
対応機種 PC(Steam)
Nintendo Switch
発売元 NEOWIZ
開発元 Rootless Studio
発売日 【PC】2021年4月8日
【Switch】2022年4月21日
定価 【PC】2,050円(税込)
【Switch】2,100円(税込)
プレイ人数 1人
レーティング IARC 7+
判定 良作
ポイント 死後の世界が舞台の高難度メトロイドヴァニア
東洋的ムードが前面に出た世界観

概要

韓国の「バリ姫神話」に着想を得た2Dアクションアドベンチャー。
地続きに繋がったマップを、新たなアイテムや能力を身に付けながら探索する、いわゆる「メトロイドヴァニア」式のゲームである。
なお、本作は『死亡旅閣』との朝鮮語タイトルがあり、Switchのホーム画面上でもこの題が表示されるが、日本語版のストアページでは『8Doors~』との商品名であるため、本ページのタイトルもこれに倣う。

亡くなった父親を蘇らせるため、渡し守に頼み自ら死後の世界へと赴いた少女・アルム。
死神・ソルら冥土の住人に導かれ、裁きを待つ死者が一晩の安らぎを得る「死亡旅閣」へと足を運ぶが、そこに父親の名は無かった。
アルムは死者の行く末を司る管理者たちの元に向かうが、その死には不可解な点があるという。
果たしてアルムは死後の世界に渦巻く陰謀を阻止し、父親を助けることができるのだろうか?

登場人物

主なキャラクターに絞って記載する。

  • アルム
    • 原因不明の疾病で住民が死に絶えた村の生き残りである少女。
    • これにより唯一の家族であった父親も亡くなるが、あの世の住人からの示唆を受け、自らも死後の世界に行くことを決意する。
  • ガマテン
    • 死後の世界に辿りついたアルムと出会い、手助けを申し出たカエル。
    • 人語を話すが、カエルらしく「ゲロゲロッ!」といった鳴き声を頻繁に発する。
    • 調子のいい性格であり、アルムの活躍を自分の手柄のように言うこともしばしば。
    • 普段は小さく、アルムの頭上に乗っているが、妖術により巨大化することが可能でありその際はアルムを背に乗せた格好となる。
  • ソル
    • アルムが最初に出会った冥土の住人。死者の魂を誘導する「死神」の役目を受け持っている。
    • 常に仮面で表情は見えず、アルムにも現世へ帰るよう冷たくあしらうが、武器を渡したり障害物を撤去したりと実質的に道程をサポートしている。

システム

  • 基本操作
    • 最も基本的な操作体系は「移動」「攻撃」「ジャンプ」「ローリング」といった定番のもの。ローリングは敵や攻撃を避けることができる。
    • 初期武器はソルから譲り受けた「鎌」のみだが、ゲームを進行するに連れ他の武器も使えるようになる。
  • 基本能力
    • 体力(HP)と霊力(MP)があり、探索中は常にゲージで表示されている。
    • 体力がゼロになるとアルムは死亡し、タイトル画面を介さず直前にセーブした箇所からゲームが再開する。
    • 霊力は武器固有スキルの発動に用いる。
  • ポーションによる回復
    • 道中ではワンボタンで回復アイテムのポーションを使用できる。
    • ポーションはセーブポイントで無償で補充されるが、所持数には限りがある。
  • ガマテンとの切り替え
    • 前述の通りガマテンは巨大化することができ、いつでもアルムと切り替えて操作できる。
      • ただし沼地のみ強制的にガマテン状態固定となる。
    • 攻撃やジャンプといったものはアルムと同様だが、ガマテン状態での専用動作として、大きな岩を押し引きしたり、また道中での能力獲得によって特定のブロックを破壊したりといったものがある。
    • しかし一方でガマテン状態の方が幾分アルム単体より大きいため、細い隙間を抜けられないデメリットもある。
  • 能力ツリー
    • スキル習得は、前提スキルの開放によって上位スキルの習得が可能となるスキルツリー式。
      • 開放は道中で入手する「黎明」というアイテムとの交換によって行われ、攻撃速度の強化やポーション所持量の増加といったスキルでアルムを強化できる。
      • また、ガマテン状態で毒沼を渡れるようになるなど、ガマテンに関与するスキルもある。
    • 一部のスキルはストーリー進行も開放条件となっている。
  • 逃亡霊収集
    • アルムは死後の世界を探検するため、自らも死神の資格を得ることとなる。
    • その業務の一環として、マップ中に隠れている「逃亡霊」を探し死亡旅閣へ連れ戻すというものがあり、本作のやりこみ要素ともなっている。
    • 収集数に応じて金銭と黎明を得られるが、一度にストックできる逃亡霊には上限があるため、定期的に死亡旅閣へと戻る必要がある。
    • この他にもNPCから得られる単発のクエストがあり、達成することで隠しスキルの獲得権を得られる。
  • セーブシステム
    • セーブポイントはマップの各所に建てられた「墓」である。
    • お祈りすると墓碑に刻まれたメッセージが表示され、体力、霊力、及びポーションが補充されたうえでセーブされる。
    • なぜ死後の世界に墓が建てられているのかは気にしてはいけない問題だと思われる。

