本項目ではファミコン版『ベスト競馬 ダービースタリオン』とマイナーチェンジの『ダービースタリオン 全国版』について併記します。



ベスト競馬 ダービースタリオン

【べすとけいば だーびーすたりおん】

ジャンル シミュレーション
対応機種 ファミリーコンピュータ
発売・開発元 アスキー
発売日 1991年12月21日
定価 8,900円
プレイ人数 1人
判定 良作
ポイント 初の競走馬育成ゲーム
断片的ながらも高い再現度
競走中止→予後不良は1作目にして早くもトラウマ
予後不良という四字熟語のような専門用語を有名にした
ダービースタリオンシリーズ

概要

1991年末に発売した競馬シミュレーションゲーム。通称「ダビスタ」として後に一世を風靡することになるシリーズの初作。後述するように主に関東のレースが収録されていることから、後に発売された『ダービースタリオン 全国版』に対して「関東版」とも呼ばれる。
プレイヤーが操作するのではなく選手のデータを入力して観戦する野球シミュレーターゲーム『ベストプレープロ野球』(1988年:アスキー)の開発者である薗部博之氏が制作。
それまでファミコンの競馬ゲームは『ファミリージョッキー』(1987年4月:ナムコ)『競馬シミュレーション 本命』(1989年4月:日本物産)ぐらいでほとんどマイナーな存在だった。
前者は競馬でもレースゲーム、後者はゲームというよりファミコンというゲーム機を使った予想ソフトなので、本格的な競馬のゲームでは初と言えるだろう。

登場する騎手やライバル馬は、中央競馬に実在するものをもじったものになっている*1(一部例外あり)*2
種牡馬は実名がそのまま使われ、繁殖牝馬は原則として実在の繁殖牝馬がモデルとなっている*3が名前はもじられている*4


