夜の右側

  • 分類:短編小説
  • 初出:「小説すばる」1996年5月号
  • 雑誌時挿絵:三嶋典東
  • 収録短編集:美女

あらすじ

 地下鉄出口の階段をあがると、予想もしなかった激しい雨である。
 丸の内の会社を出た時はまだ、首すじに落ちたしずくが雨かどうかもわからなかった。
 帰宅しても妻は留守だし、近くのレストランにでも入って晩飯を済ませるか。池島が足とともに迷わせていた視線が、その時、一人の女の顔を拾った。
 池島の方では見憶えがないのに、女の方では親しげに微笑みかけながら頭をさげると、
「マンションにお帰りですか。だったら一緒にどうぞ」
 と声をかけ、固い微笑でとまどっている池島を無視して男ものの大きな傘を広げ、さしかけてきた。

池島は、雨の晩に傘を差し掛けてきた女――小原幾子から、妻の公子が幾子の夫と浮気していると告げられる。
幾子と深い関係に陥った池島は、やがて妻を殺害するが……。

登場人物

  • 池島隆一
    • サラリーマン。
  • 小原幾子
    • 池島を訪ねてきた女。
  • 池島公子
    • 池島の妻。
  • 小原英介
    • 幾子の夫。
  • 長田智美
    • 池島と同じマンションの住人。

解題

90年代後半の短編では数少ない単発のミステリ短編。
二組の夫婦のダブル不倫から起こる殺人劇が、やがて戦慄の真相を明らかにする。

「小説すばる」には92年から96年にかけておよそ年1作のペースで短編6作を書いており、「裁かれる女」以外の5編が『美女』に収録された。その5作目で、『美女』の収録作では最も新しい作品。
美女』収録作の中でも「夜の二乗」と並んで特にミステリ度の高い作品。

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映画

2002年、『うつつ UTUTU』のタイトルで映画化された。
概ね原作に忠実な映画化で、原作が僅かな描写で済ませている部分を丁寧に描いている。
真相もほぼ原作と同じだが、その先に原作にはない衝撃の(?)オチが待っているサスペンス作品。

細かい違いでは、池島の妻・公子(きみこ)が映画では公美子(くみこ)になっている。
また長田智美の夫が、原作では一言「平凡なサラリーマン」と触れられるだけだが、映画では身体が不自由という設定になり、終盤に登場する。

DVDの特典映像では、主演の佐藤浩市と談笑する連城三紀彦の姿が見られる。
佐藤浩市は「紅の舌」のテレビドラマ版(1990年)でも主演を務めている。
また長田勤役の大杉漣は、この後『棚の隅』の映画版(2007年)で主演を務めた。

  • 監督・脚本:当摩寿史
  • 主要キャスト
    • 池島隆一:佐藤浩市
    • 小原幾子:宮沢りえ
    • 池島公美子:大塚寧々
    • 小原英介:斉藤陽一郎
    • 長田智美:小島聖
    • 長田勤:大杉漣

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最終更新:2017年07月19日 19:34