評価点

  • 無彩色と赤のみで構成されたグラフィック
    • 本作では起動時のロゴから、プレイ中、カットシーン、そしてスタッフロールの最後まで、徹頭徹尾「モノクロ」と「赤」だけで画面が構成されている。
    • このゲームにおける最も特徴的なビジュアルコンセプトであり、寒々しくも死を鋭く感じさせる表現で世界観の提示に大きな役割を果たしている。
    • 一方で人物は全体的に丸みを帯びたデフォルメ風のデザインであり、そのギャップが妙味となっている。
  • 東洋的ムードを基調とした世界観
    • 韓国の神話をベースにしていることもあり、劇中で訪れる各施設にはアジアンな雰囲気が見られる。
    • 死亡旅閣では、温泉施設のフロントのような所をどこかとぼけた風合いの幽霊たちがぞろぞろうごめいており、軽率に例えるなら『千と千尋の神隠し』のような異界らしさに近いものが感じられる。
    • メトロイドヴァニアにおいてもいわゆる西洋的なファンタジー作品が多い中、本作のコンセプトとして印象的な世界観を形成しているといえる。
  • 油断すれば死に繋がる緊張感
    • ゲーム開始時に本作が高難易度である旨表示されるが*1、その自称は伊達ではなく、かなり死にやすいゲームとなっている。
      • 敵からのダメージがノーマル難度でもそこそこ大きい、攻撃動作が素早くかわしにくい、厄介な攻撃手段を持つ敵が複数固まって配置されがち、といったものが要因。
      • とはいえ敵の行動を観察して冷静に対処すれば問題はなく、理不尽な難度ではない。
      • またそれなりに雑魚敵のバリエーションが多く、慣れてきたと思ってもなお進むにつれ新たな攻撃手段で襲い掛かってくるため、常に新鮮な気持ちで攻略することができる。
    • 特にボス戦の難度は高く、攻撃の予備動作からダメージ判定までの猶予が短め。
      • 後半のボスは攻撃の種類も5パターン前後と多くなってくるため、いかに予備動作の判別と的確な対処を素早く行えるかという、反射神経を問われる戦いとなる。
    • 上記から全編通してやり応えのあるゲームバランスとなっており、特にアクション要素の高いゲームを求める層には満足し得る出来である。
  • 豊富な隠し要素
    • 収集要素として先に述べた逃亡霊があるほか、マップ踏破率、「黎明」の収集数といったデータが常に参照可能となっている。
    • 特に隠し通路がやたら多く、マップ100%はそれなりに根気が必要*2
    • 本編攻略に必須でない隠しボスは14体もおり、うち半分はマルチエンディングの分岐条件にも関わっている。
  • 主張しすぎず場にマッチしたBGM
    • 全編通してマップBGMは静かめで、探索やアクションを邪魔せず場面と調和している。
    • 民族楽器を用いたまったりとした曲調で死後の世界という舞台にもぴったりなのだが、一方でボス戦はオーケストラ編成やコーラスを用いた楽曲でメリハリをつけて盛り立てている。
    • また、本作で一番激しい曲はスタッフロールであり、どちらかといえばダウナーな雰囲気の冒険の末に、その努力が一気に報われるような曲調となっている。