内容

競走馬を生産・育成してすべてのGI(ジーワン)制覇を目指すゲーム。
競走馬育成の生産、維持にも金がかかるので、その経営もしなければならない。

システム

  • ステージは牧場、厩舎、競馬場となる。
  • 競馬会の構造は簡略化されており、競馬場は関東(東京・中山・新潟)のみ。
    京都は京都新聞杯(GII)、天皇賞・春(GI)、菊花賞(GI)、マイルチャンピオンシップ(GI)、阪神は宝塚記念(GI)一部レースのみで登場する。
  • 初期状態では繁殖牝馬1頭と資金1500万円の状態で始まる。
    • 最初に与えられる繁殖牝馬はもちろん最低クラスのもの。
      • これに種付けし、生産してレースに出すなり、売却するなりして資金を増やしていく。あるいは即座に売り払って2歳馬を購入する手もある。
      • 稼いだ資金でより強い繁殖牝馬を買って、強い種馬と種付けすることで、さらに稼げる馬を育てていくというのがゲームの基本的な流れとなる。
      • 一方で初期牝馬でも組み合わせや運次第でGIホースを誕生させられるので、チャンスブレッドを期待する楽しみもある。
    • 本作には牝馬のレースが実装されていないため牡馬しか産まれない。牝馬が登場するのはライバル馬と繫殖牝馬のみ。
  • 馬の維持管理費として牧場にいる馬は1頭につき10万、厩舎にいる馬は1頭につき40万。
    • これは月がかわるタイミングで徴収される。
    • 資金がゼロになると破産でゲームオーバーとなる。
  • 引退する馬はGIを勝っていれば種牡馬として買い取ってもらえるが、その馬で種付けはできない。
    • あくまで本来タダで失うところ、金になってくれるという程度。
      • GIを3勝以上していれば、殿堂入りとしてその名前が記録される。
  • 競走馬の基本パラメータのうち、レースに直接関わるのはスピード、スタミナ、気性、勝負根性の4つ。さらに頑丈度、疲労回復力、調子、馬体重、成長度といった要素でパフォーマンスが変わる。
    • 気性が悪いと出遅れたり、道中で作戦指示に従わず勝手に前に行ってしまいスタミナを浪費したり(通称「かかり」)する。
    • 勝負根性があると、直線で馬体を合わせて競り合った場合に勝ちやすくなる。
      • 競り勝つと前に出て競り負けた方はそのまままるでスピードを吸い取られたように失速する。
    • 頑丈度が高いと、調教やレースで故障しにくい。またレース後に体調を崩して絶不調になるケースが少なくなる。
    • 回復力が高いとレース後の疲労が抜けやすくなり、短い間隔で出走を繰り返してもタフに走れる。
    • 調子はいわゆるバイオリズムで、不調時にレースに出してはいくら能力の高い馬と言えど、その力を満足に発揮できない。
    • 馬体重は現実でもある馬の体重で、馬自身図体が大きいのもいれば小柄なのもいるので理想的な体重は異なる。太すぎるとスピードに、細すぎるとスタミナに悪影響がある。
    • 成長度は大きく分けて「早熟」「普通」「晩成」に分類される。
      • それぞれピークの時期が異なり早熟は大体4歳中期ぐらい、普通は5歳後期、晩成は7歳ぐらい。
      • 成長パターンは父親からの遺伝の要素が大きいが絶対ではなく、正反対のタイプが産まれることもある。
  • 調教やレースで故障することがある。故障の種類は下記5種類。()はその完治までの目安。
    • ハ行(2週~2ヶ月)
      • 「ハギョウ」ではなく「ハコウ(跛行)」と呼称。歩様の異常のことで、調教や出走は可能だが、更なる重症を引き起こす可能性があり、またレースでも満足に能力など発揮できないので休ませるが得策。
    • ソエ(1~3ヶ月)
      • 3歳時~4歳初期に発生する故障で、すねにコブができる。調教や出走はハ行同様に可能だが、同様の理由で休ませるが得策。
    • 屈腱炎(2~6ヶ月)
      • 前脚にある屈腱(くっけん)に炎症を起こして腫れあがる重症で、調教も出走もできない。完治しても以降再発しやすくなる*5
    • 骨折(3ヶ月~1年以上)
      • そのままの意味。当然調教も出走もできない。
      • 数ヶ月で治る軽症の場合もあれば、1年以上治らない場合もあり、年齢によっては事実上の「競走能力喪失」となる場合もある。
      • いずれの場合も完治するまでは重篤の度合いはわからないので育成計画を大きく狂わせることになる。
    • 予後不良(安楽死)
      • 故障の中でも特に重く最悪な症状で、治る見込みがないため安楽死処分が取られる。後述するがレース中に競走中止のアナウンスが出てきた場合にのみ発生する可能性があり、調教で発生することはないのが幸い。
      • この場合、レース後に予後不良の診断がされ安楽死の処分が下されたとのメッセージがレクイエム調の音楽と共に現れるが、このメッセージが黒背景に白文字(しかも予後不良の文字は大文字)と非常にトラウマチックなものになっている。
  • 時間の流れについては極めて簡略化されている。
    • プレイヤーの所有馬は歳を取るが、種牡馬は不死身であり、ライバル馬の年齢も数年でループする。
    • 繁殖牝馬には寿命の概念があるが、たとえ死んでしまっても同じ馬が(若返った状態で)再び市場に現れることがある。
      • 今作の繁殖牝馬は年齢表記が無いが、産駒を出産するほど受胎率が下がり、死亡率が高くなるという設定である。
    • 要は、発売された頃の競馬界を延々とループするようなものであり、これは良くも悪くもダビスタシリーズの特徴となっている。
  • 税務署
    • その月の終わりに100億円以上の資金を持っていると、50億円を徴収されるという鬼畜イベントが発生する。
      • もっとも、100億円も貯まる頃には既に資金は使い切れないほど持っているわけであり、破産危機になるようなことはまずない。
    • 際限なくお金を持つことはシステム上不可能なので、それを誤魔化すためのイベントだと考えられる。

牧場

  • 主に馬の生産と売買、放牧馬の確認を行う。
    • 生産の方法は繁殖牝馬に種付を行い(4月)、5月1週に受胎したか確認でき、受胎したら翌年4月に生まれるので名前を付ける。
    • 5月以降には種付けすることはできない。不受胎が発覚したらその年は空胎ということになる。
    • 種牡馬と繁殖牝馬の血統内に同じ種牡馬がいると「クロス(インブリード)」が成立し、プラスにしろマイナスにしろ様々な効果が発生する。
      • うまく活用すれば、初期繁殖牝馬からでもGIを勝てる馬が誕生することもある。
      • デメリットとして気性や体質に悪影響が出やすくなる。特に血が濃くなりすぎると弊害のほうが大きくなる。
  • 所有馬の売却は3歳*6になるとできなくなり、走らせる気がないなら引退させるしかないので、売るなら2歳までに行う必要がある。
    • 後のシリーズ作品では能力によって売却価格が変わるが、ファミコン版の2作品では両親の血統のみで金額が固定されている。
  • 厩舎から放牧させた競走馬も牧場で管理される。
    • 骨折などの重傷は放牧させないと完治しない。
    • また放牧には調子をリセットさせる効果もあるので手っ取り早く調子を好調にしたい時は放牧も視野に入る。
    • 但し、放牧は最低でも1ケ月行う必要があり、その間は体重のコントロールができない(一定値まで増え続けてしまう)デメリットもある。
  • 市場
    • 4月~9月までは二歳馬、10月~3月は繁殖牝馬を購入できる。
    • 登場する馬はランダム。二歳馬はゲーム内に登場するすべての種牡馬と繁殖牝馬の組み合わせから選ばれる。
    • 後のシリーズでは競売(セリ)方式だが、ファミコン版では定額での買い切りとなっている。
  • 展示室
    • 現在までに制覇したGIタイトルを確認できる。

