サマー・キャッチャー

【さまーきゃっちゃー】

ジャンル アクション
対応機種 PC(Steam)
Nintendo Switch
発売元 Noodlecake
開発元 FaceIT
発売日 【Steam】2019年7月16日
【Switch】2021年2月12日
定価 【Steam】1,220円(税込)
【Switch】1,239円(税込)
プレイ人数 1~2人
レーティング IARC 3+
判定 良作
ポイント 夏を探して冒険する少女のロードムービーアクション
ゲームシステムは「出す手を選べない後出しジャンケン」

ストーリー

雪国の少女は眠りから目を覚ますなり、クマに言った。
「今まで夏を見たことがない」
クマは答えた。
「それは悲しいなあ」
少女はクマの手作りバイクに乗って、夏と海を求めて旅に出る。

概要

原題『Summer Catchers』。
いわゆるランゲームに属する2Dアクションで、バイクに乗った主人公自体は自動走行であり、プレイヤーは道中のトラップに対しアイテムで回避しながら走行を継続させるというのが基本システムとなる。

但し使えるアイテムは手持ちからランダムで選ばれた3種類だけ。
つまり、瞬時に適切なアイテムを判別する反射神経と、そのアイテムを引き当て続けるプレイヤー自身の運が攻略のカギとなっている。

ゲームシステム

基本的には、
 ・拠点でアイテムを購入
 ・レース*1を開始
 ・レース中にNPCからの依頼事(タスク)を達成
 ・ボス戦の発生
 ・次の拠点へ
といった流れを繰り返す。

コース内容はレースの最中に都度ランダムで生成される。
また、コースはボス戦を除いてエンドレスであり、バイクのライフが0になるか、ポーズメニューより自発的に離脱しない限り永遠に終わることはない。

  • バイクのライフ
    • バイクには3つ分のライフがある。
    • 障害物などのトラップに当たるごとに1ダメージを受け、3ダメージを受けると大破してレースは終了、拠点に強制送還される。*2
      • 崩れる橋からの落下や、泥沼でのスタックのような、ライフに関わらず一発アウトとなるトラップもある。
  • アイテム
    • アイテムは道中拾えるキノコを通貨として拠点で購入できる。
    • 最初に買えるのは「バンパー」「ジャンパー」「ブースター」の3種。
      • バンパー:障害物に当たっても1度だけダメージを防ぐ。
      • ジャンパー:大きく前方に飛び上がる。針山の回避や、ボーナスアイテムの取得に使われる。
      • ブースター:数秒ほど大きく加速し、傾斜を乗り越えたり、崩れる橋を渡ったりといった用途で用いる。
    • いずれのアイテムもスタック制・消費制であり、購入した分は全てレースに持ち込まれる。
    • ストーリーが進むにつれ、一定時間ホバリング移動を行う「プロペラ」、速度を抑える「ブレーキ」も登場する。
    • なお、トラップとアイテムの関係は一対一対応ではなく、複数の手段で回避できるケースもある。
      • 例えば樽が1つ置いてあるだけであればバンパーで壊してもジャンパーで飛び越えても良いし、崩れる橋はブースターだけでなくプロペラでやりすごすこともできる。
    • 他に、特定のタスクを受注している時のみ追加されるアイテムもある。
  • アイテムの選出
    • レース中は、購入したアイテムのうちランダムに選ばれた3個が画面右端に表示される。
    • これらがその場で使用できるものであり、消費すると手持ちのアイテムから1つがまたランダムに補充される。
    • アイテムを使わず手持ちから交換(再抽選)することもできるが、交換操作にはクールタイムが設けられており連続で実行することはできない。
      • 本作ではこのクールタイムの経過は「充電」と表現される。
    • すべてのアイテムを使い切ったあともレースは継続するが、結局トラップにかかってバイクが大破するのを待つか、レースを離脱するかしかなくなる。
      • この状態で走るのも全くの無駄ではなく、ギリギリまでキノコを回収するという意義がある。
  • コース中のボーナスアイテム
    • コースにはレースの手助けとなるボーナスアイテムも配置される。
      • バブル:取得すると主人公が泡に包まれる。1回分のダメージを肩代わりする他、一部のトラップをノーペナルティで無効化する。
      • タンバリン:取得直後に雨が降り出し、キノコが増量する。
      • 角笛:後述する「ペット」を召喚する。
  • タスクとゲーム進行
    • 各拠点ではNPCが4つのミッションを提示してくる。これらはタスクと呼ばれ、彼らが主人公を手助けするのと引き換えに課してくるものである。
      • 主人公はこれらのタスクを1つずつ、任意の順序で受注する。
      • タスクの内容は大きく分けて「特殊な物品の収集」と「特定の仕掛けを作動させる」の2種。またいずれの場合も、受注している間だけ専用アイテムを支給される場合がある。
    • 4タスク全てを達成後にレースを開始するとボス戦となる。
      • ほとんどのケースではボスの攻撃をアイテムで回避しながら一定距離を走り切ればクリアとなるが、一部、撃退用アイテムが支給されたうえでボスの撃破を目的とする場合がある。
  • ペット
    • 2つ目の拠点以降、定められた条件を達成することでNPCがペットとしてついてくるようになる。
    • ペットは前述の通り、レース中に「角笛」を獲得することで出現し、「アイテムを全て再抽選する」「バイクのライフを回復する」など、固有の特殊効果を発揮する。
    • 条件が未達成のままタスク4種をこなしてしまうと、その拠点ではペットが得られなくなってしまう。

