本項では、『将棋名鑑'92』と『将棋名鑑'93』について解説する。判定は両者ともに良作



将棋名鑑'92

【しょうぎめいかんきゅうじゅうに】

ジャンル 将棋
対応機種 ファミリーコンピュータ
発売元 ヘクト
発売日 1992年1月30日
定価 6,800円+税
判定 良作
ポイント 日本将棋連盟監修
膨大な棋譜を収録
対局モードは無い
プロの実戦譜を並べて強くなるということは、
アマも私たちプロも同様です。
最新棋譜を解説付きで楽しむことが、
格好の上達法となるでしょう。
 ー棋王 羽生善治

(パッケージ裏推薦文より)

概要('92)

将棋名鑑のタイトル通り、プロ棋士の実践譜と江戸時代の棋譜と合わせて93局が解説付きで収録されている。

特徴('92)

  • プロ棋士および古典譜からの実践譜が多数用意されている。最初から全て表示されており好きな棋譜を閲覧する事が出来る。

収録内容

+ 90年度タイトル戦
  • 第3期竜王戦 羽生善治竜王 谷川浩二王位・王座
  • 第48期名人戦 谷川浩二名人・王位 中原誠棋聖・王座
  • 第56期棋聖戦 中原誠棋聖 屋敷伸之五段
  • 第57期棋聖戦 屋敷伸之棋聖 森下卓六段
  • 第31期王位戦 谷川浩司王位 佐藤康光五段
  • 第38期王座戦 中原誠王座 谷川浩司王位
  • 第40期王将戦 米長邦雄王将 南芳一棋王
  • 第16期棋王戦 南芳一棋王 羽生善治竜王
+ 90年度公式戦話題局
  • 第9回全日本プロトーナメント 森下卓六段 桐山清澄九段
  • 第40回NHK杯争奪戦 南芳一棋王 先崎学五段
  • 第24回早指し選手権戦 加藤一二三九段 羽生善治竜王
  • 第9回早指し新鋭戦 佐藤康光五段 森内俊之五段
  • 第6回天皇戦 森下卓六段 阿部隆五段
  • 第11回将棋日本シリーズ 谷川浩司竜王 中原誠名人
  • 第21回新人王戦 決勝三番勝負 森下卓六段 大野八一雄五段
  • 第13回若獅子戦 村山聖五段 佐藤康光五段
+ 90年度女流戦
  • 第17期女流プロ名人位戦 清水市代女流名人 林葉直子女流王将
  • 第13期女流王将戦 林葉直子女流王将 斎田晴子女流王将
  • 第2期女流王位戦 中井広恵女流王位 植村真理女流二段
  • レディースオープントーナメント 中井広恵女流王位 清水市代女流名人
+ 90年度順位戦
  • 第49期順位戦特選譜
  • A級
    • 米長邦雄王将 有吉道夫九段
    • 谷川浩司竜王 高橋道夫九段
    • 大山康晴十五世名人 青野照市八段
    • 米長邦雄王将 内藤國雄九段
  • B級1組
    • 小林健二八段 小野修一七段
    • 石田和雄八段 森雞二九段
  • B級2組
    • 森安秀光九段 西川慶二六段
    • 島朗七段 東和男六段
  • C級1組
    • 森下卓六段 伊藤果六段
    • 神谷広志六段 佐藤大五郎八段
  • C級2組
    • 森内俊之五段 丸山忠久四段
    • 阿部隆五段 森安正幸五段
    • 小林宏五段 畠山成幸四段
+ 古典譜・駒落戦
  • 古典1 天野宗歩 伊藤宗印
  • 古典2 天野留次郎 石本検校
  • 古典3 天野留次郎 大橋柳雪
  • 古典4 天野留次郎 米村利兵衛
  • 古典5 天野留次郎 深野宇兵衛
  • 古典6 天野留次郎 小林東四郎
  • 古典7 天野富次郎 大橋宗珉
  • 古典8 伊藤印寿 天野富次郎
  • 古典9 市川太郎松 天野宗歩
  • 古典10 天野宗歩 和田印哲
  • 駒落戦1 日浦市郎四段 加藤一二三九段
  • 駒落戦2 安西勝一四段 森雞二九段
  • 駒落戦3 中田功四段 小林健二八段
  • 駒落戦4 村山聖四段 谷川浩司棋王
  • 駒落戦5 長沼洋四段 桐山清澄棋聖