厩舎

  • 主に調教や出走登録を行う。
    • 調教は、1頭につき週に2回まで行える。ただし2回目の調教では故障が発生しやすい。
    • コース(「ダート」or「芝」)、方式(「単走」or「併せ馬」)、強度(「馬なり」or「強目」or「一杯」)を選ぶことができる。
      • ダートはスタミナの強化、芝はスピードの強化に用いる(「馬なり」では無効)。
      • 「併せ馬」をすると「単走」よりも調子のバイオリズムが進行しやすくなる。
      • 「一杯」はスピードやスタミナの強化度合いは「強目」と変わらないが、勝負根性を鍛える追加効果がある。
      • 「馬なり」は能力自体は伸びないが、負担をかけずに調子を確認したり、レース前の追切*7に使う分には問題ない。
      • 調教による馬体重増減は「馬なり」は変化なし、「強め」で-2kg、「一杯」で-4kg、「併せ馬」でさらに-2kg(「併せ馬」「一杯」ならば-6kg)。
    • 気性は調教では改善されず、実戦を経験しなければならないものの、調教の有無にかかわらず厩舎にいるとことでも少しずつ改善される。
    • 基本は自分の条件で出走し、格上は挑戦は1段階上のみ有効。流石に新馬・未勝利馬は格上挑戦自体不可で、それ以外の格上レースに使おうとした場合「そのレースに使うのはムチャです」と調教師に止められ登録できない。
    • クラシックには正式なトライアルも用いられている。
      • その対象のレースで既定の着順以内に入るか、既定の獲得賞金に達していればが条件。
      • つまり、賞金額に達していない条件馬でもトライアルで決められた着順に入着できていれば出走できる。
      • またクラシックやグランプリ、ジャパンカップなどは、それぞれの賞金に満たないとオープンでも出走不可。
    • 前のレースで勝ち馬から24馬身離されると「タイムオーバー」となり、4週間出走できない。

競馬場

  • 主にレースを行う。レースは常に8頭立て。
    • 自分の所有馬が出走する場合、作戦を伝える。伝えないと騎手に任せる形になる。
    • また馬券購入もできる。メインレースのみ、自分の馬に関係なく観戦し馬券購入もできる。
      • 馬券は単勝、複勝、連勝(全レース8頭立てなので馬連のみ)の3通りで、それぞれ5通りずつ購入できる。
      • オッズを確認することで、自分の馬が出走馬の中でどの程度の強さかある程度は判別可能。
  • レースのパートは「スタート」→「道中」→「ゴール前最後の直線」→「着順掲示板(結果告知)」に分かれている。
    • 「スタート」では「好スタート」「出遅れ」があり、後者は気性が悪い馬ほど、また騎手のレベルが低いほど起こりやすい。
    • 「道中」パートでも気性が悪いと折り合いがつかずにスタミナを浪費することがある。さらに、後半では故障が発生する可能性がある(ライバル馬は発生しない)。
      故障が発生した場合「ゴール前最後の直線」に入ったと同時に競争中止が告げられる。 上記調教や、レース後の故障*8と違って、この場合のみ予後不良となる可能性がある。