賛否両論点

  • ポーションの回復量の異常な少なさ
    • ポーションの回復量がHP最大値に対して1割強しかなく、初期状態で3個までしか持てないことも踏まえるとかなり頼りない存在となっている。
      • 最低難度でも1~2回の被弾をカバーするのがせいぜいであり、ノーマル難度では1回の怪我で2個は使わされるようなバランス。さすがにこの少なさでは回復アイテムとして適正とは言い難い。
    • ショップでより強力なポーションへの交換はできるが、最高級品を買っても回復量はHPに対して4割程度。しかもこれを買える頃にはおおよそ最終エリア(ラストダンジョン)目前まで来てしまっている。
    • ただ、「アイテムでのごり押し」より「プレイテクニックを磨くこと」が重視されているとすれば、ふさわしい調整だと見ることもできる。
      • 実際、特にボス戦ではポーションの回復量どうこう以前に敵の各攻撃手段に対応できるかが鍵となるため、「ポーションを全て使っても歯が立たず死ぬ」か「ほとんどポーションを使わず(被弾せず)勝つか」のいずれかになりやすい。
      • その意味で本作のポーションは常設の回復手段というより、攻略法を見出すためのちょっとした保険や延命措置に過ぎず、むしろごり押しを防止している点は評価対象でもある。