内容

  • 棋譜再現
    • 上記の名局は最初から全て選ぶことが可能であり「観戦モード」「解説モード」のいずれかで再現するようになっている。
    • 「観戦モード」
      • 手動で一手ずつ、または自動的に進行して再現していく。
    • 「解説モード」
      • こちらも手動または自動で進めていくが、至る所にポイントが用意されており、そこでは4択の候補手が出て来る。
      • 選択肢では最善手から悪手まで用意されており選択に応じて「100点」「80点!」「50点…」「…30点」と示される。点数が出ると言ってもその場で表示するのみで特にスコアシステムは無いので、間違えてもどう崩れるのか言われた後に本筋に合流するようになっている。
      • また、ポイント周辺を繰り返し巻き戻し別な選択肢を試してみる事も可能。尚、最善手は1つだけではなく複数ある局面もあるがその際も100点と言われた後に本筋に合流する。

評価点

収録されている棋譜

  • 100近くにわたるプロ棋士の名局は、質と量ともに素晴らしい。更に解説もいたるところでなされており、非常に参考になる。
    • タイトル戦やトップ棋士に偏らず、屋敷や森内といった気鋭の若手*1、女流、古典、駒落ち戦まで幅広く収録。将棋通も納得のチョイス。
  • フォントも高品質
    • 文字も大きく漢字が多用されており、棋士名は勿論、解説文の文章も短めながらも漢字が多用されてとても読みやすい。
    • タイトル画面では男性棋士が指し手を伸ばしてくる一枚絵が用意されており、それを引き立てるものとしてその奥ではさり気なく竹があり渋い。

その他

  • 素材は良質
    • 作中でも選択肢の点数に応じて4つの効果音が使い分けられている。

賛否両論点('92)

  • 合計点は累計されない
    • プロの指した手を当てるのは難しいが全問正解したからと言って特に何かあるわけではない。また、外した際もどう良くないのか言われた後は本筋に合流する仕様になっている。

問題点('92)

  • 対局モードが無い。
    • CPU戦は容量的に厳しいとしても、対人すらないのはさすがに不親切。
      • 対人戦が無いということは、収録外の棋譜を並べることすらできないということである。棋譜データベースとはいえ割り切り過ぎではないだろうか。
    • パッケージにも対局が無いことは明記されていない。対局を期待して買って裏切られた人もいると思われる。
  • 点数の段階は4段階のみ
    • さすがに100点、80点、50点、30点の4段階はアバウトと言える。もしかしたら27点だったり65点だったり92点だったりするのかも知れないが、選択肢全てに解説が用意されているので最善手から悪手までの取り扱いについて支障を来すという事は無い。
  • 棋譜の進行が遅い
    • 解説有りのモードでは自動で進行していくのだが、これが便利かと思いきや5段階のスピードで一番速いものでもまだ遅いといったところ。
    • 十字ボタンでなら即座に進行していくのだが、その際は4択は出てこないのは不便なところ。

総評('92)

対局モードをバッサリ切り捨て棋譜解説に特化した、将棋ゲームとしては異例の作品。
しかし数多くの名局が解説付きで収録されており非常に充実した内容であるのは確かである。
棋譜の数が非常に多いので、長い日数をかけてあらゆる名局に触れていくのが最善手と言えるだろう。

余談('92)

  • ヘクトは89年7月から囲碁指南シリーズを展開しており、最新のプロの棋譜から昔の棋譜まで収録しており観戦は勿論、選択肢から正解手を当てる棋力判定という付加価値も用意している。その作品は本作の派生元とみて間違いないだろう。

将棋名鑑'93

【しょうぎめいじんめいかんきゅうじゅんさん】

ジャンル 将棋
対応機種 ファミリーコンピュータ
発売元 ヘクト
発売日 1992年12月4日
定価 6,800円
判定 良作
ポイント ファミコン将棋最終作
基本仕様は前作同様
最新プロ実践譜を並べ鑑賞する。またある局面での最善種を読む等、
「将棋名鑑'93」には将棋上達法のあらゆる要素が含まれています。
最高峰レベルの将棋を棋力判定付きで堪能してください。
 羽生善治

概要('93)

『将棋名鑑'92』の同年末に発売された。
システム面では特に目立った要素はないが、今回も多くの名局が収録され充実したものに仕上がっている。
ファミコンの将棋ソフトとしては最終作になる。