評価点

  • 競馬シミュレーションゲームの草分け
    • 以後人気ジャンルとなる競馬シミュレーションゲームにおいて本作は草分けとなり、現実における競馬ブームとの相乗効果もあり一大ムーブメントを巻き起こした。
    • 生産・育成・競走という競馬を形成する要素を一通り楽しめるシミュレーションには独特の中毒性があり、熱中するユーザーも多かった。
    • 特に生産については現実の競走馬以上に夢の血統を組み合わせることができる。「名馬を組み合わせた最強馬」「自身の好きな馬の血統を強くする」「一芸に秀でた馬を生産する」などオリジナリティある馬の生産が可能である。
  • 貴重な競馬メインのゲーム
    • 「競馬」というジャンル自体未成年のユーザーには馴染みのない題材であるが、未成年のユーザーにも分かりやすく競馬の魅力を伝えている。
    • また大人の競馬ファンも庶民には到底夢のまた夢*9である、馬主のシミュレーションができるというゲームならではの強みがある。
  • まだファミコンということでグラフィックも音源もかなりチープだが、それがうまく作用して後の『III』のようなサクサク進める操作性につながっている。
    • 特にセーブや牧場と厩舎の行き来は後のシリーズよりもうんとスムーズに可能。
  • 調教のパターンもダートならスタミナ、芝ならスピード、一杯で勝負根性強化と、特性がハッキリ分かれていてシンプルで分かりやすい。
    • 単走だと調子維持、併せ馬なら調子を変えるというのもわかりやすい。
    • このため、素人でもおおまかなイメージはつけられる。
    • 薗部氏によると調教は開発期間終盤の1ヶ月で突貫工事で作成したとのこと。しかしシステムが分かりやすいためか後年出た他の競馬シミュレーションゲームもこぞって本シリーズの調教システムを模倣している。(参考
  • クラシックは単純な賞金基準だけでなく、正式なトライアルも導入されているなど本格的。
    • 実際このために関東固定のゲームでGIでもないのに京都新聞杯が特例として導入されているほど。
  • 馬券も単勝、連勝複式だけでなく複勝まで網羅されている。
    • また、それも全買いリセマラによる過剰な儲けでバランスが崩れない範疇にとどめられている。
    • これにより「本来の競走馬育成するより馬券で儲ける方が初期資金を得やすい」というショートカットをやりにくくしている。
    • ちなみに調教師などの競馬関係者が馬券を買うのは競馬法違反になるのだが、あくまでプレイヤーの立場は馬主なので問題はない。

賛否両論点

  • 未勝利のまま4歳10月を迎えると「もう出られるレースがありません。残念ながら引退しかないようです。」と言われて出られなくなる。また10歳になるとすべてのレースに出られなくなる。つまり事実上の強制引退である。
    • 特に未勝利の切り捨ては少々理不尽にも感じられる。4歳10月になると未勝利がなくなり*10、いきなり「500万」になるのだが、あくまで「500万以下」なので、それを上回るのが出走できないだけで未勝利(本賞金ゼロ万)でも、それ以下には違いないので拒絶されることはない(「格上挑戦」扱いになるので出走枠以上の登録がある場合優先的に除外される)。
      • 実際の中央競馬では未勝利のまま5歳になっても500万(1勝クラス)に出走は可能だが、東京・中山・京都・阪神では不可のため遠征が必須*11という条件の悪さに加えて上記の通り登録頭数が多いと除外されやすいので障害転向(障害ならば古馬でも未勝利戦がある)や、地方競馬への転向を取ることが多いので、一応当らずとも遠からずではある*12
    • 10歳以上で出走できないのはそもそも現実の競馬には即していない。
      • 勿論衰えが顕著すぎて勝負にならないので、そこまで走る馬は滅多にいないだけだが、地方競馬などでは出走手当のみを目当てに年齢関係なく潰れるまで毎週毎週走らされた馬もいる。また2000年代に入ると調教技術の進歩なども相まって逆に大事に長く使う考え方も普及し、中にはマカヒキのようにダービーを制しながら現9歳(当時で言うところの10歳)になっても競走馬として現役である馬もいる。
      • システム的な都合としては、出馬表などに2桁の年齢を表記するスペースが無いためだと思われる。
  • 馬が故障しやすい上、重傷からの復帰が困難である。
    • 故障しやすい根本的な理由としては調教パターンの少なさであり、次回作以降における坂路やプールのように「脚元に負担をかけない調教」が存在しない。
    • 輸送による体重減もないので、体重を絞るにはとにかくレースに出すか調教するしかない。当然、そのたびに負担がかかる。
    • 特に骨折や屈腱炎で長期休養した場合は体重が上限まで増えてしまう。よって減量のためにただでさえ弱った脚を酷使する必要があり、再度故障する悪循環に陥りやすい。
    • そのため、攻略本などには「健康Cの種牡馬は絶対使わない」というプレイヤーの声が多数寄せられていた。
      • 「脚元の弱い馬を苦心して仕上げるのも楽しみの一つ」という擁護の声もあるのだが……。
  • インブリードに関する設定が不完全
    • そもそも血統内でも主要な種牡馬以外は空欄であり、それらはインブリードの対象にならない。そのため現実馬の血統知識があまり役に立たない。
      • かなり思い切った切り捨てだが、だからこそファミコンのスペックでも競馬シミュレーションを成立させられた面もあると思われるので英断と言える。
    • 以降のシリーズにも言えることだが、血統内において牝馬の存在は完全に無視されており、当然インブリード扱いにならない。
    • ミスかバランス調整かは不明だが、一部の血統が書き換えられており本来成立しないはずのインブリードが思わぬ形で成立したり、逆に成立するはずのインブリードが不発になる場合がある。プレイヤーにとっては有利にも不利にも働く。
  • スピード偏重のゲームバランス
    • 基本的にスピードさえあればあらゆるレースに勝てる仕様となっている。
    • スタミナや根性・気性は無意味ではないが、あくまでも補助的な効果であり、スピードの裏付けを前提にしてレースを安定化させる程度の意味しかない。
    • そのため、攻略法としてはとにかく短距離種牡馬を付けたり、スピードアップのインブリードを狙うことが有効で、長距離GIだろうがこの方法で勝ててしまう。
    • 本来、距離適性が短距離に偏った種牡馬を付けるとスピードの代償にスタミナが下がり、結果として長距離レースが苦手になるはずだが、スタミナの影響が薄い本作においてはスピードアップのメリットが極端に大きい。
      • スティールハート*13産駒で菊花賞を逃げ切って優勝というのは、初期のダビスタシリーズを象徴する語り草である。
    • とはいえ初心者にとってはスピード最重視というわかりやすい攻略法が存在するということであり、ゲーム全体のハードルを下げることに成功している。
      • 開発者の薗部氏は、後のインタビュー*14で「スピードを第一にしないとゲーム全体がつまらなくなる」という趣旨の発言をしており、ある程度は意図的な調整だったと思われる。
    • シリーズを重ねるごとにサブパラメータの影響が大きくなり、スピード一辺倒ではクリアできないようになっていく。
  • リセットでやり直しができる。
    • 本作はオートセーブではなく、終了画面を開く(移動画面でBを押す)ことでセーブされる。そのため、リセットすればセーブ以降の出来事をなかったことにできる。
    • レースのやり直しも可能。優勝したり馬券が当たるまでリセットを繰り返すことができる。繁殖牝馬の死亡も回避できる。
    • 自重しなければかなりのヌルゲーになるが、他のゲームも含めてリセットでやり直すこと自体は一般的なので、使うかどうかはプレイスタイル次第である。
    • 次回作以降はオートセーブが採用されて単純なやり直しができなくなったが、ターボファイルでバックアップを取れば(手間はかかるが)同様のことは可能。