評価点

  • 「夏と海を探して旅を始める」という主人公の動機
    • まず、雪が降りしきる銀世界で目覚めた少女が「夏を見に行きたい」と目標を持ち、手作りのバイクを走らせる、という筋書きが導入として完成されている。
      • 個々の感受性に拠るところはあるが、青春譚として、或いはロードムービーとして心くすぐられる動機であり、求心力を持った設定といえる。
    • レースでバイクを壊しては自力で押して帰り、リペアして再度走り直しというのも泥臭く、特にバイク旅や自転車旅の経験のあるプレイヤーにとってはどこか懐かしい気分になれるかもしれない。
  • ドット絵で描かれた自然風景
    • 人物、近景、遠景含め全体がドット絵で表されており決してリアルではないのだが、特に自然物について光のぼかしやグラデーションがうまく用いられているため、臨場感を伴って表現されている。
    • バイクによる雪の巻き上げや土埃に関しても、粗く角ばった図形をパーティクルとして描画しているだけなのだが、半透明で重ねたりサイズ感の違いをつけたりと凝った作りであるため、不自然な様子が全く無い。
    • また「タンバリン」を取得して雷がとどろく際も、空だけが真っ白く抜かれ、木々や山は逆光で暗く表現されることでインパクトのある画を提示している。
    • 前述の通りレース自体は基本エンドレスであるが、上記のような様々な演出で、寧ろずっと走っていたくなるような空気感がもたらされている。
  • とぼけた風合いのテキストセンス
    • 主人公とNPCとの間で繰り広げられる会話は海外カートゥーン的風味があり、あまり日本国内で馴染みのあるやりとりではないがクスッとできるものとなっている。
      • 例として、想い人を連れてきてほしいという依頼に失敗した際の「彼女は連れてきてくれた?」「彼女が見える?」「見えないけど」「じゃあいないのよ」といった、回りくどいタイプの小ボケが見られる。
      • 「やあ、愉快なクマ!」や「やあ、恐ろしい黒ガラス!」といった、修辞を多用した呼びかけも同様の味が感じられる。
      • また、バイク大破時に主人公がランダムで独り言を発するが、これも「もっと悪いこともある」「ヘアスタイルが崩れてないといいけど」「(沼にはまりながら)引っかかったわけじゃなくて、ここでのんびりしているの」など、海外アニメの少しませたティーンキャラの雰囲気が、ユーモアを含みつつ出ている。
      • タスクの受注にあたっても「何でこれが必要なの?」「僕が空を飛ぶためさ!」のような突飛で謎めいた会話の応酬が目立ち、そもそも多くのNPCが動物である中、どこかズレたディスコミュニケーションが特徴的である。
  • 気持ちの良い音響効果
    • 音楽はグラフィック同様、ややレトロなシンセサウンドで構成されているが、疾走感のある曲が多く場面によく合っている。
    • クラッシュ時のSEは衝突音などではなく、楽曲の終止音(その曲において最もメロディの終わりにふさわしい音階)がエコーを伴いつつ一発「ジャン!」と鳴るという仕組み。
      • どんなタイミングでクラッシュしても曲が綺麗に終わったような印象を与えるし、音色もそれぞれのステージのBGMと合わせてあるため聞き心地が良い。
    • 一方環境音はレトロなものとリアルなものをうまく使い分けている。
      • 例えばブースターを使用した際の「ゴオオオー!」というノイズはいかにもゲームチックであるがために操作感との親和性が高く、爽快感をもたらしている。
      • 反対に拠点においては、雨がトタン屋根を打ち付ける様など環境音がリアルで情景を感じさせる。
    • コレクション要素としてバイクに複数の車種があるが、この走行音がそれぞれ異なるのも嬉しい。
  • 「偶然の出会いと驚き」を演出するイベント
    • 一定距離の走行や、ミスしたタイミングなどで、突然シームレスにイベントが発生することがある。
    • 遠景を巨人が闊歩したり、光り輝く鹿と出会ったりと言った奇想天外な出来事が多く、主人公も驚きを以て大げさに反応する。
    • これらの発生には条件があると思われるが、多くの場合プレイヤーの予期しないタイミングで発生するため、繰り返しのレース生活の中で効果的なメリハリが感じられるうえ、思わぬ出来事との遭遇という「旅の醍醐味」らしさを感じることができる。
  • 繰り返しのプレイが苦でないサクサク感
    • ライフが0になってから再スタートまではあまり時間がかからず、繰り返しのプレイが精神的な枷になりにくい。
    • 正確にはバイクから吹っ飛んだ主人公が着地し一言発するまでや、場面が拠点に戻ってから主人公がバイクを押して定位置につくまで10秒前後のロスがあるのだが、ポーズメニューによる即時離脱などによってある程度省略可能になっている。
      • ちなみに前述のような「ミスしたタイミングでイベントが発生」した時はポーズメニューから拠点に戻るコマンドが消えているため、焦って離脱してイベントを飛ばす、ということもない。
    • 他に拠点でショップを選択した際、画面転換に数秒のウェイトがあるものの、元よりゲームルール自体が単純で運によって左右されがちなため「もう一回やってやる!」と思わされやすく、全体的に気になりにくい。