問題点

  • 日本語翻訳が不自然
    • 全般的にかなり怪しい日本語となっている。世界観が良いだけに非常に惜しい点。
    • 意味の繋がらない程ではないが、片言であったり、単語のチョイスがおかしかったり、キャラクターの性格が反映されていなかったりといったものが目立つ。
      • 例を挙げると商人の「ヒッヒッヒ、ご覧になれよ」や地図屋の「ここはどうやって来たのかい?」、苦しみ悶えるNPCに対してガマテンが投げかける「ちょ、調子が…!」(「よ、様子が…!」の方が自然なシチュエーション)などがあり、解らなくはないが興ざめするには十分という微妙なラインである。
    • 特に各エンドはテキストが一切無いイラストのみのカットシーンと、その後の補足的な会話とで展開するため、ストーリー理解を大きく阻害する要因にもなる。
    • ただ一方で味わい深い迷訳もあり、死亡旅閣でのセーブ担当NPCの名前「ポチャポチャ君」はその見た目(黒い球体に目と口がついただけのもの)も相まって何とも印象的である。
  • ファストトラベルが少ない
    • 死亡旅閣や各エリア間を繋ぐファストトラベルポイントはあるのだが、これが1エリアに1つしか置かれていない。
    • エリアはそれなりに広く、踏破には時間とリスクを要するため、逃亡霊回収などのやりこみにおいて精神的な枷に繋がりやすい。
    • 拠点に即時帰れるアイテム、といったものも存在しない。
  • 武器が多すぎて切り替えにくい(または切り替えメニューの存在に気付きにくい)
    • 攻撃手段かつ探索手段となる武器は、鎌にはじまり刀、弓、傘など全部で7種類が登場する。
    • それぞれに個性があって良いのだが、さすがにそれを順送り逆送りで切り替えると無理が生じやすい場面も出てくる。
    • 例えば刀は敵弾を跳ね返せるという特性を持つが、探索で使用場面の多い傘*3から遠く、咄嗟の迎撃が間に合わないこともしばしば。
    • 実は、ポーズ状態にして武器切り替え専用メニューを開くボタンもあるのだが、これだけなぜかチュートリアルで触れられていない。
      • しかもコントローラの右スティック押し込みという、よりによって使用頻度の低いボタンに割り当たっているため、エンディングを迎えるまで全く気付かない恐れがある。
  • 会話シーンの2点の不備
    • ボス戦前後など会話イベントでは以下2点の不備がある。
    • 1つが「会話送りのスピードが遅い」。
      • アニメーションも同時に行う関係か、すべての台詞に2~3秒ほどのウェイトが設けられており、ボタンを連打しても高速で送ることができない。
      • それなりに前口上の長いボスもおり、またそうしたボスに限って笑いどころを掴みかねるコント仕立てだったりするので、もどかしさを感じてしまう。
      • 要所で挿入される黒幕サイドのイベントは丸ごとスキップ可能なのだが、なぜこれが全イベントに実装されなかったのか不明。
    • もう1つが「会話の最後に不要なテキスト送り待ちが生じる」。
      • 複数のイベントで、一連の会話を送った後、テキストは何も出ていないのにボタン押下待ちになっていることがある。
      • 当然ボタンを押すまで移動等の操作を受け付けないため、一見ハングアップ不具合とも思える迷惑な挙動。
  • 存在意義のわからない隠しボスの存在
    • 評価点に隠しボスについて記したが、半分がマルチエンディングに関与する一方、もう半分がマップ踏破率以外の何物にも関わっていない。
    • ではそういう、マップ踏破のアクセントとして置かれただけのボスなのでは? と思いきや、以下の理由から妙にすっきりしない存在となっている。
    • まず弱い。攻撃パターンはせいぜい2種で、厄介な行動もなくすぐに倒せる。つまりやりこみボスではない。
    • そして居場所が意味深すぎる。これらボスは各エリアに1体ずつ潜んでいるが、いずれも最後の入手武器である扇を使わないと入れない部屋にいる。
      • 入った瞬間画面にノイズの走る演出が起き、アルムがシルエット描画となり、専用のBGMが流れはじめる*4
      • 倒しても特に演出はなく、再度同室に侵入しても何もイベントはない。
      • と思いきや、特定エリアでのみバトルではなくNPC「赤い逃亡霊」との会話が発生する。しかもその内容は「自分を捕まえることはできない」と言って消え去るという、その後の展開を期待させるもの。
    • この不可思議な扱いのせいで「さすがに何か意味があるのでは?」と思わせておいて、実際には何もないため、せっかくの隠しボスながら何とも中途半端な要素に感じられてしまう。
  • Switch版に潜むセーブデータ消失不具合(v1.2で解消)
    • Steam版の発売後約1年後にリリースされたSwitch版には、高確率でセーブデータが消失するバグが発生していた。
    • 条件がまた凶悪であり、ラストダンジョンで死亡するか、全体達成率がある程度高い状態でセーブする、というもの。
      • つまりよりにもよってエンディング直前でセーブが消える現象であり、Switch版からの参入ユーザーの多くが涙することになった。
      • 確実な対処法は「最終エリアに到着後、ゲームオーバーにならないように気を付けながら一気にクリアする」くらいしかなく本作最大の問題点となっていたが、リリースから4か月後のアップデートでようやく解消された。

総評

テキストや演出に欠点はあるものの、独特の東洋的世界観や緊張感のあるバトルでしっかり遊べる一品。
最初こそ死に覚えになるが、敵の行動を観察すればクリアは難しくない。アクションに多少覚えのある人なら挑戦し甲斐があるだろう。
ただし、Switch版ではアップデート必須となるので気を付けてほしい。

余談

  • KickStarterでファンディング目標に半分も到達しなかったが発売にこぎつけた、少々珍しいソフトである。
  • ゲーム中の逃亡霊のセリフや墓に刻まれたメッセージはこの支援者から募ったもの。
    • そのため「○○、ここに眠る」のような如何にもそれっぽいもの、ギャグが滑っているもの、単純に意味の解らないものが混ざって世界観がぐちゃぐちゃになってしまっているのだが、そこはご愛敬というものだろう。
最終更新:2024年08月20日 13:33

*1 全文は「8Doorsは難易度の高いゲームで、プレイヤーがゲームを進めていくうちに成長し、克服していけるようにデザインされています。」

*2 一応救済措置として、特定クエストの達成でエリアサーチスキルを獲得できるようにはなっている。

*3 ゆっくり降下できる・滝を潜れるといった効果を持つ

*4 しかもこのBGMがいかにもバトル、といった感じではなく、岩盤浴かエステサロンででも流れそうなヒーリングミュージック調である。