問題点

  • 牝馬を育てられない。そもそも産まれることすらないのは非常に不自然である。
    • 牡馬と異なり牝馬は引退後に多くが繁殖に上がるが、ゲームでそれを実現するとプログラムが複雑になりすぎるので牝馬自体をオミットしたと開発者がコメントしている。
    • 当時から要望が多かったためか、ハードスペックが向上した以降のシリーズでは真っ先に実装されている。
  • 不調時の紛らわしいコメント。
    • 「調子は特に良くもないし 悪くもありません」というコメントは一見中間っぽい状態に思えるが実は不調一歩手前なので紛らわしい。
  • レース中の馬が見分けづらい。
    • 勝負服は全員白。さらにスタート時とゴール前を除いた「道中」では、馬が実際の毛色に関わらず全て同じ黒っぽい色で表示される。
    • よって帽子で見分けるしかないのだが、赤(3枠)と桃(8枠)が全く同じ色である。黒(2枠)と青(4枠)、黄(5枠)と橙(7枠)も同じではないが見分けづらい。
      • ファミコンの表示色の限界もあるだろうが、帽子の色は『全国版』でやや改善されている。
  • 悲劇でもないのにトラウマな演出をする。
    • 本作では繁殖牝馬が死亡した時にも予後不良と同じような演出をしてレクイエムのような曲を流す。
    • これは読みようがなく、しかもいきなり発生するのである意味予後不良よりトラウマ級*15
  • 本賞金額を確認できない。
    • クラシックを始めとするGIレースでは一定以上の「本賞金*16」を獲得していることが出走条件だが、この金額を確認できない。
    • 条件についてもゲーム上では不可視の上、出走できない理由も教えてくれない。一応説明書には書いてあるのだが、ゲーム中でも無茶な格上挑戦の様に調教師にメッセージを入れる事は出来なかったのだろうか…。
  • GIに勝つたびにエンディングが流れる。
    • エンディングを見る条件は「すべてのGIを制覇する」なのだが、条件を満たすとGIに勝利するたびにエンディングが流れてしまう。
    • 次回作以降は、2回目以降のエンディングは展示室で見るという形に変更された。
  • オーバーフローバグ(初期出荷版のみ)
    • 産駒の売却額が6400万円でループする。例えば本来6500万円で売れるはずの馬が100万円にしかならない。
    • 4歳馬の本賞金が25600万円でループし、本来はオープンクラスであるはずが500万下(1勝クラス)まで落とされてしまう。
    • ちなみに以降のシリーズにおいても、「逆回転(最低値を下回るといきなり最大値になる)」も含めたオーバーフローバグは非常に多い。ただこれらは普通にゲームを遊ぶ分には問題になりにくい例も多く、本作で修正されたのは稀なケースである。