賛否両論点

  • 突如挿入される異質なミニゲーム
    • イベントにはミニゲームの発生するものがあり、ここではレースではなくパズル、音ゲー、迷路など様々なゲームジャンルの攻略に挑むこととなる。
    • 往々にしてこうしたミニゲームはゲーム性が散逸したり、テンポ感が損なわれたりといったマイナスを招くものだが、先述の通り予想外を楽しめる土壌ができているため、本作では幸いにも本編との乖離が感じられにくい。
    • しかし一方で妙に難度の高いものがある。特に音ゲーについては「レーン上を流れてくるアイコンに合わせて正しいボタンを押す」という『beatmania』式の仕組みだが、レーンの長さが画面半分ほどと狭い。
      • beatmaniaで言えば常にSUDDEN方式*3で演奏するようなもの。BPM120ほどで8分音符相当の指示が出るためかなり慌てる恐れがある。
    • パズル面についてもほとんどルールの説明なく突き放されるため、苦手な人にとって足止めになるのは確かだろう。
    • クリア自体に必須ではなく実績に関わるだけなのでやりこみの一種ではあるのだが、それにしても少々難易度調整を違えている感はある。

問題点

  • 結局のところゲームデザインが「運ゲー」
    • 使えるアイテムが抽選である以上、当然目の前のトラップに対して対処できない事態が多く発生する。
      • トラップが満遍なく配置されるならまだしも、同じアイテムを要するトラップが3連続で来ることもあるため、対処不可能な状況になりやすい。
      • 当然手持ちのアイテムから考慮されるなんてことも全く無い。
      • アイテムの再抽選は先述の通り充電制(クールタイム制)ということもあり、殆どゲームにならないうちに強制送還となるケースもしばしば。
    • 他のゲームシステムで表現すると「正解のボタンが出てこないかもしれないQTE」、あるいは「必ず後出しできるが出せる手は自由に選べないジャンケン」である。
    • 但し戦略性は皆無ではなく、あくまで手持ちのアイテムから抽選される以上、使用頻度の少ないアイテムは買い控えすれば多少マシになる。逆に多用するアイテムであっても買い過ぎると他の手が出せず詰みやすい。
      • しかしながら後半エリアでは4~5種のアイテムに対して即時使用を求められる場面が出てくるので、最早ユーザの思惑の介在する余地は少なく、出たとこ勝負になりがち。
      • 最終的には「特定のトラップが来たら諦める」(最初から対応アイテムを買わない)というのが戦略になってしまう程。
    • フォローするならこのレースはタスクさえ達成できれば何度挑戦しても良く、そもそも前述の通りゴールなんてものは設定されていないし、長い距離を走ることに何かご褒美があるわけでもない。つまり、ライフが0になることに実質何のペナルティも無いのである。
      • アイテムの買い直しこそ要するが、通貨となるキノコは潤沢に生えているため、大抵プラス収支、悪くてトントンとジリ貧感も希薄。
      • 抽選がうまくハマるまで何度でも挑戦できる以上「運ゲーであることによる理不尽さ」は薄められているといえるため、往年の歌謡曲に言う「運が悪けりゃ死ぬだけさ」の精神で、気楽に挑戦できるゲームデザインとはなっている。