収録内容

+ 91年度タイトル戦
  • 第4期竜王戦 谷川浩司竜王 森下卓六段
  • 第49期 中原誠名人 米長邦雄九段
  • 第58期棋聖戦 屋敷伸之棋聖 南芳一王将
  • 第59期棋聖戦 南芳一棋聖 谷川浩司竜王
  • 第32期王位戦 谷川浩司王位 中田宏樹五段
  • 第39期王座戦 谷川浩司王座 福崎文吾八段
  • 第41期王将戦 南芳一王将 谷川浩司竜王
  • 第17期棋王戦 羽生善治棋王 南芳一王将
+ 91年度公式戦話題局
  • 第10回全日本プロトーナメント 羽生善治棋王 森下卓六段
  • 第41回NHK杯争奪戦 羽生善治棋王 塚田泰明八段
  • 第25回早指し選手権 森内俊之五段 加藤一二三九段
  • 第10回早指し新鋭戦 佐藤康光五段 森下卓六段
  • 第7回天皇戦 谷川浩司竜王 村山聖六段
  • 第12回将棋日本シリーズ 羽生善治棋王 有吉道夫九段
  • 第22回新人王戦 決勝三番勝負
+ 91年度女流戦
  • 第18期女流プロ名人戦 林葉直子女流名人 中井広恵女流王位
  • 第14期女流王将戦 林葉直子女流王将 清水市代女流三段
  • 第3期女流王位戦 中井広恵女流王位 林葉直子女流五段
  • レディースオープントーナメント 清水市代女流三段 高群佐知子女流初段
+ 91年度順位戦
  • 第50期順位戦特選譜 A級
    • 高橋道雄九段 谷川浩司竜王
    • 塚田泰明八段 高橋道雄九段
    • 大山康晴十五世名人 谷川浩司竜王
    • 南芳一王将 米長邦雄九段
    • 谷川浩司竜王 米長邦雄九段
  • B級1組
    • 田中寅彦八段 小野修一七段
    • 島朗七段 田丸昇八段
  • B級2組
    • 羽生善治棋王 鈴木輝彦七段
    • 富岡栄作六段 神谷広志六段
  • C級1組
    • 村山聖六段 北村昌男八段
    • 森内俊之五段 屋敷伸之六段
  • C級2組
    • 櫛田陽一四段 有森浩三六段
    • 小倉久史四段 石川陽生五段
    • 有森浩三六段 丸山忠久四段
+ 古典譜・駒落戦
  • 古典1 中村喜多次郎 大橋宗英
  • 古典2 中村英節 和田直三郎
  • 古典3 大橋英俊 伊藤看理
  • 古典4 大橋英俊 伊藤看理
  • 古典5 大橋英俊 大橋宗桂
  • 古典6 大橋英俊 伊藤看佐
  • 古典7 大橋柳雪 天野留次郎
  • 古典8 大橋柳雪 大橋宗桂
  • 古典9 大橋柳雪 伊藤金五郎
  • 古典10 大橋柳雪 石本検校
  • 駒落戦1 中田宏樹四段 青野照市八段
  • 駒落戦2 達 正光四段 南 芳一八段
  • 駒落戦3 神崎健二四段 有吉道夫九段
  • 駒落戦4 佐藤康光四段 内藤国雄九段
  • 駒落戦5 櫛田陽一四段 中原 誠名人

基本仕様

  • 今作も「観戦モード」と「解説モード」が用意されており、普通に再現、解説付きでの再現を選ぶことが出来る。
    • 4択の方は「100点」「80点」「50点」「30点」の4通りの表示が用意されている。別に集計されるわけでもなくボーナスもペナルティもあるわけではない。

評価点('93)

  • 充実した名局
    • 100局近くにわたるプロ棋士の名局が収録されていることであろう。そこに解説という付加価値まで用意されている。このような作品は本シリーズを除いて他に無いと言える。
  • 改良点
    • メニュー画面で先手番と後手番が明記されており更に分かりやすくなっている。

賛否両論点('93)

  • 前作と全く同様
    • 点数は4段階でアバウトであり特に累計は無い事くらいである。
    • CPU対局も出来ないのも相変わらずであるが、当時は既にFC将棋の限界を突き付けられており、早指し二段森田将棋の方で特殊チップでSFCの限界点を無理やり突破する取り組みが行われていた時代ではある。

問題点('93)

  • 前作の問題点が解消されていない。
    • 対局モードが無い、点数の段階は4段階のみ、棋譜の進行が遅い点あたりはどうしても不便さが否めない。
    • ただ、棋力については「早指し二段 森田将棋」で当時の次世代機のSFC将棋で最高峰の強さを実現しておりFCに棋力を求めるのは難しいとされていたと思われる。

総評('93)

システム面では特に目新しい部分はないが、本作でも100局近くのプロ棋士の名局と古典譜が解説付きで見れる点は非常に価値があり、7年以上続いたファミコン将棋は本作をもって有終の美を飾ったと言えるだろう。

余談('93)

  • 同月はヘクトの囲碁指南シリーズの最終作『囲碁指南'94』が発売されている。
    • 囲碁のプロ棋士の棋譜が数多く収録されているが、将棋名鑑の方とは違い解説の類はないので難解なものになってしまっている。

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将棋 TBL ヘクト
最終更新:2025年05月12日 23:10

*1 当時屋敷は既にタイトル経験があり、トップ棋士ではあったのだが。藤井聡太以前の最年少タイトル記録であった。