総評

競馬のシステムは簡略化されて実際の競馬の再現と言うには程遠いところがまだまだ目立っているが、操作性も良く展開もスムーズでゲームとしては無難な形にまとまっており、手軽な競走馬育成が楽しめる。
システム自体もわかりやすくシンプルで飲み込みやすく作られており、初作にして早くも王道な形が出来上がっているのは非常に良くできている証拠と言えるだろう。


その後の展開

  • 1992年8月29日に同じくファミコンソフトとして『ダービースタリオン 全国版』が発売(後述)。

余談

  • プログラムやパラメータ設定はもちろん、テキストやグラフィックなどのゲームのほとんどの要素を薗部博之氏1人で作り上げている。当時のファミコンソフトとしてもかなり珍しい開発体制である。
    • BGMは松前真奈美氏が作曲。元カプコン社員で、ロックマンシリーズ等を手掛けている。
    • なお薗部氏によると開発で最初に着手したのは実況の部分で、テクモの『キャプテン翼』を参考にしたとのこと。(参考
  • ゲーム番組『ゲームセンターCX』での薗部氏へのインタビューで、「アスキー側にベストプレープロ野球の続編的なイメージで売りたい」と言われてこのタイトルになったと明かされている。
    • 同番組では後にメインコーナーでの挑戦が行われたほか、リアルイベントにて下記のおがわ騎手を起用しての日本ダービー挑戦が披露されている。
  • この当時は「芦毛の怪物」と呼ばれた「オグリキャップ」をはじめとした名馬が続々登場しており競馬ブームが盛り上がっていた時期であったが、本作自体はファミコン自体が末期でスーパーファミコンへの移行も順調に進んでいたため知る人ぞ知る存在に止まっていた。
    しかし、後の1994年末から『週刊少年ジャンプ』で連載された漫画『みどりのマキバオー』、また同時期最強馬と謳われた三冠馬「ナリタブライアン」*17の影響などにより競馬ブームが継続的に盛り上がったこともあり、当時の主力ハードとなったスーパーファミコンで発売された上記『III』など続編からスタートした層も多く、彼らが後追いで本作をプレーしたケースも多かった。
    • 因みにブームが到来したスーパーファミコンでの続編『III』からはレース中のアナウンス「(馬名)はちょっと下がっていった…」が出ると故障確定で以後「おおっと(馬名)故障発生か!」「(馬名)はずるずる後退」と続いて競走中止となる。
      言うまでもなく本作の時点でも予後不良の告知はトラウマモノだが、スーパーファミコンでは、それもさらに進化したものになりその度合いを増したことは言うまでもない。
      • 本作は「ちょっと下がっていった…」「ずるずる後退」が故障していなくても単純にレースの展開で使われるので、『III』以降から始めた人はそれが出た瞬間にビクッとした人が多い。
  • 海外馬であってもカタカナ9文字までしか表示できない。そのため「ノーザンデクテイタ(ノーザンディクテイター)」「ブレベストローマン(ブレイヴェストローマン)」のように種牡馬名を強引に切り詰めている例がある。
  • 騎手リストの一番下にいる「おがわ」は、実在の騎手ではなく薗部氏の友人がモデル。本シリーズのアドバイザーで、薗部氏を競馬の世界に引きずり込んだ張本人でもある。
    • 「どんな馬でも乗ってくれる最低ランクの騎手」が仕様上必要だったが、実在の騎手を最低ランク扱いで登場させるのが忍びなかったから非実在の騎手にしたという。

ダービースタリオン 全国版

【だーびーすたりおん ぜんこくばん】

ジャンル シミュレーション
対応機種 ファミリーコンピュータ
発売・開発元 アスキー
発売日 1992年8月29日
プレイ人数 1人
定価 8,900円
判定 なし
ポイント 関西に対応したもののよくわからない所属形態
レース中リセットのイカサマ防止
ダービースタリオンシリーズ

概要(全国版)

1992年8月に発売した競馬シミュレーションゲーム。
具体的なシステムは上述の前作から引き継いでいるので、本項では変更点のみにとどめるものとする。

元々前作は「ベスト競馬」と冠するように『ベストプレープロ野球』の競馬版というような位置付けだったが、ここからそれを離れて「ダビスタシリーズ」として独立することとなる。
後にスーパーファミコンで『2(II)』が発売されているので、本作はあくまでも『I』のマイナーチェンジ「1.5」的な位置付けのようである。


変更点(全国版)