  • 難度の違いがやりごたえに全く繋がらない
    • 本作には難易度が3種類あるが、この違いが「アイテム交換までの充電時間」の長さにしか作用していない。
    • バイクの体力やトラップの抽選には関係しておらず、単に運が悪かった場合にリカバリできない確率を上げている(より運ゲーとして先鋭化させている)だけである。
    • 先述のように運ゲーであること自体はフォロー可能な問題点なのだが、結局この点については「難しい」というより「どうしようもなくなる」でしかなく、難度を上昇させてもやりごたえに繋がるとは到底言えない。
  • 終盤ステージのタスクの達成条件が分かりづらい
    • 多くのタスクは仮に初見で攻略法がわからなかったとしても、拠点での会話でヒントを得られるようになっている。
    • しかし終盤のとあるタスクのみ、それまでのタスクと全く異なる手順を要するうえ、ノーヒントで詰まりやすい。
    • 評価点で記した「イベント発生時はポーズメニューから拠点に戻るコマンドが消える」挙動がこの時だけは例外となるのも厄介なポイント。
  • エンディングが考察オチ
    • エリアは銀世界から少しずつ春の風景へと近づいていき、やがて砂漠や沼地となって海へと繋がっていくのだが、最後は観念的なオチとなる。
    • 考察をしようにもデフォルメの利き過ぎた幾つかの一枚絵しか材料がないため、「海に着いた少女が何を思ったのか」「どうなったのか」というエピソードへの期待については肩透かしと言わざるを得ない。
  • パッケージ絵が世界観の魅力を伝えきれていない
    • ドット絵による幻想的な世界観と旅の臨場感を抱かせる演出が特徴的なゲームだが、パッケージはカートゥーン風としても洗練されていない、何とも野暮ったい絵柄となっている。
    • この絵柄に合致するような雰囲気はゲーム中には一切登場せず、むしろここまでに記載した、ゲームプレイによって得られる良い感覚が損なわれる恐れすらある。
      • これであればまだゲーム中の切り抜きをそのままパッケージにしてくれた方が良かっただろう。
    • 更にパッケージイラストでサイドカーに乗っている少年は2プレイモードでしか登場しないため、プレイヤーによっては出会うことのない謎のキャラクターとなってしまっている。

総評

ゲーム性としては単純、しかもクソゲーになりやすい「運ゲー」である。
しかしながらプロット・グラフィック・会話から汲み取れる世界観と、リトライの簡易性から触り心地の良さを生み出しており、幸運も不運も受け入れられるようなゲームデザインとなっている。

「Catch」には「見つける」という意味がある。
「バイクに乗って夏を見つけに行く旅」という設定に惹かれるところがあるならば、本作に触れてみても良いかもしれない。

最終更新:2022年10月10日 01:14

*1 便宜上、ゲーム内でも使われている語句である「レース」としたが、誰かと競っているわけではないためツーリングと言った方が近い。

*2 主人公がバイクを引きながら徒歩で戻っている、という設定。

*3 ノートが途中まで出現せず、中央辺りから突然現れるようになるプレイモードを指す。