  • 全国版とあるように東西で1開催ずつ、計2開催されるようになった。
  • 種牡馬の「Bookfull」(いわゆる「売り切れ」)が発生するようになった。
    • プレイヤーが購入できる種付け権は年ごとに各1株のみで、同じ年に同一の種牡馬を2頭以上の繁殖牝馬に付けることはできない。
    • 人気種牡馬であるほど最初から「Full」であることが多い。さらに週が経つにつれて「Full」は増えていく。
      • 前年種付けを行わず空胎や不受胎だった場合は翌年4月1週に種付けできるが、受胎の場合生まれるまではできないので最悪4月4週になり、ほとんど売れてしまった状態になっていることもある。
  • 入厩時に関東(美浦)か関西(栗東)か厩舎を選択できるようになった。
    • 完全に所属しているわけではなく、レースによって滞在先が変わるのみである。
      • つまり、関東滞在時に関西のレースに登録すると関西(栗東)に移動し、再び関東のレースに登録しない限りは関東(美浦)には戻らない。
      • 輸送時には馬体重が減る。これにより調教せずに馬体重を減らすことが可能になった。
  • 調教の効果の見直し。
    • 一杯で気性改善、併せ馬で根性強化となり、以降のシリーズにも引き継がれる仕様となった。
      • 前作では、おそらく設定ミスで併せ馬で根性が強化されなかった。
    • 成長型に応じてスピード能力の上昇限界が設定されるようになり、成長型に応じて適切な調教が必要となった。
      • 例えば、晩成馬に早い段階から芝調教(スピード強化)を多用しても無駄になりやすいので、ダート中心でじっくり育てる必要がある。
  • 放牧でスタミナが減少するようになった上、レース間隔が開きすぎると気性に悪影響が出るようになり、より計画的な育成が求められるようになった。
  • 殿堂入り馬がグラフィック付きの表示になった。
  • 週ごとのオートセーブ導入。さらに不正防止として、レース中にリセットをするとレース自体が無効になり翌週に飛ばされた状態でスタートするようになる。
    • すでにゴールしている場合は記録が残るが、着順が確定する前にリセットすると出たことすら無効となる。
  • 予後不良時のメッセージに生涯成績が追加された。
    • レース後に予後不良の診断がされ安楽死の処分が下されたとのメッセージがレクイエム調の音楽と共に現れるまでは従来通りで、さらにその直下に生涯成績*戦*勝が表示される。とは言え、黒背景に白文字と非常にトラウマチックであることには変わりはない。

評価点(全国版)

  • 関西が本格的に全面導入されたことでレースの選択の幅が広がった。
    • 前作ではGIなど一部のレースでしか使われていなかった。
      • しかし、GIなど必要なレースは前作の時点で取り込めていたので、手放しで褒められるわけではない。
  • 殿堂入り馬がグラフィック付きとなったことで増した達成感。

問題点(全国版)

  • 全国版とはいえ、不自然なシステム。
    • それぞれ美浦、栗東に所属しているわけではなく、単にそれぞれに厩舎を持っているだけと不自然なもの。
    • レースに出す成り行きで行ったり来たりするだけなので、リアリティに欠ける。
  • いろいろ使い勝手が悪くなった操作。
    • 週を送るのも、一番下に持ってこなければならないため、ボタンを押す回数が多くなった。
      • そこまでひどいものではないが、前作があれだけスムーズだったことを思えば劣るのは否めず、この操作自体は非常に頻繁に行うので少々煩わしい。
    • また厩舎の美浦と栗東を切り替えるのも、競走馬の名前の一番上まで持ってこなければならない。
      • このように前作ではボタン1回押しだけで済んだが何度も押さなければならないことが多くなった。

総評(全国版)

ほぼ関東レースしかなかった前作からパワーアップし、関西レースに全面対応した。
操作性に関しては若干ながらスピーディーさが失われた点もあり「関西も取り入れられて大満足」というほどではなく、再現としても中途半端でどちらかといえば続編にしては少々不足感が強いものになった。
そもそも、自由に行き来できてしまうシステムという点で求めていたものとは違う一面もある。


その後の展開(全国版)

  • 1993年5月28日『ダービースタリオン』がPC-98で発売。以降、DOS/V・FM-TOWNS・マッキントッシュといった各種PC版が発売される。
    • 牝馬が産まれるようになり、牝馬のレースが実装された。自家生産馬を繁殖牝馬にすることもできるようになった。
    • 育てた馬のパスワードを発行することでプレイヤー同士の対戦を行うモード*18も実装。
    • 条件を満たすと出走できる隠しレースとして「凱旋門賞」が追加された。
    • 血統内にすべての種牡馬が表示されるようになり、インブリードも5代まで可能になった。
    • 調教に坂路とプールが追加。少ない負担で効果的な調教を行えるようになった。
    • レースが最大16頭立てになった。なお以降のコンシューマ版ではPS版が出るまで最大12頭である。
    • PC版独自の機能として、馬の成績をテキストファイルに出力したり、騎手名をエディットすることができる。
  • 1994年2月18日『ダービースタリオンII』がスーパーファミコンで発売。
    • 上記のPC-98版の移植に近いが、グラフィックなどは新たに作り直されている。
    • レースが最大12頭立て、インブリードが4代まで等、PC-98版の仕様を移植しきれなかった部分もある。

余談(全国版)

  • 本作で登場したライバル馬ダイコウサクのモデルは前年の有馬記念を制したダイユウサクで、実は元々はオーナーの孫の名前「幸作」を取って「ダイコウサク」となるはずだった。因みに「ダイ」は冠名で父ダイコーター(1965年の菊花賞馬)も同オーナーの所有馬だった。
    • 結果的にオーナーが本来の理想がゲームで実現したことになる。
    • 間違って登録されたのは「コ」と「ユ」が似ているので間違われたせい*19で当時改名が可能なのにしなかったのは、一向に仕上がらず未勝利戦がなくなる寸前の4歳10月にやっとデビューして2戦続けて惨敗し、勝ったのは5歳での400万下条件(当時の1勝クラス)とまるで弱く「これでは孫の名前を与える必要もあるまい」と見限られたため*20
      • ダイユウサクが勝った有馬記念は前年の前作が発売された翌日の事である。
最終更新:2024年02月25日 16:30

*1 例・岡部幸雄→おたべ、増沢末夫→ますお、柴田政人→しばたま、タマモクロス→タマノクロス、ニッポーテイオー→ニッコーテイオー

*2 当時既に死没していたマティリアルなどは、そのままの名前が使われている。またコンピュータ用語などをモチーフにしたオリジナル馬もいる。

*3 作品によっては種牡馬がモデルだったり繁殖牝馬になっていない牝馬がモデルだったりする繁殖牝馬もいる。

*4 もじり度合いは馬によって異なり、「ホワイトノリピー」(オグリキャップ・オグリローマンらの母である「ホワイトナルビー」がモデル)のように一目でモデルが分かる繁殖牝馬もいれば全く原型をとどめないほどもじられた繁殖牝馬もいる。

*5 現実でも似たようなもので一時的に治っても再発しやすく競走馬にとって不治の病と呼ばれ、これで引退に追い込まれた馬は多い。

*6 当時は産まれたばかりの当歳馬を1歳と数えたので、現在の表記では2歳馬のこと。以下の馬齢も同様。

*7 レース当週は何らかの調教をしないとイレ込みやすくなる。他の調教でも構わないが、馬体重を減らしたくない場合は馬なりが効果的。

*8 正しくはレース中に競走中止に至らない故障をしておりレース後発覚したような形。

*9 馬は一頭数千万以上になることも多く、またそもそも馬主の資格を取得するためには収入や資産に厳しい条件が課される。

*10 ゲームでは取り入れられていないが現実(当時)では10月・11月は福島でのみ未勝利戦が開催されていた。これがシリーズ作品で取り入れられたのは『III』(1995年)から。なお現実では後の2006年に、この福島開催の未勝利戦は廃止となり本当に9月一杯までとなった。

*11 この縛りは後の2024年になくなり、どの競馬場でも出走登録は可能となった。

*12 本作の発売翌日に行われた有馬記念を制したダイユウサク(1985年生)は1988年10月に4歳デビューして勝てないまま5歳を未勝利で迎えたが3月に新潟での400万下(当時の1勝条件クラス)を勝つという数少ないチャンスをモノにして未勝利を脱している。

*13 ニホンピロウイナーなどの優れたマイラーを輩出したが、産駒は中距離以上はほとんど勝てていない。

*14 「ダービースタリオン2必勝攻略法」に収録

*15 一応交配回数が増すほど起こりやすいのである程度交配させたら売却することで防げるが、殆ど交配させていない状態でも死ぬときは死ぬ。しかも本作には年齢も交配回数の表記も無い。

*16 現在使われている「本賞金(5着以内の賞金)」とは意味が異なり、「収得賞金」のこと。実際に獲得した総賞額とは別に、独特の計算方法によって算出された値。

*17 1994年の4歳時は圧倒的な強さだったが、5歳以降は故障のせいもあって大敗も目立つようになり現在ではかなり評価が分かれている。

*18 本作ではシステム自体は「ステークスレース」と呼ばれ、そのうち芝2400mのレースに「ブリーダーズカップ」と名付けられていたが、以降のシリーズではシステム自体の名称が「ブリーダーズカップ」になった

*19 似たケースとしては他に1979年の阪神3歳ステークスの勝ち馬「ラフオンテース」(「ラフオンテーヌ」のはずが担当者が誤認)がある。こちらはオーナーが変更を申請したが却下されるという更に不憫なものだった。

*20 後に有馬記念を勝つなど想像もつかなかった。